第二十七話「あなたはあたしのヒーローよ…」(ホワイト4)
第二十七話 「あなたはあたしのヒーローよ…」
(主人公 ホワイト4)
真奈と会えなくなってから、一ヶ月も経たない頃――
一人で大学へ向かい、講義室に入ろうとしたときだった。
「あっ、黄慈く~ん!」
不意に、後ろから声をかけられる。
振り向くと、同じ学部の女子が駆け寄ってきた。
「次の講義、一緒でしょ?隣、座ってもいい?」
黄慈「えっ……でも……」
「いいでしょ~?だって、もう彼女とは別れたんでしょ?」
黄慈「……は……?」
「えっ、もう噂になってるよ?真奈ちゃんとは別れたって……」
黄慈「それ、誰が言ったんだ…!」
肩を掴み、問い詰める
「えっ、えっ…だって…真奈ちゃんが別れたって言い広めたみたいだけど……」
黄慈「…!!」
ショックで言葉が出ない
黄慈「…………………」
「…あっ…もしかして……黄慈くん、フラれちゃった……?…元気出してよ~、またいい子が見つかるって…」
黄慈「…ごめん、今日は休む」
「えっ!?あ、ちょっと…!」
呼び止める声も無視し、ズンズンと歩き、学校を出る
黄慈(…一体なんなんだ…!!…突然、連絡も取れなくなって…家にも上がらせてもらえなくて…その上、勝手に別れたなんて………くそっ!もう無理やりにでも家に上がり込んで…)
ピリリリッ!
黄慈「…!」
携帯が鳴る。
画面を見ると、真奈の家からだった
黄慈「…はい、もしもし……」
「…………………」
黄慈「……?……おばさん……?」
「……………黄慈くん………」
黄慈「……あの…どうしたんですか?」
重い沈黙。
一秒ごとに、嫌な予感が膨らんでいく。
黄慈「……え………話……?…………病院って…………っ!!!!まさか……!」
*
病院に入るとエントランスに真奈の母親が立っていた
黄慈「どういうことなんですか!?真奈は…無事なんですか!?」
「………ごめんなさい……真奈には話すなって言われてたんだけど……もう私……限界で……」
ぽろぽろと、涙がこぼれ落ちる。
黄慈「!!…と、とりあえず落ち着いてください…!」
*
場所を移動し、車内で話すことにした
黄慈「…一体、どういうことなのか…説明してくれませんか…?」
「…えぇ……実は……小さい頃から病気だったの…。先天性の代謝異常で…余命は10年前後と言われてたわ……」
黄慈「…!!!!!」
車内は一気に、重い空気に包まれる
「…でも…黄慈くんと出会ってからは、毎日が楽しそうで…お医者さんもびっくりするほど長生きしてくれたわ……。…でも……もう限界で……もう自力で立つのも難しいくらいになっちゃって………」
再び、涙があふれる。
車内に、嗚咽が静かに響く。
「黄慈くんには、もう迷惑かけられないって……あの子、もう二度と会わないつもりでいたわ……でも……私にはどうしても耐えられなかったの………!…ぐすっ……間違いなく、あの子が幸せだったのは黄慈くんが傍にいてくれたから……だからお願い……最期まで…真奈の傍にいてあげて…………お願い…………」
急すぎる別れの宣告だった
黄慈「…………………………」
ゆっくりと、息を吐く。
黄慈「………………真奈は……あとどれくらい生きられそうなんですか……………」
「ぐすっ………分からない………でも…黄慈くんが傍にいてくれたら…また…少しは伸びるかも…………」
黄慈「…………なら…決まっています……」
視線を合わせ、真っすぐ答える
黄慈「ずっと、真奈の傍にいます」
「…!!…ありがとう………ありがとう…黄慈くん………」
*
ガラッ…!
