第十九話「異世界転生した俺は環境を変える力を手に入れた」(ピンク1)
第十九話 「異世界転生した俺は環境を変える力を手に入れた」
(主人公 ピンク1)
ウィーーン!ギュィイイイイ……!
乗り込み式人型兵器『解・填』がホバー移動で駐車場へ滑り込み、静かに停止する。
紫雲「おかえり。新装備の使い心地はどうだった?」
コックピットが開き、桃華が降り立つ。
桃華「今回のヒートソードは、斬撃に加え高熱で対象を溶断できます。従来装備より、斬撃力・突破力ともに向上しています」
紫雲「ほうほう…威力は申し分無さそうだね」
桃華「ただ…戦闘時間に比例して消費電力が増大します。『解・填』はワタシのコアと連動しているため問題ありませんが、紫雲様が目指すバッテリー駆動型となると懸念が残ります」
紫雲「ふむ…なるほどね…」
携帯デバイスを操作し、戦闘ログを確認する。
紫雲「……確かに。この消費量だとバッテリーだけでは不足するね。オンオフ制御を細かくすれば持続時間は伸びるが……いやしかし………」
顎に手を当て、考え込む紫雲
紫雲「…うん、分かった。今回もありがとう!」
桃華「いえ、またいつでもお申し付けください。」
二人は事務所へと戻る。
桃華は姿勢よくソファに腰掛け、待機モードへ。
紫雲はノートパソコンを開き、開発部へデータを転送する。
カタカタ……ッターン。
紫雲「ふぅ…とりあえず、こんなところかな……」
ことみ「お疲れ様。お茶でも飲む?」
紫雲「えぇ、いただきます」
桃華「! ことみ様、ワタシがお淹れ致します…!」
ことみ「あら、ありがと!」
急須に湯を注ぐ音が、静かに響く。
ことみ「それにしても、紫雲くんって本当にすごいわよね~」
紫雲「ははは…なんですか急に?」
ことみ「この前だってみどりちゃんの新しい装備を開発してたし、今も桃華ちゃんの装備を改良してたんでしょ?休んでるところ見たことないわ」
紫雲「えぇ…『解・填』がもう少しで完成しそうなんです。…もし実用化できれば、力に自信がない人でもヒーローになれる。災害時には重機の代わりにもなる。……そうなれば、救える命は確実に増えます」
紫雲、ことみの前へ湯呑が置かれる
ことみ「…紫雲くんは自分のことだけじゃなく、世の中のことまで考えてるわよね…」
紫雲「えぇ…いくら僕が最強の力を持っていたとしても、全ての人を護れるわけではありませんから…。…そんな僕にできることは、より多くの人に“自分を護るための力”を与えられるよう、尽くすことです。」
ことみ「…前から疑問に思ってたんだけど……その大局的な考え方は元からなの?それとも大企業のトップになったから?」
紫雲「ははは…どうなんでしょうね……」
湯呑を持ち上げる。
ズズ……
ほうじ茶の香りが、静かに広がる。
紫雲「…これでも僕は学生時代、かなりの落ちこぼれだったんですよ?」
ことみ「え~!そうなの!?…全くそんな風には見えないけど……」
紫雲「勉強はサボりがちで……特別な才能もない。何より、精神が未熟でした。世界を狭くしか見られない、ただの子どもだった」
ことみ「…それがどうして、ここまで変わっちゃったの?」
紫雲「…知りたいですか?」
ことみ「えぇ!ぜひ!桃華ちゃんも気になるわよね?」
桃華「はい。紫雲様の過去を知ることができれば、より深くお支えできるかもしれません」
紫雲「……分かりました。ただ…少し長い話になりますよ?」
ことみ「大丈夫よ!通報が入らなければ、時間はあるし!」
紫雲「まぁ、お二人は問題ないかもしれませんが…“あっち側の『世界』”の人が退屈じゃないか、少し心配で…」
ことみ「…? どういう意味?」
桃華「……紫雲様は時折、こちらでは理解しきれない表現をなさいますね」
