表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/52

第二十九話「グリーンローズの星乃藍様よ!!」(グリーン3)

第二十九話 「グリーンローズの星乃藍様よ!!」

(主人公 グリーン3)


屋敷を見回る一狼

しかし、藍の姿はない。


一狼「…あれ…お嬢は…?」


花壇に水やりをしている次郎に話しかける


次郎「お嬢様は一人でお出かけになられた…」

一狼「一人で…?」

次郎「あぁ……きっと、考えたいことがあったんだろう……」

一狼「考えたいこと…?」

次郎「この間、なぜヒーローになったのかと聞かれていただろ?」

一狼「あぁ…あったな…そんなこと…」

次郎「…おそらく……藍様ご自身も、あまり深く考えられたことがないんじゃないかな」

一狼「…そうなのか…?」

次郎「……覚えてるか?お嬢様が女優をやめると言い出したのは、化け物が各地で暴れ始めてからだ…。それから次の職として、ヒーローを探し始めた。…ヒーローになるために辞めたというよりは、ヒーローにならなければいけないという義務感をきっかけに、ようやく女優業をやめられたという感じだった。」

一狼「…よくそんなことが分かるな…」

次郎「ははっ…分かるさ……私は、藍様が生まれるずっと前からこのお屋敷で勤めているんだぞ?」

一狼「……そういやそうだったな……」

次郎「……だがもう歳だな……お嬢様は、私のことをまだ使ってくださる気でいるが…いつ、ミスをするか分からん」

一狼「…ミスくらいしょうがないだろう…お嬢だってそれを分かって…」

次郎「一狼」

一狼「!」

次郎「……星乃家に仕える執事として、ミスは許されない……。まして、今の私の役目は護衛だ。お嬢様を危険にさらすことなど、あってはならない…。…代々星乃家に仕えてきた渋岡家の『誇り』にかけてもな」

一狼「……『誇り』…か…」

次郎「あぁ……一度、家出をされてしまったことはあったがな…」


ふっと口元を緩める。


一狼「…!…あぁ…あの時か……」


思わず苦笑する一狼


次郎「……一狼…」

一狼「ん?」

次郎「お前は、『誇り』を持って仕事をしているか?」

一狼「…そんなもの、俺にあると思うかよ…」

次郎「……そうだな……お前は私の養子だが、渋岡家としての『誇り』までは無いだろう…。しかしだ……お前は長いこと星乃家の人間を見てきた。…どう思った?」

一狼「……どうって………」


次郎は空を見上げ、大きく息を吸った


次郎「……私はな……渋岡家の『誇り』など抜きにしても、命を懸けてお仕えする価値のある方々だと思っている……」

一狼「………………」

次郎「一狼……私はな…星乃家に仕えることができて、とても幸せだった……人生の全てを捧げても惜しくないと思えた…それが、私の最大の『誇り』だ……」

一狼「………なんだよ急に……もう長くないみたいな言い方じゃねぇかよ…」

次郎「…さっきも言っただろう……私はもう歳だ……何があるか分からない…。だからお前に聞いておきたい…」

一狼「ん…?」

次郎「……私の後を……継いではくれないか…?」

一狼「…!!!」

次郎「……答えは今じゃなくていい……。そこまでする義理も無い…。…だが私は胸を張って言える。星乃家にお仕えすること…これはきっと、お前の人生を豊かにし、幸福を与えてくれる……そしていつか…それがお前自身の『誇り』になるだろう………」

