第十七話「自由を探す旅の始まり」(パープル1)
第十七話 「自由を探す旅の始まり」
(主人公 パープル1)
ピピピピ……
規則正しい電子音が、静かな室内に小さく響いた。
《スリープモード解除。全システム起動……完了》
《外部損傷:なし》
《内部演算処理:正常》
紫雲社会長・四条紫雲の住まう邸宅の一室で、桃華はゆっくりと目を開く。
緑色に淡く発光する瞳が、薄闇の部屋をわずかに照らした。
高級家具が整然と並ぶ室内。
だが、それらは桃華には不要なものだ。
《現在時刻:午前二時〇〇分》
《本日の優先命令を確認……命令:花見会場の場所取り》
《開始時刻:即時》
桃華は直立状態から一歩を踏み出す。
《関節駆動、正常。姿勢制御、安定》
桃華「――活動を開始します」
ガチャ………そっ……
紫雲を起こさないよう、音を立てずに玄関を出る。
*
公園に到着した桃華
≪演算開始。目的:花見に最適な位置の選定≫
≪外部データベース接続……完了≫
≪画像情報抽出。評価値上位データを優先取得≫
ピピピピ……
≪視覚情報スキャン≫
≪桜樹の密度、視界角度、日照予測、動線干渉率を算出≫
≪関連パラメータ統合演算≫
ピピピピ…
≪最適地点を特定。――行動開始≫
*
桃華は桜に囲まれた中央へと歩み、丁寧にブルーシートを広げる。
そして正座のまま、待機。
やがて空が白みはじめる。
「うわっ、俺らより早い人いる…」
「ホントだ……ん?あれ子どもじゃね?」
「えっ……わっ、マジじゃん…」
桃華に近づく男二人
「……えっ…置物?」
「…子どもの人形か…?」
桃華「…ワタシに何か御用でしょうか?」
「「うわぁ!!」」
桃華は小首を傾げる。
「…え……こんな朝早くから場所取り…?」
「一人で?親は…?」
桃華「ワタシは一人で場所取りを命じられました。…生みの親は既にこの世にはおりません」
「「………………」」
男たちは顔を見合わせ、小声で話す
「…なぁ…なんかこの子やばくね…?」
「あぁ…離れた場所、取ろうぜ…」
桃華「……?」
「じゃあ、俺達はこれで…」
「邪魔して悪かったね」
桃華「いえ、邪魔ではありませんでした。」
二人は足早に去っていく。
桃華(……ワタシの受け答え…何か変だったのでしょうか…。先ほどの男性は困惑したような表情をしていました。…ワタシがロボットだから……微動だにしないのは不自然でしょうか………しかし、命令は花見の場所取りのみ。人間らしく振る舞えという命令はありません…このまま待機しましょう…)
*
午前九時。
公園は人で埋まり、桃華に向けられる視線は消えた。
桃華「…………………」
クイ、とわずかに視線を上げる。
ひらり。
桜の花びらが、空から舞い落ちる。
桃華(…人間はこれを見て綺麗だと思うのでしょう…)
ワタシにも、判断はできる。でも――
(…それ以上、何かを感じることはできない…。『自由』を手に入れるためには、きっと感情が必要なのでしょう……この光景を見て、美しさに胸を躍らせなければならないのでしょう……………そんなこと……ワタシに出来る日が来るのでしょうか……)
銀河「で、どこで花見するんだ?」
ことみ「え~っと桃華ちゃんが場所を取ってくれているはずだけど…」
金一「どこかな~?」
演算を続ける桃華の聴覚センサーが、聞き慣れた声を捉える。
金一「…あ!いた!」
桃華「…! 皆さま、こちらです!お待ちしておりました。」
みどり「おぉ~すごい良い場所!」
朱祢「綺麗ね…」
金一「こんな良い所、取るの大変だったんじゃない?」
