第十六話「光を束ねるヒーロー」(ブラウン2)
第十六話 「光を束ねるヒーロー」
(主人公 ブラウン2)
銀河「クソォ!!!くっ…!!!くそくそくそくそぉおおお!!!!!」
空へと向かって叫ぶ銀河
銀河(ダメだ……おれだけの力であれをぶっ壊そうと思ったら…衝撃波で下の街なんて壊滅しちまう……おれ一人じゃダメだ……。…いや…バラレンジャーの内、誰か一人でも反対意見の奴がいたら駄目なんだ…!……全員が揃ってないと、全てを救うなんて…できなかったんだ………)
「ちっくしょぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
*
その叫びは間もなく、クラウンの墜落によってかき消された……
*
バディ“…なぜこうなる前に過去へ戻らなかった”
瓦礫の山を呆然と眺める銀河へと問う
銀河「……おれは…背負わなきゃならない……人々の悲しみを………」
バディ“…………………”
銀河「せめておれだけの中では…なかったことにしちゃいけない……」
バディ“……………………”
銀河「………………………バディ…」
バディ“…なんだ”
銀河「…おれはお前に証明してやりたい。…人は学ぶものだと。進化できるってところを」
バディ“……………”
銀河「…この歴史から、おれは学ぶ。そして、同じことを繰り返さないように進化してみせる。…そうしていつか…未来まで変えられるようになってやる……」
バディ“……銀河。私は人間のことをお前よりもよく知っている。人は学び、進化する…そんなこと、言われずとも心得ている。”
銀河「えっ」
バディ“…はぁ…………銀河。よく聞け。お前がやろうとしていることがどういうことなのか、もう一度よく考えてみるんだ。”
銀河「あ?あぁ……」
バディ“お前はどうなるつもりだ?バラレンジャーへの加入から、クラウン墜落の日までをループし、世界を変えられる可能性を探すつもりなのか?”
銀河「あぁそうだ!おれは絶対に諦めねぇ!」
バディ“…いいか、たとえお前がどれだけ変わろうとも、世界を変え、未来まで救おうと考えるのならば人類全体の価値観が変わらなければならない。なんの影響力も持たない一個人のお前がどれだけ頑張ろうと未来は救えない。”
銀河「…………どんだけおれが気合入れても…やっぱり無理なのかよ……」
バディ“…そうだ。”
銀河「おれは次のタイムリープでバラレンジャー全員を協力させるつもりだ……それでも無理なのか?」
バディ“クラウンの被害をゼロにしたとしても、その先の未来はどうなる?”
銀河「…おれは…それこそ、皆が気合入れてくれればなんとかなると思ってんだ……」
バディ“…楽観的すぎるな……具体性も無さすぎる……”
銀河「…なぁ…バディ……なんとかならないのかよ……おれは……こんな世界…もう二度と見たくねぇんだ………」
バディ“………なら訊こう……。お前の正義とはなんだ?”
銀河「あ?おれの正義?」
バディ“そうだ。お前は何のためにヒーローをやっている。…その薔薇に誓った正義とは、具体的になんだ?”
銀河「……おれは………子どもの頃、全ての人に手を差し伸べるヒーローを見た。…それは子ども向けの番組で…当然リアリティなんてねぇ…。…でも、おれはそんな正義に憧れたんだ。理想にしかすぎねぇけど…全ての人が救われて、笑顔になれる世界があったらいいなって………おれは……そんな世界を目指すために、ヒーローになったんだ。」
バディ“……全ての人をか…………たとえそれが悪人や、人類の繁栄を妨げる存在でもか?”
銀河「あぁ。人を助けるのに理由なんていらねぇ。相手が誰かなんて関係ねぇ。どんな人にでも手を差し伸べる。それがおれの正義だ」
バディ“……なら…“過去へ戻る力”を持つお前の言う、全てとはどこまでの人のことだ?”
銀河「…………………………」
バディ“…お前のその力は、過去の自分へ記憶という情報を送るものだけじゃない。過去へ、肉体ごとワープすることも可能だ……つまり、過去への制限がない。気づいているだろう?”
銀河「………あぁ………お前がくれたこの力…ほんとに何でもありだよな……。…そうだ……おれはその事実から目を逸らそうとしてた。…結局おれだって、全てが救えないことなんて分かってる。あんなのがフィクションだということも………。だからおれは…もっとバカになりたかった………子ども向けのヒーローくらい…シンプルで……ただ全てを救おうとしてるくらい…単純なヒーローでいたかった…………………」
バディ“……諦めるのか?”