一狼「………………」

次郎「……お前がお仕えするのは、これからも藍お嬢様だ。あるいは、そのご子息様かもしれん。…だから…焦る必要もない。その眼で本当の藍様を見てから決めればいい…」

一狼「……あ?どういうことだ…」

次郎「…ついてこい……お嬢様の秘密の場所を教えてやる……」




そう言って連れてこられたのは、山の中腹にある小さな丘。

そこは道路からも見えにくく、車を停めてから少し歩かないと辿り着かない、知る人ぞ知る無名の丘であった。


一狼「…!…お嬢……」

次郎「…お嬢様は一人になりたい時、よくここに来る……これからは、お前が迎えに来るんだ…」

一狼「……迎えにって…どのタイミングで迎えに行けばいいんだよ…」

次郎「…それは…藍様をよく“視て”いれば分かる………ほら……」


考え事を終え、歩いてくる藍と目が合う


次郎「お迎えに上がりました…」

藍「……ご苦労様……」

一狼「…………」

藍「…今日は貴方も一緒なのね…」

一狼「は…はい…」

藍「……まぁいいわ……」

一狼「…!」


すれ違いざまの一瞬、藍の表情が曇ったような気がした


一狼(……視るとはこういうことか………俺が来たことで、先生の意図を悟ったか……)*

その眼で本当の藍様の姿を見てから決めればいい…

一狼(……ここに居る時、お嬢は自分の弱い部分を見せるってことなのか…?…それを見てからでも遅くないってわけか……)

……私の後を……継いではくれないか…?

一狼………さて……どうしたもんかな………





数日後、バラレンジャーに緊急招集がかかり、一同は事務所へと詰めかけた。


銀河「……と、言うわけで…明後日、クラウンが落下する。…おれは、全ての人間を救いながら、未来も繁栄させる『可能性』を追いたい!みんな…協力してくれないか…!?」


一狼(…一応、護衛という体で扉の近くに立っていたが…なんだか凄い話になっているな…)


雪「もちろんですっ!協力します!」 朱祢「私も…」

紫雲「あぁ、やってやろう!」 ブラウン「やろう……」 金一「もちろんだよ!」

虎羽「えぇ、世界を救いましょう」 黄慈「あぁ、『理想』の世界のために」

桃華「はい…それがワタシのやりたいこと、ですから」


皆、次々に賛同し、残ったのはみどり様とお嬢だけになった。


銀河「……みどりちゃんはどう思う?」

みどり「うーん…みんながやるって言うならやってもいいけど……」


ずいっと、銀河に詰め寄るみどり


みどり「その、銀河くんの言う唯一の『可能性』って、具体的にどんな未来なの?…もし…あたしの自由が奪われるようなら……全員を相手に、抵抗するけど?」

銀河「……そう言うと思ったよ……でも、安心してくれ。みどりちゃんの自由が脅かされるようなことは、どの未来を選んでも無い……だけど…これを見てほしい…」


バッ!

銀河はみどりの目の前に手をかざし、二つの「光景」を見せた


銀河「…断片的な光景を見せる…。これはクラウンが落下した時のみどりちゃんの未来……」

みどり「………………」

銀河「…そしてこれが…唯一の『可能性』を追った時の、みどりちゃんの未来だ……」

みどり「…!…へぇー……」

銀河「…前者の未来の方が面白そうだというのなら……おれ達は敵対しなければならない…!」

「「!!」」


緊張が走る


みどり「……最初の映像…あたしがつまんなさそうにしてる所ばっかり切り取ったんだろうけど……」

銀河「………」

みどり「にしても、あっちの方が断然面白そうだね…♪」

銀河「…!! じゃあ…!」

みどり「いーよ。…協力してあげる」

銀河「よし…これで………」


全員の視線が藍へと集まる


銀河「……藍さんは……おれ達に協力してくれますか……?」

藍「………………」


藍は「はぁ…」とため息をつくと、席を立ちあがった


銀河「っ!待ってください!」


出入口の扉に手を掛ける


藍「…わたくしがいなくても問題ないでしょう……やりたいなら…貴方たちで勝手にやればいいわ…」


銀河を一瞥すると扉を開けた

ガララッ!


一狼「!」

藍「!」

一狼「…お…お嬢……」

藍「……先に帰っていなさい…」


ドンッ!!


