第四十五話「流星会会長、星乃藍様よ!!」(グリーン最終話)
第四十五話 「流星会会長、星乃藍様よ!!」
(主人公 グリーン最終話)
バラレンジャーの解散から三年後――
無名の丘に立ち、藍は静かに風を受けていた。
藍(…あれから忙しくて、なかなか来られなかったけれど……)
眼下に広がる街並みを見下ろす。
髪を揺らす風が心地よい。
藍「…いい眺めね……」
思わず、そんな言葉が口をついて出る。
藍「……………………」
そっと瞼を閉じる。
すると脳裏に浮かんできたのは、あの日――麗とぶつかり合った時の記憶だった。
藍(……懐かしい記憶………あの時…わたくしは…………)
*
麗「…藍さんは……どちらの道を選ぶんですか…?」
藍「え……?」
麗「強者としての藍さんか……
弱い人にも、手を差し伸べられる優しい藍さんか………
どちらが…『ヒーロー』としての藍さんなんですか…?」
藍「…!!」
あの言葉を聞いてからも、考えた……
わたくしは何故、“ヒーローをやっているのか”と……
藍「………………」
一狼が遠くで見守る中、じっと考え続ける
*
…でも、どれだけ考えても答えは変わらなかった。
結局、わたくしは…力を持つ者の責任としてヒーローになった…
ただの義務感……
…星乃財閥の娘としての義務感……
女優としての義務感……
そんなものから逃げたくてヒーローになってみようと思ったのに…何も…変われなかったわ……
藍(……あの時のわたくしにあったのは、強者としての責任だけ……そのはずだったのに……)
麗の顔が脳裏をよぎる
藍(…あの子のせいで…覚悟も鈍ってしまった………気づかなければ…強者のままでいられたのに……)
*
バラレンジャー全員の顔が思い浮かぶ
……もう…あの人たちに刃を向けることはできない……………でも………
ぎゅっと腕を組みながら服を掴む
…強者としての自分を捨てることもできない………
もしここでやめてしまったら……
今まで切り捨ててしまった弱者の想いは……
わたくしが蹴散らしてしまった敗者の夢は……
誰が背負うというの?……散々、強者であることに甘えておいて……今更全てを投げ捨てるなんて……そんなの……報われないじゃない………
目を開き、車へと向かう
一狼「…!!」
藍「……麗」
麗「! はい…!」
藍「戻るわよ………銀河に言いたいことができたわ……」
麗「はっ、はい!」
藍「…一狼、事務所へ戻るわ。運転しなさい」
一狼「…かしこまりました……」
車内で肘をつき、外を眺める藍
藍(……わたくしには…強者としての生き方を否定できない………誰か…わたくしを否定して…………わたくしを……『ヒーロー』にさせて…………)
*
昔を懐かしみ、
ぱち…
と目を開け、ふっと笑う
藍(……結局、うまいこと乗せられてヒーローを続けさせられてしまいましたわね………)
*
銀河「…それでもいい……絶対、後悔させませんから…!!」
*
藍(……えぇ、そうね………やっぱり、貴方のやり方は少し気に入りませんけれど…『ヒーロー』という在り方を知ることができて…本当によかったですわ………
…弱い者を助けたいという、強者にしか許されない傲慢な在り方……
『ヒーロー』は、それを美化してくれる……
強者としてではなく…『ヒーロー』として生きていける………
『誇り』を持って、生きていける………)
自信に満ちた表情で、振り返る。
すると――
一狼「お嬢」
藍「…!」
一狼「お迎えに上がりました」
藍「あら…気が利くじゃない」
一狼「お嬢が何も言わずに出かけるなら、ここかと思いましてね」
藍「……わたくしの考え事が終わるまで、待っていたのかしら?」
一狼「いえ…ついさっき来たところです…」
藍「……次郎もだったけど、その見透かしたような感じ…気に入らないわね」
一狼「ふっ…お嬢が分かりやすいだけじゃないですか?」
藍「………………」
なんとも言えない表情
藍「…まぁいいわ…さっさと行くわよ。慰問の時間に遅れるわ」
一狼「はい」
*
藍が立ち上げた児童養護施設――『星の家』へ向かう車内。
いつものように静かな時間が流れていた。
窓の外を眺める藍。
ハンドルを握る一狼。
一狼(…変わったな…お嬢は………)
バックミラー越しに、その横顔を見る。
一狼(…あれほど、遠くに感じていたお嬢が…今はとても身近に感じる………
…きっと…心を許せる友人ができて、少しずつ色んな重圧から、解放されていってるんだろうな……)
*
「みんなー!藍様がいらっしゃったわよ~!」
施設の中へ入ると、子どもたちが一斉に駆け寄ってきた。
藍「皆様ごきげんよう、元気にしていたかしら?」
「わぁー!藍さまだー!」 「藍さま~!!」
藍「ふふっ…元気だったみたいね」
足元へ抱きついてくる子どもたちの頭を、一人ひとり優しく撫でる。