病室のドアを開ける
真奈「…!」
黄慈「真奈…!!」
駆け寄り、手を握る
黄慈「っ!!!!!」
真奈「あは………来ちゃったんだ…………絶対言わないでって……言ったのに………」
握ったその手は細く、少し力を入れれば、壊れてしまいそうだった……
黄慈「ま……真奈…………」
真奈「……こんな姿………見られたくなかった………」
黄慈「っ!!」
大粒の涙が、布団を濡らす
黄慈「……………」
真奈「…うぅっ………うぅ……………っ!!?」
ぼくは……
真奈を優しく抱きしめた
黄慈「…それでもぼくは…会えない時の方が辛かった………」
真奈「っ!!……うっ……うわぁぁあああああああん……!!!!」
どうしてあの時から…違和感に気づけなかったのだろう……
そうすればもっと早く……こうしてあげられたのに………
ぼくらはしばらく、泣き続けた……
*
手をそっと握り、寄り添うようにベッドへ腰を下ろす。
黄慈「………ぼく……真奈のことが好きだ……」
真奈「え!?何急に……」
黄慈「………何度も何度も考えたけど、君なしの人生は想像できない……想像したくない………君はぼくの……全てなんだ………」
真奈「……………………」
コツン…
と、頭を肩に乗せる真奈
真奈「…ねぇ…初めて会った時のこと覚えてる?…あなたが他の男の子3人にいじめられてるところを止めに入ったことあったでしょ?」
黄慈「……覚えてるよ………忘れないよ、あの日のことは…」
真奈「………あたし、あの時にはもう長く生きられないって知ってたんだ。だから、後悔しないように生きなきゃって思って…。がむしゃらに…半分ヤケクソになってて…。だからあなたを見たときに一切ためらわず助けようとしたの…。でも、あたしには何もできなくて……実はあの時…とても絶望していたの…。ああ…あたしは何もできずに死んでいくんだ…って……」
黄慈「…………」
真奈「あたしの世界は真っ暗だった。希望なんて、何も無かった……。…でも、あなたが助けてくれた……ありがとうと言ってくれた……
それだけであたしは…救われたの……。あたしの世界は明るくなったの。こんな世界でも、いいことがあるんだなって…思えたの……」
「……たすけてくれて、ありがとう…」
あの時、ふいに出た言葉。
励ましたいと思ったから出た言葉だったけど…それは紛れもない事実だった。
黄慈「……あの時、救ってくれたのは君の方だよ…。君がいなければぼくは…自分に価値がないと思い込んだままだった……ずっとやり返せずにいたと思う……」
碧い瞳で、真奈をじっと見つめる
黄慈「…この眼のことを好きだと言ってくれたのも、君が初めてだった……君の代わりなんていないんだよ…!ぼくは…むぐっ!?」
真奈は、人差し指でそっと口を塞いだ
真奈「…それ以上は………言わないで……………」
黄慈「…………………」
分かってる。
ぼくを遠ざけようとしているのも。
…でも………それでも………
*
真奈「…プレゼント…?」
黄慈「…あぁ……おばさんにも許可はもらったよ…」
真奈「おかあさんに…?どういうこと…?」
ぼくは真奈の左側にそっと膝まづき、小さな箱を開けた
真奈「っ!!!!!」
黄慈「…真奈。…ぼくと、結婚してほしい……」
真奈「…………………」
真奈は一瞬驚くと、すぐに表情を曇らせ、そっぽを向いてしまった
ぼくは構わず、そっと左手を取り、指輪をはめようとした
真奈「…! 離してっ…!!」
弱々しく振り払われる腕。
黄慈「……ぼくは本気だ………」
真奈「…ダメだよ……そんなの………」
震える声。
真奈「…結婚なんてしても、もう何年生きられるのかもわからないんだよ…?」
黄慈「…関係ないよ。……残りの時間が何日だろうとぼくは君を一生愛すよ……」
真奈「………もったいないよ…あたし、子どもも産めないし、黄慈くんにバツがついたら…」
黄慈「もったいなくなんかない!君がぼくの全てなんだ…!」
真奈「ダメだよ…!…あたしなんかじゃ…あたしなんかよりもいい人なんていっぱいいるよ!」
黄慈「そんなことない!」
真奈「そんなことあるよ!!!」
部屋に響く、叫び。
今までで一番大きな声だった。
真奈「……あたし…ダメな女なんだよ……うぅ…あたしが黄慈君とずっと一緒に居たのは他の女の子に取られたくなかったから…独り占めにしたんだよ…?もう長く生きられないって知っておきながら…独り占めしたんだぁ…!!…ぐすっ…それだけじゃない…えっちなこと、ほとんどさせなかったのも…体を見られたくなかったからなの……」
黄慈「……………」
真奈は震える手でボタンに触れる。
露わになったその体は、痛々しいほどに痩せ細っていた。
真奈「ほら……嫌でしょ?……浮き出た肋骨に…しぼんだおっぱいなんて…何にも興奮しないでしょ…?」
黄慈「……………………」
ゆっくりと、服が戻される。
真奈「…卑怯だよね……あんなに一緒にいたのに、ずっと黙ってたなんて……。…全部…あたしの我が儘なの……!…一緒に居たい…それだけのために黄慈君を、…巻き込んだだけなの…!!……うぅ……ああああぁぁ………!!」
子どものように、泣き崩れる。
――その瞬間。
ぼくは、強く抱きしめていた。
黄慈「我が儘なんかじゃない。卑怯なんかじゃない。ぼくはそんな風に思ったことなんて一度だってない。今の話を聞いたとしても…!