紫雲「ははは……それは、今から話す出来事が関係していてね…まぁ、皆が飽きないよう手短に話します。始まりは俺がトラックに轢かれた時からでした……」
ことみ「いきなり!?え、大丈夫だったの!?」
紫雲「えぇ。結果的には。そこで俺は意識を失って、気が付いたら“神様”と会話してました」
*
紫雲「う……う~ん…はっ!…こ、ここは…!?」
白とも黒ともつかぬ空間。
上下も、距離も、感覚すら曖昧だった。
??「目が覚めたか、少年。」
紫雲「誰だお前?」
声のする方を見ると、輪郭だけが人の形をした“何か”が立っていた。
光とも闇ともつかない、揺らめく存在。
神「私は……神だ。お前はなぜここにいるのか分かるか?」
紫雲「え……」
その問いと同時に、記憶が逆流する。
夜の道路。
パトカーの赤色灯。
焦り。
ポケットの中の盗品。
逃げ出すように飛び出した瞬間――
迫るヘッドライト…
紫雲(……そうか……俺、死んだのか………あーあ…退屈な『世界』から抜け出して、刺激のある別の『世界』に飛び出すつもりだったのに……皮肉だな…………)
神「…思い出したようだな…」
神の声は淡々としていた。慰めも、怒りもない。
神「さて、今のお前には二つの道がある。一つはここに来たことを忘れ、現世へ戻る道。怪我も死も、なかったことにしてやろう。
もう一つは――力を与え、『異世界』へ送る道だ。そこで、わたしの用意した“試練”を乗り越えてもらう……さて…どちらを選ぶ?」
紫雲「い、異世界!?あの、チート能力がもらえてモテモテになれる、あの!?」
神「そうだ。お前の『世界』にある物語のような世界観だと思ってくれて構わない」
紫雲「え、俺どんなチート能力貰えんの!?もしかしてアイテム系?」
神「…お前には雷を操る能力を与える。」
紫雲「雷?雷魔法ってこと?そんだけ?」
神「あぁ、それだけだ。がその破壊力は世界最強。肉体を電子化し、光速移動も可能だ。お前の敵となれる存在は、どの『世界』にも存在しない」
紫雲「へ~……そんだけの力があれば金も稼ぎ放題だよな……よし!いいぜ!俺を異世界に連れてってくれよ!」
神「…話が早い……いいだろう。早速お前を『異世界』へと転送する」
紫雲「…そういや試練があるとか言ってたけど、何のことなんだ?」
神「……いずれ分かる。今のお前に説明しても、意味はない」
紫雲「…? ま、いいや…早くしてくれ!」
次の瞬間、視界が闇に沈んでいく。
音も、感覚も、すべてが遠のく。
やがて、完全な静寂。
神「……異世界転生か……」
人型のオーラは、一冊の本を手にしていた。
紫雲が生前好んで読んでいた、異世界転生ラノベ。
パタン、と本を閉じる。
神「こういう物語を知っている若者は抵抗が少なく、扱いやすい……」
神は、誰もいない空間を見つめる。
神「……さて、今回はどこまで保つかな……」
*
桃華「ここから『異世界』への冒険が始まるのですね」
紫雲「まぁ、そんな所だね」
ことみ「今のところ全然、変わる様子ないけど……というか、昔はそんな感じだったの!?」
紫雲「…あの時は若かったんです…悪ぶりたいだけの陰キャでした…。恥ずかしいのであまり言わないでくださいね。」
ことみ「言わないけど……で!続きは…!?」
紫雲「はい、あの後…俺は『異世界』でカインという女の子に起こされて目が覚めました。」
目を開けると、柔らかな木漏れ日。
覗き込んでいたのは、亜麻色の髪の少女だった。
紫雲「…言葉は通じたんですが、見るからに文化が違いそうな服装をしていたので、とりあえずその女の子について行き、街まで下りました。
その街は大自然に囲まれている街で、そこに住む人たちは狩りや採取をしながら生活をしていました。」
