第四十三話「解放」(イエロー最終話)
第四十三話 「解放」
(主人公 イエロー最終話)
バラレンジャー解散から、半年――
ある日、朱祢はみどりに呼び出された。
朱祢「どうしたの突然…?」
みどり「まぁまぁ♪理由なんてなんでもいーでしょ?」
玄関先で、無造作にヘルメットが投げ渡される。
朱祢「……………」
*
ブゥゥウウン……
エンジン音を響かせながら、みどりのバイクは街を抜け、やがて海沿いの道へ出る。
みどり「ん~~!やっぱり海を見るのはイイね~~!」
朱祢「……海を見るために連れ出したの?」
みどり「ん~~まぁそれもあるけど、朱祢ちゃんとお話ししたくって♪」
朱祢「何の話?」
みどり「朱祢ちゃんは最近何してるの?」
朱祢「…別に…大したことはしてない…。お父さんの手伝いをしてるくらいかな……」
みどり「…お手伝いって花火作ってるの?」
朱祢「うん…。」
みどり「楽しい?」
朱祢「………別に…楽しいからやってるわけじゃない…。…他にやることなんて無いし……」
みどり「え~、もったいないな~ 時間もお金もあるんだから好きなこと探してやったらいいのに~」
朱祢「……わたしはあなたみたいにお気楽思考じゃないのよ………そういうみどりはヒーロー辞めてから何してるの?」
みどり「あたし?あたしはね~…ニート♪」
朱祢「……………」
みどり「あれっ?ノーリアクション?」
朱祢「…人の事言えないじゃない…」
みどり「別に、仕事しろって言ってるわけじゃないじゃん? 楽しいこと探せば~って言ってるだけで…」
朱祢「……余計なお世話よ…………そんなことを言うためにわざわざ来たわけ?」
みどり「冷たいな~…あたし達、同じ境遇の仲間なのに……」
朱祢「……………………」
*
ブルルル………
バイクを停め、二人はそのまま砂浜へと歩き出した。
足元で、砂が静かに鳴る。
みどり「……朱祢ちゃんはさ…ヒーローやってて良かったと思う?」
朱祢「…何、急に…」
みどり「ん~? いや…どうなのかな~って」
後ろで手を組み、くるりと振り返る。
いつも通りの、軽い笑顔。
朱祢「………聞いてどうするのよ……」
みどり「…だってぇ……今更だけど…朱祢ちゃん、心の底から笑ってた時なかった気がしてぇ……」
朱祢「………………」
ザザァ………………ザザァ………………
波の音が、間を埋める。
遠くを見るように、朱祢は視線を落とした。
朱祢「………楽しかったわよ………皆とお酒飲んだり…一緒に戦ったり…旅行に行ったり…パーティしたり…………」
みどり「…じゃあ…なんでそんな顔してるの?」
朱祢「…え…?」
顔を上げると、みどりの視線がまっすぐ刺さる。
みどり「…朱祢ちゃん、いっつもそうだったよ…? 笑った~と思ったらすぐ、そんな顔するんだもん…」
朱祢「……………」
みどり「………………」
グイっと近づくみどり
朱祢「…!」
みどり「………あたし…朱祢ちゃんには、ずっと笑っててほしいなぁ~……」
朱祢「………………」
視線を外し続ける朱祢
みどり「……何か悩みでもあるの…?」
朱祢「…………………」
足が止まる。
波の音だけが、二人を包む。
長い沈黙のあと――
朱祢「…………みどりは……これからどうやって生きていくの………」
みどり「…! あたし?あたしはね~…最近、山を買ってそこに家を建ててもらってるんだ~♪ お金は使い放題で働く必要もないし…そこでまったり暮らしながら気ままに生きよっかな~って」
朱祢「……………ずっと…?」
みどり「え? ん~~…ずっとかな?」
朱祢「………はぁ……みどりに聞いたのは間違いだったわね………」
腕を組み、目つきが鋭くなる
朱祢「皆…なんでそんな平然としていられるの? 私達、一生このままなのよ…?…老いることもない…死ぬこともない……周りの人はどんどん死んでいくのに、ひとり…このまま残されて…………」
みどり「………………」
再び視線を逸らし、袖をぎゅっと握る
そんな朱祢に、みどりはそっと近づく
みどり「あたし達はもう、ひとりじゃないでしょ?」
朱祢「…………………」
みどり「…朱祢ちゃんは…“ずっと生きなくちゃいけない”って思ってるのかもしれないけど……言い方を変えれば、“ずっと生きられる”ってことでしょ?」
朱祢「……同じよ……死ねないんだから……」
みどり「同じじゃないよ……生きることが、義務なわけないでしょ?」
朱祢「…………」
みどり「…あたしは楽しいと思うけどな~……こんな素敵な力があって…これから先、ず~っと楽しめるんだもん……」
朱祢「…楽観的すぎ………」
表情は更に曇る
朱祢「……私は………不安で仕方ない……………」
みどり「……じゃあさ……」
と、みどりが言いかけた瞬間――
「「きゃああああああっ!!!!」」
朱祢・みどり「「!?」」
朱祢「あっちから…!?」
みどり「行こう!」
二人は反射的に駆け出した。
*
辿り着いた先――
そこには、車の上に乗って怯える女性が二人。
みどり「どうしたの!?…って…あれ?」
視線の先。
地面を這うのは――大型のトカゲのような生き物。
みどり「なぁ~んだ、魔物が出たのかと思っちゃったよ」
女性1・2「「助けてくださ~い!!」」
シュワァ……トン!!
