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第四十三話「解放」(イエロー最終話)

第四十三話 「解放」

(主人公 イエロー最終話)


バラレンジャー解散から、半年――

ある日、朱祢はみどりに呼び出された。


朱祢「どうしたの突然…?」

みどり「まぁまぁ♪理由なんてなんでもいーでしょ?」


玄関先で、無造作にヘルメットが投げ渡される。


朱祢「……………」



ブゥゥウウン……

エンジン音を響かせながら、みどりのバイクは街を抜け、やがて海沿いの道へ出る。


みどり「ん~~!やっぱり海を見るのはイイね~~!」

朱祢「……海を見るために連れ出したの?」

みどり「ん~~まぁそれもあるけど、朱祢ちゃんとお話ししたくって♪」

朱祢「何の話?」

みどり「朱祢ちゃんは最近何してるの?」

朱祢「…別に…大したことはしてない…。お父さんの手伝いをしてるくらいかな……」

みどり「…お手伝いって花火作ってるの?」

朱祢「うん…。」

みどり「楽しい?」

朱祢「………別に…楽しいからやってるわけじゃない…。…他にやることなんて無いし……」

みどり「え~、もったいないな~ 時間もお金もあるんだから好きなこと探してやったらいいのに~」

朱祢「……わたしはあなたみたいにお気楽思考じゃないのよ………そういうみどりはヒーロー辞めてから何してるの?」

みどり「あたし?あたしはね~…ニート♪」

朱祢「……………」

みどり「あれっ?ノーリアクション?」

朱祢「…人の事言えないじゃない…」

みどり「別に、仕事しろって言ってるわけじゃないじゃん? 楽しいこと探せば~って言ってるだけで…」

朱祢「……余計なお世話よ…………そんなことを言うためにわざわざ来たわけ?」

みどり「冷たいな~…あたし達、同じ境遇の仲間なのに……」

朱祢「……………………」




ブルルル………

バイクを停め、二人はそのまま砂浜へと歩き出した。

足元で、砂が静かに鳴る。


みどり「……朱祢ちゃんはさ…ヒーローやってて良かったと思う?」

朱祢「…何、急に…」

みどり「ん~? いや…どうなのかな~って」


後ろで手を組み、くるりと振り返る。

いつも通りの、軽い笑顔。


朱祢「………聞いてどうするのよ……」

みどり「…だってぇ……今更だけど…朱祢ちゃん、心の底から笑ってた時なかった気がしてぇ……」

朱祢「………………」


ザザァ………………ザザァ………………

波の音が、間を埋める。

遠くを見るように、朱祢は視線を落とした。


朱祢「………楽しかったわよ………皆とお酒飲んだり…一緒に戦ったり…旅行に行ったり…パーティしたり…………」

みどり「…じゃあ…なんでそんな顔してるの?」

朱祢「…え…?」


顔を上げると、みどりの視線がまっすぐ刺さる。


みどり「…朱祢ちゃん、いっつもそうだったよ…? 笑った~と思ったらすぐ、そんな顔するんだもん…」

朱祢「……………」

みどり「………………」


グイっと近づくみどり


朱祢「…!」

みどり「………あたし…朱祢ちゃんには、ずっと笑っててほしいなぁ~……」

朱祢「………………」


視線を外し続ける朱祢


みどり「……何か悩みでもあるの…?」

朱祢「…………………」


足が止まる。

波の音だけが、二人を包む。

長い沈黙のあと――


朱祢「…………みどりは……これからどうやって生きていくの………」

みどり「…! あたし?あたしはね~…最近、山を買ってそこに家を建ててもらってるんだ~♪ お金は使い放題で働く必要もないし…そこでまったり暮らしながら気ままに生きよっかな~って」

朱祢「……………ずっと…?」

みどり「え? ん~~…ずっとかな?」

朱祢「………はぁ……みどりに聞いたのは間違いだったわね………」


腕を組み、目つきが鋭くなる


朱祢「皆…なんでそんな平然としていられるの? 私達、一生このままなのよ…?…老いることもない…死ぬこともない……周りの人はどんどん死んでいくのに、ひとり…このまま残されて…………」