「見てみて!!テストで100点とったんだよ!」
藍「あら、すごいじゃない…!よく頑張ったわね」
「あー!わたしも!わたしもこの前、100点とったもん!」
「藍さま見て!おれ、けん玉出来るようになったんだよ!」
藍「そうなの?ぜひ、見せてちょうだい」
「ねぇ!この本読んで!」 「あっ!ずるい!今日はあたしが先だよ!」
藍「はいはい…皆、順番ね」
子どもたちに囲まれる藍を、一狼は少し離れた場所から見守っていた。
一狼(……穏やかな顔だな…………)
自然と口元が緩む。
ここではもう、護衛として神経を尖らせる必要もない。
一狼「………………」
強きをくじき弱きを助ける……
まさに、お嬢にぴったりなヒーロー像だ……
そんな藍を見ていると、ふと、あの時の記憶が蘇る…
*
藍「ねぇ!この子を助けてあげてよ! ほっといたら死んじゃうよ!」
父「……私達には関係の無いことだ…。ほら、行こう。商談の時間に遅れてしまう」
藍「…いや!! 助けて!!かわいそうだよ!!」
「……………」
朦朧とする意識の中、俺はただお嬢の姿をぼんやりと眺めることしかできなかった
父「どうしたんだ急に……いいか?今、私がその子に食べ物を恵んでやったとしよう…その時はいいかもしれないが、この子にお金を稼ぐ能力はない。またすぐに飢えて死んでしまうだけだよ」
藍「…………」
父「下手に希望を与える方がよっぽど残酷だ……分かるね?」
藍「…いやぁあああっ!じゃあ飼う!! お家に連れて帰る!!」
父「…はぁ…それは出来ないよ……」
藍「できるでしょ!! パパ、お金あるでしょ!!」
父「…………」
藍「わたくしのお洋服の代わりにご飯あげさせればいいでしょ!」
父「……………」
俺はこの時、これが最後のチャンスだと思った。
ガシッ!
父「…!」
残った力を絞り出し、父親の足にしがみつく
一狼「頼む……助けてくれ…なんでもする…靴磨きでも…荷物持ちでも……生きるためだったら…死ぬ気で働く……た…のむ………………」
藍「! うちで雇えばいいじゃん!」
父「…………はぁ………」
ちらりと腕時計を見る
父「…まぁ、これも勉強か……いいだろう。次郎、この子たちのことを頼む。」
次郎「はっ!」
父「私は先に行く………藍、一度面倒を見ると言ったからには責任が伴うよ?」
藍「うん!」
父「…これからはお前が、その子の主となりなさい。…いいね?」
藍「わかった!」
*
一狼「…ふっ……(懐かしい記憶だ………)」
「藍様、大人気ですね」
振り返ると、施設職員が微笑みながら立っていた。
一狼「えぇ………今のお嬢が…一番、お嬢らしい………」
腕を組むのをやめ、近くに置かれた観葉植物へ歩み寄る。
それは藍自身の提案で施設に置かれたものだった。
生活の中に緑があれば、心は豊かになる。そして、生活に必須ではない緑にまで手入れが行き届くようになれば、それこそ心が平穏に保たれている証。
子どもたちが健やかであるかの、一つの指標となると藍は考えていた。
一狼「…………」
そっと葉に触れる。
艶やかな緑。
埃一つない。
丁寧に世話をされていることが一目で分かった。
「藍様がいらっしゃると聞いたら、みんな大はしゃぎで……はりきって、お掃除と植物の手入れをしたんですよ」
職員が楽しそうに笑う
一狼「…そうでしたか……それは何よりです…」
本を手に取り、子どもたちを座らせる藍
??「……なにしてるの…?」
一狼「…!」
藍「!」
子どもたちが集まる様子を不思議そうに見つめる少女
「藍様が来てくださったのよ!今から、読み聞かせをしてくださるみたいだから、一緒に聞いてきたら?」
少女「…あい様…?」
藍「…一狼! その子にわたくしが誰なのか、教えてあげなさい」
少女「…?」
一狼は少女の隣へ歩み寄った。
一狼「あの人は、この施設を作った…流星会の会長、星乃藍様だ」
少女「……偉い人…?」
藍「いいえ。ここでは偉さとか関係ないのよ…」
ゆっくりと少女の前まで歩み寄る藍
藍「貴方ももう、わたくしの家族よ…遠慮なんてさせないわよ」
少女「!!」
ふわりと微笑む。
そして藍は少女の手を取ると、そのまま抱き上げた。
少女「わっ……!」
藍「特等席よ」
少女を膝の上へ乗せる。
藍「今日の読み聞かせは特別よ!聞きたい子たちは、わたくしの周りに集まりなさい!」
少女の後ろから手を回し、本を開く
藍「むかしむかし、あるところに―――」
子どもたちの瞳が輝く。
夢中になって物語を追いかけるその姿を、一狼は静かに見つめていた。
一狼(……義父さん……ようやく分かったよ……俺は、『ヒーロー』のこの人についていくことが…どうしようもなく嬉しい…………)
あんたの『誇り』……
俺が受け継がせてもらうよ……
グリーンローズの物語 終幕