桃華「人がいない深夜からでしたので場所の確保は容易でした。」
金一「深夜から!?」
桃華「はい。この地点は2000通り以上の『花見に適した場所』のデータを参照し、算出しております。指定座標内において、最良の位置であると判断しました。……いかがでしょうか」
藍「桃華、素晴らしいわ。その忍耐力と知識量…さすがロボットね。わたくしのお屋敷にも一台ほしいくらいだわ」
金一「ロボットとは言え大変だったでしょう?ほんとにありがとね。はい、温かいお茶。」
水筒のお茶が差し出される。
味覚センサーはあるが桃華がそれを口にしてもさほど意味はない。
食事を燃料として消化したとしても効率は極めて低い。
桃華「いえ…ワタシは………。お役に立てたならなによりです。頂きます。」
好意を無下にするわけにもいかず、お茶を飲み込む。
桃華(…博士は何故ワタシに、人間のような機能を付けたのでしょう……。これも『自由』の為に…必要なことなのでしょうか………博士はワタシに、何を望んでいたのでしょうか……)
その思考演算のあいだに――
あれよあれよという間に、金一の弁当が広げられていく。
みどり「ん~!おいしっ♪」
虎羽「ライスボールも凝ってますね、食べていて楽しいです」
金一「あははっ、気合入っちゃってね!」
紫雲「ボリュームも満点ですね」
藍「…家庭的な味付けね…」
金一「あ…藍さんのお口には合いませんでしたか…?」
藍「いいえ……うちのシェフには出せない味だと思っただけよ…おいしいわ」
金一「…! よかった…!」
笑い声が弾ける。
桃華はその光景を、静かに観測していた。
そこへ、大きな袋を抱えたことみが割って入る。
ことみ「みんな!お酒もジュースもあるわよ!じゃんじゃん飲んじゃって~!今日は無礼講よ!」
みどり「は~い、飲む飲むー!」
紫雲「僕も頂こうかな…黄慈さんもいかがです?」
黄慈「若い子に誘われちゃ、断るわけにはいかないね」
みどり「ことみんはビール?藍ちゃんは何飲む~?」
ガサガサと買い物袋を漁るみどり
ことみ「うん!ビールちょうだい!」
藍「そうねぇ…ワイン……いえ清酒はあるのかしら?」
春の陽気と笑い声。
未成年組にはジュースが配られ、桜の下はすっかり宴の空気に包まれていた。
*
しばらくして。
銀河「酒を飲むのもいいけどよ、せっかく皆で集まったんだから色々話さねぇか?」
ことみ「例えば?…恋バナとか~?」
銀河「それもいいけど……まだお互い、ちゃんと知らねぇだろ。なんでヒーローになったのかとか…どうしてこの場所を選んだのかとかさ…」
みどり「え~面接みたいじゃん。つまんなくない?」
銀河「うっ…そうかもしれねぇけど…でも…」
ことみ「どうしてこの場所を選んだのかって…うちみたいな弱小事業所を選んだ理由を聞きたいってわけ?」
酔いが回り始めているコトミ。笑顔で青筋を立てる。
銀河「うわっ!ち、違うって!特に桃華ちゃんのこととかおれ、全然知らねぇし……。なんでロボットがヒーローやってるのかとか、なんでことみさんの所に来たのかとか…」
ことみ「あぁ、そういうこと…」
紫雲「そういえば、皆に詳しいく話したことなかったよね。」
みどり「桃華ちゃんはあたしが拾ってきたんだ~…ねっ!」
桃華「! みどり様…」
みどりは屈託なく笑い、桃華の肩を抱き寄せる。
銀河「拾ってきた?どういうことなんだ?」
黄慈「ぜひ聞かせてほしいな」
みどり「あれは、あたしが入ったばかりの頃~……」
*
ブゥウウウウウン…!!
