最後のうちの子③
まさか③まで続くとは…。
「…今回、ステラ嬢をこちらで受け入れて下さるとライメイ様からお聞きしたのですが」
「ああ、何でもナターシャたっての希望らしいじゃないか。ちとその嬢ちゃんにも興味があるし、面倒を見るのが一人増えるくらい造作もないしな」
リューキが意味深な視線を向けてくる。それに気づかないふりをして頭を下げた。
「それは、お嬢様に代わってお礼申し上げます。ライメイ様も、ご助力感謝いたします」
顔を上げると、詳しい内容の取り決めに移った。
ステラの立ち位置、待遇、保護期間、責任者、援助金などなど。おおよそ決められる事は事前に済ませておく。言い方は悪いが『ステラに対する権利』の在所を明確にしておかないと、後々面倒に繋がるかも知れないし、揚げ足を取られて悪人に利用されるかもしれない。
最後にこの件に関しては極秘であり、関わる人間も最少、尚且つ関係者全員に緘口令を敷く事を約束してもらった。
「……まぁ、うちはそれで構わんが。その、ステラって嬢ちゃんはナターシャ嬢の何某か特別な者ではなかったのか?」
私が提示した内容に疑問を覚えたリューキが首を傾げる。
「そうですね…。特別といえばそうなのでしょうが……。全ては彼女が決めることです。僕らに出来る事はその後押しをする事だけ。そうでなければいけない。」
自分に確認を取るように呟くと、周囲からの視線にはたと気づき慌てて「と、お嬢様が申しておりました」と取ってつけると、ライ爺が朗らかに笑いながら「では儂がこの件の補佐に付くとしよう」と唱えたので目を丸くした。
それは大人たちも例外ではなかったらしい。暫し眼と眼で会話をしていたイースン夫妻が揃って立ち上がり、
「「確かに承りました」」
粛々と頭を下げた事に更に驚いた。
慌ててライ爺に視線を飛ばすと、まあまあと目で宥められたので思考を一旦脇に置く。
改めて礼を言って、次の話題に取りかかった。
「では早速、ステラ嬢を迎えに誰が行くか、ですが……」
言い終わるより早く、ずっとつまらなそうにしていたハルマがシュピッと挙手した。
「ハイ!はいはいはーい!!オレ、オレ行きたい!」
物凄い剣幕の主張に皆が軽く仰け反った――物理的に一歩引けなかったからだ。
馬車を使う以上、滅多な事にはならないだろうと、その熱意を受け入れることにした。
「ではハルマ殿。準備期間中にステラ嬢の今後について説明しますので、帰りの馬車の中で貴方が彼女に説明して差し上げて下さい。使者代表としてくれぐれもよろしくお願いしますね?」
「へ~い」
気のない返事に一瞬苛立ちながらも数日かけてハルマとやり取りを交わした。ステラとは丁度同学年ということもあって、そのまま目付役として傍にいてもらう事にしたのだ。共に頑張る仲間がいた方が、ステラも勉学に身が入ることだろう。
……それはいい。ハルマも真面目に話を聞いてくれたし、貴族子息として必要な分別はきちんとしているようだった。ただ、イースン滞在中からステラを迎えに行く馬車の中――ノーサル男爵邸に到着するまでの間――、ず~~~~っと、ナターシャの事を聞かれ続けたのには辟易した。
何でも絵姿に一目ぼれしたらしい。
私はリューキが『男装で』と言い含めた意味を骨の髄まで味わうとともに、ハルマにはナターシャで会う機会を極力無くそうと心に誓ったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ノーサル男爵邸からイースン伯爵邸への帰路。馬車の中には行きにいた従者の少年の姿は無く、代わりに銀髪の少女がちょこんと緊張気味に腰かけていた。
「改めましてステラ嬢。オレの名前はハルマ。ハルマ・イースン。これからよろしゅうに!」
にっかと猫目を細めて差し出した手におずおずと少女の手が重なる。お世辞にも柔らかいとは言えないその手をぎゅっと握り返してハルマは笑みを深めた。
