第十五話「正義とは…」
第十五話 「正義とは…」
(主人公 シルバー1)
正義とはなんだ?
*
真冬のある日、大好きだった兄が行方不明になった…
突然のことで頭がいっぱいになっている時、ボクの意識は突然謎の場所へと飛ばされた。
そして、そこで何者かに語り掛けられた
「あなたには特別な能力を与えます――」
虎羽「っ…!?…この能力は!?」
「あなたの考える正義のために使ってください――
――くれぐれも…兄のようにはならないでください――」
*
何者かが言った「兄のようにはなるな」という言葉…
やはり兄はどこか遠い世界に行ってしまったのだろう…
なら、ボクにやれることは両親の傍を離れずにいることだ。
どんな理由があっても、兄のようになってはならない…
それがこの能力を手に入れたことによる使命…
この能力を使いこなし、どんな魔の手も撥ね退ける強さを手に入れなければならない。
だが、この能力を使ってみてすぐに分かった。強くするべきは肉体ではない。精神だと。
この能力はまるで、鍛える必要がない。
「最強」の概念そのもののように感じるほど、大きすぎる力だった。
だから思った。
この力は正しく使わなければならない、と。
力に見合った、精神を持たなければならない。
かけがえのない家族と共に在り続けられる信念を…
正義を……
*
それからボクは正しいことを考え続けた。
町内のボランティアに参加した。両親の手伝いをよくやった。勉強も運動も頑張った。学校のルールも守った。そうすると皆褒めてくれる。
「えらいねー」「真面目だね」「良い子だね」
大人たちはそう言ってくれた。
これが正しいことなんだ。皆が認めてくれる、褒めてくれる。この行いは正しいんだ。これが正義なんだ。
*
ボクは風紀委員長になった。校則を守るように先生と一緒になって注意した。
「ちっ、いいだろこんくらい」「めんどくせーのがきた」「まじめすぎるよねー」
「虎羽くんはとても真面目です」「いつも助けられています」「頼りになりますよ」
*
高校へ入り、学級委員長になった、生徒会長になった。
「正義感が強い」「責任感が強いですね」「生徒の模範です」
「携帯くらいいじるだろ」「授業中なんて寝てるよなぁ?」「先生に気に入られてるからって調子のってるよね」
どうして否定する?ボクは褒められ、認められている。正しい行いをしている。なぜお前らは正しく生きようとしない?なぜ「悪い子だ」と言われるような行動をする?
怒りが沸き上がる。どうして正しくない人間が生きている?どうして罪人が圧倒的に多い世の中なんだ?
罪人ってなんだ?どうすれば罰せられる?
ボクは法律について調べてみた。
法律に「授業中寝てはいけない」「学校で携帯をいじる者は罰する」なんてことは書いてない。
じゃあいいことなのか?あいつらは正義なのか?
正義ってなんだ?
*
虎羽「ここは禁煙ですよ」
ガラの悪い男1「ああん?なんだてめえ?」
男2「喧嘩売ってんのか?ガキが…ぶっ殺すぞ!」
女1「やっちゃえばぁ?」
男3「なめやがって、俺たちに喧嘩売るとはなぁ!」
女2「いけいけー!」
どいつもこいつもクズばかり…。怒りの炎がゴウゴウと湧き上がる。
胸ぐらをつかんできた腕を強く握り返す。
男2「がっ…!クソがぁ!」
殴り掛かってきた拳を受け止める。
虎羽「これは正当防衛だ!」
男の腹を殴る。男の服は上着ごと溶け、殴られた腹の皮は剥けて血が流れる。
ナイフを出して刺してきた。手首をつかんだ。ジュゥ!という音と共に手首が焼ける。赤く発光し、すさまじい熱を帯びている拳を見て男達は逃げていった。そいつらが乗り込んだ車は違法に改造されたものであった。
目の前を走り去っていくのを見逃すわけもなく、タイヤと窓ガラスを破壊し、エンジンからは火を噴かせた。
*
ボクは正当防衛をした。悪いことではないはずだ。
だが、車を壊したのはどうだ?違法の物であってもボクに壊す権利などない。器物破損。ボクは罪人か?
