9月上旬 三者会議 上
今日は連続更新かけてます。これが1話目です。
「悠斗、お待たせ」
「ああ、別に待って……って、え?なんで生徒会長がここに!!?」
店の前で律儀に待っていた悠斗に声を掛ける。振り返った悠斗は、私の隣に立つ男に目を丸くさせていた。
「えーと、改めまして……神鳥 誠司くん、生徒会長です」
「知ってる」
とりあえず、なぜ誠司くんを連れてきたのか事情が分からない悠斗を促し、店の中へと入った。夕方の人が少ない時間帯だったので客の入りは少なめで、お目当ての席は空いていた。周りに人がいない奥の4人掛けの席。私の隣には、蓮。正面に悠斗という配置。悠斗は、先ほどからどういうことだという視線をこちらへよこしている。わかっているよ、話すってば。
「長くなるから、とりあえず先に注文しちゃって……」
「わかったよ」
理玖さんへと視線を送れば、心得たようにこちらへ来てくれる。
「久しぶりね、神鳥君。今里くんも、来てくれてありがとう」
にっこり笑って、ほほ笑む理玖さん。数回しか来た事のない誠司くんのことまで覚えているとはさすがだ。
「ご無沙汰しております」
「こんにちは、理玖さん」
二人ともさらっと挨拶を交わす。ここへくる楽しみの一つに理玖さんとのおしゃべりがあるのだが、当然今日はそんなことをしていられない。さっさと注文してしまうことにした。
「えーと、今日はアールグレイをアイスでお願いします。後、この新作のオレンジショコラを一つ」
「……お前、こんな時でも食べるのか」
メニューにあった新作スイーツに目を引かれて注文すると、隣にいた蓮があきれたようにいった。
「うるさいな。腹が減ってはなんとやらっていうでしょ。これでも我慢してるんだから」
「ふうん?スコーンはいいのか?」
大好物を提示されて、思わずうなる。そちらも食べたいが、どうしたってカロリーオーバーだ。分かっているくせに聞いてくる蓮が恨めしい。じろりと睨みつけてやった。
「……今日は我慢する」
「……はあ。……すみません、理玖さん。こいつにスコーンを持ち帰りで用意してやってください」
「了解。……ふふふ、」
理玖さんが意味ありげに私にウインクしてきた。首をかしげると理玖さんは笑いだす。
「なんでもないわ。注文は以上かしら?」
二人ともそれぞれの品を頼んだらしい。頷くと理玖さんはカウンターの方へ戻って行った。さっきのお土産の話を思い出す。からかっておきながら、こういう事をするんだものな。昔と変わらない。
「……スコーン、ありがと」
「ああ」
ちょっと照れくさくなって小さな声でお礼を言えば、くすっと笑って蓮が私の頭をなでる。ちらっと正面をむけば、悠斗が口を開けたまま固まっていた。
「……悠斗、何バカみたいな顔してるの」
「元からだろう」
放っておけという蓮はおいといて、大丈夫かと目の前に手を翳す。そうすると我に返ったのか、びくっと体を震わせた。
「わ。びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだよ!!なんだ、今のやりとり。伊織、いつの間に会長と付き合いだしたんだ?」
「はあ?付き合ってないけど」
急に立ち上がったかと思うと、ばんと机を叩いて大声をあげる悠斗。ちょっと静かにしてよと諌めると大きく息を吐いて座りなおした。
「さっきから、いちゃいちゃとピンクオーラだしやがって、何のつもりだコラ」
「ピンクオーラって何。そんなものだしてないし、付き合ってないっていってる。濡れ衣だよ!!」
リア充爆発しろと叫ぶ悠斗が理解出来ない。
「伊織ちゃんも今里くんも落ちついて。他のお客さんたちがびっくりしちゃうわ」
静かな声が聞こえて振り向くと、そこにはオーダーした品を抱えた理玖さんがいた。
二人とも、はっとして我に返った。
「ゴメンナサイ、理玖さん。気を付けます」
「すみませんでした」
二人して謝ると、仕方ないわねと言いながら私の前にケーキをセットしてくれた。申し訳なくて小さく縮こまる。
「でもまあ、今里くんの言いたいことはわかるわ。私も、あなたたちを見たとき付き合っているのかと思ったもの」
纏う雰囲気が恋人同士みたいだったけど違うの?と言われ、違いますと速攻で否定した。
「厳密に言うと確かに違いますね。婚約者です」
「あら、そうなの?」
のんびりとマイペースに話に入ってきた蓮を睨む。そういう話は来年の4月以降だって言ったの蓮じゃないか。何故そう広めてまわりたがるかな。
「……はあ、まあそういうことになっています」
理玖さんの確認をとる視線を受けて頷いた。それを今更否定する気はない。婚約は解消しないって言われたし。
「あの小さかった伊織ちゃんに婚約者かあ。月日が経つのは早いわ。私にもいい人いないかしら」
「付き合っている人とか、いないんですか?」
理玖さんの好みってどんな人なのか気になり、つい話を繋げてしまった。
「残念ながら、今はフリーよ。ふふ、今日は何か大事な話があるんでしょう?私は厨房に下がっているからごゆっくり」
敏感に空気を察した理玖さんが、さっさと話を切り上げてくれた。そのまま言った通り厨房の方へと消えていく。
「はあ、なんか出だしから躓いた気がする」
悠斗がため息をつきながら言った。
「で?なんで生徒会長がここにいるのか教えてくれるわけ?」
「ああ、うん実はね」
「依緒里、俺から説明する」
そうだ、悠斗に説明しないと。そう思って口を開いたが、蓮にさえぎられた。
蓮は意味ありげに口角を上げ、悠斗に言った。
「妻が世話になった」
「は?」