一狼「お嬢!!」


藍は空中に足場を作りながら跳び去ってしまった


一狼「…………………」

銀河「………やっぱり…理由は話してくれないか………」

紫雲「…結局、藍さんの説得はできなかったか……」

銀河「…あぁ……」

麗「…あのっ!!どうして藍さんを追いかけないんですか!?」

「「!!」」

銀河「…たとえ追いついても、協力はしてくれないだろう…」

麗「……皆さんは…!?」

「「……………………」」

ことみ「…藍さん…プライド高いから……今はそっとしておいた方がいいかも……」

麗「………………」

銀河「……でも…あの感じなら前回と違って邪魔はしてこないかも……今回は黄慈さんが協力してくれてるからなんとか――」

麗「わ…わたしは嫌です…っ!」

「「!!」」

一狼(…!…驚いたな…あの人が声を張り上げるなんて……)

麗「…わたしは…全員が揃っていないと…嫌です……藍さんだけ、仲間外れにしたくありませんっ!」

虎羽「…でも…あれじゃあ、取りつく島も……」

麗「……わたしが直接話して、説得してみます…!」

ことみ「…! …麗ちゃんが…?」

麗「…はい……」

雪「ひ…一人でですか…?」

麗「…はい……」

ブラウン「大丈夫なのか?」

みどり「逆にいいんじゃない?藍ちゃんの性格じゃ、大勢相手にべらべら喋らないだろうし…」

朱祢「…私もそう思う……それに…麗さんは私たちとは立場が違うから…藍さんも話しやすいかも……」

銀河「……確かに……」

麗「……皆さんも、藍さんがいないバラレンジャーなんて嫌ですよね……?」

ことみ「もちろんよ…!」

桃華「はい。全員揃ってこそのバラレンジャーです」

黄慈「あぁ……全員で協力するのが理想だ」

金一「うん、このままじゃ、バラレンジャーの絆に亀裂が入っちゃうよ…!」

銀河「……おれ達も、藍さんが戻って来てくれることを望んでいる……。でも、それが出来るのはおそらく麗さんだけだ……だから、麗さん。なんとか、藍さんを説得してきてくれませんか?」

麗「……分かりました……!……皆さん。藍さんが、どこへ行ったか分かりませんか…?」

「「…………………」」

一狼「……そういうことでしたら、お嬢様が行きそうな場所に一つ、心当たりがあります」

「「!!」」

ことみ「あ…黒服さん…」

一狼「…すみません…聞こえてしまったもので……。で…どうされますか、麗様」

麗「ではっ!そこまで、連れて行ってくれませんか!?」

一狼「……皆様も、それでよろしいでしょうか…?」

ことみ「……銀河くん……」

銀河「あぁ!よろしく頼む!」

一狼「…かしこまりました……では、麗様こちらへ……」

銀河「あっ、ちょっと待ってくれ…!」

麗「はいっ!?」

銀河「…もし必要なら…伝えてほしい…。おれ達は…『ヒーロー』としての藍さんを、信じてるってな」

麗「……はいっ!」


ガララ……

事務所の扉がそっと閉まる


紫雲「……これも計算の内か…?」

銀河「………んー……」

みどり「藍さんの協力も、その『可能性』の為には必要なの?」

銀河「…いや…今は、中立以上になってくれれば大丈夫だ………正直に言えば…藍さんが戻って来てくれなくてもこの『可能性』は成立する…」

「「……………………」」

ことみ「……でも、この沈黙を見るに…やっぱり皆、それじゃ納得できないみたいね…」


一同が無言で頷く。


ことみ「…銀河くん…なんとかならないのかしら…?」

銀河「……分からない……けど、全員がその気持ちでいることは知ってる…。なんせ、ここにいる全員に、麗さんの役をやってもらってんだ」

「「!!」」

銀河「…おれも数えきれないほど説得に行ったが駄目だった……」

「「…………………」」

銀河「だが、おれ達の中で唯一、藍さんをここまで連れ戻してくれた人がいる。それが麗さんだ。……でもそれだけじゃ足りない…おれ達が、もう一歩藍さんに踏み込まないといけない…! …証明しないといけないんだ……藍さんがいてこそ、13人揃ってこそ、バラレンジャーだってことを…!!」

