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没にした剣士の話 メモ

一人の剣士の手のひらの中で包帯がたなびいていた。

血のにじんだ包帯は、やがて風にさらわれ、手のひらから旅立っていった。

高台に陣取った剣士たちは、腕や足に巻いた包帯と添え木を投げ捨て、静かに剣を抜いた。

腰の曲がった老魔法使いが、古い杖を掲げ、空に魔法陣を描いた。

呟くような詠唱に合わせて、風向きが変わる。

剣士たちは坂を駆け下りた。


その姿を、敵はただ遠くから見ていた。


同じ制服、同じ姿勢のまま、兵たちは魔導具を肩に揃えた。

細い閃光が一斉に走った。


最初に倒れたのは、詠唱を続けていた老人だった。

剣士たちも、坂を下りきる前に倒れた。



兜だけが一つ、坂を転がり落ちてきた。


風だけが、変わらず吹いていた。




広い草原の中、山を背に高い位置に築き上げられた城塞は、これまで落ちたことがなかった。

だが、城塞の周りには一つ、また一つと松明が灯り、その光は地平線まで届いている。

空はいつもよりも早く雲が流れていた。

共和国兵は、その光の下で、自分の武器の手入れをしながら亀裂の入った王国の城壁と雲を見上げていた。


城塞の中では髪が散らかった王が玉座にもたれ掛かり、ひどく肩を下げたまま、ぽつりとつぶやいた。

「もう七日目か…」

王の御前に、大きく磨き上げられた皿が運ばれた。蓋を開けると、小指ほどの腸詰が少し揺れて顔を出した。

そんな中、一人の白髪の将軍が机をたたきながら叫んだ。

「断固打って出るべきだ!」


彼は他の将軍に比べ少しばかり年齢が高かったが、鼻息は荒かった。

白髪の将軍が強く握りしめた手の中で、白い手袋が音を立てていた。

その傍らで長髪の将軍が皮肉をこぼす。

「跳ね橋を下げた瞬間攻め込まれるのがオチだ…」

「このまま飢えるよりましだ! たまには何か言ったらどうだ、剣士!?」

彼は最初からそこにいたが、誰も彼を見ていなかった。

彼は、膝に自分の剣を置き、手入れを続けていたところだった。

「…困ったな」

「確かに難しい局面ではあるが」

「うむ。やはり剣先がブレる」

「は?」

「目釘がへたっている。あとで替えたい」

「何の話をしている!」

王は、腸詰をフォークで転がしながら小さい声で語った。

「近衛剣士ハモン殿は、戦況をどう思うか」

ハモンは剣を鞘にしまい、立ち上がった。将軍たちの礼装とも、理術兵の制服とも違う。

古い近衛剣士の装いだった。

将軍たちに並べば若く、新兵たちに混じれば古参にも見える年頃だった。

「雨季は近い。山の向こうの雲なら、まだやれるかもしれん」

長髪の将軍が皮肉っぽくつぶやいた。

「敵が砂糖で出来ていればな…」

「…慣れない土地の雨は、意外と応える」

そう言い残すと、ハモンは部屋から出て行った。



長髪の将軍が、また皮肉を言おうと口を開いたが、白髪の将軍に睨みつけられ、言葉を呑み込んだ。

「剣の時代ならば、あれ一人で戦場の向きも変えられただろう。だが、相手はもう剣では来んのだ……」

王は腸詰をフォークで刺し、口に運んだ。

「雨が…降るか…」




城塞内の大聖堂に人々は集められた。

大聖堂の中央で祈りを上げる司祭を横目にハモンと将軍や側近、そして王は廊下の隅で撤退の準備を進めていた。

「敵はどこの城壁を壊した」

「ここと…ここだ」

「………どちらが手薄か。剣よ、道はどちらだ」

「こちらから出て、丘を登る方がよろしいかと」

長髪の将軍が割って入った。

「剣士殿、なぜ丘に?こちらの穴から下っていく方が安全だろう」

「敵もそう考える。登る道は手薄なはずだ。それに、負傷者を抱えては無理だ。滑る。」

「王だけでも別の道を行くべきでは?」

「よい。我々は丘を登る準備を急げ」

「御意」

一礼すると、長髪の将軍は離れていった。王は一つ息を吐いたあと、また肩が下がった。

「撤退はいつ始めればよいか」

「早い方がいい。俺は敵に向かうつもりだ」

「とんだしんがりだな」

二人は数日ぶりに少しだけ口角を上げた。

「ハモン殿」

呼び声に振り向くと一人の白髪の将軍が礼装で立っていた。

「敵は最上階を目指すだろう。そこで籠城して時間を稼ぎたい。王よ、許しをいただきたい」


王は少し目を細めたが、何も言わなかった。ただ、少しばかりうなずいた。


ハモンは礼装に着替え直した将軍を見つめ、小さく答えた。

「そうか……助かる」

「ご武運を」

「そちらこそ」


白い手袋が差し出された。ハモンはその手を取って硬く握手を交わした。

そして白髪の将軍は、数名を携えその場を去っていった。

ハモンはそれを見送ると周りの理術兵に語り掛けた。

「負傷者は荷物を置いていけ。逃げ切ることだけ考えろ」

城の者たちは脱出の支度を進めていった。







無役剣士  ~剣が不要になった世界で、最後の剣士はまだ役目を探している~にて削除した部分を記録として

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