第四十一話「家族を想う正義」
第四十一話 「家族を想う正義」
(主人公 ゴールド3)
ザシュッ!!
ブラウン(こいつ一体だけか……)
銀河さんの提案により、謎の飛行物体を全て破壊した。それが原因かは分からないが、人間を襲うモンスターの数は目に見えて少なくなっていた。
バラレンジャーだけではなく、全てのヒーローの存在意義が問われる状況になり、社会的にもヒーロー組織の解体も検討している。実際、活動を停止したヒーロー団体も多い。バラレンジャーももう長くはないかもしれない。
ブラウン「虎羽とも、もう会わなくなるのかもしれないな……」
オレは黄慈さんのあの言葉を思い出した。
「ブラウン君には、誰にも言えない秘密があるのかもしれないけど、今日、ぼくと雪ちゃんと過ごしていた君も君だ。その人の全てが善じゃないのが人間だから。『家族に会いたい』という気持ちを信じてみてもいいんじゃないかな…」
ブラウン(………会えることなら…会ってみたいがな…………それに……虎羽とも…決着をつけておかなければならないだろう………)
虎羽「ブラウンさん?」
ブラウン「…っ!!?…虎羽か……どうした…?」
虎羽「いえ、見かけたから声を掛けただけです。通報があったのはこの一体だけですか?」
ブラウン「ああ…そうだ。」
虎羽「そうですか。ボクの家、この近くなので…気になっただけです。」
ブラウン「!…そうだったな…」
虎羽「?…言いましたっけ?」
ブラウン「いや…知っている……」
虎羽「…誰に聞いたんです?」
ブラウン「……話たいことがある。ついてこい。何故知っているのかも教えてやる…」
*
ブラウン「……この公園…よく遊んだだろ?」
虎羽「…まぁ…近所ですから…」
ブラウン「よく兄貴と一緒に戦いごっこをしていなかったか?」
虎羽「…なんなんだ……誰に聞いた…?」
ブラウン「誰にも聞いていない……お前しか知らないことを言ってやろうか?お前、毎年家族で夏祭りに行っていただろう?その時、毎年必ずわたあめを食べていたな?大きいから兄ちゃんと半分こってな…。」
虎羽「なぜそれを……」
ブラウン「アニメも好きだったよな…兄貴と一緒にロボットに乗って戦うアニメをよく見ていただろう。翼の生えたロボットがカッコいいっていつも言っていたよな?合体するのもカッコいいって言って、兄貴に肩車してもらって公園を走り回っていただろう?」
虎羽「…なん…で……」
ブラウン「まだわからないか?……ブラウン・アルバートなんて適当につけた名前だ…。オレの本当の名前は…お前の兄貴の名前は……」
龍牙「黒瀬、龍牙だ…!」
*
虎羽「お父さん、ボクあれ食べてみたい!」
虎羽は屋台のクレープを指さした。
父「よし!じゃあお父さんと買いに行くか」
父は虎羽と手をつなぎ、屋台の方へ笑顔で歩いて行った。
母「いってらっしゃい」 母も笑顔で手を振る。
龍牙「オレ、あれ見てきてもいい?」
龍牙は飾り付けられたモミの木が気になって仕方がなかった。
母「ここからでも見られるのに」
龍牙「近くで見なきゃ分からないこともあるじゃん!」
笑顔で見守る母を背に、龍牙はモミの木に向かって走った。
龍牙「近くで見ると大きいなぁ…。」(父さんはこれが光るって言ってたけどどうなるんだろう?)