みどり「ヒーローの仕事ってホワイトでいいな~ これもアンシィがくれた力のおかげだね♪」
アンシィ「少なくとも命の危険は無いンシィね。感謝してクレメンス」
みどり「ありがとね…あたしを救ってくれてっ♪」
バイクは軽やかに街を抜ける。
みどり「はぁ~~…仕事は一瞬で終わるし、パトロールとか言って好きに走り回れるし、最高~♪」
駅の前の信号で止まると人だかりができているのを見つけた
みどり「およ?なんだろあれ?」
ブルゥン、と軽くふかし、脇に停める。
みどり「なんですか?この集まり?」
「あの子、すごいんだよ!人間そっくりなのにロボットなんだってよ!」
「さっき、腕まで取って見せてたんですよ~」
みどり「へ~」
人垣の隙間から、ひょいと覗き込む。
その先にいたのは青髪の少女。
「一体どういう仕掛けなんだ?」
「小さいのにすごいなぁ……」
桃華「…何か、ワタシにお手伝いできることはありますか?」
「今度は脚のパーツを外して見せてよ!」
桃華「はい、かしこまりました。」
カチリ。
迷いなく、脚部ユニットを取り外す。
「「おぉー!」」
パチパチパチ!
「いやぁ、面白いものを見させてもらった。ほら、チップだよ」
桃華「! あ、あの…これは……」
紙幣が押し付けられる。
「よかったらコレ使ってよ、お菓子の空き箱だけどさ!」
桃華「あ、いえ…ワタシはお金を稼ぐためにしているわけでは……」
チャリンチャリン!
空き箱にどんどんと小銭が入れられていく…
桃華の内部ログが微かに点滅する。
《状況分析:娯楽提供》
《目的との乖離:中》
桃華「あの…何か、他にお手伝いできることはありますか?」
みどり「ん~?」
「はいはい!私にも腕が取れるやつ見せてー!」
桃華「…かしこまりました」
また腕を取って見せる桃華
「「おぉー!」」
パチパチ…!
桃華「……………」
《命令:未設定》
《優先行動:不明》
ピピピ……
みどり「さて、ここからは~ 消失マジックのスペシャリスト、みどりちゃんが~…」
桃華「!」
観衆の視線が一斉に集まる。
みどり「さらに凄いパフォーマンスを見せちゃいま~す!」
桃華から腕を借り、ウィンクをして見せる
ズァ……
闇のオーラがふわりと立ち上る。
みどり「今からこの腕を、完全に消して見せま~す!」
「「おぉー!?」」
期待が膨れ上がる。
みどり「ワン・ツー……スリー!」
ぱっ。
腕が消える。
「「おおー!!」」
みどり「そして~……ワン・ツー……スリー!」
再び、ぱっ。
次の瞬間――
桃華の両腕は元通り。
みどり「以上、闇使いマジシャンと、ロボット助手のマジックショーでした!」
パチン、と指を鳴らす。
呆然と立ち尽くしていた桃華が、闇に包まれ――
次の瞬間、みどりの隣に現れる。
桃華「……!!」
「「おおーー!!」」
みどり「ありがとうございました~!」
深々と礼。
桃華も一拍遅れて、同じように頭を下げる。
パチパチパチパチ!!
「なんだ、あの嬢ちゃんもグルだったのか~」
「一本取られたな~!」
歓声と拍手の渦。
空き箱には、あふれんばかりの金銭が詰め込まれていた…
*
みどり「いや~ まさかこんなお小遣い稼ぎもできちゃうなんてね~♪」
人気のない路地へ移動し、地面に座り込んでお金を広げるみどり。
紙幣をひらひらと振って笑う。
桃華「あの…貴方は…」
みどり「あっ、自己紹介がまだだったね。あたし、若竹 みどり。あなたは?」
桃華「ワタシの名前は桃華と言います。」
みどり「………苗字は?」
桃華「苗字はありません。」
みどり「……やっぱり、本当にロボットなの?」
桃華「はい、ワタシはロボットです」
みどり「さっきさ、“お手伝いできることはありませんか?”って言ってたけど。あれ、どういうこと?」
桃華「…ワタシは…『自由』を求めて街へと来ました。…ですがどれほど演算しても、自分の意思による選択というものが定義できませんでした。…ワタシにはどうしても命令が必要なのです……。」
みどり「ふーん……だから誰かに命令してほしくてあんなこと言ってたんだ?」
桃華「はい…」
みどり「で、成り行きで見世物みたいになっちゃったわけね」
