戦闘のちエレノア
この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻及び、ジュニア文庫2巻も発売中です。よろしくお願い致します!
通販その他の情報は、活動報告をご覧になってくださいませ。
※書籍9巻の特典です※
◆書籍書き下ろしSS:『その雑草ホーリーにつき』
◆電子書籍書き下ろしSS:『クロス伯爵家の家令は見守りたい』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『いつか貴女に騎士の誓いを』
◆応援書店特典SS:『アンテナショップは「ぷるっちょ」と共に』
「ぐ……はっ!!」
「きゃああっ!!アーウィンッ!!」
「あ、兄上っ!!」
自分達を庇い、全身至るところに『邪神』の魔力が突き刺さったアーウィンの姿に、リュエンヌとベネディクトの口から悲鳴が上がった。
身体強化を施したのか、急所は全て外れている。
それでも、突き刺された箇所の一つ一つからおびただしい量の血が噴き出している上に、『邪神』の魔力が生き物のように蠢き、アーウィンの身体のその先にある、リュエンヌとベネディクトを貫こうとしているのだ。
「……ぐっ……!!」
突き刺さった『邪神』の魔力が蠢く度、アーウィンの表情が歪む。
だが、大精霊の血と魔力に阻まれているのか、『邪神』の魔力はアーウィンの身体を貫通出来ずにいた。
「おのれ!堕ちた神ごときが!!よくも私の息子を!!」
「――!!お止めください、母上!!」
激高したリュエンヌが、アーウィンを串刺しにしようとする『邪神』の魔力に、己が身に宿る『精霊力』の全てをぶつけようとする。……が、当のアーウィンがそれを制した。
「母上!今……貴女の力をここに集中させてしまった……ら、この場に居る大勢の仲間……達が犠牲になります!……勿論……シーヴァーも………」
怒りに我を忘れそうになっていたリュエンヌが、大切な息子の名を聞き、ハッと我に返る。
――……確かに、その通りだった。
今現在、リュエンヌが『光』の魔力と同等の力を持つ『精霊力』でもって、『邪神』の魔力に対抗し、フィンレーの攻撃を後押ししているからこそ、アシュルが自身の魔力を『癒し』に全振りする事が出来ているのだ。
もしここで、会場中に張り巡らしている『精霊力』をアーウィンに一点集中してしまえば、攻撃と防御の両方が疎かになってしまう。それがたとえ僅かな時間であったとしても、その一瞬で失われる命が出るのは間違いないだろう。
「アーウィン……!」
「……俺は……大丈夫……です。ですから、どうかこのまま……」
「……い……やだっ!!」
「ベ……ティ!?」
「だって……だって、このままでは兄上が……!!兄上が死んじゃう!!母上!!俺がもっと力を注ぐから!!だからお願いです!!兄上を助けて!!」
「狼狽えるな!!馬鹿者!!」
「――ッ!!」
厳しい口調で一喝するアーウィンに、ベネディクトの身体が竦んだ。
「……お前は……次期大精霊として、我がヴァンドームの領民を……そして、アルバ王国の民を守っていかねばならないんだ。なのに……そんな無様を晒して、どう……する……!?」
「兄う……」
もはや言葉が続かず、ポロポロと涙を溢しながらしゃくりあげるベネディクトの姿に、アーウィンはぎこちなく苦笑を浮かべながら、そっと優しく頭を撫でる。
「……海の男だろう?……泣くな」
「……あ、にうえ……!!」
その時。静かだが鋭い詠唱が上がった。
「深淵の闇よ。我が名我が魂をもって、邪悪なる者に永劫の滅びを与えよ。『終焉の祈り』」
詠唱と共に、『闇』の触手がアーウィンに突き刺さっている『邪神』の魔力へと絡み付く。するとその瞬間、『邪神』の魔力は砂のように崩れ落ち、存在自体が塵のようになって消えていく。
「うわっ!あ、兄上!!」
「アーウィン!!」
自身を貫かんとしていた楔が消えた瞬間。アーウィンの身体は、リュエンヌとベネディクトの上へと崩れ落ちてしまう。だが、そんな彼の身体を再び刺し貫かんと、『邪神』の魔力が四方八方から襲いかかった。
