第三十三話「わたくしは星乃家の長女、星乃藍よ?」
第三十三話 「わたくしは星乃家の長女、星乃藍よ?」
(主人公 グリーン3)
この話は先生から聞いた話だ。お嬢が麗さんを連れて行った場所は山奥にある見晴らしの良い丘のようなところだ。人気もなく、名前もつけてもらえないような辺鄙な場所だった。
そこでお嬢と麗さんは話していたそうだ。
*
藍「良い所でしょう…小さい時に見つけたお気に入りの場所なんですの。」
麗「はい…いい景色ですね…」
藍「………………」
麗「…あの…どうしてここに…?」
藍「わたくしとあなたは似ている気がして…」
麗「……??」
藍「あなた、自分で何かを決めたことがある?」
麗「……えっ…」
藍「…貴方を見ていて感じたのよ。あなた、物事に対して白黒はっきりさせられないでしょう?」
麗「え……その……………」
藍「そのままだとずっと何も変えられないわよ。この状況も、あなた自身も。」
麗「…………」
藍「あなた、自分の人生が今までずっと不幸だったみたいに話すけど、はっきり言ってそれはあなたのせいよ。あなたがどんなことをしてきて、他人から何をされたのか詳しくは知らないけれどこれだけは言える。こんな状況になっているのはあなたに意思がないのも大きく関係しているわ。はっきりと物が言えないから良い様に使われて、誰からも助けてもらえないのよ。」
麗「……………」
藍「………あなた、どうしてあそこに来たの?ただお礼がしたいだけだったのかしら?」
麗「………わたしは……っ!お礼がしたかったのは本当ですっ…!……それに………」
藍「言ってごらんなさい…」
麗「…黄慈さんに会いたくて…ブラウンさんに会いたくて……あと、バラレンジャーの他の皆さんともお話してみたくて…」
藍「そう……それだけ…?」
麗「……あと……………『ヒーロー』である皆さんと話すことで…何か自分が変われるきっかけがないかと思って………」
藍「…自分では変われず、何かきっかけに頼ろうとしている…典型的な愚者の考え方ね…」
麗「…………」
藍「たとえ黄慈さんやブラウンくんに助けられたとしても、あなたが変わらなければこの先も不幸のままよ?周りに合わせることも大事だけれど、時には自分の気持ちも解放してあげないとね…」
麗「はい………」
藍「……厳しいことを言ってしまってごめんなさい…。でも、どうしても放っておけなくて……まるで昔の自分を見ているようだったから……」
麗「えっ…!?」
藍「…わたくしは小さい時から世間を渡る時…荒波を立てないように…いつも自分を押し殺していたわ…。言いたいことも…やりたいことも…全部ね……。そういう人間がどうなるかはあなたにもわかるでしょう?」
麗「…………」
藍「本性を隠している人間は誰からも信用されない…。自分の気持ちを表現できない人間には本当の友達もできない…。誰にも本心を言えなくなると誰も助けてくれなくなるの…。でも…それでも言われたことはやらなきゃいけない…。」
麗「はい……」
藍「そんな人生に嫌気が差して、その時初めて家出をしたわ…。そして、何時間もあてもなく歩き回ってここにたどり着いたのよ…。その時はもう、すっかり日が暮れていてね…。道中で見たでしょう?あんな山の中を、何の光もなく歩くのは当時のわたくしにとって恐怖でしかなかった…。でも、ここにたどり着いて見上げた空には沢山の星が輝いていたわ…。 まるで、絶望していたわたくしを慰めるかのように……」
麗「…………」
藍「……ねぇ…あなたは一等星の輝きがどれくらいの明るさか知っている?」
麗「いえっ…わかりません…」
藍「一等星は星空の中で一番明るい星よ。六等星の百倍も明るいと言われているわ。」
麗「へぇ~~……」
藍「でも、満月とどちらが明るいかは分かるわね。月は影を付けるくらい明るいけれど、星はいくら明るくても…たとえ一等星がどれだけ瞬いていたとしても影をつけるほど明るくはない。…でしょう?」
麗「そうですね…」