ことみ「へ~…なんだかゲームみたいな世界観だね~」
紫雲「えぇ。僕も全く同じことを思いました。…その街にはギルドもあって、ハンターにはランクがあり、狩れるモンスターも決められていました。」
ことみ「なるほどね。そこで力を使って最強ハンターに成りあがったってわけね!」
紫雲「…いえ、それが……」
*
紫雲「カイン! この花はなんだ? 珍しい形してるけど」
カイン「うん? あぁ、それは“月灯草”。夜になると少し光るの」
紫雲「へぇ……光る花なんてあるのか」
カイン「シウン、目がキラキラしてるよ?」
*
紫雲「この木はなんだ?」
カイン「その木はね~、星型の実をつけるのが特徴なんだ~ ほら!甘いの!」
紫雲「星の実……面白いな」
*
紫雲「カイン、この草は?」
カイン「あっ!触っちゃダメ!その草には毒があるの!」
紫雲「うおっ……危な」
カイン「知らないものは、ちゃんと聞いてからね?」
*
紫雲「このきのこは食べられるやつか?」
カイン「う~ん…毒はないけど…普通食べないかな」
紫雲「じゃあこっちは?」
カイン「それは美味しいやつ!持って帰ろう!」
紫雲「じゃあ、今日の夕飯はそれだな」
カイン「…ふふっ…シウン、なんだか楽しそうだね」
紫雲「…!…あぁ…楽しい」
*
紫雲「…という感じで、力のことなんてすっかり忘れて採取クエストにばかり行っていました。」
ことみ「あははっ、そうだったのね……さては…その女の子と一緒にいる方が楽しくなっちゃったのかなぁ~?」
紫雲「ははっ…それもあったかもしれません…。でも…僕はあの時、初めて外に出たような気がしてたんです。」
ことみ「というと?」
紫雲「例えば学校って、親に言われて行く場所で……先生に管理されて……
世の中から“そうするものだ”って押し付けらるものじゃないですか。…でもその冒険は、自由で…自分の意思で行ってましたから。とても楽しかったんです。外へ行く度に知らない草花を見つけて…知らない動物を見かけて……『世界』ってこんなに広かったんだなって発見がとても新鮮で……まさに、“異世界転生”する前に求めていた刺激そのものだったんです。」
ことみ「ふ~ん…いい経験になったのね…」
桃華(…『自由』とは…冒険……?)
紫雲「…他にも色んな学びがありました…例えば…」
*
ドンッ!と、木の実の入った袋をカウンターに置く紫雲
紫雲「依頼完了だ!精算頼むぜ!」
受付「はい、かしこまりました」
受付は慣れた手つきで天秤に袋を乗せる。
分銅を置き、静かに釣り合いを確認する。
受付「確かに、依頼の量はクリアされていますね!余剰分はどうされますか?」
カイン「持ち帰ります」
受付「かしこまりました……では、こちらが依頼達成料です」
紫雲「持ち帰ってどうするんだ?まさか、あんな酸っぱいのを食うつもりか?」
カイン「ふふっ、そのまま食べると酸っぱいんだけどお砂糖と混ぜて煮詰めると物凄く美味しいジャムになるんだよ!」
紫雲「へ~…そうなのか……」
カイン「シウンにも作り方、教えてあげるねっ!」
紫雲「…俺、料理なんてしたことないけど…」
カイン「えぇ!そうなの!?」
紫雲「うん…バ…母親が作ってくれるし…」
カイン「ダメだよ!ちゃんと手伝わなきゃ!料理って毎日するの大変なんだから!」
紫雲「そ…そうなのか…」
カイン「決めた!シウンには今日から料理を手伝ってもらうから!」
紫雲「あっ、ちょっと!」
カインに手を引かれ、紫雲は半ば引きずられるように走り出した…
*
紫雲「…その後、色んな料理を作らされました。…その時までは料理なんて簡単だろうと思ってたんですが…片付けや準備が意外と大変で…」