君といる時間が何よりも大切なんだ!ぼくだって君と一緒にいたいんだ!君じゃなきゃ、駄目なんだ!!」
真奈「…ぐすっ…うぅぅ……うわあぁぁぁあああ…!!」
真奈は今までこらえていた様々な感情を吐き出すように泣いた。
その間ぼくはずっと、真奈の体を抱きしめていた。
*
真奈「…ぐすっ………ひぐっ…………」
しばらくして、呼吸が落ち着いてきた頃――
ぼくは、もう一度、真奈の目を見た。
黄慈「……真奈。」
真奈「………なに………?」
黄慈「……今でもぼくは……君の王子様かな?」
真奈「…っ!!」
「なんだか、ほんとうの王子さまみたいだねっ…!」
真奈「…………あの時からずっと………あなたはあたしの…王子様よ………」
潤んだ瞳で答える真奈
黄慈「……なら……受け取ってよ……」
スッ…と指輪を薬指にはめる。
黄慈「…ぼくだけのお姫様になってください……」
真奈「…………はい…………」
そこからまた少し、二人で泣いた…
*
その日から――
ぼくらは、生きた。
恋人としてではなく、夫婦として。
限られた時間を、削るようにではなく積み重ねるように……
*
真奈「わぁっ!なぁに?それ」
黄慈「薔薇の花束だよ……夫婦らしいプレゼントって花束くらいしか思いつかなくって……」
真奈「すごく素敵!…あたし薔薇の花が好きになっちゃった!ありがとう!うれしい!」
黄慈「よかった…!…でも…後で分かったんだけど…見舞いのお花としてはあんまりよくないみたいで…次は別のお花を買ってくるよ」
真奈「…そんなの関係ないわよ…だってこれ、夫婦としてのプレゼントなんでしょ?」
黄慈「…!」
真奈「だったら、あなたの好きなお花を買ってきて…!…その気持ちが、何よりのプレゼントだから…!」
好きな花と言われても、花の種類なんて分からない。
知っている花と言えば、薔薇の花くらいだった…
*
黄慈「真奈。新しい薔薇買ってきたよ。」
真奈「ありがとう…。また、飾ってくれる?」
黄慈「もちろん」
花瓶にそっと差し込む。
その手つきは、いつの間にか慣れたものになっていた。
――けれど。
真奈の体は、日に日に衰えていった。
黄慈「………体の調子はどう?」
真奈「悪くないわ。食事だってちゃんと食べてるし!」
黄慈「そっか…。……ねぇ、何かやりたいこととかない?元気があるうちにやりたいことはやっておいた方がいいんじゃないかって……」
真奈「……そうねぇ……特に思いつかないかも。」
黄慈「そっか…。」
真奈「最近思うの。大切な人がそばにいてくれるって、ものすごく幸せなことなんだって…。もうそれだけで充分なんだって…。最期の時が近づいてきて、ようやく気が付くことができたの…。失いそうにならないと、本当に大切なことには気づかないのかもね…。」
黄慈「……」
真奈「……ごめん、湿っぽくなっちゃった。…あなたは何かやりたいことがあるの?」
黄慈「……結婚式…あげなきゃでしょ?」
真奈「あぁ…そうだったわね……」
黄慈「…実は、もう準備はできてるんだ」
真奈「そうなの?…うれしいわ……」
黄慈「…でも、こういうのっていつにしたらいいのかわからなくて…。特別な日になるから、相談しようかと思って…」
真奈「……そうねぇ…いつがいいかなぁ…。あっ!じゃあクリスマスに式を挙げるっていうのはどう?」
黄慈「クリスマス?いいけど、何か理由があるの?」
真奈「あなたのクリスマスが、毎年特別なものになるでしょ?あたしがいなくても幸せな日になるように!」
黄慈「……………」
真奈「…それに、ホワイトクリスマスになれば素敵でしょ!あなたがあたしだけのサンタさんになって最高の幸せを届けてよ!楽しみにしてるから!」
黄慈「……ふふっ…分かった……いいクリスマスになりそうだ。まだ時間はあるし、楽しみにしててよね!」
*
結婚式では、ぼくなりに考えた“最高の幸せ”を届けられたと思う。
