表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
King Colours  作者: TEAM,IDR
30/60

第二十九話「なんだか…王子様みたいですねっ…!」

第二十九話 「なんだか…王子様みたいですねっ…!」

(主人公 ホワイト4)


 今回のお話は一人の女性の相談に乗る話。その女性とは誰なのか、相談とはなんの話なのか、順を追って説明しよう。


*


 梅雨の季節。あれは雨がよく降る一日だった。ぼくは夕食を買いにコンビニへと行く途中だった。その日は近所のコンビニではなく、少し離れたコンビニまで行こうとしていた。理由は二つ。

 一つは、そのコンビニには近所のコンビニとは品揃えが違うから。そこでしか売っていない唐揚げが食べたかったからだ。

 もう一つは、雨に浮かれていたからだ。雨の日に出歩く人は少ない。あの日みたいにザーザーと振っていれば、散歩で歩いている人なんていない。そんな、自分一人だけになったかのような雨音だけの静寂な世界に浸るのが好きなんだ。雨音は心の寂しさまでも洗い流してくれるような気がして好きだ。


 まぁ、ぼくの出歩く理由はどうでもよくて(笑)、そんな雨の日に出歩いていた時のこと。遠くから人の声が聞こえた。不良のたまり場が近かったから、その類いかと思ったが楽しんでいる様子ではなかった。気になったので、声の聞こえる方へと歩いてみると、蒸気が強風に吹かれているのが見えた。あの時は何事かと思ったね。

 近づいてみたら、なんと虎羽君とブラウン君じゃないか!しかも、只ならぬ様子で今にもやり合おうとしていたから慌てて止めたよ。

 なぜそんなことになっていたかと言うと、とある女性にちょっかいを出していた男たちを懲らしめているブラウン君を見た虎羽君がやりすぎだと怒っていたということだった。その女性こそが本題の女性だ。名前は皆倶かいぐ れいさん。ここからは皆具さんと呼ぶ。

 虎羽君もブラウン君も自分の想いが強い二人だ。状況の説明はその場にいた虎羽君にしてもらったけど、ブラウン君も虎羽君も自分の考えと感情を入れずにありのままを説明することは難しいだろうから、虎羽君の説明はほどほどに聞いてとりあえず事務所に戻らせた。そして、皆具さんを家まで送るついでに詳しく聞くことにした。



黄慈「まず、皆倶さんが男たちに何をされていたのか聞いていいかい?」

皆倶「……………」

黄慈「言いにくいかな?」

皆倶「…………」

黄慈「無理もないよね…。あんなショッキングな光景を見せられたら…。あの金色のヒーローとは知り合いかい?」

皆倶「いいえ…。初めて会いました…。」

黄慈「銀色のヒーローは?」

皆倶「そちらの方も初めてお会いしました…。」

黄慈「ふぅん…。金色ヒーローが深く立ち入ってしまうほどのことを君はされていたんだろうね…」

皆倶「……はい………」


 ぼくが着いた時に皆具さんをいじめていたとされる男たちはいなかった。虎羽君の話によれば五人いたそうだが、わずかな血痕しか確認できなかった。断定はできないが、虎羽君があそこまでしたのだから恐らくブラウン君は本当に死傷させたのだろう。

 この時はまだ半信半疑な所もあったが、後日ブラウン君と雪ちゃんと水族館に行った時。ブラウン君が海岸で話していた(……オレは……家族のことが好きだからこそ…今の自分を見せることができない…。詳しくは言えないが…オレが正義を貫く限り……いや…オレの考えを貫くと決めた時から…オレにはもう会う資格がないんです。)という言葉を思い出し、あれは本当だったのだと確信した。大好きな家族に見せられないブラウン君の正義というのはこのことなのだろうとなんとなく察しはついた。

 なぜブラウン君がそんなことをするのか。その理由は皆倶さんの気持ちを知ることで初めて見えた…。


皆倶「あの…わたし…大丈夫でしょうか…?わたしがやってないとしても、もしあの人たちが、わたしのせいにしたら…わたし…もっとひどいことされるんじゃ……!!」

黄慈「!!!」


 確かにそうだよね…。ぼくがいじめられていたのは小学生までだったし、ぼくはいじめっ子に反抗したらもっと酷くなるかもなんて考えなかったなぁ…。そこまで頭が回るほど賢くなかったのかもしれないけど。

 いじめをしてしまうような人なら、どんな理由でも逆恨みをしてくるなんて考えられる。だから、尚更やり返すことなんてできない。もし、やり返すなら更にやり返されないようにするしか…。

 そこまで考えてようやくブラウン君の真意に気付いた。彼は、それを分かっているからこそ、絶対にやり返さないように懲らしめていたのではないだろうか?それなら、彼の普段のイメージと結びつく。