藍「そう…あの時だってそんなに明るくなんてなかったのよ…。でも…今までの中で一番強い光に感じたわ…。ただ…ずっと、黙って見ているだけ…。どれくらい見ていたかわからないけれど、気が付いた時には吹っ切れていたわ。……あの星はあんなに強く、美しく輝いているのに、わたくしの光は向こうの星へ、決して届かない。…なぜなら、わたくし自身は光を発していないから。どれだけ目を凝らしても他の星からはわたくしの輝きは届かない……でも、わたくしは…自分のことをちっぽけな存在だとは思わなかった。むしろその逆。全ての星にわたくしの輝きが届くくらい、もっともっと『わたくしはここですわ!』とアピールしたいと思ったのよ。……それからは次第に自分の気持ちに嘘をつかないようになっていったわ。…わたくしにとってここは…自分の気持ちと向き合うことが出来る唯一の場所なのよ…」
麗「……………」
藍「あなたはどう?何か感じることはある?」
麗「……わたしは………たぶんあなたみたいな人には…なれないと思います…。自分の存在をアピールするほどの何かを持っているわけではありませんし…そんな勇気は持てないと思います…。」
藍「………」
麗「…でも…ほんの少しですけど…今の話を聞いて勇気がもらえました。せっかくバラレンジャーの皆さんに助けてもらって…ようやく不幸の渦から抜け出すことができたんです…。もう、戻りたくない…。だから…わたしも…もっと…もっと自分に自信が持てるようになりたいですっ…!!」
藍「…!!よく言ったわ。あなた、根が良い子なんだから、もっと胸を張りなさい。」
麗「はいっ…!」
藍「…少し話過ぎましたわね…そろそろ戻りましょう。きっとおいしいケーキと温かい紅茶が待っているわ。」
麗「はいっ!」
*
お嬢は麗さんと話し合い、自分の胸の内を語っていたようだ。麗さんはお嬢に影響を受け、ちゃんと働く意志を決めたようだ。お茶会は就職祝いへと変わり、皆さんで楽しんで話されていた。
そして、この話を聞かされるのと同時に、お嬢のお気に入りの場所のことも先生から聞かされた。「これからはお前がお嬢様の傍にいなさい」と言われた。無理もないかもしれない。先生はああ見えて結構な老体だ。あんなに動けるのが不思議なくらいだ。いつ動けなくなってもおかしくはない。少し寂しいが、先生に楽をさせるためにも俺が後を引き継ごう。
「これからは、俺がお嬢の傍にいます。」俺は先生にそう言った。すると先生は優しく微笑んで「任せるよ」と言ってくれた。嬉しい半面、やっぱり寂しかった。これを機に先生が遠く離れてしまうような気がした。
小さい時からずっと俺の面倒を見てくれた先生。父親のように厳しく優しい人だった。でも親なんかよりもいろいろなことを教えてくれる先生だった。勉強も、仕事も、生き方も…全部全部…教えてくれた。そんな先生が俺にお嬢を託してくれた。それは一人前として認められると同時に、もう教えることはないと言われたようだった…。別れを意識してしまうきっかけでもあった……
変化はいつか訪れる。生を諦め絶望していた俺を変えてくれたあの変化。星乃家の使用人として働き始めたあの変化。お嬢がヒーローになることを決め、執事兼、戦闘員となったあの変化。そして、先生に頼らずにお嬢を支えるようになるこの変化…。
変化はいつか訪れる。そしてその変化が大きいほど失うものも大きく、また得るものも大きい。失う覚悟と、何かを得る準備。それらを用意するためにも俺はあの場所へと行ってみた。
*
なるほど。たしかに良い眺めだ。そして静かだ。遮る物がないため、風もよく通る。
お嬢がいなくなった事件…。今でもよく覚えている。あの時は家中の人たち全員、血眼になって探し回っていた。誘拐されたと本気で思ったね。でも…今思い返せば、先生だけはやけに落ち着いていたような…。お嬢のことをよく見ていたから、家出だと気づいていたのだろうか…。だから、なんとなくどこに居るのかの見当がついたのか…。
だとしたら……ふっ……敵わないな…。俺はそこまで気が回せなかった。他人のことなんて絶対にわかるわけがないと思っていた。
でも……先生はたぶん、お嬢が考えていることがなんとなくだとしても分かっていた。そして…お嬢もたぶん、麗さんが考えていることが分かっていたんじゃないだろうか…。だから、わざわざ連れ出してまであんな話をしたのか…。
どうして分かったのか…。考えが似ているから…?あの強気ではっきりとした物言いのお嬢と、あの大人しくて周りを尊重してそうな麗さんが…?
