異界の女神の置き土産
この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻及び、ジュニア文庫2巻も発売中です。よろしくお願い致します!
通販その他の情報は、活動報告をご覧になってくださいませ。
※書籍9巻の特典です※
◆書籍書き下ろしSS:『その雑草ホーリーにつき』
◆電子書籍書き下ろしSS:『クロス伯爵家の家令は見守りたい』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『いつか貴女に騎士の誓いを』
◆応援書店特典SS:『アンテナショップは「ぷるっちょ」と共に』
「…………」
「…………」
こちらを驚愕の眼差しで見つめているアシュル様。そして、アシュル様の背中で正座しながら、無言で見つめ合う私。
――って、ちょっと待って!!
『邪神滅殺!悪霊退散!!』を掲げ、殺る気……いや、やる気を滾らせ、決死の覚悟でこちらに転移してきたっていうのに、なんなんですかこの状況は!?
……あれ?そういえば、その当の『邪神』は?なんかやけに静かなんですけど!?確か皆、『邪神』とガチバトル中だった筈だよね!?
「……やあ、エレノア。どうせなら背中とかじゃなく、仰向けで寝ている時に乗っかってきて欲しかったかな?」
「――ッ!!?」
状況を把握出来ないでいる中、サラリと言われたトンデモ発言に、ボフンと顔から火が噴き、ピョンと身体が跳ねてしまった(バウンドした直後、小さな呻き声が聞こえてきましたが)。というか、そもそも何で、アシュル様が四つ這いになってるの!?
『ん?』
疑問に思ったと同時に、アシュル様の身体の下に誰かがいるのに気がついた。
「――ッ!!?」
覗き込んだ瞬間、火照った顔から血の気が一気に引いてしまう。何故ならそこには、青白い顔色で横たわっているアーウィン様の姿があったからだ。
「アーウィン様!!」
慌ててアシュル様の背中から飛び降りると、床に両膝を突いてアーウィン様の顔を覗き込む。すると呼吸が驚く程浅く、意識が全くない状態である事が分かった。
「エレノア……!」
名を呼ばれ、顔を上げるとアシュル様の横に、心配そうに顔を顰めたクライヴ兄様が立っていた。
「クライヴ兄様!!」
「お前……。なんかボロボロだな。痛いとこないか?」
プルプルと頭を左右に振ると、クライヴ兄様がホッと顔を綻ばせる。でも、当のクライヴ兄様の方が全身ボロボロで、更に無数の傷を負っている。気が付けば、同じく安堵の表情を浮かべているセドリックやリアム達もボロボロ状態だった。
そこでハッと気が付き、急いで周囲を見回してみる。
すると目に入ってきたのは、激しく損壊した大聖堂の惨状。散乱する瓦礫。兄様達同様、全身ボロボロな上、大なり小なり怪我を負っている人々。……そして床に横たえられ、全身にローブをかけられ並べられている……亡くなったのであろう人達の姿。
「……ッ……!そんな……!!」
身体が小刻みに震え出す。この惨状を見るだけで、どれだけの死闘が繰り広げられたのかが嫌でも想像する事が出来た。
「エレノアちゃん!!」
「わっ!!」
その時だった。白いカメ(奥方様)がシュバッと飛んでくると、パニック状態になりかけていた私の胸にビタッと張り付いた。
「――ッ!お、奥方様っ!?良かった!無事だったんですね!?」
「ええ!貴女もね!!オリヴァー君も他の皆も……生きていて良かったわ!!」
互いに喜びの抱擁(?)を交わした後、奥方様が切羽詰まった表情を浮かべながら私を見上げた。
「早速だけど、エレノアちゃん!!お願い、アーウィンを助けて!!」
その声にハッとなり、慌ててアーウィン様の方へと視線を戻す。
「ううっ……!わ、私とベティを庇って……全身を『邪神』の魔力に刺し貫かれて……!!」
奥方様の綺麗な青い瞳から、ポロポロと真珠のような涙が……あ、床に落ちてカランコロン音が鳴っている。真面目に真珠だった。流石は大精霊!……って!そんな事言っている場合じゃない!!アーウィン様、そんな重傷を!?……でも見た感じ、刺し傷が見当たらない。
「……って事は、背中を損傷しているの!?」
「そうだよエレノア。僕も全力で治癒しようとしたんだけど……。大量出血してしまったアーウィン殿と魔力の同調をする事が出来なくって……」
「不甲斐ない事に、僕も先の戦闘で魔力がだいぶ少なくなってしまってね。ひとまず延命措置をする事は出来たんだけど、これ以上癒す事が出来なかったんだよ」
セドリックとアシュル様が、そう言いながら辛そうな表情を浮かべる。セドリックに至っては、背後にしょぼくれて耳をペタリと伏せたレトリバーの幻覚が見える。というか、『邪神』許すまじ!!何故か今現在ここにいないけど、こうなったらワンパン百発は入れないと気が済まない!!というか、絶対に滅す!!