「紅蓮の炎よ!我が剣に宿りて爆炎となり、敵を滅ぼせ!!」
「空と大地を渡りし自由の風よ、我が手に集いて敵を切り裂け!!」
ディランとリアムの詠唱と共に、『火』と『風』の複合魔術が『邪神』の魔力を灰燼に帰した。
「ディラン君!リアム君も……!!」
「殿下方……!!」
「カメ!!ヴァンドームの末っ子!!呆けていないで、集中しなよ!!僕もいつまでもそっちにかまけていられないんだからね!?……アシュル兄上!!」
「ああ、分かっている!出血だけは僕が止める!!セドリック!!君はアーウィンの治癒に全力で当たれ!!ジルベスタはセドリックの代わりに僕の護衛を!!」
「「御意!!」」
アシュルの指示に従い、セドリックはアーウィンへと駆け寄ると、すぐさま『土』の魔力で治癒を始めた。……だが。
「……失った血が多過ぎて……僕の魔力が浸透していかない……!?」
四大元素魔力の中で、『土』の魔力は他の魔力属性との融和性が群を抜いているとされている。その為、『土』属性の魔力を持つ者は優れた治癒師である事が多く、例に漏れずセドリックもまた、治癒師として突出した才能を持ち合わせていた。
……だがそれでも、弱り切った別属性との同調は困難を極める。
ましてや、アーウィンは大精霊であるリュエンヌの血を継いでいる。皮肉にもそれが、セドリックの魔力との同調を妨げる最大の要因となってしまっているのだ。
「……ぅ……っ」
「――ッ!アーウィン殿!!どうか意識を落とさないでください!!少しの間だけでも構いません!!僕の魔力を受け入れて!!」
出血多量により、意識が混濁しているアーウィンに対し、セドリックは必死に呼びかけ続ける。
『……兄上……!!』
そんな中。兄を心配するあまり、ともすれば乱れてしまいそうになる心を必死に宥めながら、ベネディクトはリュエンヌへと自分の魔力を注ぎ込み続ける。
この絶体絶命の緊迫した中。兄を救う為に動いてくれた王家直系達に報い、この場の全ての人達を守る為。そして瀕死状態の中、次期大精霊としての誇りを自分に説いた兄の為に。
――そんな時だった。
この場の全てのものの命を奪わんと、荒ぶり続けていた『邪神』の魔力が、突然ピタリと動きを止めた。
「――なにっ!?」
「こ……れは……!?」
突然の事に、誰もが身構える中、『邪神』の魔力はまるで感電したかのように激しく震え始める。
「な……っ!?『邪神』の魔力が……黒から白に変わっていく!?」
ディランの言葉通り、『邪神』の深淵のような漆黒の魔力が白く染まっていくと、まるで大気に溶けるように次々と消滅していった。
「……ッ!?」
「な……」
あまりの展開に、敵も味方も共に呆然とする中、いち早く我に返ったアシュルが「敵を殲滅せよ!!」と号令をかける。それにより、取り残された形となった刺客達は、なすすべもなく次々と討ち取られていった。
そうして全ての敵を倒した後、大聖堂の中に静寂が満ちる。だが、誰もが今現在の状況に戸惑い、警戒を解く事無く周囲の様子を伺っていた。
「……マロウ。こちらの被害状況は?」
アシュルの静かな問い掛けに、いつの間にか傍らで膝を突き、首を垂れていたマロウが口を開いた。
「残念ながら、何名かの学生や教職員及び多数の『影』が犠牲となっております。また、ダリウス様も負傷されたご様子です」
「大叔父上が!?」
「はい。ですが、命に別状は無いとの事。今現在、付き従っていた『影』達と共に、こちらに向かっておられるそうです」
「……そうか……」
ホッと詰めた息を吐いた後、改めて周囲を見回してみる。すると、戦死した仲間の亡骸を前に涙する者達や、沈痛な面持ちで負傷者を介助する者達の姿が目に飛び込んできた。
「――ッ……!!」
その光景に、アシュルはきつく拳を握りしめ、沈痛な面持ちで唇を噛み締める。だがその一瞬後。一切の揺らぎを見せぬ冷静沈着な王太子の仮面をかぶり、マロウへと視線を向けた。
「マロウ」
「はっ!」
「お前は生き残った『影』達と共に、周囲の探索を。同時に、大叔父上をここにお連れしろ」