女性二人がみどりにすがりついている隙に、素早く矢を放つ朱祢。
それに驚いた大型トカゲは山の方へ逃げていった。
朱祢「…もう大丈夫…」
女性1・2「「キャーー!!」」
朱祢「わっ!ちょっと…!」
車から飛び降り、勢いよく駆け寄ってくる二人。
女性1「追い払ってくれたんですかぁ!?ありがとうございます~!」
女性2「今の何ですか!?一瞬でしたよね!?なんか……光ったような……!」
女性1「お礼させてください~!」
女性2「アタシからも!ぜひお礼させてください!」
朱祢「お、お礼なんて…」
みどり「まぁまぁ、せっかくなんだから甘えちゃおうよ!
横からひょいと口を挟む。
みどり「じゃあ~…そこのカフェのクレープ、奢ってくれない?」
指差した先には、小さな店。
女性1「あ~!ワタシたちそれが目当てできたんです~」
みどり「そうなの!?奇遇だね~あたしたちもなの~!」
朱祢「そうだったの!?」
女性2「ここのお店のクレープ、有名ですからね!」
朱祢「……それなら、最初からこっちに停めればよかったじゃない…」
みどり「えへへっ♪ここ“も”目当てだったの~」
*
みどり「じゃーねー!クレープごちそうさま~♪」
女性1「こちらこそ、助けていただいてありがとうございました!」
手を振り合い、別れる。
再び、二人きり。
背後から、はしゃぐ声が聞こえてくる。
女性1「はぅ~最後までカッコイイ…」
女性2「あんなカッコイイ女性っていたんだねぇ…」
女性1「ワタシ、あの二人の推しになっちゃいそ~!」
女性2「アタシも~!」
*
クレープを頬張りながら、砂浜を歩く二人
みどり「美味しいね!」
朱祢「…えぇ……」
みどり「………………」
朱祢「…………………」
みどり「…さっきの話の続きだけどさ……こんな小さな幸せを、永遠に積み重ねられるって考えたら…この体もイイと思わない?」
朱祢「…………なんでみどりは、そんなに軽いの?」
足を止める朱祢
朱祢「…みどりみたいな人に…私の苦しみは分からない………そんな適当なこと言わないでよ…!」
みどり「…………………」
ザザァ………………ザザァ………………
傾きかけた陽が、砂浜に長い影を落とす
みどり「…あたしは…朱祢ちゃんのこと、ちょっと分かると思うんだけどな~……」
朱祢「…分かるわけないでしょ…!」
みどり「……そうかな~?…あたしも、アンシィと出会うまではけっこう真面目だったんだよ?」
朱祢「……………」
みどり「……あたし…昔、ブラック企業で働いててさ~……真面目だったから、人に頼れなくて…全部抱え込んで……そのまま潰れかけたことがあったんだよね……」
朱祢「………………」
みどり「……んで………今の朱祢ちゃんみたいな顔になってた……。…でも、この力を貰って…好きに生きていいんだって思ったら、肩の力抜けてさ…。気楽に生きられるようになったんだ~」
海を見つめるその横顔は、どこか穏やかだった。
朱祢「………………」
みどり「朱祢ちゃんの真面目なとこ…昔のあたしに似てる気がしてさ………だから、ちょっとでも楽にしてあげたかったんだよね~……」
朱祢「…………………」
ははっと笑うみどりに、バツの悪そうな顔で俯く朱祢
みどり「……さっき、言いかけてたことだけどさ……」
静かに朱祢を見つめて言う
みどり「あたしは…朱祢ちゃんに笑っていてほしいからさ!…朱祢ちゃんの不安が無くなるまで、あたしが楽しいこと見つけてあげるよっ♪」
朱祢「…!!」
みどり「…今日は、それを言いに来た~♪」
無垢な笑顔が胸に刺さる
朱祢「…………………ほんと……お人好し…………」
みどり「へへ~♪」
みどりはクレープを食べながら歩き出す
朱祢「…………………」
少しだけ間を置いて――
朱祢も、その後ろを歩き出した……
*
ブゥゥウウン……!!
