皆の元へと!
※後書きに、今後についての注意事項が御座います。
「お任せください、オリヴァー様。大精霊様が残してくださった『道』を使えば、『黒城』へと向かう事が可能です」
……そう。次に向かう戦いの場は、文字通り敵の牙城たる『黒城』だ。
不安が無いと言えば嘘になる。
でも、大切な人達を守る為。そして、これ以上の悲劇の連鎖を防ぐ為。全ての元凶である『邪神』を倒すんだ!!
「……よしっ!!」
私は決意を新たに、グッと腹に力を込め気合を入れた。
「……ティル」
徐に、イーサンは、自分の背後に控えるティルへと向き直った。
「貴方はハーゲンと共に、彼の奥方であるチェルシー殿と娘のゼフ嬢を守りながら、この場の対応の指揮を執りなさい」
「……了解っす」
イーサンの言葉に対し、ちょっぴり不満そうではあるものの、ティルは素直に頷いた。というか、『この場の対応』って?
「お嬢様。異界の女神様が『彼女達』と共に、『贄として縛られていた他の迷い子達の魂』をも連れていかれたのはご存じでしょう?」
「う、うん」
そうだ。確かに天照大御神はそう仰っていた。
この『嘆きの霊園』に打ち捨てられるように埋葬されていた『彼女達』と同じく、異世界から連れてこられたであろう膨大な犠牲者達の魂も一緒に連れていくと。
『そういえば……。あの時は深く考えなかったけど、何故「彼ら」は「彼女達」と同じく、この地に埋葬されなかったんだろう』
私の疑問を読み取ったのか、イーサンが眉根にきつく皺を寄せながら、眼鏡のフレームに指をあてた。
「女神様のお言葉を聞いた瞬間、長年抱いていた疑問が解けました。……お嬢様。『帝国』として築かれたこの北の果ての大地は、文献によれば魔力汚染と永久凍土に覆われた不毛の地であり、浄化される前の『嘆きの霊園』のように、本来人の住めるような場所では無かったのです」
「えっ!?」
そんな……。『彼女達』が怨霊化していた時のあの状況が、本来の帝国の姿だったって言うの!?
「その通りです。いくら強大な力があろうとも、自分達だけで国全体を改良するには限界があった。……それゆえ、帝国の王侯貴族達は『邪神』に導かれるがまま、『異世界人召喚』を行った後、自分達が望むだけの魔力が無い者や、男性の異世界人など。不要と断じた『異世界人』達の魂を文字通り贄とし、不毛の地を実り溢れる豊かな土地へと変えていったのでしょう」
「そんな……。そんな事って……!!」
「なんて事を……!!下種共が……!!」
オリヴァー兄様が、怒りに顔を歪めながら吐き捨てるように呟く。私も帝国の……いや、『邪神』のあまりの非道ぶりに唇をきつく噛み締めた。
でも天照大御神の力により、『人柱』としてこの国に縛られていた人達の魂は、この地から解放された。それに伴い、『彼女達』が浄化された事により、邪神に流れる『負』の感情をも断ち切る事が出来たのだ。
「本当に、良かった……!」
私は改めて胸を撫で下ろす。……けれども対照的に、イーサンの表情は厳しいままだった。オリヴァー兄様も何かに気が付いたように、その顔色を変えた。
「……オリヴァー兄様?イーサン?」
「……お嬢様。帝国は十三年前から、『異世界人召喚』を行なう事が出来なくなりました。その結果、新たなる『贄』の供給がなくなった土地は痩せ、疫病や自然災害が続くようになった。……そしてとどめのように、国全体に縛り付けられていた『異世界人』達の魂が消滅してしまったのです。……今この時をもって、帝国は元の不毛な大地へと戻り、無理に歪められ、押さえつけられていた災厄が、一気にこの国を覆い尽くす事となったのです」
「――ッ!?」
ふと何処かしらか、地鳴りのような音が聞こえてくる。空を見上げてみれば、遠くの空がどす黒い色に覆われていた。
……え?待って、という事は……つまり……。
「……そう。遠からず、この帝国で生きていた膨大な数の人間が災厄の犠牲となるだろう。その結果、膨大な『負』の感情が溢れかえる事となるんだ」
「……ッ……!」
オリヴァー兄様の言葉に、背筋に冷たいものが流れ落ちる。
つまりそれは、『彼女達』が発する『呪詛』と同等……いや、それ以上の『負』の感情を、『邪神』が取り込んでしまうという事だ。それがどれ程までに『邪神』の力を増幅してしまうのか……想像する事すら恐ろしい。
私達は単純に、『彼女達』が浄化されれば、『邪神』の力を削ぐ事が出来ると思っていた。でも、まさか時限式の爆弾のように、新たなる恐怖が蓋を開けてしまうだなんて……!
