13.社畜、白菜を干す
翌日、俺は朝からあるものを作っていた。
「修平、本当にやるのか?」
「もちろん!」
なぜか祖父だけではなく、ダイコや祖母までこっちを見ている。
俺はやると決めたらやる男だからな。
「じいちゃん、クリップを片結びしてみたけど、どうかな?」
作っていたのは白菜を吊り下げるための道具だ。
大きめのダブルクリップを用意したため、ロープでしっかりと固定した。
「それだと白菜を挟んだ時に風向きで変わるぞ」
クリップに白菜をつけてみると、向きがバラバラでちゃんと化け物避けにはならなさそうだ。
「ちょっと貸してみろ」
祖父に渡すと、クリップを一度外して、器用にクリップを固定する。
「それって何結び?」
「ああ、これは巻き結びって言って、キャンプの時とかにロープを木に固定させる時に使うぞ」
「あー、じいちゃんがよくやってたやつか」
あの当時は気づいたらテントが出来てたり、シートの屋根ができていたけど、ちゃんと結び方を見たことがなかった。
もし家に何かあっても、祖父がいたらどうにかなりそうな気がする。
「んっ? ダイコもやるか?」
ダイコは結び方に興味があるのか、祖父の隣に来てジーッと見ていた。
目がないのに、なぜか見ている気がするのは不思議だよな。
「俺も教えてよ」
「仕方ないな」
あれだけ俺をおかしなやつとして見ていたのに、気づいたら祖父のロープ結び方講座が始まっていた。
「まずは固定したいところに通すだろ。テントとかなら木に巻きつける感じだな」
祖父はクリップの片方にロープを通す。
「一周回したら上からロープを交差させてバッテンを作って、またくるっと回してバッテンの真ん中を通したら完成だ」
言われた通りにやってみると、思ったよりも簡単に結ぶことができた。
チラッとダイコを見たら、葉を使って苦戦しながらも結んでいる。
途中で自分の葉を巻き込んでいたけど、キョロキョロして、俺たちが見ていないか確認をしていた姿は面白かった。
すぐに俺と祖父は目を逸らしたけど、気づかれたかな?
見ればみるほど、ダイコって本当に子どもみたいだ。
一通りクリップを結ぶと、白菜を吊り下げていく。
「よし、早速つけるぞ!」
できたものを祖父とダイコは楽しそうに外に運んでいく。
「なんかノリノリだね」
俺の言葉に祖父とダイコはハッとしたのだろう。
そっぽ向いていたが、足を止めることなく、外壁に向かっていく。
「ダイコどうだー?」
祖父の言葉にダイコは葉を横に振る。
「もう少し上なのかな?」
「おー、そうか」
俺たちは外壁に白菜を挟んだクリップを固定していく。
もちろん高さの微調整はダイコの仕事だ。
祖父と適当に固定しようとしたら、足をジタバタさせてかなり怒っていたからな。
大根なりの美的センスがあるのだろう。
俺たちは外壁から離れて、ちゃんと固定できているか確認する。
「なんかイルミネーションみたいになりそうだね……」
「ははは、クリスマスも近いからいいんじゃないか」
そういえばもう12月になる。
クリスマスも間近だろう。
まだ光を失っていない白菜はキラキラと光っていた。
ネギは黄色っぽいし、白菜や大根は緑色に近い。
色々な野菜を干したら、本当にイルミネーションになりそうだ。
色も野菜によって違うから、何か意味があるのかもしれない。
「ダイコは嬉しそうだな」
「今も早く行こって言ってそうだもんね」
ダイコは俺と祖父の手に葉を絡ませて引っ張っていた。
イルミネーションが気になっているのか、体は畑の方を向いている。
「そんなに抜いても食べられないよ」
「光るのは修平が収穫したやつだけだからな」
きっと野菜でイルミネーションを作るなら、大変なのは俺一人になる。
「畑にある野菜はどれも長持ちするから大丈夫だぞ?」
「じいちゃん、鬼畜だな……」
社畜が嫌で田舎にきたのに、一人で収穫しろってことか。
それでも気にしていないダイコは俺たちを引っ張っていく。
それにダイコが畑の場所を覚えていることに驚きだ。
生まれた土地へ自然と帰れる本能でもあるのだろうか。
「なんかじいちゃんと畑に行くのって久しぶりだね」