帰り道。
後ろに乗る朱祢が、ふと尋ねた
朱祢「……私………楽しく生きてもいいのかな………」
みどり「…! 何言ってんの~ いいに決まってんじゃ~ん」
朱祢「…………………」
これまでの記憶が、ふと脳裏をよぎる。
朱祢(……私がヒーローになったのは『運命』に導かれたから………でも、そこでの出会いは悪いものじゃなかった………)
ギュッ……
腰に回した腕に、わずかに力がこもる。
みどり「…!」
朱祢(……なんで私は…うまく笑えなくなっていたんだろう………)
みどり「…………………………」
ブゥゥウウン……!
夜の街灯が、ヘルメットに流れていく。
朱祢(……きっと私は、ずっと受け身なままだったんだ……。護り“たい”からじゃなく…傷つきたく“ない”、見たく“ない”から、ヒーローをやっていた……
……生き続けることが、義務だと思っていた………
だから皆とも……どこか距離があるように思ってたのかな…………)
ふっと、息が漏れる。
朱祢「…………もう………いいのかな…………………」
みどり「…………何が…?」
朱祢「…………みどりみたいに……やりたいことやって………」
みどり「……いいんだって………もうヒーローやる必要もないでしょ?」
朱祢「…!……そっか…………………そうだよね………………」
もう敵はいない…
私を縛っていた契約は、もうないんだ………
みどり「……何かやりたいことでも思いついたの?」
朱祢「!……うーん…………」
みどり「…? やりたいこと、するんじゃないの?」
朱祢「やりたいこと……」
少し考える
朱祢「……クレープ屋…とか…?」
みどり「あははっ!いいね!美味しかったもんね、クレープ!」
あまりにも単純な答えに、思わず吹き出す
朱祢「笑うことないでしょ……今はそれしか思いつかないんだから……」
みどり「ごめんごめん……でも、いいと思うよ!お店出すの!……そっか~朱祢ちゃんがクレープ屋さんか~……ぷっ!」
朱祢「ちょっと!なんで笑うのよ!」
みどり「だって~真面目な顔してクレープ焼いてるのかなとか思ったら……ぷははっ!」
朱祢「まっ、真面目にクレープ焼いて何が悪いのよ…!」
みどり「お客さんに真顔でクレープ渡してない?」
朱祢「っ!お客さんには愛想よくするわよ!こう見えてもともと明るいんだから…!」
みどり「あははっ………そうだね……もう、イイ笑顔ができるようになったもんね♪」
朱祢「……笑顔かどうか、みどりからは見えないでしょ…」
みどり「見なくたってわかるもん♪」
朱祢「…もう…!」
ブゥゥウウン!!キュルキュルキュル…!
アクセルを噴かし、バイクは軽やかに夜の道を駆け抜ける。
朱祢「…………………」
風が吹き抜け、景色が流れてゆく……
心の重荷を、置き去りにするように……
*
それからしばらくして――
朱祢は、キッチンカーでクレープ屋を始めた。
とびきり愛想が良いわけでも、
特別な売り込みがあるわけでもない。
味だって、飛び抜けているわけではない。
それでも――
きりっとした表情で、一つひとつ丁寧にクレープを焼き上げるその姿は、不思議と人の目を引いた。
老若男女問わず足を止め、ときには看板犬のタロとともに、黄色い歓声に包まれることもある。
とりわけ女学生たちの人気は高く、店先が賑わう光景も、今では珍しくなかった…
*
朱祢「今日はどれくらいお客さん来るかな?」
タロ「わんっ!」
朱祢「ふふっ…いっぱい遊んでくれる人が来るといいね」
タロ「わんっ!」
朱祢「ふふ…」
タロ「わんわんっ!」
朱祢「あっ…いらっしゃいませ…!」
薄黄色に焼き上げた、やわらかなクレープ生地。
その一枚一枚に、彼女は静かに想いを重ねていく……
義務ではなく、選んだ日々の中で。
誰かのために、そして自分のために。
その色は――
彼女がようやく辿り着いた、穏やかな物語の“答え”だった…
イエローローズの物語 おわり