賑やかで……
というより、もはや結婚式というよりは宴会に近かったかもしれない。
友人たちの余興に笑って、たくさん話して、ゲームまでして――
無邪気にはしゃぐ彼女の姿は、どこまでも明るかった。
あんな笑顔を見たのは、いつぶりだっただろう…
……きっと、体には負担だったはずだ。
それでも彼女は、最後まで楽しそうに笑っていた。
*
式のあと。
病院には戻らず、たった一日だけの外泊を選んだ。
ぼくと彼女、二人きりの時間。
そのために人目のつかない場所へと向かった。
そして前々から決めていた“サプライズ”を、実行する…
黄慈「ここまで来れば大丈夫かな。」
真奈「サプライズがあるって言ってたけど何?こんな山奥にまで来て何があるの?」
黄慈「力を貸して!トモちゃん!」
トモ「これは貴様の力だ。許可などいらん。」
真奈「??………!?」
二人の体がゆっくりと浮き上がる。
驚きに目を見開く彼女を、そのまま抱きかかえ、空を飛んだ。
真奈「何コレ!?どうなってるの!?あなたがやってるの!?」
黄慈「そう、ぼくの力だよ。サプライズってのはこれ。君に、ぼくの秘密を知ってもらいたかったんだ。」
山より高く飛び、夜景と星空が一望できる場所へと上昇した。彼女はぼくの手をぎゅっと握り、体を寄せていた。
でも、絶景に目を奪われるうちにだんだんと恐怖心もなくなっていった。
*
黄慈「小学校の頃、ぼくが独り言をよく言ってるっていう噂を聞いたことがある?」
真奈「あるけど、あたしは気にしてなかったわ。実際に見たこともなかったし。」
黄慈「実は生まれた時から守護霊みたいなのがいて、小学校に上がってすぐくらいまでは、ずっとその守護霊と話してたんだ。ぼくの初めての友達だからトモちゃん。ちゃんってついてるけど男だから安心してね!」
真奈「そんなとこ、今は気になんないわよ。……それで?続きは?」
黄慈「ははっ…。それで、その守護霊はぼくにしか見えなくて、ぼくとしか話せないんだ。そのことに気付いて、それがおかしいってことに気付いてからは人前で話すことはやめたんだ。……で、そのトモちゃん……とんでもない力を持っててさ。重力を操れるんだ。だからこうして、浮いてるってわけ。」
真奈「へぇ~その守護霊のトモ…ちゃん…?のおかげでこんな絶景が見られてるってわけね」
黄慈「そう!」
真奈「……ほんと、夢みたい……。もう、どう驚けばいいのか分からないわ……サプライズ大成功ね。」
黄慈「それはよかった!」
こうして、ぼくらはしばらく、夜の街を眺めていた
黄慈「……………あのさ………」
真奈「…うん…?」
黄慈「この力のことなんだけど……一つ、トモちゃんと約束があるんだ…」
真奈「約束…?」
黄慈「……トモちゃんはこの力をくれる代わりに約束をさせたんだ。“お前が大人になった時に、ヒーローになってほしい”って…」
真奈「…ヒーロー?」
黄慈「あぁ……あと、何年かしたら宇宙から沢山の怪獣が来るらしい。……それを倒す役目を、ぼくは背負ってる………」
真奈「そう………それで?…ヒーローになりたくないの?」
黄慈「………………………」
真奈「……あなた…そんなに教師になりたかったの…?」
真奈と一緒に入った大学。それは教師になるための場所だった。
黄慈「………ぼくは………君みたいな夢を持つことはできなかった………でも、君が…!…教師の夢を継いでほしいと言うのならぼくは…………ぼくはなんだって…………」
涙が頬を伝う…
真奈「……………」
それをそっと指で拭う真奈
真奈「…ダメだよ……それは………」
黄慈「……………………」
真奈「…あなたは……あなたの人生を生きなきゃなんだから………………」
黄慈「………でもぼくには……………ぼくの人生には…君さえいれば……他に何もいらなかったんだ………!」
肩を震わせて泣く。
今日が楽しかっただけに、別れを強く意識してしまった。