銀河「……バカのままじゃなくなったら……諦めるってことしか考えられなくなる………おれはそれが怖い…………みんなの言う通り…おれの言うことは…間違ってるんだろうな………」
バディ“……理想とは美しい…。理想なのだから、それが間違っていると定義するのはおかしいことだ。”
銀河「ん?なんだって?」
バディ“…お前の理想は正しいということだ。…だが、それは実現不可能だと言わざるを得ない。我々の技術力を以てしてもな。…まぁ犠牲のない世界を創れないこともないのだが…”
銀河「なんだって!?」
バディ“それは全ての思考を統一化したようなディストピアだ。人間の生き方ではなくなる。”
銀河「…そっか………」
バディ“…人とは罪深い生き物だ……犠牲の上にしか、成り立たない生き物…。たとえ人間同士の争いが無くなったとしても、生きるという行為が別の命を奪う行為でもある。別の命を殺さずに生きるなど不可能だ。”
銀河「…じゃあおれの正義ってなんなんだろうな…………はっ…少し前まであったような気がするのに…今はどこかにいっちまった………」
バディ“………銀河…、人は犠牲の上にしか成り立たないのだとしたら…お前にとっての正義はなるべく犠牲を減らすことになるか?”
銀河「…………そうかもなぁ…………でもおれは…………おれはやっぱりヒーローでいたい…。…たとえ理想であっても、手を伸ばそうとしてみたい。…憧れに手を伸ばし続けること……その進む意志こそが、おれにとってのヒーローそのものなのかもしれない…」
バディ“…お前…急に頭よくなったような気がするな…”
銀河「はっ…おれはこれでも大学出てんだぜ?…スポーツ推薦だけど……」
バディ“まぁいい…。…クラウンの落下。これによる被害は結果的に多くの命を救うことに繋がる。これは覆し難い、まだ起きてない事実のようなものだ。”
銀河「……………………」
バディ“……だがな……もし、0.001%…いや、それよりも低い可能性であったとして………0ではないと分かれば、さらに犠牲の少ない選択肢を、お前は選ぶか?”
銀河「!!!!!」
バッ!と立ち上がる銀河
銀河「…そんなものが…あんのか…?」
バディ“…あぁ…だがこれは蜘蛛の糸のように細い確率だ。クラウンの被害を0にし、尚且つ未来も繁栄させる世界。これは一つしかない。…分かるか?何十億人もが絡み合う、無数に広がる運命の中からたった一つの道筋しかないということだ。”
銀河「………それは…どんな未来なんだ………」
バディ“……見てみるか…?”
銀河「……あぁ……見せてくれ……」
バディ“……だが、これを見せればきっと…お前はこの道を選ぶ。…だが、それはお前を一生縛り付けることになるぞ?”
銀河「…………おれの憧れたヒーローは…自分の身を犠牲にしてでも、施しを与えていた……。おれの目指したヒーローなら…一番初めに覚悟する犠牲は自分の身体だ。…おれ一つの人生で、数億人の人生が助かるってんなら迷いはねぇ」
バディ“…大切な人へ試練を与えることになるかもしれない……可能性を……狭めることになるかもしれないんだぞ?”
銀河「…………………」
バディ“…お前の大切な人の人生も、犠牲にしてもいいのか?”
銀河「…………………………」
バディ“…見てから答えるか? 私はただ、『唯一の可能性』を見せるだけだ。強制するわけではない…”
スゥー……と辺りが光に包まれる………
銀河の瞳に、人類繁栄の可能性が光となって飛び込んでくる……
*
バディ“…どうだ……これが『唯一の可能性』だ。これが実現できなければいずれ、人類は滅びる。途中からの修正も不可能だ。そして、許される他の選択肢の誤差もかなり少ない。……もし、この可能性を追うというのなら、お前は…いや、バラレンジャーは全員が『神』となり、人類全体をコントロールしていかなければならない。”
銀河「……………そっか…………………………ありがとな……見せてくれて…………」
バディ“光の能力を有すお前だからこそ、ここまで見せられたのだ…”
銀河「………そうか………………」
バディ“……さぁ……答えは決まったか?”
銀河「………………」
バディ“…いや…決まっているだろう。”
銀河「?」
バディ“お前はこの道を選ぶ。…だから、私はお前を選んだ……”
銀河「……そうか…………そうだよな………おれが………やるしかないんだ…………」
バディ“……………………”
銀河「…これで、数億人の命が救われるなら……これで…数えきれないほどの命が生まれるのなら…………やる価値はある………」
バディ“……………………”
銀河「それにな、バディ…」
バディ“…ん…?”