龍牙はとても幸せだった。クリスマスであることなど関係なかった。父にイルミネーションを見ようと誘われたのがイルミネーションもどうでもよかった。ただ、家族と一緒に居られるだけでよかった。母が笑顔で見守ってくれる、元気な父と弟がいる。それで満足だった。何をやっても楽しかった。
龍牙「あ!飾りが落ちてる!母さん!これ落ちちゃってる…」
龍牙が母に目をやると母はガラの悪い男3人に絡まれていた。
男A「お姉さんかわいいねぇ~俺らと遊ばない?」
母「旦那と子供と来ているので…」
母は断ろうとするが、男は強引に腕をつかむ。
男A「こんないい女ほったらかす男なんて捨てて俺らと良い事しようぜ~」
龍牙は母を護る為、男達の前に出た。
龍牙「母さんをいじめるな!」
男B「なんだこのガキ…!」
男A「どいてろ!」
龍牙は母を護ろうとするが、男に蹴り飛ばされてしまう。それを見た母は男に平手打ちをする。
母「子供に手をあげるなんて最低です。」
男A「クッ…このアマァ!」
母は龍牙の下に駆け寄ろうとするが、男に足を引っ掛けられて転ばされてしまった。
龍牙「痛てて…ッ…!」
龍牙は母が男に転ばされた所を目撃する。その刹那、龍牙は暗闇の世界へいざなわれる…。
*
龍牙「…!!ここは!?」
何者か「お前は力があったら何がしたい?」
龍牙は驚き、少しの間固まっていたが、質問を思い出してこう答えた。
龍牙「悪いやつらをやっつけたい!」
何者か(母親を護りたいではなく、悪者をやっつけたいか…)
龍牙は一切の迷いなくそう答えた。悪者をやっつけたいという正義の心は母を傷つけら
れた怒りと共に覚醒した。
何者か「気に入った。俺の力を全てお前に託そう。お前はお前の思うままに力を使うがいい」
*
何者かがそう言った瞬間、意識は元の世界に戻り、男達を吹き飛ばすほどの風が吹いた。男達は突然の出来事に驚いていた。もう攻撃などしなくても男達は去っただろう。
しかし、龍牙の怒りはそれだけでは収まらなかった。家族を強く想う気持ちは強い怒りへと変わった。
龍牙(大好きな母さんを傷つけるなんて許せない…!許せない!絶対に!!絶対に許すものか…!!!!)
怒りが強くなるほど風の勢いは強くなった。龍牙を取り囲むように風が吹き荒れる。男達だけではなく、周りの人も巻き込みながら風はどんどん強くなる。買い物袋は吹き飛び、電飾は暴れ回り、人々は飛ばされないように近くの物につかまろうとしていた。
龍牙は手を男達の方へ伸ばし、意識を集中させた。男達を倒したい。その願いに呼応するかのように竜巻が発生し、男達をコンクリートの壁に叩きつけた。
男達を倒すという目的が達成され、怒りが落ち着くのと同時に風も収まってきた。
龍牙「…!。母さん、大丈夫?」
龍牙は一瞬我を忘れていたが、すぐに母の下に駆け寄る。
母「大丈夫よ。それより、さっきの風はりゅーちゃんがやったの?」
龍牙は先程の出来事を思い出すが、何て説明したらよいのか分からなかった。自分自身でもあの力のことが理解できていなかったこと、母に心配をかけさせたくなかったこともあり、何も言えなかった。しかし、母の頬の傷に気付いて口を開く。
龍牙「…!母さん、その傷…」
母「あぁ…これなら大丈夫よ…。それよりりゅーちゃんに怪我がなくてよかった。」
父「二人とも大丈夫か?」
父が虎羽と一緒に走ってきた。龍牙の力により、モミの木の飾りは全て吹き飛んでしまった。結局その日は家に帰ることになり、イルミネーションを見ることはなかった。
龍牙の力のせいでつけてしまった傷は消えなかった。龍牙はその傷を見るたびに申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。それは、感情も力も制御できなかった自分への罰だと思っていた。
*
数日後、学校から歩いて帰る途中だった龍牙は謎の男達によって誘拐されてしまった。龍牙はいきなり、大人数人に囲まれ、手足を縛られ、目隠しもされたので怯えていた。力を使うことなどすっかり忘れていた。
数時間、何かに載せられて移動した龍牙が連れてこられたのは体育館のような場所だった。龍牙が入れられた部屋には何もなく、見上げるとガラスの向こうには白衣を着た外国人が沢山いた。天井も高く、10メートルはあった。
