一筋の光
この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻及び、ジュニア文庫2巻も発売中です。よろしくお願い致します!
通販その他の情報は、活動報告をご覧になってくださいませ。
※書籍9巻の特典です※
◆書籍書き下ろしSS:『その雑草ホーリーにつき』
◆電子書籍書き下ろしSS:『クロス伯爵家の家令は見守りたい』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『いつか貴女に騎士の誓いを』
◆応援書店特典SS:『アンテナショップは「ぷるっちょ」と共に』
「おおっ!!」
「大精霊様……!!」
絶体絶命の中、突然参戦した白いカメ……いや、大精霊の姿に、その場で戦う全ての者達の心に一筋の光が差す。そんな彼らを鼓舞するように、リュエンヌは澄んだ声で言い放った。
「あちらでは、エレノアちゃんもオリヴァー君も頑張っているわ!彼らがこちらに来るまでの間、私達も全力で踏ん張るわよ!!」
「大精霊様!!エレノアは……オリヴァーは無事なのですか!?」
弟妹達の名に、真っ先に反応したクライヴは声を張り上げながら、彼らの安否をリュエンヌに尋ねる。
その間にも、『邪神』の分身たる黒い魔力がアシュルに次々と襲い掛かってくる。
「――ッ!邪魔だ!!……我が名我が魔力に宿れ『氷結の息吹』全てのものに白銀の死を!!」
詠唱と共に自身の魔力を宿らせた刀を振るい、『邪神』の魔力を次々と粉砕していく彼の全身には、『邪神』だけでなく、その間をすり抜けるように攻撃を仕掛けてくる帝国の刺客達により負った傷が幾つも見て取れた。
「……エレノアちゃんは無事よ。少なくとも、私が『こちら』に戻る前まではね。でもオリヴァー君は……。かなり、厳しい状況だったわ」
「……ッ……!……そう……ですか」
リュエンヌの口調と言葉に、クライヴは苦し気に顔を歪めた後、唇を噛み締めた。だがそれ以上言葉を発する事無く、再び戦いに集中しだす。
そして、二人の会話を耳にしたアシュルやディラン、フィンレーも、エレノア達についてリュエンヌを追求する事なく、今目の前にある脅威に対峙していた。
そんな姿を目にしながら、リュエンヌは心の中で小さく溜息をついた。
「……母上……」
自分の許に駆け寄ってきた後、気遣わし気に声をかけてくるベネディクト。彼もまた、自分の愛する少女の安否について問いただしたい気持ちをグッと抑えているのが分かった。
『……「エレノアちゃんは大丈夫」って言えたら、どんなに良いか……。でも、そんな口先だけの慰めを口にするなんて、この子達にとっても、あちらで頑張っているエレノアちゃん達にとっても失礼な事だわ!』
自分の言葉を受け、クライヴやアシュル達が察したように、エレノア達の状況はこちらと差がない程の危機的状況だった。
転移者達の魂は再び荒ぶり、エレノアが必死に祈って浄化しようとしても、鎮まる気配は無かった。その『負』の力がどれ程『邪神』に流れてしまったのか……。その答えは、今のこの状況が物語っている。
『邪神』の加護を得たであろう第四皇子の力は、ここが彼の陣地である事を差し引いても凄まじく、オリヴァーに致命傷を与えるに至った。
しかも、身体能力において他種族の追随を許さぬ獣人達を捨て駒として使役していた為、オリヴァーのみならず、バッシュ公爵家の最高戦力であろう家令とその右腕までもが苦戦を強いられてしまっていたのだ。
だがそんな状況の中、エレノアは自分をこちら側に戻そうと必死に説得してきた。そして、力強い口調で『祈りに入る』と告げたのである。
――『浄化』ではなく『祈り』
つまり、エレノアには何か秘策があるという事なのだろう。それが一か八かの賭けであったとしても。
『……それに、エレノアちゃんのあの時の目……』
自分を真っすぐ見つめていた、あのインペリアルトパーズのような美しい瞳。
キラキラと輝く二つの輝石。その中には、明確な決意と覚悟が見て取れた。……そう。彼女は決して自棄になった訳でも諦めた訳でもなかった。だからこそクライヴ達を助ける為に、己の安全を顧みる事無く大精霊である自分をこちらに戻そうとしたのだ。
思えば、彼女は常に周囲の常識を覆すような行動や方法で、幾つもの窮地を乗り越え、絶望的な状況を変えていった。
それは、女神様の愛し子と言われる『転生者』だからこその御業なのか。……それとも……。
『……いいえ、違うわね。多分それは、「エレノアちゃんだから」なんだわ』
婚約者達や自分の息子達の、美しさや鍛え上げられた身体には卒倒するぐらい初心で弱いくせに、いざという時は思いもよらない啖呵を切って突っ走る。自分を溺愛している男達に主導権を握られているようで、いつのまにやら手玉に取って翻弄している。
