14話 殺人鬼(仮)
「はぁ疲れた」
リリーと戦った次の日。
ココナがカエデ君はもっと強くならなくちゃ。と言って、特訓をいつも以上に厳しくしてきた。
そして先ほどやっと解放されたので、今は歩いて宿屋に帰っている途中だ。
「特訓してくれるのは良いんだけど、きつすぎる」
やっとココナの特訓にも慣れてきたのに、まさか倍以上の特訓をすることになるとは思っていなかった。
「しかし、この時間まで特訓したのは初めてだけど、人通り殆どないな」
時間がわかる物がないので正確な時間はわからないが、おそらく12時くらいだと思われる。
「まぁ殺人事件が起こってるもんな、むしろこんな時間に出歩くバカは居ないか」
まぁ俺は出歩いていますが。
流石にこの時間は男の俺でも気味が悪い。
こういう一人で居る時に殺人鬼に狙われやすいのだろうが、俺は一応自衛はできる。
もし遭遇する不幸に見舞われても、返り討ちにするか犯人の顔でも拝むくらいはできるかもしれない。
まぁその殺人鬼がリリーやココナ並みの強さだったら、全速力で逃げる。
「まぁ流石に出会う事はないだろう。ましてやその殺人鬼が二人並みに強いとか、どんな確率だ」
そんな独り言をつぶやいた瞬間、背筋がゾクリッとした。
「え……?」
この感じ俺は知っている。
これは――そう、殺気だ。
「ははは……まさか本当にエンカウントするとは思わなかったな」
ゆっくりと後ろを向くと。
黒いフードを頭に被り、仮面を被っている人物が立っていた。
「さて……これどうするかな?」
もし出会ったら顔を拝むくらいはとは思っていたが、いきなりこっちから突撃するわけにはいかない。
ここは少し様子を見つつ、判断するしかないな。
「あのー一応聞くけど、ちょっと怒ってて殺気が漏れてるだけの普通の人とかではないです……よね?」
「……」
答えてはくれない……か。
まぁ当然だよな。
「ふッ!」
「な、はやッ!?」
殺人鬼(仮)が襲って来た。
その速さに驚く。
咄嗟に刀を抜きナイフをガードする。
「くッ!」
俺はナイフをガードした後、そのまま押し返し斬りつける。
しかし殺人鬼(仮)は目の前から消える。
「え?」
消えた?
何処へいった。
辺りを見渡してみたが、やはりいない。
「……」
俺は一瞬の気配も見逃さないように、意識を集中する。
一瞬後ろから気配を感じる。
それに反応して前へ転がる。
すると先程までいた場所に、殺人鬼のナイフが通り過ぎる。
「ふう……危なかった」
本当に間一髪だった。もしかしたら、少し髪の毛掠ってるかもしれないが、今はそんな事を気にしてる場合ではない。
「さて……厄介な力持ってるみたいだが」
今の俺の実力でさっきみたいな事を繰り返して戦うのは、まず止めた方がいいよな。
しかし、アイツも消える事できるのか。
ココナだけかと思っていたが違ったようだ。
まぁここは無理をせず――
「逃げるが勝ち!」
俺は勝てないと判断して、逃げる事に決めた。
だが、ここでただ逃げるだけだと、後ろからブスリなんてなりかねない。
だから、たまに後ろを振り向く。
もちろん、これがタイムロスになるかもしれない。
しかし、それでも相手との距離はしっかり把握しておかないと。
振り向くと相手の姿はなかった。
追ってきていないようだ。
だが――俺は油断しない相手は姿を消す力を持っている。
その力を使えば見えなくしたまま追いかけて来れるはずだ。だから、誰もいないからといって油断は禁物。
「な!?」
後ろを見た顔を前に戻すと、目の前に殺人鬼(仮)が居た。
いつの間に前へ回り込んだんだ?
