第五話「最善を尽くすために…」
第五話 「最善を尽くすために…」
(主人公 シルバー2)
ヒーローの仕事も慣れてきた頃、それぞれの性格や考え方の違いがハッキリと分かるようになってきた。
全員の顔と名前、武器と戦闘スタイルは覚えた。一応全員とも会話もした。あとはもっと迅速に対応できるようにメンバーとの連携がとれるようにしたい。
ボクの能力では攻撃の際に周りの物まで熱が伝播してしまう。瞬間的に何かを溶かすほどの熱量を与えるとなると周りにも悪影響が出てしまう。そのため、使うタイミングと力の大きさには気を遣わなければならない。拳での近接攻撃なら素早く、強力な攻撃ができ、周りへの影響も少ない。
ただ、近接戦闘となれば大勢を相手にする時に手間がかかる。熱、光、風をばらまかずには高速移動ができないため、護るものがあるほど戦いにくい。だから、ボクにとってはメンバー同士の連携がとても重要になってくる。
人の命がかかっているんだ。ボクたちヒーローは一刻でも早く現場に向かい、悪の障害を取り除かなければならない……それなのに……
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虎羽「藍さん!どうして一緒に出撃しようとしないんですか!?」
ことみ「こ…虎羽くん……」
藍「(ゴク…)……貴方かわたくしのどちらかが行けば済む話でしょう…無駄な人員を割くのは非効率的ですわ…」
虎羽「人の命がかかっているというのに最善を尽くさないというのは、正しいことだとは思えない!一人よりも二人の方が迅速に対応でき、安全に市民を守ることが出来る。違いますか!?」
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ボクは当たり前のことを言ったつもりだ。何も間違ったことは言っていない。
…でも、正しいことが最適解ではないのかもしれない。そう思ったのはホワイトの黄慈さんと組んだ時だった。
現場の到着スピードはほぼ同じ。だが、戦おうと思った瞬間には全てが決着していた。敵モンスターの頭部や内臓は一瞬で潰され、黄慈さんが視認した瞬間から動きも止まっていたため安全に殲滅していた。その後の安全確保に至っても完璧で、ボクがいる意味などなかった。
後に聞いた話ではレッドの金一さん、グリーンの藍さんも同様のことが出来るらしい。確かに、これでは人員の無駄と言われても反論は出来ない。特に、金一さんと一緒に出撃しようものなら、互いの足を引っ張るだけになってしまう。
だが、一人では何かトラブルがあった時の対処が遅れてしまう。そういった有事の際に協力することもできない。ボクは……間違っていないはずだ……
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ことみ「虎羽くん。藍さんはね、ああ見えてけっこう気を遣ってるのよ?」
虎羽「え…?」
ことみ「虎羽くんに現場慣れさせるために仕事を振ったり、いつでもフォローが出来るように準備していたり、もしもの時に備えて残ってくれてたりしてるの。…虎羽くんから見たらちょっとサボってるように見えちゃうかもだけど…藍さんの考えは信頼に足るものだと思うわ。」
虎羽「…そうですか………」
*
この間、ボクが仕事から戻ってきた時、藍さんはいつも通りソファでくつろいでいた。だけど、それまでにはなかった報告書がことみさんの机の上に置かれているのをボクは見た。
あとで確認したが、ボクがいない間に他の場所からの通報が入っていたらしい。あの時、もし二人同時に出撃していたら……無抵抗な市民が惨殺されていたのかもしれない…。そう考えると力を持ったボク達の戦力を分散させるのは正しいことのように思えてくる…
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あれから藍さんのことを少し違った目で見るようになった。すると、意外と面倒見がいいことが分かってきた。
不測の事態に陥った時の対応の遅れによる被害と、到着が大幅に遅れた際の被害は比べるまでもないだろう。僅かなリスクのために人員を割くくらいなら、フォローのために残る方が賢明だ。そしてなおかつ、藍さんはそのリスクすら最小限にするためにボクらの教育をしている…。
意固地になっていた時には感じられなかったが、色々と考えてから指示を出しているのが最近になってよく分かるようになった…。自分の未熟さを痛感した。
だが、共闘が悪いことだとは思わない。その証拠に何人かとは、とても良いチームワークを築くことができた。
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朱祢さんに「最善を尽くすために上手く連携を取るためにはどうしたらいいか?」という旨の話をしたところ…
朱祢「なるほど…。話はわかったわ。…それなら私にいい考えがあるわ。私は大型の敵や硬い敵が苦手だから、虎羽くんにはそういう敵を優先的に倒してもらいたいの。まずは私が戦場を見渡して一番厄介そうな敵を見つける。そしたら場所を指示するから、周りの敵は無視して一直線にその敵を倒しに行ってほしいの。そうすれば、私がその間に雑魚を片づけておくわ。」
