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King Colours  作者: TEAM,IDR
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第三十五話「バラレンジャー、グリーンローズの星乃藍ですわ!」

第三十五話 「バラレンジャー、グリーンローズの星乃藍ですわ!」

(主人公 グリーン4)


 変化はいつか訪れる。そしてその変化が大きいほど失うものも大きく、また得るものも大きい…。このルールは個人だけではなく、集団にも当てはまる。例えば「戦争」は多くの人々、環境を巻き込んだ。だが、それを越えたことで価値観は変わり、技術も発展してきた。 大きな変化を望むほど、現状を大きく破壊しなければならない…。


 なら、全人類の価値観を変え、より良い未来を手に入れたいならどれだけの犠牲を払わなければならない…?



 銀河さんの話によれば、近いうちに人類の半数以上が消えてしまうそうだ。それは未来のためには必要な最小の犠牲だが、それを阻止し、犠牲なくして未来をつかみ取りたいとのことだった。


*


 お嬢は今、例の場所に来ている。一人で考えているようだ…。俺にできることは何もない。お嬢がどんな決断をしてもついていくだけだから…。

 お嬢から見えない、木の茂みに隠れていると誰かが来た。こんな山奥に徒歩で来た。いや、もう走る余力さえ残っていなかっただけかもしれない…。ぜぇはぁと息を切らしながら、今にも倒れそうになりながら。目に涙を浮かべながら…。


麗「はぁ…!はぁ…!はぁ…ゲホッケホッ!…はぁ…はぁ…!」

藍「…!!あなた、何しに来たのよ…?」

麗「はぁ…だって…はぁ…藍さんが…はぁ…急にどこか行っちゃうから…!はぁ…はぁ…」

藍「とりあえず落ち着きなさい。」



*



麗「はぁ……もう大丈夫です。落ち着きました。」

藍「はぁ…まったく…。で、何しに来たのよ?」

麗「藍さんを、連れ戻しにきました。」

藍「そう。残念だけど、わたくしはもう戻る気はないわ。あの時言った通り、わたくしが選ぶのは『未来』です…!」

麗「……どうして……」

藍「…あなたはどうなの?銀河の言う『可能性』に懸けて今の多くの人間を護れって言うの?」

麗「っ…!……わたしは……わかりません……。何が正しいかなんて…わかりません…。」

藍「…ま、どうせあなたが考えても関係ないことですしね。……誰かに、連れ戻すように言われたんでしょう?」

麗「違いますっ!わたしは…わたしの意思でここに来ました…!」

藍「ふ~ん…どうだか…」

麗「信じてくださいっ…!」

藍「…どうでもいいわ。どちらにせよ、目障りよ。もう、あなたと話すことはないわ。今すぐ消えなさい。」

麗「……………いやです………」

藍「…はぁ?」

麗「いやですっ!ここにいますっ!!」

藍「…いい加減にしなさい…今わたくしは虫の居所が悪いんですの…消えないというのなら…まずあなたから消すわよ…!」

麗「っ……!!……うっ……うぅ……ひぐっ……藍さん……うぐっ……」

藍「泣くぐらいならさっさと消えなさい。」

麗「うぐっ……ひっく……わたしが消えたら…戻ってきてくれるんですか…?」

藍「言ったでしょう!もう戻る気なんてないのよ!」

麗「じゃあ消えませんっ!!わたしはっ、藍さんが戻って来るまでここにいますっ!!」

藍「……そう……」


 お嬢は刀を抜いた。そしてその刃先を麗さんの首元へと当てた。俺はこの時、体の全てが反応した。ここまで届くほどのオーラ、殺気。それを感じた全身は固まった。まさに、蛇に睨まれた蛙だった。だが、それとは対照的に心臓だけは激しく動いていた。その鼓動が全身を震えさせるほどに。

 お嬢が、『変化』を選び大勢の犠牲を払う決断をしたことは分かっていた。だが、俺は犠牲の意味を正しく理解できていなかった。お嬢が選んだ道は誰かを殺す道。今まさにそれが行われそうになっていた。


殺すのか…?本当に…?

お嬢が…?あの麗さんを…?


 考えてみれば一人の人間も殺せない者が選ぶ道ではなかった。ここで麗さんを切っても何もおかしいことではない。

 お嬢が選んだのはそういう道だ…それがやっと実感できた…。


藍「最期に言い残すことは…?」

麗「はぁ…はぁ…うっ…く……わたしはっ…バラレンジャーに出会えて…幸せでしたっ!!…お祭りに行ったとき…ほんどに…ほんどにだのじがったですっ…!!…わたしっ…藍さんもいるバラレンジャーが大好きなんですっ!!皆がいるからバラレンジャーなんですっ!!藍さんも一緒にいるバラレンジャーが大好きなんですっ!!…はぁ…はぁ…もどっ…もどってきてください…藍さん…!」

藍「…………」


 お嬢が刀を下した。


藍「…………………………………考えるわ…」

麗「……う、うわあああああああああん!!!!」

藍「ちょ!ちょっと!!」


 麗さんは今までの緊張が抜けたからか、ストンと座り込み、しばらく泣き続けた。お嬢はそんな麗さんを隣で慰め続けた。泣かせた張本人が後ろめたさを感じながらも慰めているちぐはぐな光景は、なんだか少しおかしかった。