銀河「気づいたか?おれはお前が見せた未来よりも、先の未来まで見通せたぜ」
バディ“!!!!!…なんだと………”
銀河「お前が未来から来た本当の理由……その目的を果たすためにも、おれがやるしかねーからよ…」
バディ“…お前…何に気づいた…!?”
銀河「ふっ……まぁ…そん時になったら、教えてやるよ。…とにかく、おれはこの道を選ぶことに決めた。………覚悟も………決めたんだ…………」
バディ“……覚悟?”
銀河「…あぁ……。おれは全ての人の命は平等だと思ってる。…だから、相手が誰であろうと助ける。この信念は変えねぇ……だからこそ……相手が誰であっても……犠牲として払うのなら………その信念も貫き通す…!!!」
バディ“……そうか………”
銀河「………………バディ。…三週目に戻るぜ……」
バディ“あぁ”
銀河「フォトンアクセル、オーバードライブ…!」
ドゥウウンッ!!!!!!
光速の壁を突破し、時空を遡行する銀河
*
銀河「…また…ここに戻ってきたな………」
事務所に貼られた求人ポスターをちらりと見る
ことみ「あの…もしかして…」
銀河「あっ…ことみさん…」
ことみ「へっ!?ど、どうして私の名前を…」
銀河は一瞬だけ目を伏せた。
胸の奥に去来する幾つもの光景を、そっと押し込める。
短く息を吐き、目を開く…
銀河「ここで働かせてください!」
銀河は深々と頭を下げた
ことみ「わっ!…あっ、ヒーロー志望の方ですか!?」
銀河「はい!おれは…『ヒーロー』になりたいんです…!…全てを救うため、手を伸ばし続ける…そんなヒーローに……!!」
ことみ(!…真っすぐな目……この人の瞳から揺るぎない覚悟のようなものを感じる……それに、この燃えるような闘志…これは…ヒーローカラーはレッドで決まりね!)「大歓迎ですよ!あっ、よろしければ中でお話を伺ってもいいですか?」
*
前週と同様にことみのヒーロー事業所に所属し、バラレンジャーとしてヒーロー活動をするようになった頃。
駅前のベンチに座りながら、銀河は電話のふりをしながらバディと話していた
バディ“…ここから…どうするつもりなんだ………”
銀河「言っただろ?唯一の可能性を目指すって。…これから紫雲と仲良くなって早速相談だ」
バディ“……………すまない……私は…お前の可能性を殺した……この先のお前の人生は、予測をなぞるだけのつまらないものへと成り果ててしまった……”
銀河「…いいって…気にすんな」
バディ“…私には…お前と同じ覚悟ができなかったんだ………だからお前に判断を委ねた……選ぶと分かっておきながらな………………”
銀河「…ははっ…お前、遥か先の未来からきたすげー奴なのに、そうやって悩むことがあるんだな」
バディ“…………………”
銀河「…ありがとな……おれに選ばせてくれて……。お前は、おれを一生可能性に縛り付けたと思ってるかもしれねぇけど……おれは望んでこうなったんだ。」
ニカッ!と笑ってみせる
銀河「お前が、おれを理想の『ヒーロー』にしてくれたんだよ。サンキューな!」
バディ“………………銀河……お前は『ヒーロー』だ……………お前を選んでよかった……………”
紫雲「おーい、銀河!」
銀河「よぉ!やっと来たな!」
紫雲「やっとって…集合時間の10分前に来たじゃないか…」
銀河「そうか?まぁ細けぇことはいーじゃねぇか!早く行こうぜ!」
*
焼肉屋に到着した二人。
網の上で肉が音を立てる。
ジュー……ジュー………
紫雲はトングで肉を返しながら、ちらりと銀河を見る。
紫雲「…さぁ、肉も焼けてきたし、そろそろ本題に入ったらどうだ?」
銀河「…早速か…おれがそんなにせっかちに見えるのかぁ?」
紫雲「俺を食事に誘った時から、なんだか言葉を選んでるようだったからね。君みたいな人が考え事してると違和感がすごくて落ち着かないんだよ」
銀河「ははは!そっか……お前には分かるか……」
一拍。
立ち上る煙の向こうで、銀河の目が少しだけ真面目になる。
銀河「なら、単刀直入に言わせてもらう…おれは未来から来たんだ」
ジュー……ジュー……
紫雲は肉を皿に移しながら、特に動じた様子もなく答える。