「「……!!!」」

銀河「…だから今は、麗さんを信じて待とう……『ヒーロー』として決断してくれるなら、必ず…戻って来てくれる………」





ブゥゥウウン……

車は無名の丘へと到着する


一狼「……着きました。…おそらくお嬢はこちらに……」

麗「……はい」


麗は車を降りると、小さく頭を下げ、草の生い茂る小道へ足を踏み入れた。

丘へ続く道を、一人静かに歩いていく。


一狼「………………」



ガサッ……

車を降り、木の影からこっそり見守る一狼


藍「…!…麗……どうしてここに……」

麗「あっ…その……………」

藍「…はぁ…まったく……一狼ね…………で?こんなところまで何をしに来たのかしら?」

麗「………そのっ………藍さんと……お話しがしたくて…………」

藍「…話すことなんて、何もありませんわ。」


藍は腕を組んだまま視線を逸らす。


麗「…………………」

一狼……………………


ザッ……ザッ……

と、藍の隣に並ぶ麗


麗「……綺麗ですね………」

藍「………………………」


二人は並んだまま、丘の先に広がる景色を見つめる。

風だけが静かに吹いていた。

やがて――


麗「………藍さんは…優しいですよね………」

藍「…はぁ?…突然、何を言い出すの?」

麗「…だって…わたしが近づいても怒らないし…拒絶したりもしないじゃないですか…」

藍「…………………」


藍はちらりと麗を見るだけで、また黙ってしまう


麗「……わたし…藍さんに、どうしても言いたかったことがあるんです…」

藍「……………なによ……」

麗「………わたし……藍さんに出会わなければ…あそこで働きたいなんて……たぶん言えませんでした……」

藍「………………」

麗「……わたし…昔から自分に自信がなくて……頼ってばかりで……一人じゃ何もできなくて………やっとの想いで変わろうって思ったんですけど…それも結局は、他の人からもらったきっかけで……最後の最後でも、藍さんにあそこまで言われなければ勇気を出せませんでした……。…だから、藍さんには、とても感謝してるんです。ありがとうございました……」