ふと、一つの可能性が脳裏をよぎる。
――ひょっとして現皇帝は、こうなる事までをも想定していた……?
『ううん、それは有り得ない!』
だってそれは、最終的に国と自身を滅ぼす事になるのだから。
「我らが出来る最善は、そうなる前に一刻も早く、『邪神』を討伐……もしくは、力を半減させる事です」
私はイーサンの言葉に力いっぱい頷いた。
こうなったら一刻も早くあちらに向かい、『彼女達』や人柱にされた人達の恨みも含め、『邪神』に渾身の一撃を喰らわせてやらねばならない!!
「そして、この『嘆きの霊園』を使い、『負』の感情を少しでも減らす事。……幸いと申しましょうか。この地はお嬢様の『大地』の魔力と異界の女神様の御神力により、『聖域』となりました」
「はい!?せ、聖域!?」
た、確かに。場違いな程に枯れ果てていた木々も復活して緑が溢れているし、一面ペンポポスミレが咲き乱れるお花畑になっているけど……。
「ええ。いずれ、傷付いた多くの帝国民達が、ここを目指してやって来るでしょう。その時の対処を、ティルとハーゲンに任せます。枯れていた井戸も復活しておりますし、なによりお嬢様の『聖花』は栄養満点な上、邪な心を持つ者を弾きますから」
「え、栄養満点……」
そう言えばゼフちゃん、私が無自覚に咲かせたぺんぺん草を食べたらしいんだけど、「すっごく甘くて美味しかった!」って言っていたっけ。
ペンポポスミレってば、『浄化によし、傷と病にもよし、食べて良し』だなんて、どんだけ万能なんだ!
「……お嬢様」
「ティル?」
ティルが真剣な表情を浮かべながら、私の目の前で片膝を突き、騎士の礼を執った。
「お側近くでお守り出来ず、申し訳御座いません!……どうか、どうかご無事で……!!」
「ティル……!……うん。行ってきます!ティルも、チェルシーさんやゼフちゃんと……傷付いてここまで辿り着いた人達をお願いね!私も兄様もイーサンも、ティルの分まで頑張るから!!」
「はい!お嬢様、いよいよもって危なくなったら、躊躇する事無くイーサン様やオリヴァー様を囮にして逃げてください!!お二人とも、そのまま果てたとしても、お嬢様をお守りする事が出来て本望でしょうから!!」
「……ちょっと待つんだティル」
「……貴方……。後で覚えておきなさい」
ああっ!オリヴァー兄様とイーサンのこめかみに、でっかい青筋が!!流石はティル!こんな状況なのに、ナチュラルに不敬をぶちかました!!