紫雲「…へ~……それで?」
銀河「そこ引っかからないのかよ!?」
紫雲「うーん…不思議な感覚なんだが…銀河と出会った時から、君には別の『世界』との繋がりを感じてたんだ」
銀河「別の世界…?」
紫雲「今の話を聞いて納得したよ。…つまり、君は別の時間軸の世界を生きてきたってことだろう?実は俺も似たような経験をしたことがあるんだ。現実とは異なる『異世界』と関わったことがあってね。それ以来、境界の揺らぎには敏感なんだ」
銀河「…そうだったのか…そういやあん時も、そんなようなこと言ってたなぁ…」
紫雲「だから俺を相談役に選んだんじゃないのか…」
銀河「一番仲いいのと、頭いいからだ」
紫雲「…知り合ってまだ一週間も経ってないのにか?」
銀河「おれからしたら半年以上の付き合いだからな……頼りにしてんだぜ?」
紫雲「ははっ…光栄だね……。ま、俺も銀河とは初めて会った気がしない。協力するさ」
銀河「…お前…変わってるよな…」
紫雲「お前が言うなよ」
「「ははははっ!」」
銀河「……さて、じゃあ本題に行くか。今から約4か月後くらいに起こる大事件についてなんだが……」
*
ジュー………
紫雲は腕を組み、煙の向こうで目を細めた。
紫雲「…ふぅむ………」
銀河「っつーわけなんだ……おれは一体、これからどうしていきゃぁいいんだろうな……」
ほんのわずかに、銀河の声が沈む。
紫雲「……前提を整理しよう。僕たちバラレンジャー全員が、あの規模の力を持っているのなら、一人でも強く反対すれば、計画は瓦解する…」
銀河「やっぱそうだよなぁ……」
紫雲「前回は、藍さん、みどりちゃん、桃華ちゃん、虎羽くん…そして僕が反対。黄慈さんが中立。そうだったな?」
銀河「あぁ」
紫雲は小さく笑う。
紫雲「……よく“反対側”の僕に相談したね」
銀河は一瞬だけ言葉を選んで答える
銀河「…おれの直感だ……お前に相談するべきだって、直感がピィンと働いてな」
紫雲「……まぁいいか………そうだな……じゃあ分かりやすいところからいこうか」
銀河「おっ!早速何か思いついたのか!?」
紫雲「…銀河の話を聞いて、他のメンバーとも軽く話した感じ僕と虎羽くんの正義には『理』があると思うんだ。」
銀河「『理』…?」
紫雲「あぁ…合理的、論理的な選択をする。感情よりも結果を優先する。だから、より多くの人が助かる道を正しいと信じる…。たとえ、犠牲を払ってでもね。」
銀河「…? それって反対派みんなそうじゃねぇのか?」
紫雲「それがそうとも限らない……まぁ続きを聞いてよ。つまり、僕や虎羽くんのようなタイプは他にもっと良い選択肢があるのならそっちを選ぶってことさ。」
銀河「ほーぅ…」
紫雲「…君はクラウンを落とさず、尚且つ未来も繁栄させる可能性を選んだんだろう?」
銀河「…あぁ…」
紫雲「…それが実現可能なら、僕も虎羽くんもきっと協力するはずだ。」
銀河「本当か!?」
紫雲「…あぁ…常に最善を尽くすタイプだからね…。虎羽くんは特にそうだ。困難でも、“正しい”と確信すれば最後までやるさ」
銀河「……じゃあおれが見た可能性を説明して、納得してもらえればよさそうだな」
紫雲「あぁ…君の説明にかかってる。慎重にな」
銀河「お、おう…」
紫雲は水を一口飲む。
紫雲「…次に桃華ちゃんについて話そう」
銀河「あぁ」
紫雲「桃華ちゃんはロボットだからね……きっと、バディにシミュレーションのデータを転送された時点でバディと同じ考えに染まってしまったと思うんだ。彼女にとってデータは絶対だからね。…定量的で、人間みたいに感情が入り込む余地がないんだろうね」
銀河「…つまり…?」
紫雲「…桃華ちゃんにバディのデータを渡さないことは絶対だ。……でも…きっと彼女の演算能力なら、同程度の予測はできてしまうかもしれない。確立で選ぶのなら、君の作戦には乗らないだろう…。…そこで一つ思いついたんだが……」
銀河「おっ、なんだ?」
紫雲「…桃華ちゃんに別の評価軸を持たせるんだ。なんとか定性的な価値観を持たせることができないかなって…」
銀河「てい…?…分かりやすく!」