桃華「はい………みどり様は、どうしてワタシを連れ出してくださったのですか?あのままでは…ワタシは……」
みどり「…どうしてって…桃華ちゃん、なんだか困ってそうだったから♪」
桃華「困ってそう…?どうしてそのようなことが分かるのです?」
みどり「どうしてって…表情とか雰囲気かな?…まっ、なんとなくっ♪」
桃華「……………」
ピピピピ…
*
桃華「博士は何故、ワタシにこのような機能を付けたのですか?」
博士「ほっほっほ…それは、桃華には感情を露わにしてほしいからじゃよ…」
桃華「感情…?…機械に…道具に、表情や感情が必要なのですか?」
博士「…桃華…君はただの機械じゃない…。自分で考え、選び、迷う――新しい生命体なんじゃよ…」
*
桃華(………この機能はもしかしてこの時のために………)
みどり「…ん?どうかした?」
桃華は、真っ直ぐみどりを見る。
桃華「…みどり様はすごいです…!…よろしければ!ワタシに命令してくださいませんか!?」
口角を上げ、抑揚をつけて喋る
《表情設定:好印象》
みどり「えっ!?」
桃華「雰囲気で他者の状態を読み取り、感情を判断する…。それが出来るみどり様なら『感情』とは何かを理解しているはずです!…そんなみどり様の近くにいればワタシは、目的を達成することが出来るかもしれません……」
みどり「ふーん…面白そうだから命令するのは全然いいけど…桃華ちゃんの目的って?」
桃華「はい、ワタシを作ってくださった博士の最期の命令…『自由に生きる』を、なんとしても達成しなければならないのです…」
みどり「あぁ…さっきも『自由』を求めて街に来たって言ってたもんね」
桃華「はい。博士の発言を解析した結果、『自由』と『感情』には相関関係があると推測しました。したがって、まずは『感情』の本質を学習する必要があると判断しました。
その指導者として、みどり様が最適であると結論づけました」
みどり「なるほどね~ そういうことなら『自由を愛する旅人』こと、みどりちゃんに頼ったのは大正解ねっ♪」
桃華「…! それでは…!」
みどり「……うん、命令しちゃおっかな♪いいことも思いついちゃったしぃ~♪」
ぷくく…と笑うみどり
みどり「じゃ、最初の命令♪とりあえずついて来て!」
桃華「かしこまりました…!」
ブゥウウウン……!
と、桃華をバイクに乗せ、走り去る
*
みどり「…ってな感じであたしが拾ってきたんだよね~」
紫雲(桃華ちゃんは感情を学ぶつもりだったんだ…!そこまでは知らなかったよ…)
銀河(あぁ…いいことを聞けたぜ…!こりゃ…協力しないわけにはいかねぇなぁ…!)
目配せをする紫雲と銀河
雪「そうだったんですね…わたしも詳しくは知りませんでした」
藍「自由を手に入れる…ね……それでしたら、みどりは適任ですわね」
みどり「へへ~!そうでしょー!」
ことみ「うーん…桃華ちゃんの求めてる自由ってそういう自由なのかな…もっとこう、違うような……」
朱祢「みどりのは自由というより、“気まぐれ”ね…」
銀河「んで?続きはどうなんだ?まだ、なんでヒーローになったのか分からないぜ」
紫雲「ヒーローとして活動するようになったのは僕の影響もあるかもね」
桃華「はい。現在ワタシが活動できているのは、紫雲様のおかげです」
銀河「どういうことだ?」
紫雲「…みどりちゃんが、桃華ちゃんを連れて来たあの日…実は僕も出勤の日でね…」
*
ブルルルル……
みどり「ただいまーっ!」
ことみ「おかえり…って、その子は…!?」
みどり「身寄りのないロボットなんだって~ 面白そうだから拾ってきちゃった♪」
桃華「初めまして…桃華と言います」
紫雲「初めまして、四条 紫雲です」
ことみ「初めまして、橙坂ことみです……って順応速すぎない!?ロボットって言ってたけど!?」
紫雲「あはは…こういったとんでも展開には慣れてるんです。…それにしても…本当にロボットなの?ぱっと見、人間にしか見えないけど……」
みどり「桃華ちゃん、さっきのやつ見せてあげて」
桃華「かしこまりました」
パカリ、と腕が外れる。
内部に走る精密機構。配線と駆動部が、疑いようもなく“機械”であることを示していた。
「「おぉ~」」
みどり「ねっ!ちゃんとロボットでしょ?」