藍「………えぇ……それで?…話は終わり?」


鋭い視線が麗へ向けられる。


藍「人と会う気分じゃないの…一人にしてちょうだい」

麗「……あ……あのっ…!…理由を…聞かせてもらえませんか……?」

藍「………………」

麗「…どうして皆さんと…『理想の可能性』を追わないんですか……!?」

藍「………………」


藍は深く息を吐いた。


藍「…それを貴方に話して何になるのよ……」

麗「っ! 知りたいんです…!…わたし…誰かが欠けたバラレンジャーなんて嫌なんです…藍さんに……戻ってきてほしいんです……!」

藍「………………………」


沈黙。

風が吹き抜ける


藍「……話たって無駄よ……どうせ貴方には分からないわ……」

麗「……どうして…そう言い切れるんですか……」


上目遣いで不安そうにする麗を一瞥


藍「……ずっとそうだったからよ……」

麗「えっ…」

藍「もういいわ……」


藍は踵を返す。


麗「あっ!待ってください!」

藍「……そうだったわね…貴方は一狼に送ってもらいなさい。わたくしは一人で帰るわ」

麗「っ!!行かないでください!!」


麗は反射的に藍へ飛びついた。


藍「ちょっ…!離しなさい!」

麗「嫌ですっ!だって…離したら、戻らないつもりなんじゃないですかっ!?」

藍「……!」


もがくのをやめる藍


藍「……なんでそう思うのよ…」

麗「それは……なんとなく…そう思うからです……」

藍「…戻らなかったらなんなのよ…貴方には関係ないでしょう…!」

麗「…!!」


その言葉に、麗の腕から力が抜ける。


麗「…なんで……そんな悲しいこと言うんですか………」

藍「……ふんっ…どうせわたくしがいなくたって何も変わらないでしょう…!? 貴方たちで勝手に仲良くやってればいいじゃない…!」

麗「っ…! 藍さんのばかぁ!!」

藍「!!」

麗「藍さんも揃ってこそのバラレンジャーじゃないですか!!」


涙を滲ませながら叫ぶ麗。


麗「……わたし達…仲間じゃなかったんですか…………」

藍「………同じ仕事をしていただけでしょう…」

麗「藍さんは…!そこに友情を感じていなかったんですか…!?」

藍「……………」

麗「わたしのこと、気にかけてくれたのも…怒ってくれたのも…優しく笑ってくれたのも……全部…嘘だったんですか……気まぐれだったって言うんですか……!?」

藍「……………っ………」

麗「……違いますよね………」


藍は腕を組み、視線を逸らした。


麗「……わたし達だって同じです……藍さんのことが好きだから…仲間だから…一緒に闘ってほしいんです……戻って来てほしいんです……」

藍「………………………違うわよ……」

麗「え……」


ぎゅっと服を掴む

その手はわずかに震えていた


藍「…どうせ…わたくしの力が必要なだけよ……心の中でどう思ってるかなんて、分からないじゃない……」

麗「…………銀河さんのことが…信じられないんですか………」

藍「……えぇそうよ……それ以外にも理由はあるけど…わたくしは『唯一の可能性』を追う気も、戻る気もありませんわ…!」

麗「……………………」


沈黙が流れる


藍「………もう話しても無駄よ……ことみに伝えておきなさい、わたくしは今日限りでヒーローをやめるとね…」

一狼(…!!)

麗「!! 藍さん…!!」


くるりと歩き出そうとする。その瞬間――


麗「っ!!」

藍「……なんのつもり……?」


バッと両手を広げ、藍のゆく手を塞ぐ


麗「嫌です………そんな理由で、藍さんがいなくなっちゃうなんて…絶対に嫌です!!」

藍「…嫌だから何だと言うの?」

麗「……藍さんは…クラウンを落とした方がいいと思っているんですよね?」

藍「…だから…?」

麗「…だったら…数億人の人を犠牲にする覚悟ができているということです……なら…どこかへ行っちゃいたいのなら…わたしを殺してからにしてください!!」

藍「………………」

麗「絶対勝てないですけど…わたしは命懸けで藍さんを留めます!! 藍さんが戻ると言うまで…わたしはっ……!!」

藍「………そうね……貴方を殺せば…きっとすぐに辞められるでしょうね……」


ッッッ!!!!!!!ドンッッッ!!!!!

大気が潰れる

ミシミシミシッ!!!!!!ズズズズズズ………

地面がえぐれ、収束する

土を圧縮し、超高密度、超高温の刀を作り出す


麗「っ…!!」

藍「いいわ……強者の覚悟を見せてあげる…」


スッ……

赤く発光するマグマの刃が麗に向けられる


一狼(お嬢…!? まさか…本当に殺す気じゃ……)

藍「…最期に言い残すことは?」

麗「…………あ………」


ぽろぽろと涙が零れる


麗「……藍さんにとっての『正義』は……仲間を斬り捨ててでも…貫くものなんですか……?」

藍「………………」

麗「…気まぐれで…わたしを…殺せるんですか…………」

藍「……………………………ふんっ…」


ググググ……………

圧迫感が消えていく


麗「………ぁっ………」


ガクッと力が抜け、膝から崩れ落ちる麗

ぽろっ……ぽろぽろっ……

赤熱した刃が崩れ土塊となって地面へ落ちた。


藍「……………………」


腕を組み、遠くを見つめる


藍「………なんなのよ………まったく………………」


小さく呟く藍


麗「……う…」

藍「?」

麗「…うわぁぁぁぁぁぁあああん!!」

藍「っ!!」

麗「わぁあぁぁぁあああああああ……!!!!」


緊張が解けて号泣する麗


藍「……っ~~! もう!そんなに泣かれたら、わたくしが………っ…………」

麗「うぅうぅぅううっ!!わぁあぁぁぁぁあああっ!!!」

藍「…………………」


しばらく麗を見つめる。

そして観念したように息を吐いた。


藍「…ほら」


麗の隣に腰を下ろし、胸に抱き寄せる


藍「…仕方ないわね……落ち着くまで傍にいてあげるわ……」

麗「うぅっ………うわぁぁぁあああん!!」




麗「…ぐすっ………………」

藍「…落ち着いた…?」

麗「……はい…………」

藍「…そう…………」


二人の間に静かな時間が流れる。


麗「……やっと……いつもの藍さんに戻ってくれましたね……」

藍「……………変わったつもりなんて無いわ…………」

麗「………………」


少し迷った後、麗は改めて口を開いた。


麗「……藍さんは……どうして、クラウンを落とした方がいいと考えてるんですか…?」

藍「……逆にどうしてそれ以外の選択ができるのか聞きたいくらいだわ……。世界の命運がかかってるのよ?力を持つ、強者として…実現可能な方法を選ぶに決まってるじゃない」

