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第十五話「運命」(イエロー4)

第十五話 「運命」

(主人公 イエロー4)


ことみ「…その運命、私に託してみない?」

朱祢「……え…………」


朱祢はそっと顔を上げる


ことみ「…私、ヒーロー事業所を立ち上げようとしてるって言ったでしょ?でもね、肝心のヒーローのあてなんて一つもなかったの。…そこに現れたのが貴方。…しかも、二度も命を救われちゃった」


少し照れたように笑いながらも、真剣な目で続ける。


ことみ「…私ね、貴方に会ってから『運命』ってあるような気がするの………貴方が私の最初のヒーローになってくれて、そこから無限に可能性が広がっていく予感……」

朱祢「………私に……そんな力ない………」

ことみ「…もう一度言うわ。貴方の運命、私に託してくれない?」

朱祢「……………」

ことみ「…敵を倒さなければならない運命…それを私の夢に預けるの」

朱祢「…夢…?」

ことみ「…ヒーローの力で、平和な世界を取り戻す。…それが私の夢……今の新しい夢なの…!」

朱祢「……………………」

ことみ「…もちろん、無理にとは言わないわ……朱祢ちゃんもまだ学生でしょ?どんな力を持っていたって、やりたいことがあるのならそれを邪魔する理由になんてならないわ」

朱祢「……………」

ことみ「…でも……今の朱祢ちゃんはとても辛そうだから……やりたいことが見つかるまででもいいし…、運命にそうさせられるんじゃなくて、朱祢ちゃん自身の意思で、ヒーローになってみない?」


ことみは名刺を差し出し、二人はそこで別れた。


朱祢「……………私の意思で……ヒーローに……………」


名刺を見つめながら、朱祢は小さく呟いた…



*


ガッ……ガラララ………


ことみ「うわっ…埃っぽ~……扉の動きも悪いし……」


散乱した事務所に足を踏み入れ、周囲を見回す。


ことみ「……さぁて…何から片付けようかな……」

(…まさか、物件を買ってすぐに名刺を渡すことになるとは思わなかったからな~…

もし朱祢ちゃんが来てくれるなら、こんなとこ見せられないわね……)

「…よしっ!まずは粗大ごみから!橙坂ことみのヒーロー事業所、活動開始よ!」


コンコン…カラカラ……


ことみ「うわっ!?…って、あ、朱祢ちゃん!?」

朱祢「こんにちは…」

ことみ「あっ、あははは…あのこれは…その…違くて…活動開始は4月の予定だったから掃除がまだで…」

朱祢「…ことみさん…」

ことみ「…!」

朱祢「…私、あれから考えてみました……私…もう後悔したくありません。力を使うことで嫌われ、恐れられたとしても、誰かを護りたいです。…怖がっている人を少しでも早く解放してあげるために……助けを求めている人の元へ、一刻も早く手を差し伸べられるように…………。今はまだ…そのくらいの理由でしかヒーローをやれません………それでも……いいですか…………?」


散乱した事務所に足を踏み入れ、周囲を見回す。


ことみ「っ~! もちろんよ!歓迎するわ、朱祢ちゃん!」

朱祢「わっ!」


勢いよく駆け寄り、両手をぶんぶんと上下させる激しい握手を交わす


ことみ「来てくれて本当にありがとう! 一緒に…平和な世界を護りましょうね!」


その真っすぐすぎる好意が、

荒みきっていた心を、少しずつ溶かしていく。


朱祢「………はい………」


――今回の作り笑いは、

ほんの少しだけ、作るのが楽だった。



*



私がヒーローになった理由…

くだらない理由…


朱祢「…うっ……」


クラウンの残骸をかき分け、ゆっくりと体を起こす


朱祢「………………」


きっと私は虎羽くんや銀河さんのような真っ当なヒーローにはなれない……

私は今でも――

護り“たい”からじゃなく、

傷つきたく“ない”、

見たく“ない”……

そんな理由で、ヒーローをやってしまっている。


こんな私に、虎羽くんを否定する資格なんてないのかもしれない……。

……そう……思ってるはずなのに………

なんだろう…

この胸の奥に湧いてくる熱い気持ちは………


朱祢「……くっ……!」


ガラガラッ!

