影になろう!
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驚愕をその可憐な顔面いっぱいに貼り付けたユーリがポロリと私の名前を零した。
(まずい……)
いや、完全に隠し通せるとは思っていなかったから、いつか誰かにはバレるだろうと覚悟していたけれど。まだユーリがどんな子なのか解らない以上、ここで白状するにはリスクが高い。
私は一瞬の動揺を胆力を振り絞って奇麗さっぱり心内に隠すとゆっくりとユーリの前に進み出た。
「初めまして、ユーリ嬢。お噂はかねがね。僕はダンデと申します。」
「え?ダンデ……?噂?」
動揺しているユーリに判断する時間を与えず、私は余裕の笑みで言葉を重ねる。
「はい。ナターシャが先日とても奇麗な方に出会ったと。」
記憶をフル稼働させて、私は兄様の極上スマイルを再現して見せた。
「実物は想像以上に可憐ですね――」
私は淀みなくユーリとの残りの距離を詰めその手を取ると、いつかのラルフの如く挨拶の口づけを落とすフリをする。視線を合わせて一瞬見つめあった後、離れる前にそっと耳打ちした。
(僕は、ナターシャの影なんです。……どうぞ内密に)
「――っっつ!!」
真っ赤な顔で片耳を押さえるユーリ、「ダンデ王子様みた~い!」と囃し立てる子どもたち。
何故かシルビアに背中を拳でぐりぐりされたけど――地味に痛い――、ユーリに向かって人差し指を口の前に当てウィンクしたら、すんごい振り幅で縦にコクコク頷いていたから取り敢えずは誤魔化せたと思う。
うん、だからね?シルビア。背中グリグリするのやめて…?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――私はユーリを連れて王都商店街馴染みのカフェに移動していた。
「……すみませんユーリ嬢。強引に連れ出してしまって」
「いえ、私も話したいと思っていましたから……」
恥じらう少女、雰囲気の良いカフェ、目の前には可愛らしいケーキセット。…傍から見れば可愛いカップルのデートといったところだろうか。
「その……ダンデ様は――」
「ダンで結構ですよ。親しいものはそう呼びます」
「え、えっと……それでは……ダン、は……ナターシャ様の護衛なの?」
「はい。護衛の一人です。背恰好が似ているとの事で変わり身につくこともあります。」
「それは……じ、女装を?」
「……結果そうなりますね」
いえ元から女ですけどね。というか本人ですけどね。実はこれ、いつか使う事もあるかと考えていたダンデの設定だったりする。今は子どもだから誤魔化せているけど、第二次成長が終わるころにはどうなってるか分からないからね……。
「ダンデハイム家の跡取りについてはご存知ですか?」
「え、あ、はい。話に聞いただけですが、ナハディウム様ですよね?」
私は頷いた。そして用意してあった設定を披露する。
「ナハディウム様は王太子殿下の近侍となられました。王太子殿下近辺の警護はどれだけ厚くても問題ありません。ダンデハイム家もその庇護下にあります。悪党に利用されない様にとの配慮です。」
「そうですね…。か弱いご令嬢なんて恰好の的ですもの」
言ってユーリは納得していた。何故なら調べても調べても、ナターシャの個人的な情報は得られなかった事を思い出したからだ。王家に関わるという事はそういう物騒な事とも付き合わないといけないのだろうと想像で補完する。
――思考しているユーリの表情を見て私は上手く誤魔化せた事を感じ取っていた。ホッと隠れて嘆息する。
すると怖々とユーリが問いかけてきた。
「その……、ダンは、嫌じゃないの?危ない事とか……女装、とか……」
「それが僕の仕事だから」
言外に含ませた意味にひっそりと笑む。そう、私の役目はうちの子たちのサポート。その為に必要なことならばなんだって為して見せましょう!
「しごと……」
ユーリが俯いた。さぁ、ここからが本番だ。私は気づかれない様にゴクリと唾を呑みこんだ。
「それで、ユーリ嬢はどうしてそのような格好を?」
頬杖をついて出来るだけ何気なさを装いながら私は核心を突いた。勝手に速まる脈拍には気づかないフリをする。
ユーリの表情が一瞬で青ざめた。
「あ……。……ご存じなんですね……」
絞り出すように喘ぐユーリに静かに首肯した。
「主の周辺に危険を持ち込むわけにはいけませんから。……良ければ、理由を教えて頂けませんか?」
あうあうとユーリが喘ぐ。真っ青なまま俯いてたっぷり逡巡する様子を見せたかと思ったら、今度は真っ赤な顔を持ち上げ、ガタンとテーブルに両手をつき、勢いよく立ちあがった!
「 ~~~…す、好 き な ん で す っ !! 」
店中に響く大声に各々の時間を楽しんでいた店内の人々が一斉にこちらを向いた。
真っ赤な顔で意を決したような表情の可憐な少女、向かいには同じ年頃の少年、そして響いた言葉。
人々はその甘酸っぱい青春の一ページに一瞬で訳知り顔になり、その可愛らしいカップルの行く末を生温く見守る事にした。そう、知らないフリをしてあげるという大人の処世術だ。ただ店内の雰囲気は一瞬で微笑ましい空気に包まれてしまった。
完全な誤解なのだが、結果オーライということで私は頬をかきながら苦笑を零す。そんな空気に興奮して全く気付いていないユーリは、自分のはしたない言動にハッとし、更に茹でダコになりながら椅子にへたりこむと小さくなった。
その様子にくつくつと笑いがこみ上げる。
自分の失態を取り繕うようにユーリが上目遣いにこちらを見やった。
「……好きなんです。可愛いものが。繊細な刺繍も、透かしの美しいレースも、ひらひら揺れ動くリボンも――」
そうして目の前のケーキに微笑む。
「――可愛らしい色とりどりのお菓子も。」
その顔に嘘は見えない。それがユーリという子なのだろう。
「……でもボクは男だから、本当はいけないことだって解ってるんです。だけど、ボクは三男で誰もボクの事なんか期待してないから。だったら、好きな事をして、好きな自分になろうって。」
ぽつりぽつりと心中を吐露する目の前の可憐な少年は、蓋を開けてみれば何てことない、等身大の悩める少年だった。
(私は何に怯えていたんだろう……)
自嘲気味に鼻を鳴らすともうユーリに対する偏見は無くなっていた。
「良いんじゃないかな?似合ってるし。」
「え……?」
ユーリが驚きに目を丸くする。
「少なくとも僕…ああ、ナターシャもね、こういう生活をしているから性別とか格好とか似合ってればなんでもいいと思う。……公式の場ではどうかとも思うけど。まぁ、それがユーリの武器になるんじゃない?」
「武器、に……?」
私は自分の言葉に納得するように頷いた。
「ぼ、ボクのこと……気持ち、悪くない……の……?」
「何で?趣味は人それぞれだし、可愛いよ?ユーリ」
ぱぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁあぁぁああ!!!!!!!!!!!!
大輪の花が咲き綻ぶように、曇天が一斉に晴れたように、この世の輝き全てを一身に纏ったかのようにユーリが光り輝いた笑顔を咲かせた。お。おおぅ、目が、目が~~~!
余りの眩しさに目を瞬かせながらユーリを見やる。
「ダン、ボクと友達になって!!」
差し出されたユーリの手に、私は微笑んで自分の手を重ねた。
はにかみ、握手する可愛らしいカップル。
その光景を見止めた店内の人々からわっと拍手歓声が巻き起こった。
その後、ダンデとユーリはこのカフェの名物カップルになったとかならないとか。