紫雲「すごいな…まるでSFの『世界』から飛び出してきたみたいだ…」
ことみ「…みどりちゃん、この子拾ったって言ってたけど…これからどうするつもり?」
みどり「ふふ~ん♪この子、あたしに懐いちゃったからなんでも命令聞いてくれるらしいの」
ことみ「えっ!?そうなの…?」
桃華「はい。みどり様の元で『自由』とは何かを知りたいのです」
ことみ「えー……大丈夫かなぁ……」
みどり「そこで、紫雲くんに相談なんだけど~ この子、戦えるように改造してくれない?」
紫雲「え?」
ことみ「改造!?」
みどり「だってさ、この子をあたしの道具として代わりにヒーロー活動させれば、あたし寝てるだけでお金入るってことになるでしょ? 天才的発想だと思わない?」
ことみ「そんなのダメに決まってるでしょ!」
みどり「え~なんでよ~」
ことみ「大体、この子…桃華ちゃんだって、改造されるのなんて嫌でしょう?」
桃華「…それがみどり様のご命令であるのなら、承諾いたします」
ことみ「えぇ………じゃ、じゃあ紫雲くんは!?こんな正体不明のロボットを改造してあげる義理なんて無いわよね?」
紫雲「いえ…僕は今、この子に興味津々です。今すぐにでもラボに持って帰って研究してもらいたい…!こんな完璧な人型ロボットが作れるのなら…技術革新が起こる…!」
ことみ「ちょっと!紫雲くんまでみどりちゃんの悪ふざけに乗らないでよー!…もう…!」
ことみは深く息を吸い、桃華に向き直る。
ことみ「……桃華ちゃん?さっき『自由』を学びたいとか言っていたけどそれはどうして…?」
桃華「…『自由に生きる』…それが、博士の最期の命令なのです…。ワタシに残された使命はもう…それしかないのです…」
ことみ「……………」
みどり「ね?だから、あたしの代わりに魔物を倒してもらうっていう使命を与えてあげるの。いいでしょ?桃華ちゃんだってそれを望んでるんだし」
ことみ「………“代わりに”って言うのはやっぱりダメ。」
みどり「え~~!」
ことみ「でも…みどりちゃんと“一緒に”ということなら認めるわ!」
みどり「え~…なんでよ~、それじゃあたしが楽できないじゃん」
ことみ「みどりちゃんがこの子のことをただの『道具』として扱っていたら、いつまで経っても本当の『自由』なんて手に入れられないでしょ!」
みどり「…むぅ………」
ことみはしゃがみ、桃華と目線を合わせる。
ことみ「桃華ちゃん、もしよかったらここで働いてみない?」
桃華「え…?」
ことみ「人間としての自由を知りたいなら、人間の生活の中に答えがあると思うの。 これも何かの縁だし、機械に強い大企業の会長さんもいるしね…!」
ひらひらと手を振る紫雲
桃華「…ですが……」
ちらりとみどりの顔を見る
みどり「……………………」
みどりはじっと、桃華を見つめていた。
みどり「ねぇ、紫雲くん。」
紫雲「なんだい?」
みどり「この子って機械だと思う?それとも人間だと思う?」
紫雲「…定義にもよりますけど、みどりちゃんのいう“人間”だと、僕は思いますよ」
みどり「…そっかぁ……」
少しの沈黙。
みどり「…よし!なら桃華ちゃんの好きにしていいよ。 ここでヒーローするのもいいし、他の所に行くのもよし!…あたしはてっきり召使いロボットが無料で手に入ったと思ってただけだからさ~」
桃華「みどり様……」
ことみ「…どうする…?…もちろん、ここにいるのは、“自由が見つかるまで”でもいいのよ?」
ピピピピ……ジジッ…
≪感情演算領域に微細なノイズ検出≫
≪現状維持・離脱、複数パターンを高速シミュレーション≫
≪―――これは、合理的判断≫
桃華「…ことみ様」
ことみ「ん?」
桃華「ワタシをここで働かせてくださいませんか?…そして紫雲様、ワタシの持ちうるデータを全て提供いたしますので、ワタシを戦闘可能な肉体へと改造してくださいませんか?」
ことみ「歓迎するわ!」
紫雲「もちろん!むしろこっちからお願いしたいくらいだ!メンテナンスも、エネルギーも全部任せて!」
桃華「ありがとうございます…!」
みどり「あ…メンテナンスのこととか考えてなかった……」(やっぱりあたし、機械でもペット飼うの向いてないかも…)