龍牙は力を大勢の前で使った。それが原因でその力を利用しようとする組織の研究対象となってしまった。龍牙は放送でたどたどしい日本語で指示を受け、いくつもの実験をさせられた。最初の数日間は指示を聞かなかったら殺されるのではないかという恐怖があった。たが、それ以上に悲しみがこみ上げてきていた。
龍牙(早く家に帰りたい。母さんに会いたい…。父さんに会いたい。虎羽に会いたい。
なんでおれがこんな目に遭うんだろう…。もう嫌だ…。)
龍牙は悲しみで心がいっぱいだった。そんな時、何者かの声が聞こえた。
何者か「龍牙…お前がしたいことはなんだ?お前の魂は知っているはずだ。お前が一番求めていることはなんだ?」
龍牙「皆に会いたい。家に帰りたい。」
龍牙は泣きながら言う。
何者か「違うだろ。お前が初めてあの力を使った時、思ったことはなんだ?家に帰る為に使ったのか?」
龍牙「あの時は、母さんを助けようと思って…」
何者か「確かに、お前は母親を助けることがきっかけで力を使った。だが、母親を護るだけならあそこまでする必要はなかっただろう?何故あそこまでやった?あの男どもはもう二度と立つことが出来ない体になっているんだぞ?」
龍牙「それは…」
龍牙もうすうす気が付いてはいた。あんなに痛めつける必要などなかった。でも強い衝動が抑えられず、攻撃してしまった。
龍牙は認めたくなかった。優しい両親に育てられた自分が強い怒りの感情を抱いていることを…。大切な人を傷つけるような悪人をどうしようもないほど憎んでいることを…。
何者か「お前があの時望んだことは誰かを助けることじゃない。悪者を倒すことだ。お前が一番良く分かっているだろう? お前は悪を滅ぼしたいと思っている。自分の幸せを邪魔するやつが許せないんだろう?悪いことをするのなら殺しても構わないとさえ思っているんだろ?」
龍牙「やめろ!違う!オレはそんなこと思ってない!」
龍牙は耳を塞ぎ、うずくまるが、何者かの声は聞こえてくる。
何者か「違くなんかない。お前はあの時母親の安否よりも悪者を倒すことを優先していた。」
龍牙は何も言えなくなるほど泣き出してしまった。何者かは龍牙の傍へ行き、優しくこう言った。
何者か「龍牙よ…俺は悪を倒すことが悪いことだとも、大切な人よりも怒りを優先したことが悪いとも言っていない。ただ事実を述べただけだ。お前には悪を許すことができない正義の心がある。その正義は万人が認めるものではないだろう。だが、お前はあの時その正義に従って力を使った。そこに間違いなんかない。」
何者かの優しい口調に少し落ち着きを取り戻す龍牙。
何者か「お前はあの研究員が悪者だと思うか?あいつらをどうしたい?」
龍牙は少し考えてからこう言った。
龍牙「……オレは、母さんと父さんに会えなくしたあいつらが嫌いだ。悪い奴らだと思う。倒したい。」
この時の龍牙にはもう悲しみは消えていた。正義の心に燃え、悪者を倒すと決心していた。
何者か「そうか。ならばその感情に、正義に従えばいい。だがな、お前はこれから一生、悪を憎む心は変わらないだろう。この力を使い、悪を倒すことを続けていくだろう。その時もあの時と同じようなやり方でやるつもりか?周りの人と建物を巻き込んで攻撃するつもりか?」
龍牙「巻き込みたくなんかない。でもしょうがないでしょ。どうにもできないんだから…」
何者か「どうにもならないと思うのはお前がまだ完全に制御できていないからだ。この力は無限だ。向きも大小も自由に操れるはずだ。怒り任せの暴走がお前の望むことならば止めはしない。だが、もし、自分の思うがままに力を使えるのならお前はどうしたい?」
龍牙は何者かを悪魔だと思っていた。ただ、力を与え暴走させ、人の気持ちを弄ぶようなやつだと思っていた。だが、この会話をきっかけに龍牙は何者かにもある優しさと『正義の輝き』を感じた。
龍牙「オレはこの力を自由に使いたい。誰かを護るために使いたい。悪者から幸せを護るために力を使いこなしたい!」
龍牙の目にもう恐怖はなく、やる気と信念に満ちていた。