というか、全力で走っているのに目の前に来れるという事は、こいつ相当足が速い。
「これは相当やばいかもな」
リリーとココナレベルかはわからないが、俺よりも強いというのは確実だな。
「ふッ!」
息を吐く音と共に殺人鬼(仮)はナイフを振るう。
紫の線が見る。刀でナイフを防ぐとそのまま押し返して、こちらから斬りかかる。
だが、相手も簡単には俺の攻撃を当たってくれるはずもなく、簡単に躱されてしまう。。
「避けられたか! だがまだまだ」
何回か攻撃を仕掛ける。
しかしまるでこちらの攻撃が読まれているかの様に、軽々と躱されてしまう。
「くそ!」
俺は突きを繰り出した。
しかしそれが仇となる。
俺が放った突きを避けて俺の懐に入ってきたのだ、そしてそのまま蹴りを入れてくる。
「ぐッ!」
蹴られた衝撃で一瞬息が止まる。
そして、そのまま俺は後方へ飛ばされる。
「いつッ!」
飛ばされた方に壁がありそこに激突する。激突した痛みに思わず顔をしかめるが、なんとか尻もちを着くことは無かった。
そして、相手がナイフを構えてこちらに攻撃を仕掛けてきていた。
狙いは――首
咄嗟にしゃがみナイフを避けると、足払いを仕掛ける。
「ッ!?」
相手が足払いにより倒れる。
そして、俺は刀を上段から構え、振り下ろす。
振り下ろす際、刃と峰の部分を逆にして峰の方で攻撃する。
「な!?」
紫の線が見える。
俺は横に転がりそれを避ける。
「なんだ今の?」
何かが飛んでいくのが見えた。
「……」
いまだ奴は奴は言葉を発していない。そのため男なのか、女なのか、区別が付けられないでいる。
そして、先ほどのが絶好のチャンスだったのだが、どうやら、その機会を逃してしまったらしい。
「さて、どうしたものか」
殺人鬼(仮)はもう一つナイフを取り出す。
ナイフは二本持っていたのか。
「あーもしかして、全力出してくる感じですかね?」
「……」
「答えてはくれないか」
だが、二本出すって事は予備ってわけではないだろうな。
つまりアイツの本来のスバトルタイルは、二本のナイフを使った戦いなのだろう。
「そっちが全力だすなら、こちらももっと全力で戦わないとな」
俺は『ムラマサ』を構える。
あの技を使ってみるか。
あっちの世界で一度だけ遊びでやった技だ。
俺は相手に向かって走りだす。
そして持っている『ムラマサ』を横に振るう。
もちろん、相手は避け動作をする。しかしこれは一振り目はフェイクだ。。
振るう際右手から『ムラマサ』離をすと、左手に持ち替えて、斬りつける。
もちろん峰の方で――
「ッ!?」
仮面で表情がわからないが、今驚いたそんな感じがした。
だが、そんな殺人鬼(仮)は咄嗟にナイフを前にだしてガードする。
そして、そのまま一気に後方に大きく飛躍して距離を取った。
「初見で防ぐか……正直剣道部の部員には一人を除く全員に通じたんだけどな」
まぁアレはあの子が強すぎるだけなのかもしれないが――
頭痛が走る。
俺はしまったと思った。
今までアッチの事は考えないように気を付けていたはずなのに、ふとした瞬間に考えてしまった。
殺人鬼(仮)は俺が突然顔をしかめたことでチャンスと見たのだろう。
一気に距離を詰めてきた
「ふッ!」
片方のナイフを振るってくる。
それを刀で受け止めると、続けてもう片方のナイフを振るってくる。
片方を押し返し、もう片方は後ろに跳んで避ける。しかしその際、刃が服をかすめる。
「何で避ける事できた?」
「……」
「いい加減なにか喋ったらどうなんだ?」
「……」
どうやらずっと無言を決め込むつもりらしい。
「わかった。もう喋らなくてもいい」
こいつに話しかけても、意味がないことはよくわかった。
何故喋らないのかはわからないが、大方ボロを出さないためだろう。
しかしこれからどうする?
あれを初見で避けられるということは、相手は相当強い。
もしかしたら、リリーやココナにも劣らないかもしれない。
だからと言ってこのままむざむざやられるつもりは無いけどな。
俺は一気に距離を詰め、数回刀を振るう。
相手は俺の攻撃を受け流したり、避けたりしながらも隙を見て、俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。
だが、俺も予知で攻撃してくる場所を読み、相手と同じように避けたり受け流したりしている。
そんな斬り合いを数十回繰り返す。まだ一分も経っていないのに、俺はすでに息が上がって来た。
予想はしていたが、相手の攻撃が激し過ぎる。
そろそろ攻撃を捌くのも限界が近い。
「くッ!」
限界が近いと思った時、さらに相手の攻撃の激しさが増した。
こいつ俺が限界なのわかっている。
そう思った時足がもつれる。
「しまった!? がッ!」
見事に蹴りを入れられる。
また蹴られたな、まさか同じ奴に二度蹴られるとは思わなかった。
蹴られた際に誤って刀を落としてしまう。
そして今現在、俺の手元には戦える武器はない。
万事休すかもしれない。
結構粘ったが、やっぱり無理だったか。
しかし不思議なものだ、初めて転生した時はゴブリンに殺される時は、すごく怖くて悔しかった筈なのに、今は全然そんな感情は沸いてこない。
「運が悪かった。そう思い、受け入れてる自分に笑いがこみあげてくるよ」
「……」
あ――いま気が付いた。
俺スイッチ入ってる。
いつ入ったのかはわからないが、俺が死ぬことに対して何も感じないのはこれが発動してるためみたいだ。
なら、このままこれが発動中に殺してもらうとしよう。
そうすれば、まだ死ぬ恐怖を感じなくてすむだろうからな。
「なぁ? せめて最後くらい何か喋ってはくれないか?」
「……」
やっぱり無理か。
地面に倒れている俺にまたがり、ナイフをい構える。
そして振り下ろす――
しかし何故かギリギリで止める。
「どうした? 殺さないのか?」
「……なんで」
「え?」
始めて声を上げた。
そしてその声は女の人の声だった。
「なんで震えているんだ?」
微かに目の前のナイフが震えている。、まるで何かに抗う様に――
そして俺の上から退くと一目散に走り去って行ってしまった。
「何故だかわからないが、助かったみたいだな」
ふぅっと息を吐く。
何故アイツが俺を殺さずに逃げたのかわからないが、今は命があることに感謝しておこう。
それから、俺は宿屋へ走って帰った。