「では……。参りましょう」
イーサンの『闇』の触手が私とオリヴァー兄様に巻き付く。それと同時に、転移門が出現した。
◇◇◇◇
エレノア達が『黒城』へと向かう少し前。
クライヴやアシュル達のいる王立学院の結界は、力を増した『邪神』により、次々と破壊されていった。
「アシュル殿下!!ダリウス様より伝令です!!『邪神』による建物への甚大なる被害が続き結界の強化が追い付かない為、一旦切り上げ、侵入者達を迎撃しながらこちらに戻るとの事です!!」
「分かった!これより、この場に居る戦闘員全てに、我が魔力を付与する!クライヴ!ディラン!僕の身を守れ!!」
「御意!!」
「了解!!」
言葉と同時に、アシュルは魔法陣を通じてダリウスへと注いでいた『光』の魔力を、クライヴやディラン、セドリック、リアム、アーウィン達主力戦闘員達の他に、この場にいる全ての者達へ次々と注ぎ込んでいった。
その『力』は、彼らが持つエレノアの付与物……『守護の力』が宿った護符と共鳴し、攻撃力だけでなく、防御力をも上げていった。
「フィンレー!お前はマロウと共に、下級生達を守れ!!」
「分かった!!」
フィンレーの身体から、凄まじい勢いで『闇』の魔力が噴き上がると、壊れた結界から侵入してきた『邪神』の魔力を取り込んでいく。すると『邪神』の魔力が、まるで植物が枯れていくように次々と消滅していく。
「おおおっ!!」
「消え失せろ!!化け物がっ!!」
『邪神』の天敵たる力を持つアシュルとフィンレーを仕留めるべく、『邪神』の魔力と、雪崩を打つように押し寄せる帝国の刺客達。それらを、マロウ率いる『影』達が。そして、それぞれの魔力を刀や剣に宿したクライヴ達が、次々と仕留めていく。
「全ての命の源よ。古の血と共にたゆとう清らかなる流れよ。激流となりて敵を滅ぼせ!」
「清き優しき生命の流れ。大地を白く染めるもの。我と敵対する全てのものに純白の息吹を与えん!」
母であるリュエンヌへと『精霊力』を注ぎ込みながら、その依り代たるウミガメを腕に抱き守るベネディクト。
その彼を背に庇いながら、アーウィンとジルベスタがそれぞれに詠唱を唱える。
すると、青白い魔力と白銀の魔力が合わさり、龍の形となって刺客達へと襲い掛かった。刺客達はその魔力に触れ、一瞬で凍り付き砕け散っていく。
「さて。皆、私の授業の成果を見せてもらおうか?」
場違いな程穏やかに笑い、共に戦う教え子達を鼓舞しながら、シーヴァーが『水』の魔力を纏わせた暗器を構え、目にも留まらぬ速さで次々と刺客達を絶命させていく。
「皆!師範に続け!!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
学院生達もそれに応えるように、マロウやシーヴァ―に叩き込まれた『影』の戦法と己の魔力を駆使し、傷つきながらも敵を確実に仕留めていった。
「――……ッ……!」
だが、次々と破壊されていく建物から、この場にいるアルバ王国の者達全てを滅せんと襲い掛かる『邪神』の力はあまりにも強大で、アシュルとフィンレーの『力』が徐々に押されていってしまう。
更には、前線で立ち向かう『影』達や教員達、そして学院生達にも被害が広がっていく。
『流石に……。このままではジリ貧だな』
ポタリ……と、汗がアシュルの顎を伝い床に落ちた。
傷付いていく仲間達を癒しながら、エレノアの結界が完全に破壊されないよう、大聖堂全体に力を注ぎ続ける。
だが、流石にこの場の全員を守りながらでは、『力』が追い付いていかない。横にいるフィンレーに目をやると、自分同様、限界が近付いているのが分かった。
『……だが、僕達が倒れてしまえば、全てが終わる……!!援軍が到着するまで。この命に代えてでも、この場を守り切らねば!!』
「アシュル!!危ない!!」
「――!?」
クライヴの叫び声に、僅かに散漫になっていた意識が戻る。と同時に、頭上から巨大な『邪神』の魔力が不気味にうねりながら、自分に迫ってくるのが見えた。
『間に合わない……!!』
一瞬、死を覚悟したその時だった。真っ白く光る『何か』が、『邪神』の魔力を弾いた。
『良かった!間に合ったわ!!アシュル君、大丈夫!?』
「だ、大精霊様!?」
目の前に浮かんでいたのは、先程までベネディクトの腕の中にいたウラシマ……ではなく、エレノアの許へと意識を飛ばしていたリュエンヌの精神体が宿った真っ白いカメだった。
あちら側もガチバトルとなっておりました。
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