麗「……銀河さんの言う未来は…現実的じゃないですか……」

藍「えぇ…。バディさんの説明の通りよ。…犠牲無しで変われるほど、人間社会は簡単じゃないわ……」

麗「……でも…銀河さんには、具体的な方法が見えてるみたいでしたよね…?その通りに動くことができれば……」

藍「……そのやり方も気に入らないのよ…。他人の運命を勝手に決めて……力で無理矢理従わせようなんて傲慢な考え方が…嫌いなのよ……!」

麗「…………ぷっ…!ふふっ…!」

藍「…何がおかしいのよ」

麗「…わたし…ようやく、藍さんのこと…少し分かったと思います………藍さんって…やっぱり優しい人ですね…」

藍「………………」

麗「…でも…優しいだけじゃなくて……現実的で…時には、厳しい判断もできる…………本当に信じられるのも……自分だけって感じで……………」

藍「……………………」


その言葉に、藍は静かに空を見上げた。


藍「……お父様から…上に立つ者としての心構えを、嫌というほど叩き込まれてきたのよ……」

麗「…!」

藍「…弱者から財をむしり取り……敗者を踏み台にし続けてきたわたくしには…そんな考えしかできないのよ………」

麗「………でも…わたしのことは、きり捨てられませんでしたよね?」

藍「……………」


麗は座り直し、真っ直ぐ藍を見つめた。


麗「…藍さんは……どちらの道を選ぶんですか…?」

藍「え……?」

麗「強者としての藍さんか……

弱い人にも、手を差し伸べられる優しい藍さんか………

どちらが…『ヒーロー』としての藍さんなんですか…?」

藍「…!!」


その言葉に、藍は目を見開いた。

ただ、遠くの景色を見つめ続け、何も答えない。

そして――――


麗「…!」


藍は静かに立ち上がる。

ぱっぱっ……

スカートについた草や葉を払う。


麗「……藍さん………」

藍「…少し…一人にさせてもらえるかしら……」

麗「………はい………」

藍「…先に帰っていなさい…」

麗「……いえ……待ってます……」

藍「……………」

麗「……信じてますから………」


藍は何も答えない。

ただ、ゆっくりと視線を逸らした。

麗もそれ以上は何も言わず、ゆっくりとその場を離れた…



一狼(……『ヒーロー』としての…お嬢…か………)


腕を組みながら、そっと遠くの藍を見守る


一狼(………俺を拾ってくれたのも…気まぐれなんかじゃないですよね…………俺も…信じてますから………)



しばらくして…

瞼を閉じ、何度も風に吹かれていた藍はようやく目を開けた


一狼「…!!」

藍「……麗」

麗「! はい…!」

藍「戻るわよ………銀河に言いたいことができたわ……」

麗「はっ、はい!」

藍「…一狼、事務所へ戻るわ。運転しなさい」

一狼「…かしこまりました……」




ガラガラ…


雪「あっ!藍さん!」

みどり「おかえり~」

ことみ「おかえりなさい!」


事務所にいた全員が、一斉に振り返る。


銀河「藍さん…戻って来てくれたんですね!」


藍は銀河を一瞥すると、腕を組んで尋ねた


藍「………銀河。貴方に訊きたいことがあるわ」

銀河「はい…なんすか…」

藍「…わたくしは、貴方のやり方が気に入らないわ。 他人の『可能性』を切り捨てて、力で従わせるような傲慢なやり方がね」

銀河「……………」

藍「力を持つ者が正義になる世界が、貴方にとって『理想』の世界なのかしら?」


銀河は真正面からその視線を受け止めた。


銀河「……確かに…おれが追い求める『理想』のためには、ほぼ全ての人間の運命を決定させなきゃならない……。『可能性』を奪う行為だし、傲慢なやり方だ……でも…力を持つ者が正義になる世の中……これは、おれ達が何もしなくても変わらない事実じゃないですか?…だったら…『ヒーロー』である、おれ達が世界を支配する方がいい……そう思った…」

