12話 再会の恩人
ココナと買い物を行った次の日――珍しくココナが朝顔を出さない。
どうしたのだろうか? いつもなら、俺が目が覚めるより先に来ていたり、または俺が起きて食事を食べに下りてきたくらいに顔を出すのだが、今日は全く顔を出さない。
「なんだか、静かだな……」
いつもはココナが来ているので、結構騒がしい。しかし、今日は来ていないので、とても静かに感じられるのだ。
いつもいる人が居ないだけでこんなに静かで少し寂しく感じるものなんだな……。
ふと、俺は思いつく。今日はこっちから顔を出しに行ってみようっと。いつもは向こう来てるからな。たまにはこちらから行っても問題なんてないだろう。
あ――もし仕事で忙しそうだったらどうしよう……? まぁその時はその時でおとなしく今日は一人で過ごすか。
善は急げと言うから、早速ココナの家に行ってみる事にする。
とりあえず、準備を整えて俺は宿屋を出る。
「おはようございます」
後ろから声を掛けられる、俺は振り向くと昨日服屋で出会った少女――リリーが居た。
ーー
「リリー」
「名前覚えていてくれたんですね、カエデさん」
俺の名前を言う――
やはり彼女は俺の事を覚えていたんだ。そして、何故か昨日は俺と会った時は初めましてと嘘を付いた。
「何故昨日嘘を付いたんだ?」
「彼女がいたので。前から知り合いだなんて、あの人に悪いじゃないですか」
相変わらず言いたい事が理解できない。
考えるだけ無駄と割り切り。俺は口を開く。
「それで今日はなんの用だ?」
彼女はおそらく俺が出てくるのを待っていたに違いない。
まさか、何も用無しに待っている筈がない。
「ふふッ。そんなに警戒しないでください」
「別に警戒はしてないが……」
「本当ですか? 目がとても怯えていますよ?」
見透かされた――
あぁ俺は正直リリーが怖い。
彼女が何を考えているかわからないからじゃない。彼女の性格が怖いんじゃない。彼女の闇が怖いのだ。
あのこの世の全てを恨むような目が――怖い。
「怯えてなんてない」
「では、そういう事にしておきましょう」
そう言ってリリーは俺に背を向ける。
こちらに少しだけ顔を向けると、一言――
「着いてきてください」
「なんで俺が付いていかないといけない?」
「貴方に拒否権は無いですよ? 私は貴方より強い――これだけ言えばわかりますよね?」
つまり、言う事を聞かないなら俺を動けなくして無理やり連れて行くって事だろう。
流石にこんな人通りが多い中襲ってくるとは思えないが、リリーならやりかねない。
俺は静かにうなずく。
それを見たリリーは歩き出す。俺はそのあとを追う形でついていく。
☆☆☆
感覚的に10分くらいの歩いた頃で、やっと目的地に到着した。
予想よりも長かった。もう少し早く到着するのかと思っていた。
しかし、ここは森の中だよな? こんなところに俺を連れてきて何をしようとしているんだ?
額にしわを寄せながら。俺はリリーを後ろから見る。
すると、リリーが向かっている先に誰かいるのが見えた。
あれは――ココナ?
彼女が見えた瞬間、俺は何か嫌な予感がした。
「ちゃんと……来てくれたみたいですね」
ちゃんと来てくれた……か。
やはりココナを呼んだのはリリーなんだな。
リリーとの面識はあの時が初めてのはずだ。つまり今日リリーはココナを呼び出したことになる。いや、もしかしてら昨日の夜には接触していたのかもしれない。
どちらにしても、昨日俺と一緒に居た時は面識が無かったのは確か。
リリーの奴何故ココナまで呼んだんだ?