*


藍「……ねぇ…わたくしがどうして多くの人を犠牲にする道を選んだのかわかる…?」

麗「…?」

藍「…これまでもそうだったからよ…。  力を持つ人はトップに立たなければならないの…。わたくしは生まれた時から完璧だった。お金も美貌も才能も、全てを持ち合わせていた。どんな勝負事にも負けたことがなかった。勝てばお父様やお母様は喜んでくれたわ…。でも…他の人間は違った…。わたくしが力を手にいるほど、強くなるほど、周りの人間は離れていったわ…。どれだけこちらから歩み寄ろうとしても、人は自分より力のある存在を快くは思わないのよ…。その時わたくしは気付いたのよ。わたくしが勝者になるということは、必ず誰かが敗者になるということに…。わたくしは誰かの勝利を奪って生きていたということにね…。」

麗「…………」

藍「海外に行ったときも感じたわ…。今にも死にそうな孤児を見て気付いたのよ…。わたくしがいつも当然のように使っていたお金も…誰かのお金を奪ったからあるものなんだってね…。知れば知るほど世界はそうなのよ…。弱者を犠牲にする強者がトップに居続ける。弱者から奪い、切り捨てることで世界は回る…。一定数の弱者が犠牲になることで多くの凡人が平和に暮らせる…。残酷でしょう…?」

麗「…………」

藍「でもこれが現実…。だからね…わたくしは…決めたのよ…。強者になる覚悟を…。たとえ、拒まれ、嫉まれ、憎まれたとしても、犠牲の上に立ち続けると…。そして、力を持つ者としての振る舞いをするってね…。」

麗「…力を持つ者の振る舞い…?」

藍「ええ。強者は常に凛として振る舞うのよ。なぜなら。沢山の物を奪って得た力を持つ、価値のある存在だからよ。そして、強者はその力を正しいことのために使うのよ。」

麗「…藍さんにとっての正しいことっていうのは…」

藍「そう。未来を選ぶことよ。…この世界に犠牲があるなんて分かりきったこと。全ての人間を救うなんて綺麗ごとなのよ…。あの子たちにはそれがわからないのよ…。」

麗「…………藍さんの言っていることは正しい…気がします……。」

藍「これでわかったでしょう。わたくしが何故戻らないのか…。」

麗「………藍さんは強い人なんですか…?」

藍「はい?」

麗「…わたしには…藍さんが…強者には見えないんです…」

藍「あなた随分となめた口を利くのねぇ~?」

麗「あっ!違うんですっ、その…わたしが言いたいのは…その…藍さんは…藍さんの言う強者とは違うと思うんです…。」

藍「どういうことかしら…」

麗「わたしは全然…強い人や偉い人がどういう人なのか断言できませんがっ…でも…藍さんは、誰かの物を勝手に奪ったりしていないと思います…。」

藍「…………」

麗「藍さんはもっと優しい人だと思います…。だって、自分の力を、ヒーローとして使っていたじゃないですか。」

藍「………………………………」


 お嬢は長い間沈黙していた。確かに、お嬢は奪い取るような人柄ではない気がする。それに、そんな人なら自分から『ヒーロー』になったりするものか…!「楽しい」なんて言えるものか…!


藍「……わたくしは強者には…なりきれないのかもしれませんわね…ってあら…?」


 麗さんは泣き疲れたのか、お嬢の腕の中で眠ってしまった。無理もないか。事務所からこの場所までは距離がある。さらに、きつい坂もある。ここまで自力できたのだから疲れるだろう。それに、お嬢に本気で殺されかけて、大泣きして、たくさんお嬢と話して…。ショッキングな出来事がこうも立て続けに起こって、寝るなというのは無理な話だ。


藍「…一狼!!」

一狼「…はいっ!?」

藍「…車はあるんでしょう?」

一狼「…はい。」

藍「事務所まで送りなさい。それで、盗み聞きのことは忘れてあげるわ。」


*


 車中にて、俺は気になっていたことを聞いてみた。


一狼「…お嬢、これからどうするおつもりですか?」

藍「……………」

一狼「……俺は…お嬢がどんな決断をしようともついていくつもりです…。お嬢がどんな道を選んでも構いません。ですが、どんな道であれ『誇ることができる道』を選んでください…。…俺からの願いです…。」

藍「…そんなこと、言われなくても分かっているわ…。従者のくせに主人にお願いをするなんて………生意気よ……」

一狼「申し訳ございません……」


 お嬢は深く考えていた。それほどまでに大切なことだった。この選択はお嬢にとってきっかけなのだろう。


変化を促すきっかけ…人生を変えるほどの大きな変化だ…。


お嬢は何を考え…何を選ぶのだろう…。


*


 事務所に着くとお嬢は麗さんを背負って中へ入っていった。そこから先は俺が立ち入ることではない。俺は車の中でお嬢を待った。


とても、とても長く感じる時間だった。


 考えても無駄なことがひたすら頭の中をぐるぐると回っていた。その思考に終止符を打ったのは扉が開く音だった。


*


帰りの車内でお嬢は無言であった。だが、その表情はどこか嬉しそうで、穏やかであった。

 きっと良い答えが見つかったのだろう。バラレンジャーの皆様と話し合うことができたのだろう。そう思った俺の口角も上がったまま、二人で帰路に就いた。



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