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終末世界に帰省した元社畜、実家のネギを抜いたら聖剣でした~俺が収穫した野菜だけ性能がおかしい~  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売


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11.社畜、寄り道をする

「荷物を載せて帰ろうか」


 大根の元に戻ると、心配そうに俺の顔を見上げていた。

 目もあるわけではないのに、まるで心配しているような――。


「ああ、早くしろってことね」


 いや、俺の脚をバシバシと蹴っていた。

 大根だから特に痛くはないが、俺の心は少し痛い。

 バックドアを開けると、大根は葉を伸ばして荷物を入れていく。

 よほど早く移動したかったのだろう。

 ポータブル電源やタンク以外は全て積んでくれた。

 やはりあの頭にある葉は便利だな。

 俺たちは他の怪物が来る前に車へ乗り込んで、すぐに走らせていく。


「ちょっと避難所にも寄っていいかな?」


 助手席に座っていた大根はジーッと俺の方を見ていた。

 きっと「えー!」って思っているのだろう。


「少しだけ気になることがあるからさ。お願いします!」


 隣から葉がワシャワシャと顔を掠ってくるが、俺は気にせず避難所に車を走らせた。

 近くにある避難所に着くと、前回同様に門の入り口は閉まっていた。

 だが、前よりも外に出ている人はおらず、警察官の格好をした人だけが外にいた。


「すみませんー!」


 俺が車から降りて声をかけると、警察官は気づいたのかこっちに向かってきた。

 だが、左手には警棒を握っており、右手はすぐに拳銃が取り出せるようにホルスターに添えられていた。


「避難の方ですか?」

「いや、ちょっと情報が欲しくて!」


 俺が声をあげると、警察官は首を傾げていた。

 ただ、声が聞こえるところまでは近づいても、俺の前には近づこうとしない。

 警戒しているのが、態度や視線からも伝わってくる。


「市民は避難所に行ってくださいと警報が流れていたはずですが」

「祖母が認知症なので……」

「ああ、それはすまない」


 警察もすぐに事情がわかったのだろう。

 同じように理由があって避難ができない人がいるのかもしれない。


「それで情報が欲しいとは……」

「あの化け物って何ですか?」


 俺の言葉に警察官は少し表情を曇らせた。

 そして、ゆっくりと近づいてくる。


「元は人間や動物だったやつらだ」


 俺の予想は的中した。

 人型の化け物は、ただ獲物を探しているわけじゃない。

 家の前をうろつき、窓の中を覗き込んだりと人間のような動きをしていた。

 それに襲ってきた人型の化け物は、俺たちを見て嘲笑うような仕草まで見せている。

 理性と呼べるほどではないが、確かに生前の名残りのようなものを感じた。

 さっきホームセンターで遭遇した犬の化け物も同じだ。


「謎のウイルスに感染すると化け物になるって聞いたが、原因とか症状はあるのか?」

「ああ、それなら……ってお前修平か?」


 警察官は目を細めると、さらに少しだけ近づいてきた。

 それに俺の名前も知っているってなると――。


「俺だよ! 拓也(たくや)だ!」

「んっ……? 拓也って相川(あいかわ)拓也(たくや)か?」

「そうだよ! こんな田舎の同級生なのに忘れたのかと思ったぜ!」


 声をあげて笑っている警察官は同じ学校の同級生だった。

 まさかこんなところで遭遇するとは思わなかった。

 それにこの町に住み続ける同級生はそこまで多くない。

 進学をきっかけに町から出ていく人が多いし、そのまま俺みたいに都会で就職する。


「お前東京で働いてたんじゃないのか?」


 さすが田舎だ。

 俺が東京で働いているって伝えてもないのに知っている。


「ああ、ちょっと色々あって、帰ってきたタイミングでこんなことになってたから、よくわからないんだよ!」

「そうか……ばあちゃんが認知症になったって言ってたもんな」


 拓也は少し表情を曇らせた。