いきなりの直球に、悠斗は反応できなかったようだ。そりゃそうだろう。
反して蓮はといえば、にやにや笑っている。悠斗の反応を楽しんでいるな、これは。
「改めて自己紹介しよう。俺は、朝比奈 蓮。今は鏑木 伊織と名乗っている、こいつの夫だ」
「え?夫って……はあ??」
見事なリアクションをありがとう、悠斗。目をぱちくりさせて蓮を見つめた後、こちらを向いた悠斗に、軽くうなずく。
「……旦那です」
「まじで?」
半信半疑の様子の悠斗にもう一度頷く。
「うん」
「生徒会長が?」
「そう、意外に近くにいたみたいで」
「いつから知ってた?」
身を乗り出して聞いてくる悠斗に、少し後ろめたい気持ちを覚える。
「思い出して、すぐ」
「まじかよー」
ごんっという音を立ててテーブルに突っ伏す悠斗。それを蓮は面白そうな顔で見ていた。
「お前、俺の事聞いていたんだろう?」
「……はい」
蓮の問いに、テーブルにへばりついたまま悠斗が答える。
「何てきいてた?」
「え?ヤンデレな旦那が多分転生してるって……」
「悠斗!!!」
「ほお?」
慌てて、悠斗を止めようとするも大失敗。隣からの冷気が痛い。
「依緒里、今里にずいぶんと面白い事を言ったみたいじゃないか」
「そそそそ……そうかな。何ていうかそう!!端的に一言で表してみたんだよ、うん」
「伊織、全然フォローになってねえぞ」
悠斗が小さな声でツッコミを入れる。うるさい、誰のせいだ。
「俺がヤンデレねえ?そんな大げさなことは何もしていないと思うけど?」
「ですよね!!はい、この話は終わり。さあ、皆私の入手した情報を聞くがよい!!」
さらに話を掘り下げてきそうな蓮をさえぎる。自分に不利な話をこれ以上続けたくない。
ぼそっと小さな声で、実行はしていないしなという蓮が怖い。実行していなくてもやろうとしていた事なら知っているんだよ、こっちは!!変なスイッチを押して実行されないように、先回りして危険なフラグを折りまくった昔を思い出す。
慌てふためく私をみて、蓮はこっそり耳元でささやいてきた。「あとでな」
さーっと血の気が引く音がする。後で何を言われるのだろう。
事の発端である悠斗を思い切り睨んでやる。いつか仕返ししてやると心に誓った。はっきり言おう。八つ当たりだ。
「悠斗、よくも余計な事言ってくれたね」
「……あー、なんていうか悪かった。つーか、あんたらが話している間にようやく事情が呑み込めてきた。つまり、生徒会長が伊織の前世の旦那って事なんだな?」
「そう。今日の放課後の予定はこれだったの」
「……成程な」
蓮をみて納得したように頷く。
「蓮も当事者の一人なわけだし、前世同盟に巻き込もうと思って連れてきた」
「確かにその方がいいだろうな、わかった。」
「で、私が聞いた話なんだけど……」
これ以上無駄話をしている時間もない。さっさと今日の本題にうつろうと、私は今までの話と今朝の夢の話を二人にした。
「……大体理解した。お前、また厄介なものに巻き込まれているみたいだな」
一連の流れを説明した後、蓮は少し考えるそぶりをみせてからそう言った。
「うう、やっぱりそうだよね」
「俺としては、伊織以外の転生が想定外だったということが地味にショックだ……」
悠斗が複雑そうな顔をしている。
「今里 悠斗なんていう結構厳しいキャラに転生して、実は無関係でしたっていうのは嬉しい反面、なんか納得いかない……」
「わかる気もするけど、ディアスエンド以外認めないとか言われる私の身にもなってよ。話だけだから分からないかもしれないけど、マスターってすっごい威圧感あって怖いんだから」
出来ればあまりお近づきにはなりたくないのだ。夢にでてくれば、確実にうなされて飛び起きるし、いいことなんて何もない。
「この世界がゲームの世界ではなかったというのもびっくりだよなあ」
「世界は1つじゃないらしいよ。ゲームの方が、こちらを模したものらしいから」
「未来視の内容がゲームになっているんだよな」
「そう言ってた。今は変わっているみたいだけどね」
隣の蓮は何か考え事をしているようなので、悠斗と思いつくままに話していく。
「ディアスが悪魔じゃなかったというのも驚いた」
「だよね」
「当然だろう。むしろ納得だ」
急に話に割り込んできた蓮に視線が集まる。考え事は終わったようだ。
「ゲームには悪魔という記述しかなかったから信じる以外なかったが、俺は最初から割と懐疑的ではあったな」
「蓮?」
中指でこつこつとテーブルを叩きながら蓮は話す。
「世界崩壊エンドをみて思っていたのだが、いくらなんでもそんなことができる存在を、単に悪魔と一言で片づけてしまっていいものなのか。もっと違う何かだと言われた方がよほど納得できる」
「ああ、まあ言われてみれば」
「でも、乙女ゲーですよ?そういうものだということで片づけてしまってもいいと俺は思いますが」
悠斗の言い分に私も頷く。実際よくあることだからだ。だが、蓮は首を振った。
「いや、今いるここがゲームの世界ではなかったという事実は無視できない。本当にゲームならそういうものだと一括りにしてしまっても良いのだろうが、現実世界だというのなら、全ての現象には理由が存在するはずだ」
「はあ」
蓮の言葉にうなずきながらも、よくわからないという顔をする悠斗。
じゃあ、ディアスって何者なのだろう。
思わず考えてしまったところに蓮の声が響いた。
「おそらくだが、ループ現象を起こすのは他でもないディアス自身だろう」
「「え」」
ありがとうございました。 次話につづきます。