虎羽「わかりました。とても良い作戦です。朱祢さんは話がはやくて助かります。」
朱祢「いい作戦かどうかはあなたが私の射撃をどこまで信じられるかによるわね。お互いの攻撃が邪魔し合ってしまったり、私の射撃に気が散って敵への集中力が欠けてしまっては本末転倒になってしまうわ。」
虎羽「朱祢さんの射撃は信頼できます。それに、自分の身は自分で護れます。ボクのことは気にせずに撃ってもらって構いません。」
朱祢「…そ…」
虎羽「…何か…?」
朱祢「いえ、少し驚いただけよ。こんな力を持っていると怖がられることばかりだから…」
虎羽「朱祢さんの射撃ほど信頼できるものはありませんよ。」
朱祢「…ありがとう…。…じゃあ早速試してみましょう」
虎羽「はい、よろしくお願いします!」
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互いに動きを封じる能力でない代わりに、手分けをして素早く敵を倒すことが出来た。組む相手にもよるが、この場合なら戦力を集中させて一つの現場にかかる時間を短縮した方が効率が良さそうだ。
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ピンクの紫雲さんとも試してみた。紫雲さんの攻撃は蹴りだ。電気化し亜光速で放った蹴りは全てを破壊する。電流のコントロールも完璧で狙った所に正確に稲妻を落とすこともできる。破壊力、速度において無類の強さを誇る。弱点などあるのだろうか。
余談だが事務所の電力は全て紫雲さんが賄っており、発電もしているのだとか。
紫雲「弱点か……」
虎羽「弱点なんてあるんですか…?」
紫雲「あるね…。この力の弱点は誰かを護れないことだね。」
虎羽「そんなに強いのにですか?」
紫雲「そう。無敵なのは自分だけだからね…。例えば人質を取られ、護るべき対象と破壊すべき対象が密着してしまうと護るべき対象にまで電気が流れてしまうリスクが高い。他にも、大きな物を破壊しようとすると破片が飛んでしまったり、有害な電磁波を出してしまったりでとても危険だ。」
虎羽「そうだったんですね。しかし、今の話はボクにも当てはまります。物体を溶かすことは可能ですが、熱膨張により破片が飛び散ります…。ボクも護る戦いは苦手です。」
紫雲「そういえばブラックの雪ちゃんは爆発の勢いを利用して高速移動しているけど虎羽は似たようなことできないのかい?」
虎羽「ボクが使う爆発はただの膨張で方向はコントロールできません。能力の解放ができればある程度の高速移動は可能ですが、冷やすことができないので移動先に護るものがあっても護れないですね…。」
紫雲「そうかぁ…。護ることがとことん苦手なんだね。」
虎羽「そこで相談なんですが、紫雲さんと一緒に出撃する時どうするのが良いでしょうか?」
紫雲「そうだね…なら、戦闘は俺に全部任せてもらえるかな?俺は朱祢さんと違って一人の方がやりやすいから。だから虎羽は基本的に逃げ遅れた人の避難誘導をしてほしい。俺も護るの苦手だから、少しでもリスクを減らす為に行動してくれると助かる!」
虎羽「わかりました。紫雲さんと出撃する時は避難誘導を最優先でやります。」
紫雲「せっかく力があるのに、誘導に回ってもらうのはすごく勿体ない気がするけどね」
虎羽「いえ、それが最善だと思います。これで迷いもなくなりました。これからも正義のために頑張りましょうね!」
紫雲「ああ!よろしく!」
*
その後の出撃では、ほとんどの戦闘では紫雲さん一人で事足りた。だが、非難中の人々の中には冷静さを失い不安になっていたり、状況がわからずすべき事を見失っていたりする人が多くいた。ボクはそんな人を安全なルートで誘導したり、パニックを鎮めたりした。紫雲さんが戦闘に集中すると何をしているのか分からないため、その説明をしたりということもあった。
ボクがやっていたことはその程度のことでほとんど能力を使うこともなかった。だが、存外「ヒーローが来た」というだけで人々は安心する。それを考えると居た意味はあったのだと思う。
そのことを紫雲さんに伝えたら喜んでいた。護ることが苦手な者なりの連携であったがうまくいったと思う。
*
このように最善のためには連携も必要だと思う。しかし、チームとして…バラレンジャーとして…ヒーローとして最善を尽くすのなら強くて速い人が現場に向かうべきだ。
それだというのに……
*
ピーッ!
みどり「あら…通報が入っちゃったかぁ~…さ~て、何で決める?じゃんけん?」
虎羽「……あの…年上に仕事を押し付けるのは気が引けるのですが、ここはみどりさんが行くべきだと思います…!」
みどり「えぇ~なんでよ~」
虎羽「なんでって…みどりさんならすぐに現場に行って戦えるじゃないですか!?人の命がかかっているのに、どうしてそんな面倒くさがるんですか!?ヒーローとしての自覚が無いんですか!?」
シーン……
ことみ「…あの…こうしてる間にも時間が……」
虎羽「…そうですね…もういいです。ボクが行きます…」
みどり「待って。」
………ドゥン………!!!