瓦礫を押しのけ、立ち上がる。


朱祢「………………」


戦うべき相手を、まっすぐ見据えた瞳……

もう、迷いはない。


朱祢「……変身…!!」


シュゥウッ!!パッ!!

イエローのスーツを身に纏う。


朱祢「…タロ…行くよっ…!!」


*


虎羽「はぁああああああッ!!!!!」


シュピィン――!

拳が叩き込まれる、その直前。

狛犬が空間を跳び、姿を消す。


虎羽「なにっ…!?」


*


光る弓矢を手に、朱祢は息を整える。


朱祢「……させない………私は!困っている人を見過ごすヒーローには、なりたくない!!」


バッ!!

矢をつがえ、狙いを定める


虎羽「そこかッ!!」


ボッ!!!!!

炎を噴き上げ、凄まじい速度で迫る虎羽。

ドンッ!!!!!!!!!!!!!!!

バァアアッ!!!!!!

ドカァアアンッ!!!!!!!!!!!!!!!

放たれた矢は、拳と激突し相殺。

爆発的な衝撃波が街を揺らす。


朱祢「ふっ!!」

ドンドンドンドン!!!

虎羽「ハァッ!!!!」

ドッ!!!!ボワァアアッ!!!!!!!!

朱祢の追撃を躱し、音を置き去りにしてクラウンに突っ込む虎羽


虎羽「ちぃっ!逃がすかァ!!!」

ドンドンドンドン!!!!

クラウンから飛び降りながら、矢を連射する朱祢。

それを弾き、避けながら、なおも猛追する虎羽。

バッ!!シュパパパパパパッ!!!!

スリングショットから放たれた弾丸が無数に跳弾し、虎羽を襲う。


虎羽「っ!そんな物!!」


シュバンッ!!!!!


虎羽「っ!!」


弾丸に気を取られた一瞬。

ビルの隙間から、矢が挟み撃ちを仕掛ける。


虎羽「くっ……!」


前方へ炎を噴出し、強引に減速。

直撃を回避する。

パァン!!

朱祢の攻撃は、街への被害が出ないよう、すべてが“相殺される角度”で放たれていた。

挟み撃ちの矢も、寸分の狂いなく衝突し、消滅。

ドンッ!!!

再加速し、朱祢を追う虎羽。

バッ!ドン!ドンドンドンドン!!!シュパパパパパッ!!!!!!ボワァッ!!!

ビルの隙間を縫い、

互いに超高速で移動しながら、激しい攻防を繰り広げる。

朱祢の矢と弾丸は、空に幾何学模様の軌跡を描いた。


虎羽「逃げてばかりか!!そんなんじゃいつまで経っても…!!」


バァンッ!!!!

炎で弾丸を薙ぎ払い、朱祢の目の前で拳を振り上げる…


朱祢「くっ!!」


バシュッ!!!


虎羽「!」


カンカンッ!!

腰から射出されたワイヤーショットを拳で弾き、焼き切る虎羽。

しかし、その隙を突くように、跳弾した弾丸が迫る。


虎羽「くどい!!!」

ガウッ!!!

虎羽「なにっ!?」


炎の中から飛び出したのは――

朱祢の守護獣、狛犬。


虎羽「くっ…!」


ドカァッ!!

クラウンへと叩きつけられる虎羽


虎羽(…仕方がない…少し本気を出すか…あの狛犬と魔法の矢を焼き切るには……)


一瞬の逡巡。

――その時。

クラウンの真下から、異常なまでのエネルギーを感知する。


虎羽「はっ!」

朱祢「これで終わりよ…」


真上へと、矢をつがえる。

その場に蓄積された張力は空間を歪め、多次元へ干渉するほどの密度に達していた。

ドシュゥウン……!!!!!!

……バリバリッ……!!