藍「…………傲慢ね……」

銀河「…はい……正義を貫く以上、譲れないものがある……藍さんだって、譲れない考えがあるからこそ、おれを否定したんじゃないですか?」

藍「………………」

銀河「……信じてくれませんか…おれ達の…『ヒーロー』としての『正義』を…!」

藍「……………」

銀河「…おれ達は一人じゃない……もし、藍さんが加わってくれたらおれ達の『正義』が傲慢になることはない。紫雲と桃華ちゃんがいるから非合理的な手段を取ることもない。それでいて…黄慈さん、金一さん、雪ちゃん、朱祢ちゃんがいるから人の気持ちをないがしろにすることもない。ブラウンと虎羽がいるから感情だけで善悪を判断することもない。みどりちゃんがいるから、退屈することもない。…そして…そんなおれ達をことみさんと麗さんが支えてくれるから、『ヒーロー』として折れることもない…!!」

藍「……………」

銀河「…藍さんが理想とする世界は……おれ達が、全員揃ったら叶いませんか?」

藍「…………だとしても……実現しなければ、意味がないわ…! 力を持ってるわたくし達は、強者としての責任があるのよ。低すぎる可能性に、世界の命運を預けることなんてできませんわ…!」


藍は全員に言い放つ


藍「…弱者が犠牲になるところを見たくないだとか、正しいだけの理想を追い求め続けるだとか……現実は、そんな願いだけで変わるほど甘くないのよ!」

麗(……藍さん…………)

紫雲(…やっぱり説得は無理か……どうするんだ…銀河…)

銀河「……………」

藍「………………」

銀河「……やっぱり…藍さんの正義を曲げることはできないか……」

「「!!」」

ことみ「っ…!…銀河くん……」


思わず声を漏らすことみ。


藍「……………」


視線を落とす藍。

その一瞬だけ見せた、哀しみに溢れた表情…

星乃藍としてさらけ出せた僅かな隙……


銀河(…そう…おれもずっと気づくことが出来なかった……でも、本当の藍さんは…あの時も…あの時も……)


金一、みどり、朱祢、紫雲、雪、黄慈、ブラウン、虎羽、銀河、桃華、ことみ、麗……

それぞれが説得しに行った時にも、一瞬だけ見せたあの表情…


銀河(…ずっと、孤独だった……それでいて、おれ達と同じ気持ちでいてくれたんだ…! もう微塵も迷いはしない!!)


一歩前に踏み出す。

決意が行動となって現れたように…


銀河「…藍さんは、自分の正義を曲げられないからこそ…ここで道を違えても、おれの正義に協力してくれる…」

藍「…!」

銀河「…だから…藍さんは、バラレンジャーにいなくたって『理想の可能性』を追うことはできる…でも、おれは嫌だった」

ことみ「…!」


少し呆れたようにふっと笑う銀河


銀河「…これまで何回、タイムリープして藍さんを説得したと思います?」

藍「………さぁね……」

銀河「…50回くらいまではなんとなく数えてたんですけどね…もう数えきれなくなりましたよ…」

藍「……………」

銀河「…頑固だし…何考えてるかよく分からねぇし…プライドも高いし…ほんと…めんどくさい人ですよ…」


むっとする藍


藍「何が言いたいのよ…!」

銀河「…それでも…!藍さんと一緒にいたいってことです!」

藍「…!!」

銀河「未来に必要なくたって!どんだけめんどくさくたって!!おれ達、全員…!!藍さんにいてほしいんですよ!!!!」

藍「!!!」

麗「そうですよっ!!」

銀河「強者としての在り方なんて関係ねぇ!!バラレンジャーの仲間として、おれ達と一緒に…来てほしい!!」


バッ!と、手を差し出す


銀河「…仲間を信じてくれ……

一緒に、手を取り合っていける『ヒーロー』になってくれ…!!」

藍「………………」


複雑そうな表情を浮かべて迷う藍


みどり(ほれほれ)