「御意」
その言葉と共に、マロウの姿は掻き消されたようにその場から消えた。
「アシュル。これは……一体、どういったことなのか分かるか?」
クライヴが周囲を警戒しながらアシュルへと問いかける。それに対し、アシュルは緩くかぶりを振った。
「……いや。恥ずかしながらサッパリだ。……だが、急に消えた『邪神』の魔力。あれはひょっとすると、次なる攻撃に備えた、なにかしらの作戦なのかもしれない。……引き続き、警戒は解かないでおくとしよう」
「そうだな」
「だが、まずは……!!」
アシュルはセドリックが必死に治癒を施しているアーウィンの元へと駆け寄る。
「――ッ!」
そこには、顔面蒼白な状態で床に横たわり、ピクリとも動かないアーウィンと、そんな彼を沈痛な面持ちで見つめるリュエンヌ、ベネディクト、シーヴァーの姿があった。
「セドリック!状況は!?」
「アシュル殿下!!……出血が多すぎました。今はもう、意識が完全に無くなってしまっております。鼓動も……いつ止まるか……」
その言葉を聞き、アシュルは顔を曇らせると、自身の背後に控えていたクライヴを振り返る。
「クライヴ!彼の身体を横向けに!いいか、そっとだぞ!?」
「――ッ!ああ、了解だ!!」
アシュルは目の前に晒されたアーウィンの背中から全身に至るまでを、くまなく見回した。
『深部の傷はほぼ塞がっている。出血もしていない。だが、生命維持に必要な血と魔力が圧倒的に不足している。急いで『光』の魔力を注ぎ込まなくては、遠からず彼の命は潰えてしまう!』
そう判断すると、アシュルは再び仰向けに寝かせたアーウィンの胸元に手を当て、『光』の魔力を注ぎ込み始めた。すると、先程まで死人のようだった顔色にほんのりと赤味が差していく。
『……だが。仮死状態の人間を完全復活させるには、今の僕の魔力量ではギリギリかな?』
今後、帝国側がどのような行動に出てくるのか分からぬ今、『邪神』に対抗する力は出来るだけ温存しなくてはならない。だがその為に、死に掛けているアーウィンを見捨てるという選択肢は、自分には無かった。
『ん?』
視線を感じ、チラリとリュエンヌへと視線を向けると、何かもの言いたげな表情でこちらを見つめていた。
『あの方も……。精霊らしからぬ方だな』
精霊とは本来、世界の理や己の我欲を最優先する存在だ。
だが、彼女は半分人間である。しかも、愛する番も人間。それゆえ、その感覚は限りなく人間に近い。
彼女も、自分の大切な息子の命と今後の戦いを左右する抑止力の温存。その選択肢の狭間で揺れているのだろう。
『さて……。どうしようか……』
ディランやフィンレー達、そして周囲の学生や教師達も、心配そうな表情を浮かべながらこちらに集まってくる中。突然アシュル達の頭上に黒い空間が開いた。
「――ッ!?何だ!?」
「まさか……!『邪神』が再び……!?」
全員が一斉に獲物を構える中、フィンレーが黒い空間を見上げながらポツリと呟いた。
「……転移門?なんで?」
「え!?」
すると間髪入れず、そこからドサドサドサッと、三つの人影が落っこちてきた。
「きゃあっ!!」
「うわっ!」
「おっと」
その内の二つは、綺麗に受け身を取りつつ空いている場所に着地を決める。……が、もう一つはなんと、咄嗟にアーウィンを庇ったアシュルの背中に落っこちてきたのだった。
「――うぐっ!?」
「ア、アシュルッ!?」
いきなりの衝撃に、思わず呻き声を上げたアシュルの耳に、「……あれ?痛くない!?」と、聞き慣れた能天気な声と共に、「はぁっ!?お、おま……っ!!?」という、クライヴの素っ頓狂な声が届いた。
慌てて自分の背中に目を向ける。……すると、その先にいたのは……。
「エ、エレノア!?」
そこには、自分の背中で正座をしている、愛しい少女の姿があったのだった。
本日はところにより、エレノアが降るでしょう。
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
評価して頂けるとモチベに繋がります!
次回更新も頑張ります!