一瞬、闇のオーラが見えたかと思うと何事もなかったかのようにみどりはそこにいた。
そしていつの間にか持っていた写真を手渡す。
みどり「…はい、これ写真…」
ことみ「わ……え…?」
みどり「ちょっと付き合ってよ。ちゃんと話そ♪」
投げられたヘルメットを受け取り、ドライブに付き合った。
*
しばらくの運転の後、海が見える場所へと到着した。
みどり「ここが一番近い海だよ~」
虎羽「……ずいぶんと離れましたけど、通報が入ったらどうするんです?」
みどり「その時はまたあたしが行くよ~」
虎羽「…………こんな所に連れてきて、何の話ですか…?」
みどり「……あたしが仕事を運で決めるの、なんでか知ってる?」
虎羽「…………」
みどり「…真面目に仕事しないため~」
虎羽「…ふざけてるんですか?」
みどり「ふざけてないよっ。…これはあたしが生きていくうえで身に付けたスキルなの…心の奥底では真面目だって分かってるからあえてこうしてるの…」
虎羽「………」
みどり「さっき、あたしにはヒーローとしての自覚が無いって言ってたけど、コーくんからしたらそうだろうね。あたしにとっては他人の命なんてどうだっていいし、そりゃ救えるなら多くの人を救いたいって思ってるけど…全てを救うなんて無理に決まってるもん。今のコーくんの考えだと、あたし世界中の人を救わなきゃいけなくなっちゃうでしょ?そんなことやりたくないし、そんな責任負いたくないの。」
虎羽「………………」
みどり「……あたしのこと嫌いになっちゃったかな…?どうやって言おうか色々と考えてみたんだけどあんまり変わんなかったかな…。………でも、コーくんにあたしと同じ力が無くて良かったって思ってるよ…」
虎羽「…なんでです…?」
みどり「やるでしょ。人助け。」
虎羽「……まぁ…」
みどり「……そんなことしてたら心が壊れちゃうよ。…コーくんは責任感が強そうだからね~…人生の先輩として、もっと気楽にやりな~ってことを言いたかったの。」
虎羽「…………」
みどり「……あんまり伝わんないか…!…じゃ~最後にもう一つ。…今のコーくんから見ればあたしは間違ってるかもだけど、あたしから見たらあたしの行動は何も間違ってないの…このことだけは知っておいてほしいな♪」
虎羽(……みどりさんが…間違っていない……?)
みどり「じゃっ、そろそろ帰ろっか!」
*
どうして正しいと分かっていることをやらないのか……
この疑問は他人を見る度に抱いてきたような気がする…。みどりさんも、ボクから見たら自分の行為が正しくないと分かっているはずなのに、それをやろうとしない…。出来ないわけではないのにだ…。どうしてだ………
今までであればただ否定し、悪だと切り捨てて終えていた思考だが、バラレンジャーになって少し変わった。どんな意見であれ、一考の余地があると思うようになったのだ。
だが、これは他人の意見全てに対してではない。バラレンジャーに限った話だ。
全員がヒーローをしているからなのか…正義が違っても、同じ方向を見ているような気がしてならない…。気のせいだろうか……
*
考えているだけでは分からないので行動してみる。ブラウンの銀河さんとの連携を考えてみた。
みどりさんに対して、積極的に出撃してくれる銀河さんは光の能力を持っている。光速で動くため、通報が入れば1秒もかからずに戦闘が終わることも少なくない。写真の撮影も現場に行く必要などなく、現場の景色がカメラに映るように光を操ればいいとのことだ。
性格、能力を含め誰とでも連携が取れるが連携を取る必要がない人だ。
虎羽「いつも任せてしまってすみません。」
銀河「いいっていいって!俺が行くのが一番早いんだから!善は急げ、だろ!」
虎羽「しかしこのままでは…何か手伝えることがあればいいんですが…」
ことみ「それならやってほしいことがあるんだけど!」
*
銀河「ヒーローショー?」
ことみ「そうよ。あなたたちの活躍は業界内でもトップだと思うんだけれど、話題にはならないのよ。たぶん何やってるかわからないからだわ。だから宣伝をしてもらいたいの」
虎羽「いいですね!銀河さんがいれば途中で通報が入っても何の問題もないし、時間も取れます。ボクも頑張りますよ。」
銀河「よっしゃ!それなら早速準備だ!街中に俺達の名前を知らしめてやろうぜ!!」
虎羽「はい!」
ことみ「気合十分ね。一応企画は考えてあるから。あとはこれと……」
銀河さんが出勤の時は近所の遊園地でヒーローショーをすることになった。音声があれば一人でも見せることができるので、相方によっては一人でやっている時もあるそうだ。
ボクとショーをする時はどちらかが敵役となって組手をしたり、ビジョンを敵にして共闘したりしている。時にはボクの炎を使った演出や、熱量を感じるリアルな演出をすることもある。
時にはこういう平和な連携も良いと思った。
ちなみにこのショーはネット上で話題になり、閑散としていた遊園地には段々と人が増えていき、地元で有名になりつつあった。
*
こうして、それぞれのメンバーと連携を取りつつ、最善を尽くしてヒーローをしている。だが、これはボクにとっての最善であって、ボクが出来る真の最善ではないだろう。
みどりさんの言葉の意味もまだくみ取れないでいる。正しい考えに従うのも良いが、そればかりでは考えが固くなり、視野が狭くなってしまうのかもしれない…
真の最善への道はまだまだ遠いな……