何者か「そうか…。…龍牙よ…力を操りたいのならこの施設はうってつけだと思わないか?この施設はとても頑丈に作られている。それに他人を巻き込むこともない。実験に協力するふりをして力を使う練習ができると思わないか?お前が満足するまで練習をしてみたらどうだ?」
*
何者かの助言により、龍牙はこの施設で力を使いこなすため、実験に協力した。
しかし、施設で動物以下の存在として扱われ続ける生活は8歳の少年には過酷なものだった。まずい食事、硬い寝床、通じない言葉、謎の薬の服用、検査などストレスしかない環境で過ごした。以前の生活が幸せそのものだった龍牙にとっては何もかもが不幸だった。家族のことを思い出し、悲しくなったことも数えきれないほどあった。
やはり、一番のストレスになっていたことは家族に会えないことであった。子供であった彼にとって、甘えられる人がいない環境というのは何よりも辛いものであった。
そんな度重なる苦痛を乗り越える術とはなんだろう?幸せがある生活をしている人間は苦痛をどう乗り越えるだろう?普通なら苦痛の原因を取り除いたり、我慢したりするだろう。だが龍牙にはどちらもできない。苦痛の原因であるこの施設から抜け出すことはできない。
何者か「まだ、ここで練習するのか?」
龍牙「オレはあの時、母さんを傷つけた。力を暴走させ、護るべきだった母さんに怪我をさせ、父さんや虎羽を含めた皆を巻き込んだ。あんなことは二度と繰り返しちゃいけない。この力がどれだけ強くても、それを制御できるようにオレがもっと強くならなきゃいけないんだ…!」
どれだけここの生活が辛くても力を使う練習ができるのはここしかない。力を完全に制御できるまでここを離れるわけにはいかない。
しかし、ただ我慢することもできない。龍牙はここにいる限り幸せを感じることはない。ストレスが発散されることもない。ただただ、蓄積するだけだった。
心という器は人によって上限が決まっている。そのため、自分の器よりも大きい負担には耐えられず、壊れてしまう。龍牙の器は負の感情の蓄積によりいっぱいになっていた。しかし、発散されることはなくただただ蓄積し続けるストレスに対し、龍牙は強くなるしかなかった。壊れる前に、更に大きな器を用意するしかなかった…
不幸になればなるほど人生の道は狭まってゆく。龍牙にはどんなに辛くても乗り越えるという選択しかなかった。今以上に強くなる。強くならなくちゃいけない。そう思うことしかできない。自分の意思が強くなればなるほど、自分を曲げることが出来ない。余裕がなくなればなくなるほど他のことなど考えられない。
龍牙を突き動かすのは「怒り」だった。悲しい想いをしたら、悲しくさせたやつを憎んだ。何度も何度も!辛くなり、立ち止まりそうになったら自分を憎んだ。強く!激しく!
孤独に戦い続けなければならないこの環境下で体を動かす原動力は憎しみと怒りと殺意だけであった。龍牙を支え、前へ推し進めてくれる力はそれしかなかった。
龍牙(絶対に許せない…。こんな人生にしたあいつらを…。家族を苦しめるやつらを…。オレが殺してやる。絶対に。)
(辛い…。苦しい…。もうこんな生活嫌だ…。…いや、違う…。止まれない…。こんなところで…。悪がこの世にある限り、オレと同じような犠牲者が出てしまう。許さない…。そんなことは絶対に許さない。オレが殺さないと…。平和を守るためにオレが悪を滅ぼさなければいけない!)
(オレはあの時、この力をもらわなければ何もできなかった…。力のない者は蹴り飛ばされ、力のある者の我が儘がまかり通る世界なんだ…。…ふざけている……。力のない人たちは受け入れることしかできない世界なのか?それが世界の真理なのか?…認めない…そんな世界…納得できない…。オレがこんな世界…変えてやる!!)
(なんで力が上手く使えないんだ…?なぜ思った通りに力が使えない…。オレが弱いからか…?…認めない…オレは強い…!悪に屈してしまうような弱者ではない!弱いわけがない!こんな苦痛に耐え続けてきたおれが弱いわけがない。絶対に使える。絶対に使いこなす。悪を殺すために、絶対に強くならなくちゃいけない!)