正義ってなんだ?
違法だと分かっているものを見逃すのが正義か?正しい行いなのか?
もし、人に暴力をふるっている人を止めるためにこの能力を使ったら過剰防衛として罪に問われるのか?ボクも罪人になるのか?正しくないのか?
そんなはずはないだろう。ボクは正しいはずだ。違法を見逃すのは正しい行いではない。
この能力は何のためにある?どうすれば正義のために活用できる?
ボクの正義ってなんだ…?
それは正しい行いをすることだ。正しい行いとは、違法行為を見逃さないこと。
そのためにこの能力がある。
法律は完璧なものではない。社会の秩序を守るためのルールにすぎない。
人間は自由だ。ルールを破ることもできる。法は人間に「禁止」させることはできない。
だから…ボクがやる。
清く正しい社会を護るために…ボクはこの力を使って違法行為を禁止させる。
この能力は不可能を可能にできる人間の理解の範疇を超えた絶対的な力だ。
絶対的な力を持つのなら、絶対に正しい使い方をしなければならない。
この強すぎる力は「力での支配」を可能にする。個人的な考えで力を使うなど許されるはずがない。だからボクは法に則って力を行使する。
法に力を持たせること。それがボクの考える正しい、善き行いであり、それがボクの正義だ。
*
「虎羽くんは成績も優秀です。県内の大学であればどこでも問題なく入れるレベルです」
「そうですか。こーちゃんはどうしたいの?」
「ボクは、高校を卒業したら…ヒーローになりたいです。」
「ヒーローに…?」
「どうしてまた…何になるにしても大学は出ておいた方がいいんじゃ…」
「いえ、ボクはあんなガキの遊び場には行きたくありません。一刻でも早く自分の力を正しいことのために使いたいんです。」
*
「…母さんごめん。」
「いいのよ。大学なんて行かなくても生きていけるわ。でも、どうしてヒーローになりたいなんて言い出したの?」
「最近、ようやく答えが出たんだ。正義の在り方と自分の力の使い方について。それを実行するためにヒーローになるんだ。」
「そう…いろいろ考えて決めたのならいいわ。こーちゃんならきっと上手くやれるだろうし。」
「ありがとう。信じてくれて。必ず、良い大学を出ることなんかよりも誇れるようになるから!」
「信じてるわ。ふふ。じゃあ今日は進路が決まった祝いでご馳走でも作ろうかしら。あ!お父さんにも報告しなくちゃ」
「この間、中間テスト一位のお祝いしたのにまたお祝い?」
「お祝いごとなんていくらあってもいいのよ。それに、成績祝いと進路祝いとじゃあ全然違うじゃない」
「お祝いとしてのカウントなら一緒じゃないか…」
ボクはヒーローになることを決め、地元に新しくできるヒーロー事務所へ面接に行った。
*
ことみ「えーっと、あなたの能力について詳しく教えてくれないかしら?」
虎羽「はい、私の能力は熱を操る能力です。特定の座標に熱を送り込むことができます。これにより、狙った物を燃やしたり溶かしたりして攻撃することができます。また自分の体であれば際限なく熱を加えられるので、素早い攻撃が求められる場合は拳を燃やしながら攻撃しています。」
ことみ「すごいのね!ちなみに溶かしたりすることなく、温めることはできるのかしら?」
虎羽「はい!能力を制御する練習としてよくお弁当を温めていました。」
ことみ「この部屋とかも、暖房をつけたみたいに温めることはできるのかしら?」
虎羽「できます!」
ことみ「…ちなみになんだけど、お願いできたりする…?」
虎羽「はい!お安い御用です!」
ことみ「採用!真面目で良い子だしなにより、自分の正義がハッキリしているね!小さい事務所だけどあなたの能力が存分に発揮できるようにサポートしていくわ!よろしくね」
虎羽「はい!よろしくお願いします!」
こうして正式にヒーローとして働くことが決定した。
*
母「今日のお昼はお寿司よ~」
父「おお!豪華だな!…おっ!虎羽の好きな桜餅もあるぞ!」
虎羽「今日は何かあるの?」