ことみ「あははっ、分かるわ~ 特に一人暮らししてると洗い物とか面倒なのよね~」
紫雲「…あの時になってようやく、母親のありがたみが分かりましたよ…」
ことみ「…ってことは紫雲くんは料理もできちゃうってわけ?」
桃華「確かにそうですね。ずっと家政士にお任せしているようでしたが、時間が無いだけだったのですね」
紫雲「いやぁ…それが……使っていた材料は『異世界』のものばっかりで、こっちの『世界』のレシピはほとんど知らないんですよ」
桃華「…! そうだったのですね…」
ことみ「なぁんだ…ちょっともったいないわね…。でも、レシピさえ分かれば出来るでしょ?要領は絶対にいいし!」
紫雲「出来ないことはないでしょうが、今ではもう料理をしている時間なんて取れないほどになってしまいましたからね…。今日も、作ってくれる人に感謝していただきます」
ことみ「はぁ~、紫雲くんは料理を作ってくれる人がいていいわよね~……私なんてコンビニ弁当とカップ麺よ……」
紫雲「それはいけませんね。住所を教えていただければ優秀な家政士を派遣しますが…」
ことみ「えっ!いやいや!そこまでしなくていいから! それよりもほら…話の続き!」
紫雲「そうですか…?…では……」
紫雲の声が、ほんの少しだけ低くなる。
紫雲「最初に転移した世界では狩猟生活が基本だったので、モンスターをその場で解体する、なんてことも日常でした。」
*
ギェーッ!ギェーッ!
罠にかかった小型のモンスターが、土を蹴り上げながら暴れている。
足首に食い込んだ鉄の罠。そこから滲む血。
紫雲「なぁ……ほんとに殺すのか…?」
カイン「うん…早くしないと苦しむ時間が長くなっちゃうよ。」
モンスターは必死に逃れようともがく。
その鳴き声は、耳に刺さるようだった。
紫雲「……やっぱりできねぇよ…!」
槍をカインに押し付ける
カインは静かに紫雲を見る。
カイン「…シウンって元の『世界』でお肉を食べたことないの?」
紫雲「…あるよ……」
カイン「じゃあなんで屠殺できないの?」
紫雲「だって……グロイし……可哀そうじゃんかよ………」
カイン「……私たちはその“可哀想”なことをしなきゃ生きていけないんだよ」
紫雲「…!」
カイン「生きるためには他の動物の命を奪わなければならない…。それは自然の摂理で、残酷だけど誰も逆らえない。だからね、もし命を頂くことになったら…その時は感謝の祈りを捧げるの。“いただきます”ってね。」
紫雲「…………………」
カイン「…今回も私がやってあげる。…私も最初はそうだったから。…でもいつかは、自分で向き合わなきゃダメだよ」
槍を持ち、暴れるモンスターへと狙いを定めるカイン
ザッ……
紫雲「…待ってくれ!」
カイン「…?」
バチィッ!!!!
と、モンスターへと電撃が走り、一瞬で動きが止まる。
焦げた匂いが、かすかに漂った。
紫雲「………………」
カイン「な……何……その力………」
紫雲「……この『世界』に来る時、貰ったんだ………これなら…あんまり苦しまないだろ……多分………」
カイン「…雷が落ちたみたいだったけど……」
紫雲「あぁ…俺は雷を操れるんだ。…多分、俺の『世界』で屠殺する時にも使われてる……だから……俺が居る時は…俺がこれをやる………それでいいかな…?」
カインは、柔らかく微笑んだ。
カイン「うん………シウンは優しい力を持ってるんだね」
紫雲「優しい…?」
カイン「苦しませずに“いただく”なんて、他の力だったらできないんじゃない?」
紫雲「…確かにそうかも…」
カイン「…さっ、暗くならないうちに解体しちゃいましょ!」
紫雲「えっ…俺…そっちもグロくて苦手なんだけど…」
ザクッ!
