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幕間3 悠斗視点 迫る死の気配

こんばんは。予告通り本日も更新します。宜しくお願いします。



 ぽー ぽー ぽー


 変な音が聞こえる。少し高めの間の抜けた音。なんだろうと目をあけると、そこは見慣れぬ場所だった。てっきり自分の部屋だと思っていたので、少し驚く。起き上がって周りを見ると、自分の部屋ではない、別の誰かの部屋のようだった。俺が寝かされていたベッドの周辺にはたくさんの玩具がおかれている。変な音を出した正体は壁掛けの時計だった。時計なのに針がない。妙な鳥のようなものが時計の中央から出て音を出していた。それを見上げながら、自分の置かれた状況を考えてみた。記憶はきちんとある。家に連絡を入れ、電信柱を背もたれにして座り込んだところまでだ。

 てっきりその後は、家族が回収してくれたものだとばかり思っていたのだが、違ったのだろうか。不思議に思って首をかしげると声が聞こえた。


「ああ、やっと目が覚めたんだ。おはよう」


 声は聞こえるが、姿が見えない。誰かいるのかと辺りを再度伺うも、やはり誰もいないようだった。


「探しても無駄だよ。お前の前に姿を現す気はないからね」


 部屋全体から響くような声に、全身に震えるような嫌悪感が走った。なんだこれ、気持ち悪い。


「ああ、気分が悪い?そうだろうね。伊織の時とは違って、抑えていないから」


 心底馬鹿にするようなせせら笑いが部屋中に響く。

 ――――伊織と違って。その言葉でぴんときた。こいつは。


「マスター、か」

「正解。察しは悪くないみたいでよかったよ。馬鹿と会話をするのは面倒だ。……もう、本当困るよね、伊織には。大人しく、自分の与えられた使命を全うしてくれればいいだけなのに、私に逆らおうとするんだから」


 いい加減修正に走る身にもなってほしいよと零す声に、やはり体が勝手に震える。本能的な恐怖と嫌悪感に体が自由に動かない。伊織が威圧感がすごいと言っていたのはこのことか。


「……なら、ここは夢か。わざわざ俺を呼び出して、一体何の用だ」


 必死の思いで言葉を紡ぐ。言葉を発するにも恐ろしいほどの気力を要した。声はそんな俺の様子を気にした様子もなく、自分勝手に話を進める。


「別に。ただ、お前に面白い事を教えてやろうと思ってね」

「面白いこと?」


 眉を顰める。姿は見えないが、この手のやからが言う『面白いこと』が本当に面白かった試しはない。きっとこいつにとってのみ、面白いのだろう。


「そう、お前にかかわることだ。聞きたいだろう?」

「いらない」


 反射的に断った。関わりたくない。ずっと時計を睨みつけるように話していたのだが、なんとなくそこから顔を逸らせた。その先に見えたのは、丸い円テーブル。なにか四角いものがおいてあった。妙に気になり、そちらを注視する。携帯ゲームのパッケージ……か?あれは……


 ――――――――――――あああああああああ!!!!!!!


「うわあああああああ!!!!!!」


 ソレを認識した瞬間、信じられないほどの痛みが走った。

 頭の中に手を直接入れられて、ぐちゃぐちゃにかきまぜられるような、例えるならばそんな感じ。

 両手で頭を抱え、ベッドに体を押し付け馬鹿みたいにのたうちまわる。痛みのあまり、何をしているのか自分でもわからなくなった。


「ああ、そっか」


 痛みに声を震わせていると、腑に落ちたといったような声が響いた。涙をこらえながら、顔を上げるが勿論そこには誰もいない。声だけだ。


「片づけるの、忘れてた」


 ひゅんと一瞬にして周りの景色が消えた。何もない空間。俺のいるベッドだけが残されている。あれだけの痛みがすっと引き、俺は呆然とした。


「い……今のは」

「忘れていたけど、お前も元は向こうの世界の人間だったね。コレは毒にしかならないんだった。折角かき乱してやろうと思っているのに、こんなことで頓挫するのも困るしねえ」