龍牙は怒りと殺意で己を鼓舞し、10年物間、施設で過ごした。そして数えきれないほどの葛藤を繰り返し、怒りと殺意によって成り立った龍牙の正義が確立された。
*
何者か「もう完璧だな」
龍牙「ああ。ようやくこの時が来た。」
龍牙はいつものように台に固定され検査をされる予定だった。この10年間、力を使いたい方向に手を伸ばさないといけない、その方向を見なければいけないと思い込ませるために演技をしていたおかげで、手足を縛られ、目隠しをされるだけで研究員に近づくことができた。
龍牙は何者かに心の中で尋ねる。
龍牙「なぁ…悪人って改心すると思うか?」
何者か「…人間は愚かだ。自分が正しいと思い込んでしまったなら、変えることは容易ではない。間違っているとどこかでは思っていても、曲げられないものだ…。」
龍牙「ずっと考えていた…。悪人を殺していいのかどうか…。でも、こいつらを見ていて確かにそう思う。人間は簡単には変われない。悪人が善人になることはない。…だったら、やられる前に殺るしかない。」
龍牙は覚悟を決めた。善人を護るために自分ができることは悪人を駆逐することだけだ。力なき弱者であっても、怯え、屈することのない世界を作るために、龍牙は「罪なき悪人」であっても殺すことを決めた。(罪なき悪人とは法的には何の罪もない悪人のことである。まだ罪が露呈していない悪人、これから罪を犯そうとしている悪人などである。
龍牙には風を操る力の他に、もう一つ特別な力があった。それは邪悪な心を感じ取ったり、真偽を見分けたりする「人間を判別する力」だった。その力を使い、悪人を裁いていくことになる。)
龍牙は研究員を一人だけを残し、残りの近くの研究員を周りの空気を奪うことで窒息死させた。そしてガラスの破片を器用に空中を移動させながら拘束具を切り裂いた。そして、風を起こし、その研究員の周りに空気のバリアを作った。
龍牙「お前たちはオレがどれほどの力を持っているのか全く予想できていなかったな。この施設を壊さないことから台風の風程度しか操れないと考えていたようだが、特別にお前だけに力を見せてやろう」
空気を高速で移動させることで爆発を起こし、研究所ごと半径2キロほどを吹き飛ばした。
龍牙「誰かを護りながらの爆発もできた。これで確かめられた。さて、オレの家がどこにあるか教えてもらおうか。」
龍牙は研究員との会話のおかげでかなりの英語を話せるようになっていた。龍牙にとってそれが英語なのかはわかっていなかったが、大体の家の位置を聞き出すことが出来た。
龍牙「……そうか…。では、最後にもう一つ質問だ。お前は空を飛んだことがあるか?」
研究員「ひ、飛行機でなら…」
龍牙「じゃあ、お前らの大好きなこの力でお前を飛ばしてやる……そのまま地獄に落ちろ。」
龍牙はその研究員を空高くから地面に叩きつけて殺した。
*
龍牙は空を飛びまわり、ようやく自分の家の近くまでくることができた。何時なのかは分からなかったが夜だった。一刻も早く家族に会いたかったが、寝ているかもしれないと考えた龍牙は近くの公園で時間を潰そうと公園に行った。公園に近づくと男の声が聞こえた。
男「おい…騒ぐんじゃねぇぞ。声上げたら殺すからな。」
龍牙はその声を聴いた瞬間から殺意に満ちていた。龍牙は空気を動かし、空気が物に当たることでどこにどんな形の物があるのかを確認した。公園の茂みに人間がいることが分かった。
龍牙「おい、そこで何やってんだ?」
男「…!!なんだてめぇ…どっか行きな!」
龍牙「…嫌がっているだろ…その人。」
男「嫌じゃねぇよ。そういうプレイだよ。楽しんでんだからとっととどっか行け!」
龍牙はこの男が嘘をついており、悪人だとわかっていた。
龍牙「助けてほしいか?」
龍牙は涙を浮かべてこちらを見る女性に尋ねた。女は涙を堪えながら、首を横に振った。その反応を見て理解した龍牙は近くにあった小石を亜音速で男の足にブチ当てた。
男「ギャアアーーー‼」
龍牙「オレは警察でも殺人鬼でもない。だから、お前がもし、これから一生悪い事をしないと誓うのならこのまま見逃してやってもいい。」
