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9月上旬 三者会議 下

*注意*連続投稿しています。一話目がまだの方は一つ前の話からどうぞ


「「え?」」


 二人分の驚きが声となって漏れる。


「依緒里の話を聞いて確信した。そうではないかと思っていたが、ほぼ間違いないだろう。マスターの発言から、おそらくあいつは悪魔以上の存在。それなら、もっと別の事が出来ても不思議ではない。実際依緒里の前では色々な力を使っているみたいだしな。ループをマスターという奴が起こす可能性も考えたがそれはない。依緒里との会話からも推測できるし、本人が現実には干渉できないとそう言ったのだろう?」

「う、うん」

「ならばあとは自然現象だが、それも考えにくい。伊織がディアスを選ばないからループするのだというマスターの発言もある。そうなるとディアスが、自分が選ばれなかったショックか何かを引き金にして、ループを引き起こす可能性が考えられる」


 蓮の説明にただ聞き入る。


「ループするタイミングはゲームを参考にするしかないが、おそらく3月中旬以降だ。各キャラとのエンディング。その日がループの日のはず。多分、エンディングの歌がきっかけだろう」

「うた」


 なんと、ここまできてもまだ歌が私を苦しめるというのか。


「そう、嫌そうな顔をするな。あの歌は各キャラ共通だった。内容は想いがかなった事をよろこぶ内容の愛の歌だ。それを聞かされたディアスがショックで無意識によるループを引き起こした……そういったところか」

「で、でもディアスルートに入るまでは、ディアスとは関わりがないよ」


 どこで懸想されるのかわからない。そう言えば蓮はにやりと笑った。


「それは俺も推測しかできないが、歌だろ?どこでも聞く機会はあったんじゃないか?ひそかに思いを育てていたなんてよくある話だ。初恋こじらせた奴は男も女も性質が悪いからな。勝手に逆恨みして行動を起こすなんて日常茶飯事だ。それの規模が大きいものだとでも思えばいい」


 ただ、これはあくまでも推測にすぎない。と蓮はもう一度念押しした。


「理由はどうだっていい。今の話があっているかもしれないし、全然違うものかもしれない。そんなものいくらでも思いつくしな。確信がもてるのはディアス自身がループの原因だということだけだ。後は、忘れろ。変に真に受けて、思い込みで行動すると痛い目をみる」

「……だよね。大体私歌をうたえないから、当てはまらないし」

「ストーリーの流れが全然違うから、そこを参考にしても意味がない。物語の重要ファクターであったはずの『結界』もすでに消滅しているという話だし、どう転ぶか正直みえない。だから実際はループが3月とは言い切れないだろう。現在のディアスの好感度を考えれば、いつループしても不思議ではないしな。今、一番可能性が高いのは、俺と依緒里が付き合い始めたという噂を聞いたディアスが、依緒里を問い詰めて暴走。その後ループするかどうかといったところか」


 その場合は、きちんと否定しとけよという蓮。彼に、付き合っていないと言えといわれるのは奇妙に感じたが、私は素直にうなずいた。確かに、そんなことでループされてはたまらない。


「笑えませんね」


 ぞっとした顔で悠斗が言えば、真顔で蓮が続ける。


「笑うどころか、そうなれば対策のとりようもないな。大体どこまでまき戻るのかも定かではないんだ。俺たちは奴と違って、人間だ。今の記憶を持ったまま巻き戻るなんて都合のいいこともないだろう。だから、なんとしてもループさせるわけにはいかない。……俺たちが付き合っていないというのは、その対策でもある」

「はい」


 事実だから、否定しやすいという事だ。確かに実際に付き合っているとなったら、私はうまく嘘をつけるか自信がない。

 理解したというふうにしっかりと悠斗は頷いた。


「……私はどうすればいいのかな」


 途方に暮れて蓮を見上げる。ディアスがループを引き起こす。それじゃあ彼に迂闊なことは言えない。爆弾を抱えている男を刺激することはできない。


「そうだな……。なあ依緒里。マスターは人の心の声を読むか?」


 蓮の質問に首をかしげる。何か意味があるのだろうか。


「え?いや、読まれたことはないけど。だって、私はずっと誠司くんが蓮だって気が付いていたんだよ?心が読めるなら、ばれているはずだし」


 説明すると、成程なと唇に手を当てた。誠司くんの顔でそういうことされると無駄に色気があふれて大変だ。蓮はもうすっかり誠司くんを装うのをやめたらしい。 蓮の色気ある仕草が誠司くんに重なると非常な破壊力をもたらす。いや、前世の蓮もすごく格好良かったけどね。