肘で朱祢をつつくみどり


朱祢「…!…コホン………藍さん…」

藍「!」

朱祢「私も、藍さんと一緒がいいです……同じ力を持った、数少ない仲間なんですから…」

みどり「そうそう! 藍ちゃんがいないとつまんないよ」

黄慈「…みんな、藍さんのことが好きなんだ。他の誰でもない、星乃藍さんをね」

藍「…!」

雪「…また一緒に、お買い物に行きたいです……離れ離れになっちゃうのなんて…嫌ですっ…!」

金一「うん…またお出かけしようよ…! バラレンジャー全員でさ!」

藍「…………」

紫雲「…藍さんは確かに、頑固でプライドが高くて面倒くさい性格の人かもしれません。でも、それだけ自信と気品に満ちていて、堂々と手を差し伸べられる優しさがある。…鋭い観察眼と、細やかな気づかいのできる藍さん以外に…誰が俺達のこと、支えられるって言うんですか」

桃華「その通りです。藍様がいれば、『理想』の世界へ到達する『可能性』が大幅に上昇します。…藍様のその優しさ…気づかいが、世界を変える力になるのです」

ブラウン「オレだって、その優しさに救われた…。オレ達には…藍さんが必要だ…!」

虎羽「えぇ。これからも、ボク達の傍で見守っていてください」

藍「…貴方たち………」

ことみ「…みんな…藍さんのことを信じてます……藍さんがいれば、必ず…『理想の世界』をつくれるって…」

藍「……………」

ことみ「……コホン…」


皆と目配せをすることみ


ことみ「いつものように…教えてくれませんか?」

藍「…え…?」

ことみ「世界を導くために、手を取り合っていける仲間は誰か…」

銀河「優しくて気高い、緑の薔薇が似合う『ヒーロー』は誰なのか…!?」

紫雲「誰なんです!?」 金一「誰だー!?」 みどり「だれなんだ~!?」


期待の眼差しが、藍を包み込む…


藍「っ~~~!!  そんなの決まっているでしょう!?バラレンジャー、グリーンローズの星乃藍様よ!!」

「「おぉおおおっ!!!!!」」


オーッホッホッホ!と、高らかに笑う藍


銀河「っ!!! 藍さん!!!」

藍「…勘違いしないでくださる…!? どうせ、わたくしがいなくても、貴方たちは止まらないでしょうから………それなら、少しでも『理想の可能性』が高くなるように、わたくしが協力した方が正しいと思っただけよ!!」


銀河はふっと口角を上げた。


銀河「…それでもいい……絶対、後悔させませんから…!!」

藍「…ふんっ」


固い握手を交わす二人


みどり「も~ 藍ちゃんはツンデレだね~」


肘でつついて茶化すみどり


藍「お黙りなさい!」

麗「びぇぇえええっ!藍さ~~ん!!!よがっだですぅぅうううっ!!!」

藍「ちょっ!麗!?」


抱き着く麗


金一「はぁー、よかったぁ…」

黄慈「一時はどうなるかと、ひやひやしたね」


ほっと胸をなでおろす他メンバーたち


ことみ「さぁっ!これでバラレンジャーが全員揃ったことだし!明後日、どう動くのかの作戦を決めておきましょう!」

「「おう!」」 「「はい!」」

ことみ「題して…世界を変える、バラレンジャー大作戦よ!!」

「「おぉーーーっ!!!」」

藍「作戦名がダサすぎよ!!」




一狼「…ふぅーー…………」


大きく息を吐き、事務所の壁から離れる。

事務所の中では、ときおり笑い声を交えながら、「クラウン落下阻止作戦」の作戦会議が続いていた。


一狼……よかった…………


薄暗くなった空を見上げる


一狼(……お嬢はようやく……『ヒーロー』になったのかもしれないな………)


そこには、煌々と煌めく一番星が、空に浮かんでいた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