紫雲「…朱祢ちゃん、雪ちゃん、金一さんのように「可哀想だから」とか、「辛いのはみたくないから」とか、そういう人間的基準を学習させ尚且つ、それを重視するようになってもらう。そうすれば、桃華ちゃんも銀河に協力してくれるようになるんじゃないかな?」
銀河「…なるほどな……ロボットの頭で考えるとどうしても、クラウンを落とした方が良くなっちまうんだな?だからそれを心で否定させる…っつーことか?」
紫雲「そうだね。きっと桃華ちゃんは僕や虎羽くんと違って、『最良だから』という理由だけでは選ばない。『実現可能かどうか』も視野に入れているだろうから君の信じる薄い可能性では揺らがないだろうね」
銀河「…また別のアプローチが必要ってわけか……」
紫雲「そうだ。彼女には“選び直す理由”が必要だ」
銀河「……分かった。で、あとの二人は?」
紫雲はトングを置き、指を組む。
紫雲「……まず、みどりちゃんの方から考えよう。たぶんだけど………」
銀河
紫雲「みどりちゃんはノリで生きてると思う」
銀河「ズコーっ!」
紫雲「言葉で説得するよりも、面白そうな雰囲気を作ってそれに乗せる方がいいと思うな。」
銀河「…うーん…そんなんでいいのかぁ…?」
紫雲「あの人は自由を愛してそうだからね…。だから理や感情を押し付けても無駄だ。こっち側に誘い出すイメージで協力してもらおう」
銀河「…あー……まぁ分かったよ………で、あとは藍さんか…あの人はどうする?」
紫雲「うーん……」
紫雲は珍しく、即答しない。
銀河「あの人もノリか?うまくおだてれば「おーっほっほ、わたくしがやって差し上げますわー!」とか言わねぇかな…」
紫雲「…言わないだろうな……」
銀河「…なんでだ」
紫雲「…あの人のことは、よく分からない…ミステリアスすぎて、どう説得すればいいのか思いつかないな…」
銀河「紫雲でも分からないか……」
紫雲「なぜヒーローをやっているのかも聞いたことないんだろう?」
銀河「あぁ…一度聞いたことはあったんだが教えてくれなかったな…」
紫雲「…あの人は多分、理だけでも動かないし、感情だけでも動かない………現実的……なのかな……」
銀河「現実的?」
紫雲「銀河の話だと、藍さんは犠牲を受け入れているようだった…。でも、それを“正しい”と信じているわけでもなさそうだ。諦めと責任の混合……“仕方がない”という覚悟…そんな感じだ。」
銀河「…お前…よくそこまで分析できるよな…」
紫雲「脳波って電気信号だろ?僕の能力で人の思考はなんとなく分かるんだよ……ちょっと力を加えれば完全な洗脳も出来そうなんだけど…さすがにそれは怖くてやってない。」
銀河「……おれらのこの力…一体どこまでのことが出来るんだろうな……」
紫雲「…少しでも解放したら人の域を越えそうで怖いよな。……使わないことを願うばかりだ…」
銀河「…悪い、話が逸れた。続けてくれ…」
紫雲「あぁ……藍さんを動かすには、理想でも情でもない。“現実を上書きする証明”がいる」
銀河「現実の上書き…?」
紫雲「桃華ちゃんのようにデータで示しても藍さんは納得しない。 銀河、君が現実でその可能性を証明できないといけないんだよ。」
銀河「…そうは言ってもなぁ……」
紫雲「…君が見た可能性は少しの誤差も許されないくらいシビアなんだろ?」
銀河「あぁ…」
紫雲「人類の繁栄が確実になるまでは、気を抜けない状態が続く。そんな不安定な世界へ藍さんを巻き込むなら…まずは何か一つ、大きな出来事を乗り越えた“実績”が必要だ」
銀河「クラウンの落下を止めるのが、まさにそれじゃねぇのか!?それ以上どうしろってんだよ……」
紫雲「…藍さんの性格を考えると、今この段階での説得は難しそうだ。だからここはまず、中立に持っていくことを目標にする。本格的な説得はクラウンの落下を阻止し、人類が進化していく兆しを見せてからだ。」
銀河「…一旦、保留にしておくってことか?」
紫雲「そうだな。…だが、街へ被害を出さずにクラウンを破壊するというのなら、能力的に黄慈さんか藍さんの助けは借りたい。前回中立だった黄慈さんは今回、必ずこちらに引き込む必要があるね。」