「お待たせしました。ちゃんと待っていてくれたことに感謝します」
リリーはココナに声を掛ける。
しかし、ココナはリリーに顔を向けず、その後ろにいる俺に顔を向けていた。
ココナの顔はみるみる驚きの色に染まっていく。
この反応を見る限りココナも俺が連れて来られることは知らなかったようだ。
「なん……で、カエデ君が居るの?」
「安心してください。あの事は話していないので」
「そういう事を聞いているんじゃないの!! なんで彼が一緒に居るのかって聞いているの!」
ココナは少女に詰め寄りそう言い放つ。困惑と怒りが混じった声だ。
どうしたんだ? ココナのやつあんなに怒って……。
俺が居る事で何か不都合でもあるのだろうか?
「そんなに怒らないでください……彼が驚いてしまいますよ?」
「ッく」
少女にそう言われ、歯を噛みしめながら、ココナはリリーから離れる。
「えっと……」
「ごめんね。カエデ君びっくりしたよね?」
「いや……びっくりしたが大丈夫」
「それでカエデ君まで連れてきて何するつもりなの?」
「それを説明する前に――」
少女は俺の方へ向く。
「カエデさん初めてお会いした事。覚えていらっしゃいますか?」
「え? 覚えているけど……」
「何? カエデ君と初めて会ったのって昨日じゃないの?」
俺の顔を覗き込んでくるココナから目線を逸らす。
その行動により、ココナは何かを悟ったようだ。
「何? もしかして、前から知り合いだったの?」
俺はその質問に答えようと口を開く。しかし、俺より先にその質問に答えた人物がいた――リリーだ。
「はい。私とカエデさんは森で初めて出会いました」
ニコリと微笑みながら言い放つ。
ココナの顔が驚きに染まっていく。
「森……て。もしかして――」
「貴女の予想通りですよ。森で彼を救ったのは私です。つまり、貴女より先に私は彼と出会っているんですよ」
その言葉はとても穏やかだ。だが何故だか悪意がこもっているように感じた。
ココナは静かに瞑目する。
静かに瞼を開くと、口を動かす。
「そう――あんたがカエデ君を助けてくれた人だったんだね。感謝しないとね。でも、それを私に話してどうするの?」
少し怒りがこもった言い方だったが、ココナは冷静だった。
そして俺と同じ疑問を抱いたようだ。
そう――何故リリーはココナに自分が俺を助けたと言ったのか。
まるで恩を売っているように、だ。
確かに俺はリリーに助けられた、その恩は確かにある。しかし、恩に着せるならココナではなく俺のはずだ。
そんな疑問が疑問を浮かばせながら静かに二人を見守る。
「あら? 私が何故そんな事言ったのかわからないわけ無いですよね? だって、私が助けなければ、ココナ・エンドゥ貴女は彼に出会う事は無かったのですから?」
悪意の籠った笑顔をリリーはココナに向ける。
その瞬間辺りの温度が一気に下がる。そして吹いていたはずの風が止まり、風という指揮者が無くなり木々と草の音色も止まる。
「それはどういう意味なのかな?」
「わかっているはずですよ?」
二人は無言で見つめ合う。
辺りの静寂と相まって、より二人の威圧感が増す。その威圧感により俺は動けずにいた。
手に冷や汗が出てきて、俺は生唾を飲む。
「はぁ……どうやらこれでも無理みたいですね。仕方ありません」
「え?」
「ッ!?」
静かに俺の方へ向く。
その流れるような動作に俺は何をされているのか一瞬理解ができなかった。
そして、静かに目縁を下に向ける。そこには太陽の光を反射させながら、清らかな銀色の刃の先が俺の首に当てられていた。
「リリーなんのつもりだ?」
「もうカエデさんは必要なくなりましたので殺そうかと」
殺す? 俺をか?
リリーは笑顔だった。その笑顔がさらに俺の思考を鈍らせる。
何故彼女は笑顔なのか? これは何かのドッキリなのか? それとも彼女なりの悪戯なのか? そんな考えが頭の中をメビウスの輪の様に回り続ける。
「ころ……す?」
「ええ。死んでくださいカエデさん」