「そうか。なら依緒里……」


 一つ、あいつから逃げ出す方法を教えようと言われる。ちょいちょいと誘うように手招きされ、体を蓮の方に寄せる。そうすると蓮は小さな声で耳打ちした。


「うひゃ」


 思わず体がはねた。息がこそばい。


「こら、おとなしくしろ。どこでマスターが聞いているか分からないだろう。知られたくない情報は、聞こえないように伝えるしか方法がないんだ」

「あ、ああ、そういうこと」


 突然の蓮の行動に反応してしまった事が恥ずかしく、うつむきながら高速で理解したと頷く。あらためて、耳打ちされた内容に目を見開いた。


「……それだけでいいの?」

「ああ、いざという時はそうしろ」


 多分間違いない。そう言われたことの意味がわからず蓮を見ると、非常に楽しそうな表情が目に映った。


「よし、ある程度目途は付いた。あとは、時間待ちだな」

「時間待ちですか?」


 気になった悠斗が尋ねる。蓮は足を組み替えながら鮮やかに笑った。


「今、こちらが動く必要はない。依緒里にはある程度の自衛策を教えたし、俺たちは普通に学生生活を送ればいい」

「でも」

「大丈夫だ。マスターが聞いている可能性があるから言わないが、その時になれば説明する。依緒里お前もだ。お前は今まで通り、好きなように過ごしていろ」

「……うん」

 

 蓮がここまで言ってくれるということは本当に大丈夫なのだろう。そうは思うが、詳細を聞かされていないのはやはり不安だ。そういう思いを込めて蓮を見つめると、やさしく頭を撫でられた。


「お前は、俺を信じていればいい」

「蓮」

「絶対に俺が守ってやるから」

「うん」


 柔らかい声音にしっかり頷いた。正面から呆れた気配がする。


「なあ……話はわかったし理解もしたけどさ、あんたたち、それで本当に付き合ってないとか戯言いうわけ?無理があると思うけど。俺もうお腹いっぱいすぎて、みていられない」

「なら見るな、減る」


 一刀両断する蓮に苦笑いする。

 正体をさらしてからは、蓮があまりにも蓮のままなのもあってか、前世の時と距離感が変わらない。それはつまり誠司くんであったときよりもよっぽど近いもので、だからそう言われても仕方ないとは思う。

 実際はちょっと待ってね、もうちょっと考えさせてという状態なのだが、きっと言っても理解されないだろうから黙っておく。


「そこは元夫婦ということで納得しておいて」

「まあ、ゆくゆくはまた夫婦だけどな」


 困ったように微笑むと、蓮がこちらに視線を合わせてきた。


「……やっぱり、砂吐きそうだわ、俺」


 うんざりした様子の悠斗が立ち上がった。


「じゃあ、俺お邪魔みたいだし、先に帰るから。話聞かせてくれてサンキュー。また明日学園でな」

「あ、うん。今日は遅れてごめんね。また明日」

「今里、明日から毎日生徒会室に来い。文化祭の準備が始まる」


 蓮の一言に、悠斗がうわっと顔をゆがめる。ああ、面倒くさそうなイベントの話ね。


「……いきなり現実に引き戻しますね、会長は。分かりました。ではお先に」

「ここは俺がだそう。後輩の面倒をみるのは先輩としての義務だ」


 財布を出そうとした悠斗を制して、蓮が伝票をつまむ。頬杖をついて、伝票をひらひらとふる蓮は、男から見ても格好いいのだろう。悠斗の動きが一瞬止まっていた。多分だが、見惚れていたはず。