銀河「そうだな……」
紫雲「…黄慈さんは、なんで非協力的だったんだ?」
銀河「いや…分からねぇ……でも、随分と考えて込んでたようだったなぁ……」
紫雲「…協力出来ない理由があったのか…したくない理由があったのか……どちらにせよ、聞き出さないことには始まらない。説得は、その後だ」
銀河「また情報収集か」
紫雲「ぷっ!銀河の口からそんな単語が飛び出してくるとはね」
銀河「バカにしやがって…これでも前回は、全員の能力について色々調べたんだかんな!」
紫雲「へー…じゃあ今回は、能力だけじゃない。人間そのものを知る番だな」
銀河「あぁ…特に桃華ちゃんと黄慈さんだな…」
紫雲「くれぐれも、焦り過ぎるなよ?こんな突拍子もない話をすぐに信じたのは、僕の能力があったからなんだからな?」
銀河「あぁ、分かった。……ありがとな、相談乗ってくれて」
紫雲「…いいって…君とは、いや……バラレンジャーとは長い付き合いになりそうだしな。」
銀河「…お前…予知の能力も持ってたりすんのか?」
紫雲「ふっ…なんだ、そんな未来が見えてたのか…」
銀河「あっやべ…」
紫雲「下手に鎌をかけると先の楽しみが減るな」
紫雲は「はっはっは」と、笑いながら話す
紫雲「…まぁでも…今の反応で信憑性が更に増した…。本当に『唯一の可能性』ってやつを知ってるんだな…」
銀河「………あぁ………」
紫雲「…の割に、具体的なことは分かって無さそうだな………それとも…無知を装っているのも、その可能性に必要な行動なのか?」
銀河「いや…おれが見たのは“絶対に外せない転換点”だけだ。…目標は決まってるけど、その道筋までは分からねぇ。…例えば、お前に相談するのは未来に必要なことだった。でも、それで何が決まるのかとか、どうしていくことになるのかまでは知らなかった。…きっとバディがそこまでは見せないようにしてたんだ…。おれも、見ないようにしてる…」
紫雲「………………」
銀河「…だからおれは、楽しみながら生きてるぜ!…未来がどうなっていくのかをこの目で確かめ、この足で踏みしめる…。…意味なんてねぇのかもしれねぇけど…おれは、成長しながら進んでいくつもりだ…」
銀河は拳を握る
紫雲「…………一つ、意地の悪い質問をしてもいいか?」
銀河「あ?なんだ?」
紫雲「…俺達が長い付き合いになるってのが確定しているからこそする質問だ。…旧知の仲になるよしみで聞かせてくれ。…お前はその可能性を追う途中で失敗したら、その能力で何度もタイムリープをしてやり直すよな?…今回みたいに多少なりとも人の考えを変えたり…時には同じ人を何度も殺してしまうことになるかもしれない…。 お前の道徳は、正義は…それを良しとしてるのか?」
銀河「………………痛いところを衝くな………だが、おれの答えは決まっている。答えはイェスだ。 何度も失敗するかもしれない…何度も人の死を見るかもしれない…そして数えきれないほど人を操ることになるだろうな………。でも……それでもおれは、それが正しいと信じている。…おれが見た未来こそ、人の為になり、理想の世界へと繋がっていくと信じてるんだ。」
紫雲「………………」
銀河「…おれはな…人の為を想っての行動は…失敗こそあれど、間違ってることはないと思ってんだ。…人の幸福を願った行動が、『正しい世界』であるべきなんだ。」
紫雲「……そうか………」
銀河「…それにな……おれは、ちゃんと責任も取るつもりだ。…世界中の人々の可能性を奪ってでも、理想に導く…。その代償に、おれはこれから先の人生全てを捧げるぜ。」
紫雲「…!!」
銀河「…紫雲……お前はおれの正義に、ついて来てくれるか…?」
沈黙。
そして――
紫雲「……はは……ははははっ!!」
腹の底から、堪えきれないように笑う
紫雲「気に入った。銀河、君とは最高の親友になれそうだ…!」
紫雲はスッと右手を差し出す
銀河「紫雲…!」
ガシッ――!
二人は固く、力強く握手を交わした。
それは、二つの意志がひとつに重なった証。
唯一の未来へと向かう薔薇が、初めて束ねられた瞬間だった……