今の二人は似ても似つかないが…たしかにお嬢が我が儘になったのはあの事件以来…。それまではずっと我慢していただけだったのか…。
藍「随分と考えに耽っているようね」
一狼「お嬢!?」
藍「珍しくあなたが外出をしているかと思えばここにいたのね…。次郎から聞いたのかしら?」
一狼「はい…。先生はもう年ですから…これからは俺が見守るようにと…。」
藍「そう……。それで?考え事は終わったのかしら?」
一狼「ええ。もともと、気分転換に来ただけですから…大した悩みもありませんし。」
藍「そう…。なら、今すぐ屋敷に戻るわよ。お父様とお母様がいらっしゃったわ。」
一狼「はぁ!?そんな予定聞いてないんですが…。」
藍「わたくしだってさっき聞いたのよ。おかげでメイドたちがパニックだわ。早くなんとかしてちょうだい。」
一狼「俺は今日、休日のはずですが?」
藍「あら?こんな何にもないところに来るくらいなんだし暇なんでしょ。そんなに休みが欲しければ後で倍にしてあげるわ。ほら、さっさと行く!」
一狼「はぁ…星乃家には困ったもんだ…」
お嬢は今日、出勤日だったはずだが、慌てたメイドから連絡を受けて俺を探しにわざわざここまで来たらしい。今日の相方が紫雲さんだったそうで、仕事に支障は出ないから抜け出してきたらしい。俺はお嬢を助手席に乗せて屋敷へと車を走らせた。
一狼「…お嬢、少し質問してもいいですか?」
藍「…何よ。」
一狼「…ずっと前に家出をされたことがありましたよね?あの時はどうしてあんなことを…?」
藍「…疲れたからよ。お父様に言われて勉強して、お母様に言われてお芝居して…ずっとやれやれって言われたことやらされてきたから嫌になったのよ。」
一狼「そうですか…。」
藍「…………」
嫌になったから…疲れたから逃げ出した…。そして、そのあとからは自分の気持ちをさらけ出すようになった…。
一狼「でも、あの後も勉強やお稽古事は続けていましたよね?」
藍「ん…まぁそうね。ヴァイオリンはすぐに辞めたけど、他のは自分の意思よ。自分の意見を言えるようになってスッキリしてからはあまり苦には感じなかったわ……」
お嬢はあの時から自分の気持ちに素直になるようになったのかもしれないな…。そして、自分のやりたいことに気付けるようになって…自分の道を決められたのなら…そうなら…。
一狼「ヒーローをやると決めたのはお嬢ですよね?」
藍「そうよ」
一狼「……なら…ヒーローはやっていて…どうですか?」
藍「…なんなのよ急に。今日はやけにじゃべるじゃない。変なスイッチでも入ったのかしら?」
一狼「いいから答えてくださいよ。」
藍「…楽しいわ…。自分の力で誰かが救えるなんて素晴らしいじゃない…。それに…」
一狼「…?」
藍「いえ…何でもない。」
一狼「………お嬢はすごいですね。頭が良くて、運動もできて、ピアノもヴァイオリンもできて、女優になるくらいの魅力もあって、財力も権力もあって…人生の勝ち組だ…。」
藍「…わたくしは星乃家の長女、星乃藍よ?それくらいのこと、持ち得ていて当然ですわ。」
一狼「…確かに。生まれ育った環境に流されるだけで得たものだけならば、他人から見てどんなに優れているものであっても当然かもしれません。でも、お嬢が本当にすごいのはヒーローとしての力を身につけて、楽しんで生きている所です。」
藍「………」
一狼「お嬢は今…ようやく自分の人生を生きているんですね…。」
藍「…ほんとに今日はよくしゃべるわね。」
一狼「まぁ俺もじゃべりすぎだとは思ってます。でも、一回は言わせてください。俺はそんなお嬢の下で働けて、幸せです。」
藍「…そう……。ま、当然ね。こんなにも美しく完璧なわたくしに尽くせるなんて幸せでしょう。」
一狼「はい。」
藍「なら、その素晴らしい主様のためにもっと冷房を効かせなさい!急に変なこと言うから暑くなったじゃない!」
一狼「はは…そうですね…。俺もなんだか暑くなってきたしな。」
藍「あんたまで恥ずかしがってんじゃないわよ…!」
一狼「あはは…ところでなんで俺が呼び出されるんです?屋敷には先生がいるでしょう?」
藍「あー次郎ならお父様とお母様と話しているそうよ。付きっきりで話しているみたいだからメイドたちがパニックになっていたわ。」
一狼「そうですか…」
藍「それに、あなたはもう次郎の代わりよ。」
一狼「えっ!?」
藍「これからは執事長としてよろしく頼むわよ。」
一狼「…!!はい…かしこまりました、お嬢様。」