「エレノア嬢!!どうか、アーウィン兄上を救ってください!!」
「エレノア嬢!私からもお願いします!!どうか……!!」
見れば、奥方様同様。目にいっぱいの涙を浮かべているベネディクト君と、沈痛な面持ちのシーヴァー様が、必死な形相で私を見つめていた。そうだ!諸々の感情はさておき、まずは瀕死状態となっているアーウィン様をなんとかしなくては!!
「分かりました!!不肖エレノア、全力で頑張ります!!」
私はその場で両手を組むと瞼を閉じ、『満開になぁれ!!』と全力で祈った。
「おおっ!!」
「こ、これは……っ!!」
周囲から感嘆の声が上がった。
瞼を開けると、眩い光がアーウィン様を包み込むのが見えた。そしてその光は形を変え、ペンポポスミレとなって一体の花人形を形成していく。
「――ッ!!アーウィンの魔力が感じられるわ!!」
「はいっ!!兄上の魔力が明らかに増えていっています!!」
「ああ……!私の聖女よ。感謝いたします!!」
ヴァンドーム家の方々からの、心からの喜びの声にホッと胸を撫で下ろす。
あ、「シーヴァー殿。エレノアは貴方の聖女ではありません」って、いつのまにやら私の傍に立っていたオリヴァー兄様が、シーヴァー様にツッコミ入れている。しかもクライヴ兄様が、「お前……。無事でいてくれて本当に良かったけど、こんな時ぐらい万年番狂い休めよ」って、オリヴァー兄様にツッコミ入れている。……クライヴ兄様。ごもっともなツッコミ有難う御座います!
「うわっ!」
「おおっ!!」
「こっ、これは……!!」
「……え?」
周囲の驚愕の声に、慌ててアーウィン様の方へと視線を戻す。すると、なんとペンポポスミレがそのまま、アーウィン様を中心に床一面花畑にしていっている。……なんか既視感……。
しかも、ペンポポスミレは床だけでなく、その場に居た全ての人達の身体にも次々と芽吹いていく。
傍らにいたクライヴ兄様やセドリック、そしてディーさんやリアム、シーヴァー様やジルベスタ様までもが、次々と花まみれになっていく。オリヴァー兄様は、見た目こそボロボロだけど、既に治癒済みなので花は咲いていない。勿論、イーサンも。
あ、「済みません。俺は戦っていないもので……」って、一本も花が咲いていないベネディクト君が恥ずかしそうにしている。
大丈夫だよ、ベネディクト君!ベネディクト君は違う戦い方をしていただけなんでしょう?だから落ち込まないで……って、あれ?ベネディクト君の胸元にポンポポン!と、ペンポポスミレが咲いた!……奴ら、ひょっとして空気を読んだのかな?