紫雲「桃華ちゃんの部屋もすぐに用意するよ。行く当てがないなら今日からでも!」
桃華「何から何までありがとうございます…。ですが…紫雲様もことみ様も、どうして見ず知らずのワタシをここまで?」
ことみ「ふふっ、それは私たちが『ヒーロー』だからよ。困っている人がいたら助けるのは当たり前よ!」
紫雲「…うん…。それに君には可能性がある…。人類にとって、新しい『世界』を創れるほどの可能性を……」
みどり「おっ!その顔は、何か美味しいビジネスでも思いついたのかな~?」
紫雲「…まぁ、そんなところですかね…」
みどり「もし成功したら、ご飯でも奢ってよね~♪なんせ、桃華ちゃんはあたしが連れて来たんだから!」
紫雲「えぇ、いくらでも」
*
紫雲「…まぁ、そんなわけで桃華ちゃんは今は家にいて、紫雲社の研究員と一緒に色々やってるんだ。」
黄慈「そうだったんだね。てっきり、僕は紫雲社の新商品なのかと思ってたよ」
金一「僕もそう思ってたよ…だって、桃華ちゃんが出撃の時に乗ってるロボット、紫雲社のロゴが入ってるんだもん」
紫雲「ははは…あれは確かに紫雲社で製造したものですけど、開発したのは桃華ちゃんなんですよ」
「「えぇーっ!」」
紫雲「桃華ちゃんの頭脳は凄いですよ…。既存のデータを使うだけじゃなく、そこから応用…発展まで自立して思考できる…。しかも人間と違って集中力が落ちることも、休むことも無く…。もうとっくに人類の技術を越してしまったかもしれません…」
虎羽「それは大丈夫なんですか?いずれ人類の手に余るような力を手に入れるんじゃ……」
紫雲「…そうなったらその時だね…」
雪「えぇっ!そうなんですか…!?」
紫雲「力をどう使うかは桃華ちゃん次第だ。それが“自由”だろう?」
桃華「…!」
虎羽「…人類に敵対しかねない存在を育て、野放しにするのは法的にどうなんですか…」
紫雲「法なんて無いさ。だって桃華ちゃんが人類史上、初めて自立して考えて行動できるロボットだからね。」
虎羽「…紫雲さんは、桃華ちゃんにロックを掛けたり、制限を与えたりしないんですか?使いやすいように手を加えるのは当然のことだと思いますが。」
みどり「…虎羽くんは、桃華ちゃんに心は宿ってないっていうの?」
虎羽「それはそうじゃないですか?機械なんですから、人間を真似た行動を取るようにプログラミングされているだけだと思いますが…」
紫雲「…まぁ、虎羽くんの考えも分かる。けど、不思議なことに桃華ちゃんの思考のメカニズムは現代科学じゃ分からなかった。…だから、心があるのかというのは証明できない。桃華ちゃんの意思がプログラミングされたものなのか、桃華ちゃん自身から生まれたものなのかもね」
虎羽「…証明できないから『有る』と定義するんですか?」
紫雲「…それは人間も同じじゃないかな?みんな、「心」とか「命」とか言葉にするけど、その定義も曖昧なものだ。人間の中でも心が無い人だっているんだ。機械に心が芽生えたって不思議じゃないだろ?」
虎羽「………………」
ブラウン「ふっ…たしかに…」
ことみ「……桃華ちゃんは、自分の力をどんなふうに使いたいって思ってるの?」
桃華「どんなふうに……」
ことみ「……って、難しいわよね。この質問。まだ『自由』を探す旅は始まったばかりだもんね!色んなことを経験して、ゆっくり答えを探していけばいいわ」
桃華「……………」
紫雲「…桃華ちゃんが人の為に力を使うようになるのか…それは僕たちの関わり方次第かもしれませんね」
みどり「それなら、今日の宴もたくさん楽しんでもらわないとね!」
ことみ「えぇ、そうね!仕事も忘れてパーッといきましょう!!」
「「おーっ!」」
金一「ほらほら、まだ料理も沢山あるから桃華ちゃんもいっぱい食べてね!」
桃華「はい……ありがとうございます……」
差し出された料理を受け取り、そっと口に入れる桃華。
博士……食事ができる機能はこの為にあったのでしょうか……
…ワタシは、この暖かい雰囲気に囲まれて…少しだけ……博士の優しさを思い出しました……
料理が、温かいです。
*
その後も宴は盛り上がり、無事幕を閉じ……るとはならず、バラレンジャーは混沌と化してしまった…!!