放たれた矢は、光速へ到達。

クラウンを完全に貫き、時空を裂き、空そのものを割る。

バリッ……

バリバリ…………

歪んだ世界が、ゆっくりと元の形へ戻っていく。

しかし――

朱祢の周囲は、先ほどの衝撃で壊滅していた。

朱祢「…………完全には守れなかった………でも………クラウンの被害よりは抑えられたはず………………」


壊れた街を一瞬だけ見渡し、朱祢は唇を噛みしめた。

揺らぐ心を置き去りにしたまま、指先の光は静かにほどけ、弓矢も静かに消えていった。

そしてその場を離れようとしたその瞬間……


シュゥウウウ…………


朱祢「っ!!!!???」


凄まじい熱気が一点に集束し、白い煙が噴き上がる。

その奥から、低く、確かな声が響いた。


虎羽「朱祢さんの覚悟…見させてもらいました…」

朱祢「…こ…虎羽くん……まさかあれでも…!?」

虎羽「…この力を持つ者は簡単には死ねないようですね……」(それどころか、追い込まれれば追い込まれるほど、新たな力に目覚めていく……どこまでも底の知れない力だ……)


ザッ――ボワァアアッ!!!!!

煙を切り裂くように、人型の炎が姿を現し、朱祢の前に立ちはだかる。


虎羽「…バラレンジャー同士の戦いに勝敗はつかない……となれば……あとはボクの覚悟次第です………」

朱祢「お願い……それだけはやめて…………」


シュゥウウウ……!!!

熱量が、爆発的に跳ね上がる。

地面は赤く溶け、熱風が街を引き裂いた。


虎羽「…ボクは……」


その瞳に、迷いのない“正義の炎”を宿し、言い切る。


虎羽「…今ではなく、続いていく未来のために――この力を使う!!!!」

朱祢「やめてぇえええええええ!!!!!!」

虎羽「はぁあああああああああああああッ!!!!!!!!!」


ボォオオオオオオオオオワァアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!

街を丸ごと呑み込むほどの、巨大な焔。

触れたものは、抵抗する間もなく、瞬時にプラズマと化した…




*



虎羽「……やはり……貴方も死ねませんか…………」

朱祢「……………………」


僅かに残った瓦礫にもたれかかり、朱祢は項垂れる。


虎羽「……ボクは負けた……でも、目的を果たしたのはボクだ……。未来の為に、この犠牲は必要だった……」

朱祢「………おかしいよ………」

虎羽「………………」

朱祢「……より多くの人を救うために、犠牲が必要だなんて………」

虎羽「………それが人間という生き物です………ボクたちは、残酷な世界に生きている………」


ザッザッザ……トンッ!

虎羽は、振り返ることなく立ち去っていった。


朱祢「………………………」


ポツ……ポツ……

雨が降り始める。


朱祢「………………………」



私がヒーロー活動をして、

初めて“ありがとう”と言われた日のことを、今でもはっきり覚えている……。



朱祢「………………………」

??「……おねぇちゃん……ねぇ、おねぇちゃん!」

朱祢「はっ……!」


我に返ると、女の子と、その母親らしき人物が立っていた。


女の子「たすけてくれて、ありがとう!」

母親「この子、どうしてもお礼が言いたいって……。私からも、お礼を言わせてください。本当にありがとうございました。貴方は……命の恩人です」

朱祢「あ……いえ……私は……」

女の子「ありがとう! バラレンジャー!」

朱祢「あ……うん………」


去っていく女の子に、朱祢は小さく手を振った。


……どうせ、いつものように気味悪がられる。そう、思っていたのに…“ありがとう”と言ってもらえた。


あの時、この道を選んだのは間違いじゃなかったって思えた。

自分の意思で、自分の力で誰かを護ることができたんだって思えたのに……


朱祢「…………うぅ…………………」


ザァーッ………


あの子も……死んじゃったのかな……………


朱祢「うわぁあああああああああああああああああああああ………」


雨が、激しく降り注ぐ。

それは、朱祢の嘆きをかき消すためか――

それとも、哀しみを洗い流すためなのか……。


黒く焼き焦げた大地。

灰色に沈んだ空。


朱祢はただ、泣き叫ぶことしかできなかった……


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