あっ!マテオ発見!モコモコの花まみれになっている!今迄頑張ったんだね。しかも頭部にタンポポの花冠が!!……うん。知ったらいつもみたく怒るだろうから、気が付くまで黙っていよう。
「お、おいっ!こいつ、息を吹き返したぞ!!」
「こっちもだ!!一分の隙も無く花まみれでよく分からんが、胸が上下している!!」
「さっきまで、死に掛けていたってのに……奇跡だ!!」
「ああっ!!聖女様!!」
わあっ!と、あちらこちらから歓声が上がっていく。そうしてこの場にいる人達が次々と、歓喜の表情や感動の涙に濡れた顔をこちらに向け、片膝を突き祈りだす。どうやらアーウィン様だけではなく、今まで死んだと思われていた人達が息を吹き返したりしているらしい。
『よ、良かった……!!』
勿論全員ではなく、蘇生が間に合った人達だけなんだろうけど……。でもこうして、一人でも多くの命が助かってくれているのならば、もっともっと頑張って……。
「いや、エレノア嬢。これ以上頑張る必要はない」
「右に同じく。いつ戦いが再開するか分からんのに、これ以上動きづらくなるのは不味い」
ああっ!学院長様!!そしてクライヴ兄様!!顔以外、おもいっきりペンポポスミレでモッコモコですよ!?しかもディーさんまで!!フィン様相手に「お前、服がタンポポ柄になってるぞ!」って揶揄っている場合じゃありませんって!!セドリックとリアムは……。程よいモコモコ加減。学生達も教職員も騎士や『影』の皆さんもモッコモコ!
……なんだろう。皆が前世のネイチャー番組で見た、ペンギンの群れのように見える。なまじ全員が絶世の美形なもんだから、ギャップが半端なくえぐいんですけど!?
「皆様方、ご安心を。エレノアお嬢様の御力により、この場は『聖域』となっております。ですので今暫くは……少なくとも、皆様方の傷が癒えるまでの間は悪しきモノは侵入出来ないでしょう」
イーサンがドヤ顔で眼鏡のフレームを指クイしながら、自信満々に言い切った。
頭に小さな可愛いタンポポを生やしている奥方様も「その通りね!それに、皆も『聖女』の魔力を直接纏っているから、たとえ『邪神』が襲ってきても今なら安心よ!」と太鼓判を押してくれた。なんと!見た目はペンギンプロテクターだけど、やるな!ペンポポスミレ!!
「エレノア、有難う。君のおかげで僕も皆も一命を取り留めたよ」
あ!アシュル様の頭、タンポポが王冠形に咲いている!!しかも、クライヴ兄様やディーさん達。いつもだったら腹抱えて爆笑しているところだというのに、肩を小刻みに震わせながら、なるべくアシュル様の方を見ないようにしている。うん、流石に空気を読んでいるようだ。
し、しかしこれって、ペンポポスミレが王太子であるアシュル様を気遣ったの!?それともただ単に揶揄っているだけ!?ねえ、どっちなの!?
「アシュル殿下、お聞かせ願いたい。何故今ここに、『邪神』がいないのですか?」
オリヴァー兄様。アシュル様のタンポポ王冠は綺麗にスルーですか。でも確かに、私もそっちの方が凄く気になります!
「ああ。それについてなんだけど、僕達にもよく分からなくてね。……実は……」
アシュル様の説明によると、力を増した『邪神』の圧倒的な力により、絶体絶命の状態に陥ってしまったのだそうだ。そして、アーウィン様が瀕死の重傷を負った後、突然『邪神』の魔力が次々と白くなって崩れ去ったのだという。
『そうそう。諸悪の根源に、少々置き土産をくれてやるとしようかの』
フッと私の脳裏に、天照大御神様が最後に言い残した言葉が浮かんだ。……ひょっとして大御神様。『彼女達』の負の感情の代わりに、自身の神力を送った……とか?
「エレノア?」
「あの……ひょっとしたらなんですけど……」
私は『嘆きの霊園』であった今迄の事と、天照大御神様のお言葉について、なるべく簡潔にアシュル様方へと説明したのだった。
エレノアがいると、途端あらゆるものが緩む不思議。
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