「それじゃあ、君の今後の話をするで。これから君にはウチでメイドとして働いてもらう。」
「えっ!?」
寝耳に水を浴びせられてステラは驚いた。ノーサル邸で丁寧なお客待遇をされていた為、てっきり移動先でもお姫様の様に暮らせるのかと少々期待していたのだ。
そんな彼女の様子を気にするでもなくハルマは続けた。
「といっても、メイドの補佐、みたいなもんやな。要はタダで面倒見られへんっちゅうわけや」
そこまで言われてなるほど道理だとステラは頷く。寧ろ、低層の庶民にここまでの高待遇を貰えて感謝すべきなのだ。
「君の持ってきた手紙の主の好意で、君はこれから我が家で働きながら教育を受ける。メイドっちゅうのも手っ取り早く礼儀作法を仕込むためや。君が目指しとる学園は貴族の世界。多分君が思っとる以上になんやかんやめんどい決まりが多い。そんなんにも対処出来るよううちが協力する事になったってわけ」
「ありがとうございます」
ステラが深々と頭を下げてから身を起こすと、興味深そうなアーモンドアイがきらりと光った。
「で、や。こっからが本題。うちでの君の身分はメイド。働きながら勉強する、ここまではさっき言うた通り。勿論貴族学園に通えるだけの技能を身につけさせるつもりでおるけど、あくまで君が望む限りはって話。」
「私が望む限り……?」
「せや。特待制度を受ける条件は決して簡単やない。うちとしても意欲のない者に割く情も金もないっちゅうことで、君がへこたれたら全部パァ!ついでに15歳までに必要な能力を身につけられんかった場合も援助の話は白紙に戻る」
ステラはゴクリと生唾を嚥下した。逡巡は束の間、唇を引き結ぶと決意を込めて再び頭を下げた。
「ご温情に感謝いたします。至らぬ身ですが、これからよろしくお願いいたします!」
ステラの真摯な態度にハルマの表情が綻ぶ。
「ええ返事や!応援しとるさかい、気張りや!」
もう一度少女の手をとり上下に振ると、頬を赤らめたステラが恥ずかしそうに俯いた。
(そうそう!俺の求めてたものはコレやコレ!)
女の子とはふわふわした甘ったるい存在で、庇護欲をかきたてるようなか弱い存在でなけれは。決して我が家のゴリラ共とは種族からして違う生き物なのだ。
これから待っているであろう花のある生活にハルマの心は躍っていた。
一方、ステラはステラでこんな事を考えていた。
異性からの不意な接触にどぎまぎしながら、先ほどの従者の少年とはもう会えないのだろうか、と。
顔が見えたのは一瞬だったが、妙にその存在が心に残っていた。
(でも、天使様の従者だって話だし、頑張っていればきっといつか二人に会えるわよね!)
小さくガッツポーズを作って気合いを入れる。
「ハルマ様!私、頑張りますね!!」
ふんすと鼻息荒く握りこぶしを作った少女を前に、『そんな仕草も可愛いなぁ』とすっかりフィルターのかかったハルマが小動物を愛でるような気持ちにほっこりする。
(何よりこの子と仲良うしてればナターシャ姫との繋がりにもなるし、ステラちゃんも結構かわええし、オレ得やん最高!!)
それぞれの思いを乗せた馬車は粛々と帰路を進んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ノーサル邸でハルマたちと別れたダンデは王都へ向けて早駆けていた。
(ユーリのことも気になるけど、まずはく~ちゃんのお仕置きが先ね!)
ふふふふふと悪どい笑みを浮かべる主の背中が突然、某かの感情を受信して大きく震えたのを見て、ソウガは己が愛する小さな主の受難が増えた事を感じ取り、何ともいえず苦笑を零すのだった。
ハルマの喋りは西方面の方言をごちゃまぜにしたようななんちゃって方言です。
あくまで作りものとご承知おきくださいませ…(汗)