金一「みてみて~これすごくない?酒アイス~ ちなみに酒と鮭がかかっている(笑)…」(お酒を魚の形に凍らせ、カップに浮かべる金一)
みどり「すご~!これで飲んだら鱚とキスって感じだねっ!」(←?)
アンシィ「イルカじゃねーか!」
と、くだらない遊びを始める金一とみどり
藍「…女優時代はほんろにたいへんことばっかりでしてねぇ~…こまっらもんれすわ…!」
黄慈「よく頑張ったんだねぇ………えらいなぁ………」(手で顔を隠し涙を流す黄慈)
紫雲「あー…………酒ってうめぇな…」(話聞いてない)
呂律が回らない下戸の藍、泣き上戸の黄慈、知性を失った紫雲
ことみ「虎羽くん!?雪ちゃん!?つまみがたんねぇと思わない!?社長命令よ!はやく買ってきなさい!」
虎羽・雪「はい!ただいま!」
ことみ「んーよろしい!……ところで藍ちゃんお酒の飲みすぎでちぢんじゃった~~??」
桃華「ことみ様、ワタシは桃華です。藍様はあちらで2秒ほど前から爆睡状態です。」
と、怒り上戸のコトミ。
銀河「ははっ!桃華ちゃんががっちり絡まれちまった」
朱祢「何このカオス…」
ブラウン「…ふっ…オレも買い出しの手伝いに行ってくるか…」
朱祢「はぁ……さっきまであんなこと話してたのに………こんなんじゃ、人間は見限られて、ロボットに反乱されるわよ?」
ことみ「あぁん!?桃華ちゃんはそんなことしないわよねぇ!?」
桃華「も、もちろんでございます…」
朱祢「ことみ、飲みすぎ」
ことみ「あぁー!」
引き離されるコトミ
ことみ「んも~雪ちゃんひどい~!」
朱祢「はぁ……桃華、お水取ってくれる?」
桃華「はい、ただいま」
水の入ったペットボトルを朱祢に渡す
朱祢「……今日のこと、誤解しないでね。人間はいつもこうじゃないから……」
桃華「分かっております、朱祢様。………これが……皆様の『自由』なんですよね……」
朱祢「…え…?」
桃華「社会的拘束からの解放。本来の自己の表出――これが…自由なのですね!」
朱祢「…違うと思うけど…」
桃華「え…」
銀河「はははっ!まだ、桃華ちゃんに『自由』は難しそうだな!」
桃華「…では…この光景は一体、なんと形容すれば……」
朱祢「『暴走』よ。…責任の伴わない『自由』なんて無いわ…」
桃華「…と言いますと…?」
朱祢「…誰かに命令されれば、その責任は命令した人にある…。けれど、自分で自由に選んだのなら、その結果に対する責任は自分が持たなきゃいけない…ということよ。」
桃華「なるほど……自由にも代償があるのですね………自由とは…中々に奥が深いものですね……」
桃華は桜が舞い散る青空を見上げ、演算する。
博士…ワタシが『自由』を手にするには、まだまだ遠そうです……
けれど――
少しだけ近づけた……
そんな気がするのです……