みどり「………………」


再び視線を逸らし、袖をぎゅっと握る

そんな朱祢に、みどりはそっと近づく


みどり「あたし達はもう、ひとりじゃないでしょ?」

朱祢「…………………」

みどり「…朱祢ちゃんは…“ずっと生きなくちゃいけない”って思ってるのかもしれないけど……言い方を変えれば、“ずっと生きられる”ってことでしょ?」

朱祢「……同じよ……死ねないんだから……」

みどり「同じじゃないよ……生きることが、義務なわけないでしょ?」

朱祢「…………」

みどり「…あたしは楽しいと思うけどな~……こんな素敵な力があって…これから先、ず~っと楽しめるんだもん……」

朱祢「…楽観的すぎ………」


表情は更に曇る


朱祢「……私は………不安で仕方ない……………」

みどり「……じゃあさ……」


と、みどりが言いかけた瞬間――


「「きゃああああああっ!!!!」」

朱祢・みどり「「!?」」

朱祢「あっちから…!?」

みどり「行こう!」


二人は反射的に駆け出した。



辿り着いた先――

そこには、車の上に乗って怯える女性が二人。


みどり「どうしたの!?…って…あれ?」


視線の先。

地面を這うのは――大型のトカゲのような生き物。


みどり「なぁ~んだ、魔物が出たのかと思っちゃったよ」

女性1・2「「助けてくださ~い!!」」


シュワァ……トン!!

女性二人がみどりにすがりついている隙に、素早く矢を放つ朱祢。

それに驚いた大型トカゲは山の方へ逃げていった。


朱祢「…もう大丈夫…」

女性1・2「「キャーー!!」」

朱祢「わっ!ちょっと…!」


車から飛び降り、勢いよく駆け寄ってくる二人。


女性1「追い払ってくれたんですかぁ!?ありがとうございます~!」

女性2「今の何ですか!?一瞬でしたよね!?なんか……光ったような……!」


女性1「お礼させてください~!」

女性2「アタシからも!ぜひお礼させてください!」

朱祢「お、お礼なんて…」

みどり「まぁまぁ、せっかくなんだから甘えちゃおうよ!


横からひょいと口を挟む。

みどり「じゃあ~…そこのカフェのクレープ、奢ってくれない?」


指差した先には、小さな店。


女性1「あ~!ワタシたちそれが目当てできたんです~」

みどり「そうなの!?奇遇だね~あたしたちもなの~!」

朱祢「そうだったの!?」

女性2「ここのお店のクレープ、有名ですからね!」

朱祢「……それなら、最初からこっちに停めればよかったじゃない…」

みどり「えへへっ♪ここ“も”目当てだったの~」





みどり「じゃーねー!クレープごちそうさま~♪」

女性1「こちらこそ、助けていただいてありがとうございました!」


手を振り合い、別れる。

再び、二人きり。

背後から、はしゃぐ声が聞こえてくる。


女性1「はぅ~最後までカッコイイ…」

女性2「あんなカッコイイ女性っていたんだねぇ…」

女性1「ワタシ、あの二人の推しになっちゃいそ~!」

女性2「アタシも~!」



クレープを頬張りながら、砂浜を歩く二人


みどり「美味しいね!」

朱祢「…えぇ……」

みどり「………………」

朱祢「…………………」

みどり「…さっきの話の続きだけどさ……こんな小さな幸せを、永遠に積み重ねられるって考えたら…この体もイイと思わない?」

朱祢「…………なんでみどりは、そんなに軽いの?」


足を止める朱祢


朱祢「…みどりみたいな人に…私の苦しみは分からない………そんな適当なこと言わないでよ…!」

みどり「…………………」


ザザァ………………ザザァ………………

傾きかけた陽が、砂浜に長い影を落とす


みどり「…あたしは…朱祢ちゃんのこと、ちょっと分かると思うんだけどな~……」

朱祢「…分かるわけないでしょ…!」

みどり「……そうかな~?…あたしも、アンシィと出会うまではけっこう真面目だったんだよ?」

朱祢「……………」

みどり「……あたし…昔、ブラック企業で働いててさ~……真面目だったから、人に頼れなくて…全部抱え込んで……そのまま潰れかけたことがあったんだよね……」

朱祢「………………」

みどり「……んで………今の朱祢ちゃんみたいな顔になってた……。…でも、この力を貰って…好きに生きていいんだって思ったら、肩の力抜けてさ…。気楽に生きられるようになったんだ~」


海を見つめるその横顔は、どこか穏やかだった。


朱祢「………………」

みどり「朱祢ちゃんの真面目なとこ…昔のあたしに似てる気がしてさ………だから、ちょっとでも楽にしてあげたかったんだよね~……」

朱祢「…………………」


ははっと笑うみどりに、バツの悪そうな顔で俯く朱祢


みどり「……さっき、言いかけてたことだけどさ……」


静かに朱祢を見つめて言う


みどり「あたしは…朱祢ちゃんに笑っていてほしいからさ!…朱祢ちゃんの不安が無くなるまで、あたしが楽しいこと見つけてあげるよっ♪」

朱祢「…!!」

みどり「…今日は、それを言いに来た~♪」


無垢な笑顔が胸に刺さる


朱祢「…………………ほんと……お人好し…………」

みどり「へへ~♪」


みどりはクレープを食べながら歩き出す


朱祢「…………………」


少しだけ間を置いて――

朱祢も、その後ろを歩き出した……




ブゥゥウウン……!!