 壊れてもいいんだけど他を探すのも面倒だし、という声が楽しそうでぞっとする。


「何の、はなし」

「ん?説明が必要?ま、いいけど。さっきお前がみたのは、ご存じのとおり私が向こうの世界で作ったゲームだよ。役割は果たしたからね。いつまでも彼の事を好き放題言われたり、勝手な妄想に使われたりするのは我慢できない。だから、存在を消した。あのゲームに関する全ての記憶を向こうの世界から消去した。それだけだよ」

「消した?」


 信じられないような事をあっさりと告げる声に、恐らく本当なんだろうと本能で理解する。俺からすればとんでもないことを、何でもない事のように言うその事実が怖い。


「そう。余計なものはいらないからね。ただ、お前達転生者にそれは適用されない。向こうの世界のものなら私は関与できるけれど、こちらの世界の存在には関与できない。そう決まっているから。……記憶を消去する際に設定した条件の中に、彼にかかわるものを目にした時点で、そのものと引き換えに記憶を消去するっていうやつがあるんだよ。お前たちの魂は向こうのモノでも、体はこちらの世界のモノだからね。ゲームを目にした事で、記憶を強引に消去しようとする私の力と、それを打ち消すこちら側の力が反発しあってさっきの現象を引き起こしたってわけ」


 放っておけば、苦しんだまま精神が壊れる事になる、そういわれ恐怖に凍りついた。


「伊織もね、一度そうなりかけた。あの時は、すぐに夢から目覚めさせることで助けることができたけどね。お前たちの存在はイレギュラーだ。何がおこるか見当もつかない。実際こんな不具合がおこるとは思っていなかったし、修正に走る私は本当に忙しいんだ」

「なら、連れてこなければよかったじゃねえか」

「そういうわけにはいかないよ。私は彼を助けたいんだ。やり方を間違ったとは思わない。余計なのはお前たちだ」


 話しながら、声は冷気を帯びていく。


「何故、お前たちまできたかな。そのお蔭で予定が大幅に狂った。伊織には、早く彼と幸せになってもらいたかっただけなのに、お前やあの男が来たせいで想定外のことばかりおきる」


 俺だって来たくてこちらに来たわけじゃない。そう言い返せればどれだけよかったか。だが実際は、声すらでない。

 痛いくらいの威圧感に息が詰まる。はあはあと肩で息をしていると、声はさらに圧迫感をだした。


「苦しい?そうだろうね。ただの人間が、私の気をまともに受けられるはずがない。これでも伊織と話すときは気を付けているんだよ。むやみに怖がられても困るし、いくら人間嫌いの私でも、彼の愛し子をいたぶる趣味はないんだ」


 ――――でも、お前たちは別。


「それでも最低限は抑えているけどね。でないと、会話が成立しない。ああ、お前と無駄話する時間的余裕なんてなかった」


 唐突に話を切り替える。翻弄されっぱなしの状態に、それでも何かを言えるほどの余裕はなかった。


「お前に教えてあげるよ」


 拒否を許さない声音は告げる。


「このままだとお前は、死ぬよ」


 ぽかんと口をあけて、固まった。何を言われたのかわからなかった。俺が、死ぬ?


「何……で。だって、どこにもそんな記述は……」


 何とか思いを口に乗せる。だが、それに対して返ってきたのは残酷なまでの事実。


「お前は馬鹿だね。死の記述がないから死なない?どうしてその逆を考えなかったのかな。書かなかったのは、単に必要を感じなかったから。それだけのことだよ」


 お前は、重要キャラというわけではないからねという声が楽しそうに笑う。


「詳細は教えない。全部教えてしまっては、面白くないからね」


 秘密だと告げる声に、何も言い返せない。そんなことよりも、またあの死の恐怖がよみがえってきた事の方が問題だった。

 怖い怖い怖い!!!


 近くにあった毛布を取り、頭から被る。ききたくないという風に耳を押さえ、三角座りで頭を振る。だが、声は耳を押さえても追ってくる。まるで耳元で話されているかのように脳内まで響く。


「ああ、お前は人一倍死が怖いんだったね。それなら余計、確実なデッドエンドは怖いだろうね」


 分かっていることを、更に突きつけてくる。


「ふふ……だが、ループすればどうかな?」

「え?」


 嫌な笑いを収め、静かに響く声に耳をすませた。こいつは何を言おうとしている?