母「こーちゃんの卒業祝い、就職祝いよ。」
父「そうだ!父さんからも就職祝いがあるぞ~」
虎羽「父さんも母さんもそんなに張り切らなくていいのに…」
父「何を言ってるんだ、学校が卒業できて、就職も決まったなんてすごいことなんだぞ?父さんなんて喧嘩したのがバレちまって…」
母「はいはい、もうその話は聞き飽きましたよ。それよりも、渡す物があるんでしょう?」
父「ああそうだった。虎羽、これを受け取ってくれ。」
虎羽「これは…ブレスレット?」
父「そうだ。お前はこれからヒーローとして沢山の命を救うだろう。その手で沢山敵を倒し、沢山の人を助ける。でもな…虎羽は正義感が強くて真面目だからな……考えすぎて何が正しいのか分からなくなってしまう時がくるかもしれない…。そんな時にこのブレスレットを見て思い出してほしいんだ。虎羽がとても優しい心を持っている、っていうことをな…」
虎羽「優しい心?いつも口うるさいって言われてるのに?ははっ、ボクのこと優しいなんて言っているの父さんと母さんくらいだよ…」
母「何言ってるの!こーちゃんはとっても優しい子よ。他の人がそれに気づかないのはきっと本当のこーちゃんを見ていないからだわ。」
虎羽「本当のボク?」
母「真面目だとか、正義感が強いとか…確かにこーちゃんはとっても真面目でいい子だけど、それは誰かのためを想って始めたことでしょ?」
父「そうだ。正しいことをしようとか、真面目に生きようって思ったのは誰かのためだろう?そのことをこのブレスレットを見たら思い出してほしいんだ。…それにな…お前はまだまだ若いからな…きっとこれからも迷い続けると思う。そんな時に役に立つんじゃないかと思ったのさ…」
虎羽「……ああ、わかった。このブレスレット、毎日つけるよ。両腕につければいいの?」
父「ああ、もう一つはお兄ちゃんの分だ。お前のお祝いだけしたら不公平だろう?これはいつかお兄ちゃんが帰ってきた時に渡すんだ…。」
虎羽「…そっか……」
母「…ねぇ、こーちゃん!こーちゃんが不思議な力を持っていてとても強いってことは知ってる。でも、万が一……うぅ……」
虎羽「泣かないでよ母さん…。ボクなら絶対大丈夫だから…」
母「もし…こーちゃんまで帰ってこなくなっちゃったら私…う…うぅ……」
父「戦う前からそんなことを考えるやつがあるかよ!虎羽なら大丈夫だ!もう大人になるんだぞ?それに虎羽が嘘をついたことなんてないじゃないか!虎羽が大丈夫って言っているんだから大丈夫だ!」
虎羽「そうだよ。ボクなら大丈夫。絶対に兄さんのようにはならないよ…」
母「そう、そうね。こーちゃんを信じるわ。でも、危ないと思ったらすぐに逃げて。そして、絶対に毎日帰ってきて。母さんとの約束だからね!」
虎羽「わかってる。大丈夫だよ。約束は必ず守るよ。」
父「よっし!せっかくのお祝いなんだから湿っぽくならない!たくさん美味しいもの食べて楽しもう!」
虎羽「うん!」
母「そうね。たくさん食べましょう!」
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(ボクが優しいか…。正しいことをしても褒められることよりも恨まれるようなことの方が多かった。その理由は思うに…「人間とは心の弱い者ほど正義の道から外れる」からだと思う。そして人間とはそんな弱者が大半を占める…
己を強く律することが出来ないやつほど文句を言い、正義を否定する。
そんな愚者にかける恩情などない。正義に優しいも厳しいもない。
正しい正解の道とは、正義のルールに従う道だ。正義だから正しい。正しいからこそ正義なんだ。誰がなんと言おうと、何を思おうと、間違いであるはずがない。だからボクはこの道を選んだんだ。
神にも等しい能力を持つボクは絶対に道を違えてはいけない。ボクの決断は正しくなければならないんだ。だからボクは正しい道であるヒーローとしての道を歩むんだ…)
こうしてボクは己の正義を示すため、ヒーローとしての活動を開始した。