帰り道。

後ろに乗る朱祢が、ふと尋ねた


朱祢「……私………楽しく生きてもいいのかな………」

みどり「…! 何言ってんの~ いいに決まってんじゃ~ん」

朱祢「…………………」


これまでの記憶が、ふと脳裏をよぎる。


朱祢(……私がヒーローになったのは『運命』に導かれたから………でも、そこでの出会いは悪いものじゃなかった………)


ギュッ……

腰に回した腕に、わずかに力がこもる。


みどり「…!」

朱祢(……なんで私は…うまく笑えなくなっていたんだろう………)

みどり「…………………………」


ブゥゥウウン……!

夜の街灯が、ヘルメットに流れていく。


朱祢(……きっと私は、ずっと受け身なままだったんだ……。護り“たい”からじゃなく…傷つきたく“ない”、見たく“ない”から、ヒーローをやっていた……

……生き続けることが、義務だと思っていた………

だから皆とも……どこか距離があるように思ってたのかな…………)


ふっと、息が漏れる。


朱祢「…………もう………いいのかな…………………」

みどり「…………何が…?」

朱祢「…………みどりみたいに……やりたいことやって………」

みどり「……いいんだって………もうヒーローやる必要もないでしょ?」

朱祢「…!……そっか…………………そうだよね………………」


もう敵はいない…

私を縛っていた契約は、もうないんだ………


みどり「……何かやりたいことでも思いついたの?」

朱祢「!……うーん…………」

みどり「…? やりたいこと、するんじゃないの?」

朱祢「やりたいこと……」


少し考える


朱祢「……クレープ屋…とか…?」

みどり「あははっ!いいね!美味しかったもんね、クレープ!」


あまりにも単純な答えに、思わず吹き出す


朱祢「笑うことないでしょ……今はそれしか思いつかないんだから……」

みどり「ごめんごめん……でも、いいと思うよ!お店出すの!……そっか~朱祢ちゃんがクレープ屋さんか~……ぷっ!」

朱祢「ちょっと!なんで笑うのよ!」

みどり「だって~真面目な顔してクレープ焼いてるのかなとか思ったら……ぷははっ!」

朱祢「まっ、真面目にクレープ焼いて何が悪いのよ…!」

みどり「お客さんに真顔でクレープ渡してない?」

朱祢「っ!お客さんには愛想よくするわよ!こう見えてもともと明るいんだから…!」

みどり「あははっ………そうだね……もう、イイ笑顔ができるようになったもんね♪」

朱祢「……笑顔かどうか、みどりからは見えないでしょ…」

みどり「見なくたってわかるもん♪」

朱祢「…もう…!」


ブゥゥウウン!!キュルキュルキュル…!

アクセルを噴かし、バイクは軽やかに夜の道を駆け抜ける。


朱祢「…………………」


風が吹き抜け、景色が流れてゆく……



心の重荷を、置き去りにするように……






それからしばらくして――

朱祢は、キッチンカーでクレープ屋を始めた。


とびきり愛想が良いわけでも、

特別な売り込みがあるわけでもない。

味だって、飛び抜けているわけではない。


それでも――

きりっとした表情で、一つひとつ丁寧にクレープを焼き上げるその姿は、不思議と人の目を引いた。


老若男女問わず足を止め、ときには看板犬のタロとともに、黄色い歓声に包まれることもある。

とりわけ女学生たちの人気は高く、店先が賑わう光景も、今では珍しくなかった…



朱祢「今日はどれくらいお客さん来るかな?」

タロ「わんっ!」

朱祢「ふふっ…いっぱい遊んでくれる人が来るといいね」

タロ「わんっ!」

朱祢「ふふ…」

タロ「わんわんっ!」

朱祢「あっ…いらっしゃいませ…!」



薄黄色に焼き上げた、やわらかなクレープ生地。

その一枚一枚に、彼女は静かに想いを重ねていく……


義務ではなく、選んだ日々の中で。

誰かのために、そして自分のために。


その色は――

彼女がようやく辿り着いた、穏やかな物語の“答え”だった…



イエローローズの物語 おわり


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