「……そう言われては断れません。ごちそうさまです、会長」


 ごほんと一つ咳をして、悠斗が蓮に礼をした。そして、私に向かって手をふった。


「じゃあな、伊織」

「お疲れ」


 カランと扉が音をたてて閉まる。それを確認して、ふにゃふにゃとテーブルにへばりついた。


「うううう。疲れたー」

「お疲れ、依緒里。何か追加注文するか?お前の好きなパフェでも食えばどうだ?」

「すっごく気が惹かれるけど、カロリーオーバーだから駄目」


 よしよしと背中を撫でられ、デザートメニューを提示されるが、パフェのカロリーを思い出し思いとどまった。


「別に太っていないだろう。もう少し肉を付けた方がいいくらいだ」

「いつも蓮はそればっかり」

「お前はうまそうに食べるからな。それを見ているのは楽しい」


 嬉しそうに笑う蓮に、なんとなくじゃあまあいいかという気分になる。


「うー、じゃあ、ブルーベリーパフェ」

「了解」


 てきぱきと理玖さんに追加オーダーを頼む蓮。自分は、紅茶のオーダーを追加したようだ。


「依緒里」


 へばっている私に蓮が声を掛ける。返事は返さず、視線をあげることで答えた。


「今里を助けたいか?」

「え?」


 突然の言葉に蓮が何を言っているのかわからない。疑問を張り付けて蓮を見上げれば、正面を向いたまま少し難しい顔をしていた。


「多分だが、このままだとあいつは死ぬ」

「なんで?ルートにすら入っていないのに」


 それには蓮は答えなかった。ただ続けて私に尋ねてきた。


「別に俺はどちらでもいいが、ずいぶんお前が世話になったみたいだしな。お前が今里を助けたいというのなら協力してやる」


 どうする?と聞く蓮を、目を丸くして見つめる。彼がこんなことを言ってくれるなんて思わなかった。

 私の事以外どうでもいいというのが、彼のスタンスだったはずなのに。


「なんだ、その目は。色々俺にも思うところはある。で、どうするんだ?俺はどちらでも構わないぞ」

「た、助けて。私、ずいぶん悠斗に助けてもらったから。蓮の事、ちゃんと思い出せたのもきっかけは悠斗だったし、力づけられた。助けられるなら助けたい」


 がばっと起き上がって慌てて言葉にすれば、蓮は頷いた。


「分かった。確実性があるわけではないし、確約はできないが、できる限りあいつを助けるように動こう。場合によってはお前も協力しろよ」

「なんでもする!!」


 意気込んで言う私を、肩をたたいて諌める。


「分かったから。とりあえずお前に協力してもらいたいのは1つだけだ」

「何」


 悠斗には本当に色々と良くしてもらった。私がしてあげられることがあるのなら、何でもやりたい。だが、蓮が口にしたのは私が期待したものとは別の事だった。


「今の話、絶対に今里にするな。あいつは多分気が付いていないからな」

「それだけ?」


 なんだかがっかりしながらも一応確認する。

 

「ああ、それだけだ。俺だって確信をもって話しているわけじゃない。あくまでおそらくの話だ。ただ、可能性は8割を超えるとは思う」


 8割。それはかなりの確率だ。ということはほぼ確実に、このままじゃ悠斗は死ぬと蓮は思っているんだ。


「理由とか、聞いてもいい?」

「今はやめとけ。死亡フラグが折れたと確信できたら話してやるから。お前に話すと、想定外の所で予定を崩されるような気がする」

「む、失礼な。そんなことしないよ」

「フラグ折りの天才が何を言っている。死亡フラグならいいが、生存フラグを折ってしまっては目も当てられない。いいから任せておけ」


 そう言われてしまっては、頷くより他はない。早速、何でもかんでも蓮に頼りっきりになっている現実に、情けないなとため息がこぼれる。


「こら、落ち込むな。依緒里。お前はお前にできることをすればいい。大体、お前がこの話の中心なんだからな。その辺り、本当に自覚があるのか?」

「あんまりないかも」


 もとより、ディアスから逃げる事しか頭になかった。

 理玖さんお手製のブルーベリーパフェがことりとテーブルに置かれる。


「お前は、甘いものでも食べて笑っておけ」


 後は俺がなんとかしてやるから。

 そう言ってくれる蓮に促され、パフェをひとすくいする。甘くて冷たい感覚が口いっぱいに広がる。……美味しい。


「お前が、俺の側にいてくれるのなら、何が相手でも負けはしない」


 蓮の声に気持ちが落ち着くのを感じる。

 ソファに置いた右手を握られ、私も握り返した。この人に応えたいのだと心から思った。








*****************************************************





「伊織。それは、駄目だ。そっちへいってはいけない。何のために、あなたに話したと思っているの。……今ならまだ引き返せるから早く」



 ――――ねえ、私を本気で怒らせないで






ありがとうございました。また、2~3日後に。

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