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終末世界に帰省した元社畜、実家のネギを抜いたら聖剣でした~俺が収穫した野菜だけ性能がおかしい~  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売


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10.社畜、化け物と遊ぶ

「なんだこいつ……」


 咄嗟に下がったからよかったものの、水脹れから飛び出す血飛沫が周囲のものを溶かしている。


「うぉ!? せっかくのポータブル電源が溶けちまう」


 俺はすぐにカートを後ろに押して、犬の化け物から遠ざける。

 だが、化け物はカートが気になるのかキョロキョロしていた。


「遊んでもらえると思ってるのか?」


 なぜか俺にはおもちゃを前に視線を動かす子犬に見えた。

 俺は足元に転がっていたおもちゃのボールを手に取ると、そのまま投げてみる。


『ガウ!』


 すぐに化け物は鳴き声を上げて、ボールを追いかけていく。

 俺はチャンスだと思い、カートを全速力で押してその場から去って行く。

 上に載っている荷物が大きく揺れているが、今は気にしている場合ではない。

 今まで出会った化け物の中では、かなり危ないような気がしたからだ。

 血で物が溶ける化け物と戦ったら、俺は何回溶けるのだろうか。

 それを考えるだけで全身が震え上がる。

 外に出ると、すぐに車が見えた。


「あと少し――」


 そう思った瞬間、俺は足を止める。


「なんで先回りしてるんだよ……」


 車の前にあの犬型の化け物が座っていた。

 化け物の口にはさっき投げたボールが咥えられている。

 だが、鋭い牙に耐えられなかったのか、ボールは無残にも破れていた。

 それでも化け物はどこか誇らしげな表情を俺に見せつけてくる。

 まるで褒めてくれと言わんばかりだ。

 それに尻尾らしきものまで振っているように見える。


「大根、荷物は任せたぞ」


 俺がそう告げると、大根は大きく葉を揺らした。

 本当に言っていることを理解しているようだ。

 俺はその場にカートを残し、再びホームセンターの中へ駆け出す。


『ガウ!』


 化け物も俺の意図に気づいたのか、嬉しそうな鳴き声をあげながら付いてきた。

 追いかけっこでもしているつもりだろうか。


「やっぱり遊びたいだけなのか?」


 適当な棚の陰へ身を隠す。

 襲ってくる様子は始めだけで、特に攻撃的な場面は見られない。

 まるで遊んで欲しい犬そのものだ。

 だけど、あの化け物をどうにかしないと、帰ることはできないだろう。

 まずは車から遠ざける方が先だ。

 だが――。


『ガウガウ!』


 すぐに見つかってしまった。

 棚の隙間から顔を出し、水脹れが割れると、血飛沫で棚を溶かしていく。

 やはり危険な存在なのは間違いない。

 それでも襲ってくることはなく、化け物は楽しそうに飛び跳ねていた。

 それに俺が走れば走るほど、嬉しそうに追いかけてくる。

 時折、先回りして前に現れてくるが、やはり襲ってくる様子はない。


「本当に犬みたいだな……」


 近くに落ちていた木の板を拾うと、そのまま投げてみる。


『ガウゥゥゥ!』


 化け物は大きく飛び上がると見事にキャッチした。

 思わず俺も逃げるのを忘れて拍手してしまうほどだ。

 化け物も満更でもないのか、ドヤ顔をしながら板を俺の元へ持ってきた。

 板は噛む強さを調節したのか、割れずに歯型がついている。

 ただ、その歯型は犬とは思えないほど何重にも並んでいた。

 その部分を避けて手に取ると、もう一度投げてみる。

 今度はより遠くに。

 この場から逃げるには、ある程度の時間が必要だからな。

 だが、実際は逃げる隙もなく、化け物は板を咥えて持ってきた。

 何度繰り返しても同じだ。

 それに遠くに投げないと、不服そうな顔をしている。

 

「お前、本当に化け物か?」


 特に襲ってくる様子もないため、気になって聞いてみた。

 ただ、大根と違って板を咥えたまま首を傾げている。

 その拍子に板が床に強く当たり、砕け散っていた。


『ガッ……』


 その場で板の周囲を回っては、俺をチラチラと見つめてくる。

 お気に入りのおもちゃが壊れたような仕草をされても困る。

 普通は大根の方が言葉の理解はできないはずなのに、あの大根の方が化け物みたいだ。


「そろそろ遊ぶのはやめて――」


 ちょうど良い機会だと思い、その場から立ち去ろうとした直後だ。


『ギャウッ!?』


 突然、化け物が苦しそうな声を上げる。

 口元から血がよだれのように流れ出る。

 そんなに遊ぶのをやめるのが嫌だったのだろうか。

 俺はすぐに違う板を遠くに投げる。


――コンッ!


 虚しく板は何かに当たり床に落ちる。

 化け物は板を追いかけることもなく、その場で苦しみ出す。

 段々と水脹れだらけの皮膚が裂けていく。


「おい……」


 化け物はその場で頭を激しく振り回した。

 そして何度も壁や床に頭をぶつけた。

 まるで別の痛みで誤魔化しているような気がした。

 何度も何度もぶつけては、水脹れは割れて血飛沫で周囲を溶かしていく。

 苦しそうに転げ回る姿は、まるで自分自身と戦っているみたいだ。


「大丈夫か?」

『グルルルル……!』


 俺が近づこうとした瞬間、化け物は牙を剥いて威嚇してきた。

 まるでこっちに近づくなと言われているような気がした。


「苦しいのか……?」


 もちろん返事はない。

 化け物は血を撒き散らしながら暴れ続ける。

 水脹れが全て破裂し、赤黒い血が床へ広がっていく。

 しばらくすると、暴れていた化け物もようやく動きを止めた。

 肩で荒く息をしており、全身は血だらけだ。


『ガウ!』


 それでも最後の力を振り絞って鳴き声を上げた。

 化け物はふらつきながら立ち上がると、近くにあった板を咥えて俺にゆっくりと近づいてくる。

 そして俺を見ると、どこか安心したような顔をしていた。

 それに尻尾が小さく揺れている。

 まるでまた遊んでと言っているようだ。

 

「……そうか」


 もう長くないのだろう。

 俺は自然とそう感じた。

 苦しみながら生き続けるのも大変だ。

 家の中にいた犬型の化け物との違いはあまりわからない。

 ただ、化け物の中にも友好的な存在がいるのかもしれないと思った。


「何もできなくてすまないな」


 俺は腰に差していたネギを抜いて構える。

 灯りがついてないホームセンターの中で、ネギの輝きだけが広がっていく。

 それでも化け物は逃げる様子はなく、遊びの続きを待っているかのようだった。


「また遊ぼうな!」


 次は元気な姿で。

 俺は心の中でそう呟いた。


『ガウ!』


 それをわかっているのか、嬉しそうな鳴き声が響く。

 俺は目を閉じることなくネギを振るった。

 一閃、ネギから放たれた光が走る。

 次の瞬間、化け物の体は静かに二つに分かれた。

 苦しそうな表情はもうない。

 どこか穏やかな顔で横たわっている。


「せめて最後だけは楽しかったと思っていたらいいな」


 俺は小さな声でそう呟く。

 化け物の体はその場で消えると、そこには小さな石が落ちていた。

 まるであの化け物が俺にプレゼントを置いていったみたいだ。

 俺はその石を拾い上げると、静かにポケットへしまった。

 気のせいなのか、ポケットの中の石がほんのりと温かいような気がした。


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