 それでも幼い時から頼れる優しい拓也と変わらない。


「拓也も本当に立派な警察官になったんだな!」


 小さい頃から警察官になるという夢を語っていたが、本当に叶えたんだな。


「お前が帰ってこないから報告もできなかったぞ」

「あー、仕事が忙しくてな」

「社畜か」


 ボソッと呟いた拓也の声に俺は頷いた。

 少し哀れむような目がどこかイラッとする。

 相変わらず優しいけど、ズカズカと聞いてくるところは変わらない。


「頭もおかしくなったみたいだしな」


 視線は俺のベルトに差してあるネギに向いていた。

 いや、絶対あいつ馬鹿にしているぞ。


「脳筋に言われたくないわ!」

「何が脳筋だと!」


 怒って拓也は近づいてくるが、この絡みも懐かしく感じる。

 昔から筋トレばかりしているから、体格も大きいし、本当に脳筋って言葉がピッタリだ。


「それで何でネギをそんなところに着けてるんだ?」

「ああ、このネギで化け物が切れるんだよ」


 どうせまた馬鹿にされるだろう。

 そう思ったが、やけに拓也の表情は真面目だった。


「それは本当か!?」

「あっ……ああ」


 まさかそんな反応をされるとは思ってもいなかった。

 俺もその反応にどうしたらいいのかわからない。


「ひょっとして修平もプレイヤーになったのか?」

「プレイヤー?」

「ああ、俺もあの化け物を倒した時に〝プレイヤーに選ばれた〟って聞こえたからさ」


 拓也の言うことに俺の頭はさらに混乱する。

 まるでゲームの世界のような話だ。

 俺はネギを引き抜く前のことを思い出す。

 たしか化け物を初めて倒したのは、シカを車で轢いた時だ。

 あの時は疲れていたから幻聴だと思っていたが、拓也の言うように何か聞こえた記憶はある。

 あれとネギが関係しているのだろうか。


「じゃあ、拓也も何かできるのか? 例えば、拳銃から火を出したり――」

「ははは、そんなことできたら完全にゲームの世界だろ。俺は……」


 拓也は近くにある車の元へ向かう。


「よいしょ!」


 軽々と車を片手で持ち上げた。


「いやいや、そっちの方がゲームでしょ!」

「俺もびっくりだ。まさか筋トレがこうやって身を結ぶとは……」


 そして、そのまま筋トレの錘としてスクワットを始めた。


「やっぱり脳筋だな……」


 まさに脳筋という言葉が似合う人物は拓也ぐらいだろう。

 俺もネギが剣のようになったり、白菜が硬くなったりしたが、よくわからない力に目覚めたってことだな。


「それで話は戻すけど、他に化け物について知ってることはあるか?」

「あー、避難してきた人の中にも化け物が混ざってたんだが、噛まれたり引っ掻かれたりした人はやがて変異したぞ」

「ちょっと待て。化け物はウイルス感染みたいなものじゃないのか?」


 前に避難所に来た時はそんなことは一切言ってなかった。

 風邪のように謎のウイルスに感染したって言うぐらいだったから、どうしようもできないのかと思っていた。


「ああ、傷からウイルスが入ってくるタイプの感染だ」


 その言葉に俺はある言葉が脳内にこびりつく。

 まるで――。


「「ゾンビだな」」


 それは拓也も同じだったのだろう。

 口を揃えて〝ゾンビ〟という言葉が出てきた。

 本当にゾンビ映画の中に入ってしまったような気がした。

 むしろそうやって言われた方が、すぐに納得ができる。


「おい、車の中で何か動いてるぞ?」


 拓也は警戒を強めたが、俺は特に気にしていない。

 振り返ると、車が大きく揺れていた。

 中で大根の葉がワシャワシャと昂っている。


「あぁ、大根が早くしろって言ってるんだと思う」

「……大丈夫か?」


 心配そうな顔で拓也は俺の肩を叩いた。

 まあ、普通に考えて大根が早く帰りたいって言ってるのもおかしいよな。


「じゃあ、家にいるじいちゃんとばあちゃんも心配だから帰るわ」

「おう!」


 俺は拓也に別れを告げて家に帰ることにした。


「都会は人をおかしくするのか……。危ない土地だ」


 何か拓也の独り言が聞こえてきたが、何を言っているかまでは俺の耳には入ってこなかった。

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