視界が滲んで、もう何も見れない……
真奈「見て!」
ぐい、と顔を上げられる。
黄慈「………っ!!」
視界に広がったのは――
静かに降り積もる、真っ白な雪。
真奈「…ホワイトクリスマスね………」
黄慈「………あぁ……ぐすっ………そうだね…………」
真奈「………これでより……あなたの記憶の中に、あたしが残るわね……」
黄慈「え……?」
真奈はふふっと微笑み、続ける
真奈「…あたしは、あなたの記憶の中で生き続けるわ……。…でもね……あなたは過去ばかり見ていちゃダメよ…?」
黄慈「……………」
真奈「…その眼……あたしを映すためだけに使っていたんじゃ…もったいないでしょう…?」
黄慈「…………ぼくは………それでも…………」
真奈「ふふっ……頑固な人ね………」
(……あたしも………ずっと見ていて欲しかった………でも………)
真奈「…でもそれじゃ…あなたが不幸のままになっちゃうわ…………あたしのことを想ってくれるのなら……必ず、幸せに生きてね…?」
黄慈「……………………わかった……………」
そう……答えるしかなかった…………
*
真奈が亡くなる直前――
彼女は、ほとんど言葉を発さなくなっていた。
ベッドの上で静かに横たわり、呼吸だけがかすかに動いている。
全身はさらにやせ細り、透き通るように白い肌は――今にも消えてしまいそうだった。
黄慈「……………………」
ぼくは、いつものように隣に座り、そっとその手をさすっていた。
すると真奈が振り絞るように声を出した
真奈「……ねぇ……あの場所に連れて行ってくれない…?」
黄慈「…!!あの場所って!?どこ!?」
真奈「……空をとんで…夜空を見たでしょ…?……あそこへ連れて行って…」
黄慈「………わかった………」
ぼくは無断で病院を抜け出し、真奈を連れてあの日の場所まで飛んで行った。
黄慈「……………………」
真奈を抱く手が震えた。
なんとなく察していた。
もうこれが、最期なんだって……
*
黄慈「真奈、着いたよ…。」
あの時は夜だったが、この時は昼間だった。
どこまでも広がる青い空。柔らかく吹き抜ける風。
真奈「……きれいね……」
黄慈「……そうだね……」
もっと一緒にこの景色を見ていたかった。
もっと他の人生を、ともに歩んでみたかった……
そんな思いがこみ上げてきて、ぼくは涙を堪えきれなかった。
真奈「…泣かないで……あなたにはこれからがあるんだから…」
真奈は細く、体温もほとんど感じられない手で優しく頬を撫でてくれた。
真奈「…あたし…本当に幸せだった…。全部…あなたがいてくれたおかげよ……。」
黄慈「……っうぅ……ぐぅ……うう……」
真奈「最期にあなたに…言っておきたいことがあるの……。あなたは、あたしの人生に現れてくれた…白馬に乗ったおうじ様で……あなたはあたしのヒーローよ…」
黄慈「……うぅっ…うわぁあぁああああああっ!!!!」
真奈「…その力……今度は…他の人のために…使ってあげてね…………」
黄慈「…うう……ぼくは……ぼくは……君だけのヒーローだ…!!……君のために力が使えて…ほんどうによがっだ!!幸せだった!!ずっと!ずっと!!君と出会ったあの日からずっと!!幸せでした…!!!!」
真奈「……ありがとう……死んでもあなただけを…あいしてる……」
黄慈「うわああああああああああああああああ!!!!!!!!」
*
銀河「…………………………」
黄慈「……ぼくはあれから…ヒーローをやる理由を探し続けたよ………でも見つからなかった………」
黄慈は一口、紅茶を飲む
黄慈「……ぼくにとって…彼女以上に大切なことなんて……何一つ無いんだ………。…だから…きっと、銀河くんが言うタイミングで中立の立場をとったのも…ヒーローとしての覚悟なんて…持てなかったからだろうね………」
銀河「………なるほど…………」
…ゴクッ…ゴクッ……ダン!