龍牙は男にチャンスを与えた。男はとにかく命乞いをした。
しかし内心ではこれっぽっちも反省していなかったし、攻撃されたことに対して腹を立てていた。
龍牙「冥土の土産に良い事を教えてやる。おれは直感で嘘かどうかがわかる。最期に罪を増やしたな…。その嘘が閻魔様にも通じるか試してくるがいい…」
龍牙は男の頭蓋を握りつぶした。
龍牙は女に近づき、声をかけた。
龍牙「大丈夫?」
女「なんとか大丈夫。助けてくれてありがとう」
女はお礼を言った。女にとっては暴漢に襲われたこともかなりの驚きだったが、それを助けてくれた少年が特殊な力を持っていたことと、普通の服を着ていないことに驚いていた。
女「君はどうしてそんな格好しているの?」
龍牙は本当のことを話すかどうか迷ったが、施設ごと消し飛ばしたので黙っている理由もないかと考えたのと、辻褄の合う嘘が思いつかなかったので正直に話した。
龍牙「研究施設を抜け出してきたから、服はこれしかない」
女「研究施設ぅ⁉…って何?」
龍牙「オレは8歳の時から物質の流れを操る力を持っている。それを無理矢理調べようとするやつらに誘拐されていた。」
女「そうなんだ…」
女は短時間での数々の出来事に暫く(しばらく)唸っていたが、何か思いついたようにまた質問をしてきた。
女「お家はあるの?」
龍牙「すぐ近くにある。でも、もう寝てるかもしれない。明日行こうと思って、ここで時間を潰すつもりだった。」
女「じゃあ!よかったら家に来ない?お礼もしたいし、何か手伝えるかもしれないから!」
龍牙「いいの?」
女「いいよ!」
龍牙「じゃあ行く。」
龍牙は女の家に向かった。
*
女「まずはお風呂に入らないとね!さぁ入って入って!」
龍牙は女に勧められ風呂に入った。
女「この時間、コンビニしかやってないからパンツとシャツしか買えなかったけど、明日服屋で買ってあげるからね」
龍牙はなされるがまま女が用意した服に着替え、カップラーメンを食べた。
龍牙「これは何?」
女「何ってカップラーメンだけど?嫌いだった?」
龍牙は初めてカップラーメンを食べた。
龍牙(おいしかった…。あの施設で食べた何よりもおいしかった。)
女「落ち着いたところで、色々聞いてもいいかな?」
龍牙はこれまでの経緯を話した…。女の名前はことみ。ことみは龍牙の話を真剣なまなざしで聞き続けた。そして、一通り聞き終えたあとことみは自分のことを話し始めた。
ことみ「私、近々ヒーローの組織を作りたいって考えているの。地球に現れた怪獣たちを倒してくれる人たちの手伝いがしたいって思ってるんだー。」
彼女は視線を落としながら、手短に話した。
ことみ「そこで、相談なんだけど…、私の組織に入ってくれない?」
彼女は自信がなさそうに上目遣いで言った。龍牙は突然の話で驚いたが、彼女は話をつづけた。
ことみ「ヒーローならその力が存分に発揮できるし、龍牙くんは人の為に力を使える良い人だって分かってるから!」
彼女は前のめりになりながら力強く語った。金ピカに輝いて見えたその眼はまっすぐで迷いがなかった。龍牙はこの眼を見てから、この人は信じることが出来ると直感していた。彼女の話を聞くとやはり、学校も行かず、危険な力を持っている自分はここ以外で働くことは難しいことがわかった。
初めて人を殺めたあの瞬間から、まともに生きようとは考えていなかった。地球から悪人が消えるその日まで殺戮の日々を過ごそうと考えていた。だが、彼女は龍牙に殺戮者以外の道を与えてくれた。そのことに龍牙は運命を感じていた…。
龍牙はことみが作る組織のヒーローになると約束した。
*
翌日。龍牙は瑚透美から貰った服を着て自宅のドアの前に立った。10年間で何もかも変わってしまった。施設で飲まされた薬の作用なのか、力が馴染んだ証なのかは分からないが、髪は紫色になり、瞳は白くなっていた。考えも、声も、身長も変わった。いくら親でも龍牙だと分かるのだろうか…。それに自分は人を殺している。心に従った自分なりの正義だと思っていても親に誇れることではないと理解していた。自分にこのドアを開く資格があるのだろうか…。そんな不安や迷いが頭から消えず、扉の前で立ち尽くしていた。すると、誰かが近づいてきた。
