秘密の花園
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王宮にある王族専用の訓練場。
その地べたに正座させられたやんごとなき生まれの者たちが、柔和な笑みを浮かべつつ般若の気配を背負った可憐な少女にこってり絞られていた。
端から『ラドクリフ』『ナハディウム』『クロード』『シルビア』、その脇に微苦笑しながら佇む『リューキ・イースン』。
当事者たちを並べてナターシャはぷりぷりと怒りの気配を撒いている――しかし表情は極上の笑顔だ。
「く~ちゃん?」
「は、はぃぃっっ!!」
ビクッと大きく肩を飛びあがらせてクロードがナターシャを見上げた。その表情は青く、口端は引き攣っている。
「じゃあこの私の姿絵は、ラルフから貰ったもので間違いないのね?」
「え、え~~~っと……」
「間 違 い な い の ね ?」
ズモモモモ。念押しするナターシャの気配に暗黒が増したのを感じてクロードは観念した。小さく「はい…」と消え入りそうながらも首肯した。
「と、いうことだけれど。……これはどういうことなのかしら?ねぇ?ラルフ?」
ジロリ。精一杯の嫌味を込めて睨めつけたというのに、相手はニコニコ笑顔でご機嫌だ。
「ふふ、良く描けているだろう?」
「そんな事は聞いてないの!」
見当違いの返答に頭痛を抑える。
「だって、日に日に奇麗になっていくナターシャをどうにか記録したいと思うのは当然だろう?」
「本人の意思は無視かいっ!…ん?日に日に?……記録?「いや、ナターシャに確認を取ることを失念していた私のミスだ。すまなかったね!!」」
私の思考を邪魔するよう急ぎ早にラルフが捲くし立てた。ん?何か重大な事に思い至った気がするのだけれど……。
「……それにしても、こんなに複製することもなかったんじゃないの?」
私の姿絵を持っていたのは正座中の幼馴染三人プラス兄様。
「「「悪気は無かった。でも後悔はしていない!」」」
「やかましいわ!」
辟易している私に追い討ちをかけるようにハモった幼馴染の声にさらに脱力してしまう。兄様が困ったように笑っていた。
「大体……。何で兄様まで持ってるのよ?必要ないでしょう?」
「そんな事ないよ?ナターシャの事はどれだけでも見ていたいし、元気を貰えるからね!」
兄様の言葉に猛烈に頷く幼馴染三人。
う、……そんな言い方されると強く出られないじゃない!
いやいやいや!頭を振って私は再度皆をキッと睨みつけた。
「と、とにかく!今後、勝手に私の姿絵を持ち歩かないようにっ!!解った?」
「「「「イエス、マムっ!!!」」」」
(((((――持ち歩かなきゃいいんだ……)))))
……ナターシャ以外そう心の中で呟いていた事を本人だけが知らない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ユーリ・サリュフェルはナターシャとの接触を実現させようと、彼女が興したという噂の平民たちの施設に足を運ぶことにした。今までは面識が無かった為躊躇していたが、一度会ってしまえばこっちのものである。
相変わらずダンデハイム家の防備は固くて、情報を得られないのに業を煮やしての強硬策だったりもした。
目的地に到着すると、ユーリは馬車から下りてぐるりと周囲を見渡した。さやさやと葉擦れの音が響き、木陰を通り抜ける風が爽やかだ。思わず自然を目いっぱい身体に吸い込んでいると、ふいに声をかけられた。
「うっわぁ!お姉ちゃん、お姫様みたいにきれいだねぇ!!」
振り返ると瞳をきらきら輝かせた小さな女の子がいた。その含みのない純白な賛辞に気分が良くなる。
「うふふ、ありがとう。そうだ、あなた、ナターシャ様を知ってる?」
少女の目線に合わせるように屈んで微笑むと、頬を赤らめた少女が頷いた。
自分の予想が当たった事に内心喜色ばむ。だが、すぐにその期待は萎んでしまった。
「お嬢様は知ってるけど、ここにはめったにこないよ?大きないべんと?の時にはきてるけど……」
少女の証言に一気に肩を落としてしまった。突然意気消沈したユーリに幼い少女は慌てる。
「あ、で、でも、今日はシルヴィーとダン兄ちゃんが来てるよ!」
少女はユーリの見た目から彼女が貴族のお嬢様だと確信していた。だから二人の知り合いなんだろうと思ったのだ。
(シルヴィー…ってシルビア様の愛称よね?彼女がそんなに平民たちと砕けた付き合いしているとか想像つかないけど……)
先日対面した感触では、御しやすさは多少感じたものの、やはり公爵令嬢に相応しい気位や気難しさのようなものがあったと思う。こんな下層の場所に深窓の令嬢本人がいるとは思えないが、確認するだけなら何も問題ないと目の前の少女に案内を頼むことにした。
「シルヴィー!お客さんだよーーーー!!」
幼い少女はとても気安くその名を呼びながら建物の中に入って行った。
講堂のような広い一室の奥、学習机が纏まって置いてあるエリアに該当の令嬢はいた。
「あら、あんたユーリじゃない。どうしたの?こんな所に?」
ユーリを見つけたシルビアがきょとんと反応したその隣に赤毛の少年が立っていた。
そう言えば『ダン兄ちゃん』とか隣の少女が言っていた気がする。質素な服装に身を包んでいるが何だかやけに目を引く雰囲気の少年だ。シルビアの侍従だろうか?
ぼんやりそんな事を思っていると、ユーリの名前を聞いたその少年が驚いた顔でこちらを向いた。
目と目が合って互いに固まる。
ユーリはまじまじとその少年を見つめていた。
――よく見れば艶やかな――深紅の髪を後頭部の高い位置で一つに縛り、凛々しい面立ちをしているものの、こんな形の自分だからこそ判る本質が見えてしまった。
「え……?な、ナターシャ…様……?」
ポロリ。驚愕のままに気づけば零れ落ちていた。