大精霊であろうと平民であろうと、相手の立場で態度を変えたりしない。そして、本当は誰よりも守られるべき立場であるのに、いつでも他人を助けようとして傷付いている。
「母上」
ベネディクトが自分に向かって両手を広げる。
その意図を汲み、愛息子の胸元にポスリと収まった。
「ベネディクト、私と同調して。私を通して貴方の魔力を使わせてもらうわ!」
「はいっ!!」
ベネディクトは目を瞑ると、青白く輝く魔力……『精霊力』を自分へと注いでいく。すると、ベネディクトの耳が青く半透明な人ならざるものへと変化していった。
それは大精霊だけが持つ、海の守護者たる証。……けれども、『男性至上主義の強硬派筆頭』というヴァンドーム公爵家の立ち位置を守る為、自身の出自を伏せた結果、長男であるアーウィンの元婚約者やベネディクトの元婚約者。そして、本家に仇なす家門の者達に『母親の卑しい血を持つがゆえに、精霊の呪いを受けた』と見下され、嫌悪されてきたのだ。
その結果、ベネディクトは親しい者達以外……特に女性に対し心を閉ざすようになってしまったのだった。
……だがそんな中。彼はエレノアと出会い、変わっていった。
『あの頑なだったベネディクトの心を、エレノアちゃんは溶かしてくれたわ……』
その上、癖のある愛息子達全ての心を虜にしてしまったのだ。勿論、自分もアルロもエレノアの事を娘のように思っている。将来的には本当の娘になってもらえるよう、息子達には全力で頑張ってもらう予定だ。
リュエンヌは、エレノアの屈託のない太陽のような笑顔を思い出しながら、クスリと笑いながら思った。エレノアが今この時、この世界に『転生者』として生を受けたのは、間違いなく女神様の采配だったのだろうと。
『だからこそ、大丈夫!エレノアちゃんはきっと、やり遂げてくれているわ!!』
それは期待ではなく、限りなく確信に近い信頼。そして自分もまた、エレノアから託された彼女と自分の大切な者達を守る為、全身全霊己の魂を捧げてでも戦い続ける覚悟だ。
リュエンヌと、リュエンヌを抱き締めているベネディクトの身体から、眩い光が立ち昇る。そしてそれらは、建物を突き破り、襲い掛かって来る『邪神』の虚無のような漆黒に纏いつき、消滅させていった。
「――ッ!大精霊様!感謝いたします!!」
リュエンヌの『精霊力』という援護射撃を受け、アシュルは攻撃に回していた分の『光』の魔力を『癒し』に全振りする。それにより、重傷を負って動けなくなった者や、瀕死の重傷を負った者達が、次々と回復していった。
「フィンレー!お前は引き続き、『闇』の力をもって『邪神』を攻撃するんだ!セドリックとリアムは僕の護衛に!!クライヴとディランは僕の護衛から外れ、フィンレーを集中して守れ!!そして、アーウィンにジルベスタ!大精霊様とベネディクトの護衛に当たれ!!」
「御意!王太子殿下!!」
「うん!分かった兄上!!」
名指しで護衛に指名されたセドリックとリアムが、アシュルの傍へと駆け寄る。……そして……。
「フィンレー殿下!お辛いでしょうが、ここが踏ん張りどころですよ!!」
「そうだぞお前!ちっとは体力ついたんだから、ヘロってねぇで男を見せろよ!?」
「うるさいな!!そんな事、言われずとも分かっているよ!!」
クライヴとディランに発破をかけられ、荒い息を吐きながらこめかみに青筋を立てたフィンレーが、次々と『邪神』の魔力を枯らし消滅させていく。
だがそんな中。広範囲による『邪神』の魔力攻撃に加え、御し易いと踏んだのであろう。年若い学院生達が大量の刺客達に集中攻撃を加えられてしまう。
「……ふ……。流石は『邪神』とその手下。なんとも汚く卑怯な連中ですね」
そんな絶体絶命の危機に瀕した教え子達を守る為、盾となり戦っていたシーヴァーを助太刀していたアーウィンとジルベスタは、アシュルからの指示にすぐ対処出来ずにいた。
「――ッ!!」
「きゃあっ!!」
すると、まるでその隙を突くかのように、『邪神』の魔力がリュエンヌの『精霊力』を破壊しながら二人に向かい、次々と襲い掛かる。
「母上!!ベティ!!」
「アーウィン!ここは私がシーヴァーと共に抑える!!お前は今すぐ大精霊様の元に!!」
「ジルベスタ!感謝する!!」
アーウィンが身を翻し、二人の元へと駆けていく。そして、自身の魔力を練り上げ盾としようとした。……が。
『間に合わない……!!』
アーウィンは魔力を身体強化に回すと、光の速さで母と弟の元へと駆け付ける。そして自身の身を盾とし、二人に覆いかぶさった。
「アーウィンッ!!」
「兄上ッ!!」
リュエンヌとベネディクトの悲鳴と共に鈍い音が響き、鮮血が飛び散った。
絶体絶命のピンチがこちら側でも…!!
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
評価して頂けるとモチベに繋がります!
次回更新も頑張ります!