黄慈「…それは大丈夫だと思うよ。」

皆倶「えっ…?」

黄慈「金色のヒーローがたっぷりと懲らしめてくれたんだろ?その男たちはまた、あんなことされたらたまったもんじゃない!って思ってもう二度と君に近づかないと思うよ。」

皆倶「………そうでしょうか……」

黄慈「大丈夫だよ!きっとあの金色のヒーローがなんとかしてくれる!それに、これも何かの縁だ。あの金色のヒーローも銀色のヒーローも、そしてぼくも、バラレジャーっていうこの街のヒーローなんだ!何かあれば、いつでも連絡して。必ず助けに行くから。」


 ぼくはそう声を掛け、彼女を安心させようとした。そして、事務所の場所や連絡先の書かれた名刺も渡しておいた。そのあとも、世間話を挟みつつ、彼女が安心できるように声を掛けながら家まで送った。


*


 さて、長々と彼女との出会いを語ってしまったが本題はここからだ。そんな彼女と道端で偶然会ったんだ。あれから一月ひとつきくらい経っていたので当然かもしれないが変わりように驚いてしまった。

 こう言ってしまうと悪いが、会った時は長い前髪で顔を隠すようにしており髪も全体的にボサボサで服装にも関心が無さそうな根暗な感じがしていた。だが、その時は前髪は綺麗に整い、艶のある長い髪を一つに束ねており、ウォーキングに励んでいた。ぼくに気づいた時には軽く微笑み会釈をした。その表情も以前からは考えられないほど清々しく明るいものだった。

 そのあまりもの変わりように驚いてしまい、数秒経ってから気づき、運動中の彼女にずかずかと近寄って話しかけてしまったよ。


黄慈「どうも…!…皆倶さんですよね…?いや失礼、あまりにも以前と…その…変わっていらしたもので、気が付きませんでしたよ。」

皆倶「あはは…そうですよね。自分でも変わったと思います。これはゴールドローズさんのおかげなんです。」

黄慈「ほう…というと?」

皆倶「ゴールドローズさんのおかげで、あれからいじめられることがなくなりました。あと、実はストーカーにも遭っていたんですが、それも解決してもらえたんです。」


 彼女は心底から安堵したような表情で語った。ブラウン君がそこまでしていたことに驚いた。どうやったのかはさておき、他のメンバーには話していないだろうから、ぼくも初耳だった。彼はヒーロー活動の他にも人助けを、彼なりのやり方でしていたんだな。


黄慈「それはとても良かった!皆倶さんが安心して暮らせているようでぼくも安心しましたよ。」

皆倶「はいっ…!」

黄慈「すみません、引き留めてしまって。ところで今は…学校終わりですか?」


 彼女は名前の入ったジャージで歩いていた。それを見て部活の途中なのかとも考え、気になったので質問した。


皆倶「あっ…!これは…運動着が他になくて着ているだけなんです…。」

黄慈「ああ、そうなんですね。……皆倶さんって学生さん?」

皆倶「いえっ!学生じゃないです…。」


 少しバツの悪そうな顔で視線を外したのを見て、しまったと思ったが、ここまで聞いてしまえば後には引けない。それに、やっぱりどうしても聞きたくなってしまったので質問してしまった。


黄慈「お仕事は何かされていらっしゃるんですか?」

皆倶「いえ……実は…無職なんです…」

黄慈「そうでしたか。込み入ったことを聞いてしまい、申し訳ない。」

皆倶「いえ、いいんですっ!……あの…その…少しお話ししたいのですが…いいでしょうか…?」


 彼女は何か悩み事があるようだった。急ぎの用があるわけでもないのでもちろん構わないと答え、公園のベンチへ場所を移した。


皆倶「わたし…小さい時から上手く行かないことが多くて…。気が小さくておどおどしていることも多いから、いつも何かを押し付けられたり、不幸な役回りをさせられることも多くて…いじられたり、いじめられたりもしょっちゅうありました。」

黄慈「うん…」

皆倶「自分って不幸だなって思うことばかりなんですけど…でも、結局は自分が悪いってことも分かってて……。はっきり嫌だって言えれば…この性格を直せれば…こんなことにはならないって分かってて…」


 うんうんと相槌を打ちながら聞いていたが、そこから彼女は涙ぐみ、胸の内をさらけ出すように語った。


皆倶「でも……できなくて……頑張ろうって思ってるのに…全然…できなくてぇ……ぐすっ……頑張ろうって思っていても、嫌なことばかり起こって………うぅ…」


 嫌なことというのは、ストーカーやいじめのことだろうか…。他にもたくさん不幸なこと、彼女にはどうしようもできないことがあったのかもしれない…。

 こらえきれなくなった彼女は、こんなほぼ初対面のおっさんの前にもかかわらず泣き出してしまった。

 話を聞いたり、彼女の態度を見ていても、彼女に非があるとは思えなかった。良い環境に恵まれず、不幸が重なってしまっただけなのかもしれない。さらに、彼女の努力も報われないとなれば嫌でも同情してしまう。ぼくも少し泣きそうになりながらも背中をさすり、落ち着くまで待った。


皆倶「…ありがとうございます…。でも…それを変えてくれたのがゴールドローズさんなんです。ゴールドローズさんは…わたしを助けてくれて…その時初めて、わたしを助けてくれる人もいるんだって思えたんです。」

