【随筆】 停電、そして雨漏り、そして引っ越し
短編と考えたんですが
これはエッセイというものらしく、大変反省してます
その日も、ただの雨だと思っていた。
雨はいつも物悲しく、そしてうるさい。
プラスチックでできた天窓に雨粒が当たると、パチパチと音が鳴る。
昼間は気にならないが、夜になると、静かなぶんだけよく聞こえる。
雨漏りも有害だ。
文字通り、害がある。
業者が言うには、雨漏りというものは簡単には直らないらしい。
数十万円をかけて工事をしてもらったこともあるが、結局、最後まで直らなかった。
年末には、防水工をしている旧友にも頼んだ。
「手伝うなら半額でいい」
と、彼はからかった。
私は即答したのを覚えている。
屋上とベランダにはグレーの防水材が敷き詰められ、雨をきれいに弾くようになった。
だが、それでも雨漏りは直らなかった。
コンクリートは、水を弾くように見えて、ゆっくりと水を吸う。
どこかから入り込んだ水は、壁や梁の中を伝い、入ってきた場所とはまるで違うところから部屋へ落ちてくる。
だから、雨漏りしている場所の真上を塞いでも、雨漏りは直らない。
天井から垂れてくる水は、湧き水とは正反対だった。
家の中の汚れを拾いながら、最後には畳へ落ちる。
バケツいっぱいの茶色い水を、何度も捨てる。
雨の日によく眠れないのは、そのせいでもある。
ただ、その日の雨は強かった。
そして暴力的だった。
パチパチと鳴る天窓は、その日に限って、誰かが外から入ってこようとしているような音を立てていた。
電気工事に多少明るい私は、漏電を警戒して、不要な回路のブレーカーを普段から落としている。
だが、雨がもっとも激しくなった深夜、漏電遮断器が作動した。
雨のせいだと思った。
窓から周囲の家を見る。
明かりはついている。
街灯も光っている。
つまり、地域の停電ではない。
うちだけだった。
電気がない。
PCも動かない。
部屋にある明かりは、向かいの家からこぼれてくる光だけだった。
眠れなかった。
家の中で聞こえるのは、天窓を叩く雨の音、水滴の音、そして自分の息の音だけだった。
夜が明けて、電力会社を呼んだ。
かいつまんで言えば、ブレーカーは五十年以上前のものだった。
作業員が珍しそうに写真を撮っていった。
私は電気関係には多少明るいつもりだったが、それでも、この家の配線はめちゃくちゃだった。
再度、敷設し直す必要があるという。
説明を聞きながら、なんとずさんな工事だ、と呆れた。
冷蔵庫の中身を片づけ、着替えて、銭湯へ向かった。
ただ温かいお湯が出ただけで、少し興奮した。
コンビニでライターと仏壇用の蝋燭を買い、家に明かりをつけた。
蝋燭の光というものは、思っていたより暗い。
部屋全体を照らすほどではない。
かといって近くに置けば、今度は光が強すぎる。
炎が直接視界に入ると、目がそこに明るさを合わせてしまい、かえって周囲が見えなくなる。
確か、ペットボトルに水を入れて光を拡散させる方法があったはずだ。
そう思い出したが、それは懐中電灯の光を拡散させる方法であって、蝋燭には意味がなかった。
結局、キッチンからボウルを持ってきて蝋燭を固定し、白いまな板に光を反射させた。
幸い、寒さや暑さを心配する季節ではなかった。
だが、冷蔵庫は別である。
冷凍庫のものはすべて溶け、水を吐き出した。
生ものも駄目になった。
電気屋が言うには、ブレーカーそのものを交換する必要があるらしい。
雨漏りがとどめを刺しただけで、原因は漏電ではなく、おそらく寿命だった。
何者にも、寿命は突然やってくる。
交換まで二週間。
しかも、知らなかったのだが、この家には一般家庭の三倍ほどの回路を持つ大型のブレーカーがついていた。
この家の以前の家主も、電気工事士だったそうだ。
そう聞いて、以前ここに掛かっていた表札の名字と、うっすら記憶に残っていた電気工務店の名前が重なった。
自分で作ったのだから、自分には分かったのだろう。
だが、あまりにも計画性のない配線だった。
どの線がどこへ行っているのか。
大量にある回路の一つ一つに何がつながっていて、何がもう使われていないのか。
今となっては、誰にも分からない。
雨漏りと同じだった。
どこから入ってきたのか分からない水。
どこへ向かっているのか分からない電線。
どちらも壁の向こうに消えていく。
だからブレーカーを交換するだけでは済まない。
大量にある古い回路を、一つずつ新しいものへつなぎ直す必要がある。
交換まで、二週間。
その間も、部屋に降る雨は止まらなかった。
五日ほど過ぎたころ、落雷があった。
あたりが暗くなった。
正確には、向かいの家から差し込んでいた光が消えただけだった。
街灯も消えている。
信号機も消えている。
今度は、本当に停電だった。
私は特に驚かなかった。
向かいの家の中では、いくつかの光が蝶のようにふらふらと動いていた。
住人たちが懐中電灯を手に、家の中を歩き回っているのだろう。
電池はすぐ切れる。
蝋燭が必要だ。
不幸なことに、近くのコンビニには、もう蝋燭はない。
申し訳ない。
明日には雨が上がる。
引っ越しを考えねば。