龍牙「っ!!!」
母が買い物袋を持って帰宅したのだ。龍牙は咄嗟に身を隠し、しばらく屋根の上から家の中の話声を聞いていた。
母「今日のお昼はお寿司よ~」
父「おお!豪華だな!…おっ!虎羽の好きな桜餅もあるぞ!」
虎羽「今日は何かあるの?」
母「虎羽ちゃんの卒業祝い、就職祝いよ。」
父「そうだ!父さんからも就職祝いがあるぞ~」
虎羽「父さんも母さんもそんなに張り切らなくていいのに…」
龍牙は声だけで何もかもが分かったと感じた。
龍牙(皆、絶対笑顔だ。幸せそうに笑っている。おれがいなくても何も変わっていない。幸せな日常がこの家の中にはあるのだろう…。)
龍牙はしばらくボーッとしながら話し声を聞いていた。
*
龍牙(オレの事はもう忘れてしまったんだろうか…。オレはこの家に帰るべきなんだろうか…。オレが望むのは父さんと母さんと虎羽が幸せでいることだ。近所の人は噂でオレの力を知っているかもしれない。オレが戻ったら怖がるかもしれない。母さんたちが街を歩きにくくなったら嫌だな…。人殺しがあの家にいると知られたらもっとまずいことになる…。
オレはもう普通じゃないんだ…。誰にも誇ることができなくても、オレには貫くと決めた正義がある。それが活かせる仕事ももらった。それに……母さんの傷…まだ治っていなかったんだな……やっぱり…オレに戻る資格なんて……ないんだ………
母さん…父さん…虎羽…おれのことは今まで通り、死んだと思っていてくれ…。
じゃあな…。)
優しさを教えてくれた、大好きな両親に育てられたにも関わらず『悪を滅する正義』を選んでしまった。もし、今家族のもとへ戻ってしまえば両親を侮辱することになる。
殺人鬼を育てた親という烙印を自らの手で押してしまうのではないかと思ってしまった。それだけはできない。絶対に出来ない。誰よりも家族を愛しているから……何よりも家族が大切だから……己の正義を貫くと…決めてしまったから……。
悪人の返り血で染まったこの体を抱いてほしくはない。両親はせっかく帰ってきた息子が人殺しだと知ったら悲しむだろう…。自分なんていなかったかのように幸せそうに暮らしている。そこに無理をしてまで入っていくことは、優しい龍牙にはできなかった…。
*
龍牙は悩んだ末、家族に会わずにことみのところに戻った。
ことみ「…!どうしたの?……どうして…悲しそうなの…?」
龍牙はうつむいたまま、自分の気持ちをどう表現したらいいのか分からず、黙っていた。そんな龍牙をことみは優しく迎え入れた…。
大切な人を傷つけないように努力をした。
その頑張りを支えてくれる人はいなかった。
苦しくて、辛くて、痛い時間がずっと続いた。
それを乗り越えるために悪を憎んだ。
殺意を持った。
悪を絶対に許さないという正義の心を持った。
その結果、人を殺した。
そのせいで、家族に会えなかった。
家族に会うために、力の制御ができるまで努力したのに…。
誰からも認められない正義。
今はもう、自分でも誇れない正義。
オレには何がある…?何が残った? 寂しい思いと悪を憎むどす黒い気持ちだけだ。気づかぬうちに、大切なものを見失っていたんだ…。オレにはもう、何もない…。もう…ほしかったものは…なくなってしまった…。
龍牙は布団から出ることも出来ず、ただただ、悲しくなっていた。
ことみ「私にできることあるかな…? 言いたい事があるなら聞くよ?」
ことみは龍牙の枕元に座り、優しく話しかけた。龍牙はことみに背を向けて横になったまま、静かに語り始めた。
龍牙「オレは…人を殺した…。オレにはオレの考えがある。正しいと思ってやったことだった…。でもそれを母さん達に誇ることはできない…。」
龍牙の目には涙が溢れていた。