黄慈「そうか…」

皆倶「それで……その…なんていうか…その時、変われるような気がしたんです。わたしはまだ頑張れるっ、まだやれるって思ったんです。それから、少しずつですけど、自分を変えるようにして…朝起きるようにして…お風呂に入るようにして…ちゃんと服を着て…美容院にも行って…運動もするようになったんです。」

黄慈「う~ん。ゴールドローズ君が君を助けてくれて、変わる勇気が出たんだね?」

皆倶「はい…。大学は途中でやめちゃって、5年近くもダラダラと生活する日々が続いちゃって…。でもっ、今は働きたいって思ってるんですっ!ちゃんと働いて…変わりたいって思ってるんですっ!」

黄慈「そっか…。ゴールドローズ君との出会いがきっかけで変わる決意をしたんだね…。」

皆倶「はいっ」

黄慈「…すごいね…。何年間も続けてきた考えや行動を変えるのはとても難しいことだと思う。でも、君は今それをやろうとしているんだね。そして、もう既に美容院に行って身だしなみを整えたり、運動するようになったと…。これってすごいことだよ。」

皆倶「そ、そうですか…?」

黄慈「そうだよ。君はもっと自信を持っていいと思う。必ず変われるよ。仕事も、きっと良い所が見つかるよ。」

皆倶「…!!ありがとうございます。やっぱり、相談して良かったです。あ…そういえばわたし、まだお名前聞いていませんでしたよね…?聞いてもいいですか?」

黄慈「あぁ、ぼくの名前は砂霧 黄慈。」

皆倶「さぎり…おうじ…さん!?おうじっていうお名前なんですか!?」

黄慈「あははは…よく驚かれるよ。もう王子って年でもなくなってきたし。でも、すぐ覚えられるでしょ?」

皆倶「はい…おうじさんて……なんていうか本当の王子様みたいですよねっ…!」

黄慈「えっ…?」

皆倶「だって…今日会うのが二回目なのにわたしの相談に乗ってくれて…助けてくれましたし…初めて会った時も、とても優しくて…その…絵本とかに出てくる王子様みたいだなぁって……」


 「おうじ」という名前に驚かれることはあっても、ぼくのことを王子様だと言ってくれたのはこれで二人目だ。

 そう思った時、なぜかどうしようもなく懐かしい気分になり、同時に誇らしいとも思った。


黄慈「光栄だよ。君の王子様になれて良かった……あっ!ごめんね変なこと言って。王子様だなんて言われるの久しぶりだったから、つい嬉しくなっちゃったよ…!」

皆倶「いえっ…!」


 その後も、趣味や好きなことについていろいろと話してしまい、すっかり暗くなってしまった。ぼくは皆倶さんをまた、前回のように、家まで送った。


皆倶「今日はお話聞いてくださり、ありがとうございました。」

黄慈「いえいえ、ぼくも沢山お話できて楽しかったです。ありがとうございました。」

皆倶「あの……黄慈さんってその……」

黄慈「…?」

皆倶「いえっ!なんでもありませんっ!それではっ失礼しますっ!」

黄慈「うん、また機会があれば」


 彼女は慌てて家の中へ入っていった。何か聞きたいことがあったのだろうか…。



 彼女はお礼を言ってくれたが、お礼を言いたいのはむしろぼくの方だ。若くて綺麗な女の子と話せたことに対してもお礼を言いたいが(笑)…それだけじゃない。今回の件

で気づくことがいくつかあった。

 

 皆倶さんがぼくに話をしてくれたのは、真奈とたっっっくさんおしゃべりして培われた会話スキルのおかげかもしれない。もっと遡れば相手の目を見て話せるようにしてくれたあの日のおかげかもしれない。どちらにせよ、真奈のおかげだ。真奈がいてくれたから今のぼくがある。今回の皆倶さんの相談だけじゃなく、ブラウン君、雪ちゃん、桃華ちゃんたちがぼくに相談してくれたのも真奈のおかげなんだと思う。

 そして、真奈から貰ったものをぼくが使っていたんだと思うと真奈が傍にいてくれるみたいで嬉しくなる。真奈がくれたものは今のぼくに残り続けていると気づかせてくれた出来事だった。


 それに、王子様だなんて言われたのは久しぶりだった。そして、それを聞いた時に誇らしいと感じたことはぼくにとって大きな気づきだった。「おうじ」という名前に誇らしいという感情が一緒になっていたなんて、この時初めて気が付いた。

 この誇りは忘れてはいけないね。絵本に出てくるような、かっこよくて皆を助けてくれる王子様になれるように生きていきたいと思ったよ。この生き方なら、いつでも真奈がぼくにくれた言葉を思い出せて頑張れると思った。過去に執着し続けているだけなのかもしれないけれど、今はもうぼくのことを王子様と言ってくれる人ができた。真奈のためだけじゃなく、これからの人にそう呼んでもらえるように生きていくのも悪くないだろうなと思えてきたよ。

 未来に続く、ぼくだけの『世界』が見えてきたよ…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