紫雲「うぇええええっ!!」
*
ことみ「うわぁ…そんなことも経験してたのね……」
紫雲「えぇ…それからは、毎回かかさず、心を込めて“いただきます”と言うようになりました。」
ことみ「…私も見習わないとね……それが当たり前だと思っちゃってたわ…」
紫雲「…カインは…いえ…あの街に住む人たちは、自然を大切にしていました。…まぁ、狩猟生活ですからね。命に対する向き合い方も、自然のバランスの乱れを察知する感覚も、こっちの『世界』とはまるで違う。でも……あの価値観は、今こそ見習うべきだと思うんです」
ことみ「確かにそうね…」
紫雲「人間の活動は、他の生物と比べて圧倒的に自然を汚します。森林面積は減少し、砂漠化は進み、排出ガスは増え続ける。温暖化も、オゾン層の問題も止まらない」
ことみ「そうね…」
紫雲「…僕は、『異世界』で学んだことを無駄にしたくないんです。…カインが好きだった自然を守っていきたい…その想いは今でも胸に残り続けています。」
ことみ「…紫雲くんは環境問題も解決しようとしてるってこと?」
紫雲「はい」
真っ直ぐな眼差し。
ことみ「………!!…………ヒーローをやりつつ、ヒーローギアを開発して人を護って……さらに自然まで守るつもりなの?……どこまでも凄い考えを持ってるのね……」
紫雲「…僕が護ろうとしているのは『世界』そのものですから…」
ことみはその壮大すぎる目標に開いた口が塞がらない
桃華「紫雲様が環境保護までも目的に活動されているとは、存じ上げませんでした」
紫雲「…まぁ言ってないのもあるんだけど…現実的にまだ、そこまで手が回ってないからね。知らないのも当然だよ。」
桃華「…具体的にどのように解決なさるおつもりなのですか?」
紫雲「…………………」
紫雲は、じっと桃華を見る。
紫雲(……これはもっと計画を練ってから言おうと思ってたんだけどな………。銀河…これももしかしたら君の為になるかもしれない。予定を早めて説得してみようかな……
――ズキン。
紫雲「っ…!!」
突然、こめかみを押さえる紫雲
桃華「…!! 紫雲様!どうされましたか!?」
ことみ「ちょっと大丈夫!?」
紫雲(この感覚は……!?……もしや…『世界』の分岐……?……ははっ……なるほど……これは、ちゃんと話さなきゃいけなさそうだ……)「…いや…大丈夫だ……。それより、具体的にどうするかって聞いたよね?」
桃華「え…はい…」
紫雲「…僕はね……その解決に、桃華ちゃんの存在が必要不可欠だと考えているんだ…」
桃華「えっ…!?」
ことみ「そうなの?」
紫雲「えぇ………でも、その前に――僕の“他の夢”も語らせてほしい。『異世界』での出来事を踏まえたうえでの、ね」
紫雲は少し微笑む。
ことみ「まだあるの!?」
紫雲「ありますよ。いくつも……順を追って説明します。まずは、さっきの話の続きから……」
*
俺はその後もしばらく、カインと穏やかに暮らしていた。
植物を採り、罠を見回り、時々、小型のモンスターを狩る。
平和だった。
――だけどある日。
世界の頂点に君臨し、全てのモンスターを統べる存在。
『均衡竜 ― ネメシアス』
その名を耳にした。
森を越え、山を越え、空を覆う巨体。
他のモンスターさえ畏れる絶対的存在。
紫雲(モンスターの頂点か……それを倒せば……英雄になれるかもしれないな…。そうなれば…この力を、みんなに認めてもらえる)
*
紫雲「…その発想自体が、未熟だった。俺は…力に溺れ、調子に乗っていた……。この力があればなんでも出来ると思い込んでいました…」
桃華「ネメシアスは倒せなかったのですか?」
紫雲「いや……空を覆うほどの巨体だったけど、簡単に倒せたよ…」
雷鳴のような一撃。
空を裂く閃光。
均衡竜は、数分ともたずに地に堕ちた。
紫雲「俺はワクワクしてた…。どんな賛辞を浴びるのか。どれだけの報酬が貰えるのか。……でも…」
森が、騒がしかった。
遠くから響く咆哮。
焦げた匂い。
街へ近づくほどに、空気は異様だった。
ことみ「……どうして……?」
紫雲「ネメシアスは“均衡竜”でした。縄張りを管理し、モンスター同士の争いを抑えていた存在です。俺はそれをよく知らないまま倒してしまった。
…そしてその結果、次の王になろうと大型モンスターたちが暴れ出していたんです。」
ことみ「!!」
*
ビリビリィッ!!!!!バァンッ!!!!!!