「今からだと、確かにどうにもならない。お前に待っているのは死だ。だが、ループしてやり直せばどうかな?時間があれば、もしかしたら私の知らない解決方法が見つかるかもしれない。死を回避できるかもしれない。そうだ、死ぬのが怖いというのなら、死ぬ前にループさせてしまうという手段もあるね」


 毛布をかぶったまま、目を大きく見開く。


「なんだったら、お前にサービスしてやってもいいよ。ループすれば通常の場合記憶は消える。だが、その瞬間に私の力をもぐりこませ、お前の記憶を残してあげる。今の記憶を維持したままのループ。そうすれば、お前の死の対策を考える時間もできるとは思わない?」


 私が、どうでもいい人間に何かしてやるなんて、物凄くレアな事なんだよと声は誘うように言う。

 奴の提案は、死におびえる俺にはあまりにも魅力的すぎて、今すぐにでも頷いてしまいたいものだった。だがそんな俺の脳裏に、伊織と会長の姿が浮かんでは消える。贖罪をしたいと思ったのは嘘じゃない。ぎりっと奥歯をかみしめる。口の中に血の味が広がった。


「俺は……あいつらの邪魔を、したくない」


 震えながらも、しっかりと声を出す。それだけの事がやけに辛く厳しかった。


「あらら。誤解してもらっては困るんだけどね、別に何かしろといっているわけじゃないよ。私はただ、事実を教えただけ。それと、対策をね。そしてその対策には協力してもいいという事。それだけだ」


 声の調子は憎らしいほど変わらなかった。むしろ、にやにやとした嫌な感じが妙に気になる。


「協力って……お前は、ループさせたくないんじゃなかったのか」

「別に。もともと一回くらいならかまわないと思っていたからね。お前が望むなら私は邪魔立てする気はないという話だよ。行動にうつすというのなら、そこは安心してくれていい」


 何も心配することはないと声は続ける。そして最後に、念押しすることも忘れなかった。


「もう一度、言っておいてあげる」


 まさに託宣を告げるかのように声は響く。それは俺にとってのゲームオーバー、死の宣告でしかない。


「私が見た未来に、お前の助かる道はない」


 じゃあね、後は好きにするといいよ。そう聞こえたのと同時に、ずっとあった威圧感がすっと消えた。奴が去ったのだという事が分かりほっとする。毛布をとり、ベッドに腰掛け直した。頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 だが突然の解放感に体が休息を求め、座ったままでいることも考えることもできず、そのままベッドに倒れこんでしまう。極限まで疲労した精神も同時に根を上げ、ブラックアウト。この夢の世界からの退場を余儀なくされたのだった。





「悠斗様」


 声が聞こえ、ゆっくりと目をあけた。

 目の前には、見慣れた自分の担当医と自分の部屋。ああ、現実に戻ってきたのかと回らない頭で思う。


「覚えておられますか?ご自分が倒れられたことを」

「……ああ」


 問われ、ゆるゆると頷く。医師は頷いた後、2~3質問を続けた。すべてに答えると、おとなしく眠っているように告げられる。抗う気力もなく、黙って目を閉じた。


 マスターに言われたことが、否が応でもぐるぐるとまわる。

 ループさせれば、もしかしたら自分の助かる道も見えるのだろうか。そんなことを許しては駄目だと思いながらも、助かるかもしれないという甘い誘惑が俺をおそう。

 ループさせれば、あいつらは記憶を失う。どこまでまき戻るかも分かっていない。そんな条件でループすれば、もう一度今の状態まで持ってくることがどれだけ難しいか、俺でもわかる。

 二人には、今度こそ幸せになってほしい。その為に俺にできることはなんでもしたい。


 ――――だけど。



 助かりたい。生きていたい。

 でも、あいつらを裏切りたくなんてない。



 相反する、二つの願いが俺を苦しめる。

 どうすればいいのか分からず、目を閉じたまま、ただ途方にくれる。



 ――――マスターの笑い声が耳の奥で聞こえた気が、した。


 



ありがとうございました。

次は、2~3日後です。また宜しくお願いします。

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