コーヒーを飲み干し、真剣なトーンで問いかける
銀河「…もし……真奈さんがクラウンの落下地点にいたらどうしますか?」
黄慈「……その時は、必ず助ける。…ぼくにとって、真奈のいる世界こそが正解で…それが正義なんだ………。可能性に懸ける覚悟も無い……見捨てる勇気も持てない………ぼくにとってヒーローなんて……そんなもんなんだよ…………」
銀河「………………」
黄慈「…そんな奴に……『ヒーロー』をする資格なんてないだろう…?」
銀河「…………………」
銀河はじっと、黄慈の目を見つめた。
銀河「…黄慈さん……」
黄慈「…?」
銀河「…正直言うと…おれには、黄慈さんの気持ち…あんま分かんねぇっす……。…自分よりも、ずっと大切な人なんて…おれには想像できません……。
…でも、黄慈さんが、そこまで命の尊さを知っているってんなら……、誰かを見殺しにするなんて覚悟、持てるはずないと思いますけどね。」
黄慈「…!!…………たしかに………そうだね…………」
銀河「……たとえ未来の繁栄を妨げてしまうのだとしても……全ての人の命は平等で、尊い………」
黄慈「…でもぼくは…銀河くんみたいに、信念を持って人々を導くことはできないよ…………」
銀河「…ふっ……はははっ…!」
黄慈「…? どうして笑うんだい…?」
銀河「…だって…おれなんかよりも黄慈さんの方がずっと、誰かを導くなんて役割、向いてるじゃないですか」
黄慈「…………………」
銀河「……おれ、初めて黄慈さんが教師をやってたって知った時、ヒーローじゃなかったら絶対そうだろうなって思ってましたもん…」
黄慈「………………」
銀河「……きっと真奈さんが、同じ進路だったのに止めなかったのは…黄慈さんのそういう所まで、しっかり見てたからなんじゃないですか?」
懐かしい笑顔が、脳裏をよぎる
黄慈(…………そうか……………そうだったのか…………………)
銀河「……その力、活かさなかったら“もったいない”って……真奈さんも言うんじゃないですか?」
黄慈「…!!!!」
あなたならきっと出来る………あたしの代わりに、大勢の人を護ってあげて………
黄慈「……………………銀河くん………」
銀河「…はい?」
黄慈「………君の言う、『可能性』を選んだ場合……ぼくはどうなる…?」
銀河「………………」
黄慈「……どんな道を…進まなければならないんだ……?」
銀河「………おれの能力を使えば、その『可能性』を見せることもできます。…でも…それを見せたら、貴方の覚悟が鈍る。」
黄慈「…!!」
銀河「他人から与えられたもので、満足しないでください…!あんたは……自分の意志で『ヒーロー』にならなくちゃいけない…!!」
黄慈「………………」
強い意志の宿った瞳。
銀河くんの視線に、応えることができない……
ぼくに…『ヒーロー』の資格なんて………
「あなたはあたしの『ヒーロー』よ…」
脳裏に浮かぶ、あの言葉。
…もし……君がいてくれたら、見たかった未来……
(ヒーローとしての役割を終え、教師として共に生きる未来)
それは……
(怪獣に街を襲われ、ほとんどの人類がいなくなった未来。クラウンが落下し、深い悲しみの中で発展していく未来。)
こんな未来じゃない……!!!
君に見せたいと思った未来を…今度は、別の誰かの為に……!
…じゃなきゃ……この力が……
“もったいない”………だろ……?
黄慈「……………………銀河くん。」
銀河「……はい………」
黄慈「………今からでも…遅くないか」
銀河「…!」
黄慈「…今からでも……『ヒーロー』に……なれるか……?」
銀河「…黄慈さん……!なりましょう!!全てを救って、胸を張って『ヒーロー』だと言えるように!!!」
立ち上がり、右手を差し出す
黄慈「…あぁ……分かった……やろう…!!」
黄慈も立ち上がり、その手をしっかりと握る
黄慈「『理想』を叶える、『ヒーロー』に…!」
それは唯一の未来へと向かう薔薇が、また一つ束ねられた瞬間。
そして…
初めて、自らの意志で『ヒーロー』になると決めた瞬間でもあった……