落雷のような一撃で暴れるモンスターを踏みつぶし、街を駆けまわる
紫雲「カイン!!いたら返事をしてくれ!!カイン!!…っ!!!!!」
そこには――
瓦礫に潰され、上半身だけになったカインの無残な姿があった
紫雲「あ……あぁ………カイン…………どうして……こんなことに…………」
神「お間の無知が招いた結果だ…」
紫雲「っ!!!」
振り返る。
そこにはあの、人型のオーラ。
紫雲「お前……」
神「お前はこの『世界』のことを何も知らない……そして、その力が『世界』にどのような結果をもたらすのかも理解していない…。お前はあまりにも無知で未熟だ…」
紫雲「俺は……俺はただ…褒めてもらいたかっただけなんだよ……!この力をちょっと自慢したかっただけだったんだよ……!!」
神「…そんなくだらない考えが『世界』を壊すこともある。…特別な力とは、存在そのものが異物だ。使うタイミング。見せ方。影響。全てを計算しなければならない」
紫雲「………じゃあ……俺はどうしたらよかったんだよ……!!!」
ズイィ…!と顔を近づける神
神「それはお前が考えろ。 いいか?その力を持つ者は『異世界』でお前ただ一人。世界の均衡を覆す力を持つ以上――“選択を誤ることは絶対に許されない”。
…知らなかった…なんて言い訳は通用しない。」
紫雲「…………くっ………クッソぉおおおおお!!!!!!!」
怒りが、悲しみを飲み込む。
バチィッ!!!!!シュバババババッ!!!!
紫雲は雷となった。
世界中を駆け巡り、目についた大型モンスターを次々と消し飛ばす。
復讐。
八つ当たり。
自己正当化。
すべてが混ざっていた…
*
紫雲「はぁ………はぁ…………」
神「……暴れまわるようなモンスターがいなければあんな悲劇は起きなかった……それがお前の答えか?」
紫雲「………知らねぇよ………でも……どうしても許せなかった……!!!」
紫雲はぐっと拳を握る
神「…お前の元いた『世界』で、食物連鎖の頂点は人間だ。しかし、この『異世界』では大型モンスターたちが頂点に君臨している。…理由がどうであれ、力あるものに蹂躙され、捕食されるのは自然の摂理だと思わないか?」
紫雲「…何が言いたい?お前、俺に力を与えておきながら人間の味方じゃねぇのかよ」
神「お前は、自然の摂理を破壊してまで人間を護りたいのか?…自然と共に生きるのは、あの街の住人が大切にしていた文化…カインが大切にしていた価値観ではなかったか?」
紫雲「………ふざけんな……人間ってのは自分勝手で傲慢なんだよ……。自然を大切になんて綺麗ごとだ。人間の命より大切なものが人間に持てるもんかよ!!」
神「…ほう…それがお前の答えか…。もし、人間よりも上の生物がいれば、お前はその力で根絶やしにし、自然の管理は人間が行っていくべきだと思うんだな?」
紫雲「……なんなんだよお前……俺をどうするつもりだ?」
神「いいや?どうもしないさ。…それがお前の答えだというのなら、証明してみせろ。お前の答えが正しいと…」
ブォオ……
空間に裂け目が出来る
神「…お前にはいくらでもチャンスをやる。まだ続ける気があるのならこの裂け目を通り、『異世界』へと転移するがいい……」
紫雲「…………これを通れば…また別の『異世界』に行くのか?」
神「あぁそうだ」
紫雲「……………」
紫雲は目を閉じ、カインの笑顔を思い出した
紫雲「……俺のせいでカインは死んだ…………なら………責任は取らねーと………じゃなきゃ……頭がどうにかなりそうだ…………」
決意の眼差しを向け、裂け目へと足を踏み出す
神「……今度は違う結果を見せてみろ……」
視界が闇に沈んでいく……