「ああ、修平が大きくなってから一人だったからな……」
その言葉に胸が締め付けられる。
小学生までは一緒に畑に行った記憶がある。
でも、思春期になってからは、祖父母だけで畑をしていた。
その当時はプライベートもなく、小さな噂すらすぐに広まるこの環境が嫌だった。
それが今では小さな噂話でも、情報が欲しい世の中になるとは誰も思わないだろう。
「おいおい、そんなに急かすなよ」
畑に着くと、ダイコは俺の尻を葉で叩いて収穫を急かされる。
大根に尻を叩かれるなんて、生きてて俺だけだろう。
ただ、本当に収穫しても良いのかなと思ってしまう。
「修平、どうしたんだ?」
「いや、ダイコみたいなのがいっぱい出てきたらどうしようかなと思って……」
俺たちに大量に大根や人参が付いてくる姿を想像すると、収穫しても良いのだろうか。
さすがに家の中が動く大根や人参だらけだと、生活する場所がなくなる。
それに面倒を見る自信がない。
その辺の犬や猫の方が言うことを聞きそうだし、そもそも人参がどんな効能かもわからない。
それでもダイコは早く抜けと、葉で叩いてくる。
「次の名前はダイゴだからな」
あまりにも叩いてくるため、俺は大根を一本抜いてみる。
もちろん葉の根元は触らないようにする。
掴んだ瞬間、噛まれたりしたら溜まったもんじゃない。
ただ、ダイコの時とは違い、スルッと大根は抜けた。
「あれ……動かない?」
俺は抜いたばかりの大根を見つめる。
動く様子がない普通の大根だ。
……いや、普通の大根はこんなに光らないか。
「おっ……おい、なんだよ!」
大根を抜いたのに、ダイコは葉でバシバシと叩いてくる。
まだ抜いて欲しいのかと思い、他の大根に手を伸ばしてみるが、葉が伸びて腕に絡まった。
「なんだよ……」
俺と祖父を交互に見たあと、足を組んで呆れたような仕草をする。
俺に伝わらないと諦めたようだ。
「大根が欲しいんじゃないのか?」
祖父の言葉にダイコの輝きは強くなり、頷いていた。
そして、俺の方を向いて足を組んだ。
「俺が抜いたのを忘れたのか?」
ダイコはびっくりした後、すぐにその場で正座になり、頭を何度も下げる。
「いや、そこまで謝らなくても……」
すぐに大根を渡すと、わかっているなら早くしろよと言いたげに再び足を組んでいた。
俺が申し訳なくなって、すぐに渡すとわかっていたのだろう。
全てがダイコの策略だったのかもしれない。
俺よりもうまく社会で生きていけそうだな。
ダイコは葉を使って大きく空中に大根を投げた。
「おっ……」
「なんだ?」
俺と祖父は一緒になって、投げられた大根を目で追う。
――ボリボリボリッ!
「「食うのかよ!?」」
俺と祖父の声が重なった。
ダイコは気にする様子もなく、大根を夢中でかじっていく。
まるで人参を食べているうさぎみたいだ。
食べているのは大根なのに、口にしているのも大根。
傍から見ると、大根が大根を食べているようにしか見えない。
いや、食べているのは事実か。
しばらくすると、一本の大根はあっという間になくなっていた。
「あれ……?」
その時だった。
ダイコの体から溢れる光が少し強くなった気がした。
葉の先まで淡い光が流れ、緑色の輝きが増していく。
「じいちゃん、光ってない?」
「いや、わしの頭は薄いけど、まだ大丈夫だぞ」
「いや、じいちゃんじゃないよ!」
まさか一瞬で祖父が認知症になったのかと思ったよ。
いや、この場合光が強く見えた俺の方がおかしいのか……?
「ははは、わしにもそう見えるぞ」
祖父は少年のように笑みを深める。
「それでなんでダイコはこんなに光ってるんだ?」
俺は昨日の出来事を思い出す。
黒い石を食べた時も、同じように輝きが強くなった。
どうやら収穫してほしかったのは、自分で食べるためだったらしい。
そして、その効果は黒い石と同じ。
食べることで力を蓄えているのかもしれない。
「だから早く帰りたがってたのか」
俺の言葉に、ダイコはやっと伝わったかと満足そうに胸を張っていた。
まあ、どこが胸かはわからないけどね。
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