龍牙「オレは何がしたかったんだ…? 家族に会いたいから力を使えるようになったのに、会えない。自分で掲げた正義を貫けば貫くほど家族に会いにくくなってしまう…。オレは何がしたかったんだろう……。わからない…。どうしたらいいのか…わからない…。」
龍牙は泣き声を抑えきれなかった。龍牙が泣いていると、ことみは優しく頭を撫でて、龍牙が落ち着くまで待ってから語り始めた。
ことみ「今からなら家族にでも会えるんじゃない?もう二度と力を使わずに、二度と人も殺さずに生きることが出来るならね。今まで殺しちゃった人達のことは気にしなくてもいいと思うな。私は正当防衛だと思うよ。 龍牙くんには力を使わないで生きる人生もあると思うよ。」
龍牙はしばらく考えてから言った。
龍牙「でも、無駄にはしたくない。あの努力を、この力を…。…オレはこの力を使って生きたい。」
ことみ「なんのために力を使うの?」
龍牙「…オレは良い人を護るためにこの力を使いたい。オレはその為ならどんな事だってするつもりだ。たとえ、人殺しであっても…。」
龍牙はむくりと起き上がった。龍牙は迷いがなくなったようだったが、その眼は寂しそうだった。
龍牙「あんたはどう思う?オレの正義について…」
龍牙はもうこの家を出ていくつもりだった。殺人鬼と一緒にいられる人間などいないと思ったからだ。
誰に何を言われようと、自分の正義を信じるとあの時には誓っていた。自分でも曲げることはできないと感じていた。でも、最後に聞きたかった。自分のことを一番よく知っているこの人ならなんて答えるのか…。この人に否定されるなら、全ての人間に否定されるだろう。そうなれば一人で生きてゆく覚悟を決められる。
ことみ「とても素敵な考えだと思うよ。」
ことみは微笑みながら優しくそう言ってくれた。
ことみ「龍牙くんは誰かを護るために力が使える人だよ。誰かを護りたいという想いが間違いなわけないよ!」
ことみは龍牙の手を優しく包み込み、続けた。
ことみ「私も殺人を肯定していいのかはわからないけど、死ぬまで考えが変えられない人もいるだろうし、悪人が生きている限り、安心して生活できない人がいるのならその人を助けるためにも殺すという選択もあると思う。そして龍牙くんはその選択を正しく選べる人だと思うよ。」
ことみは龍牙を真っ直ぐ見つめた。その眼は嘘偽りのない龍牙を肯定するものだった。
龍牙(この世にオレを認めてくれる人なんていないと思っていた。でも、この人はこんなオレを認めてくれた。このままのオレでいいと言ってくれている…。)
龍牙は泣きながらことみの手を握り返した。そこからもしばらくは、ことみに背中をさすられながら泣き続けた。
龍牙に残っていたのは寂しさと怒りだけだった。だが、ことみが認めてくれたおかげで寂しさが和らぎ、怒りは正しい方向へと向いていった。悪を憎むという強い正義の心は龍牙を今一度奮い立たせた。
*
実家の屋根の上で風に吹かれる……。
龍牙(オレは…この力で母さんたちの平和を守りたい。……だから……悪を絶対に許さない。平和を脅かすものは必ず殺してやる…。皆がオレを嫌っても…、皆がオレを否定しても…、これで守られる世界が尊いものだと…オレは信じるよ…。母さん…父さん…虎羽…幸せにな…。)
最後の言葉を残して、家を去った。
*
龍牙(たった一人でいい…。本当の自分を認めてくれる人がいればオレは輝ける。オレはあの人の下で存分に働く。もう迷いはない。オレは、オレの正義を輝かせる。何者かが持っていた正義の輝きや、あの時の彼女の眼の輝きにも負けないくらいの輝きを手に入れたい。オレは…金色に輝いてみせる。)
*
オレはヒーローになった。
そして、オレが正式に活動する頃にはもうあいつもいた。
龍牙は一目でその存在に気が付いた。でも虎羽は龍牙のあまりの変わりように気付くことはなかった。人には誇れない正義を手にした龍牙は家族にはなんとしても存在を明かしたくなかった。
自己紹介の時、とっさに出てきた偽名は研究員の名前であった。龍牙は虎羽を騙すため
龍牙「オレの名前はブラウン・アルバートです。」
そう、名乗ったのだった。




