第38話 凜子の望み
おりてきた6対の翼を広げた天使が大剣を手にもってメフィストに向かって歩き出す。
「なーんだ、いたのか。ずいぶんと来るのが遅かったな…」
メフィストがニヤニヤしながら話す。
光の中からメフィストを睨み付けるウリエルが姿を現す。
「ウリエル!!あんた、おりてきちゃダメってミカエルから言われてるでしょ?ここは私たちに任せて…ちょっと!」
ラファエルの言葉を聞かずにメフィストに向かって歩いていくウリエル。ただならぬ雰囲気にシャムシエルが焦る。
「ウリエルを止めて!凛子は何とかするから!」
ガブリエルがシャムシエルに言う。凛子が微笑んで頷く。
「わたしは大丈夫…ですから、行ってください。」
シャムシエルが凛子を気にしながらも立ち上がる。
「久々の再会なのに、つれないなぁ。何をそんなに怒ってるんだ?」
メフィストが意地悪そうに笑う。
ウリエルがメフィストに切りかかろうと踏み込むがシャムシエルが大剣で受け止める。
「待て、ウリエル!!ちょっと、落ち着け!!」
「どけ!シャムシエル!邪魔するな!!」
怒りで正気を失ったウリエルがシャムシエルを睨み付けて叫ぶ。
「お前とこいつがやり合ったらこの辺りが吹っ飛ぶ!!」
「こいつは、こいつだけは!!」
ウリエルがシャムシエルの剣を弾くがシャムシエルはウリエルの前から動かず身構える。
「俺はどかねえぞ!」
「どかぬのなら!…っ!」
怒り狂うウリエルの目の前に白く輝く羽根が1枚、ゆっくりと、落ちてくる。わずかに正気に戻る、ウリエル。
「……あいつを殺して、ハニエルが喜ぶと思うか?!」
「…!!…それは……」
言葉をつまらせ、ウリエルが正気に戻り始める。
「どうした?来ないのか?」
メフィストがウリエルを挑発する。ウリエルがメフィストを睨み付ける。シャムシエルが振り返り少し離れたメフィストに向けて剣を振り下ろす。
「……っ!!」
シャムシエルの剣の風圧でメフィストの首筋が切れて血が出る。
「ガタガタ、うるせーよ。さっさと消えろ!」
冷たく鋭い目でメフィストに言い放つシャムシエル。メフィストが首筋を押さえながら舌打ちをする。
「ガキが…覚えてろ。」
そう言うと不服そうな顔で姿を消す。
メフィストの姿が消えて、剣をしまうウリエル。
「………わたしは…」
シャムシエルがウリエルの肩に手をのせる。
「俺がお前の立場だったら…同じことをしてたよ。気持ちは分かる。…でもあいつを殺しても…ハニエルは喜ばないだろ?」
「そうだな。…すまない。」
ウリエルがうなだれる。
シャムシエルが安心した顔をしてすぐに凜子のそばに行く。
「凛子…」
凜子の手を握るシャムシエル、凛子は苦しそうにしながらも微笑む。ウリエルも心配そうに凜子の顔を見に来る。
「ウリエル…さん。よかった、いつもの顔…に…戻ってる…」
「無理をしたな。」
ウリエルが心配そうな顔で凜子に言う。
凜子が微笑む。
「はい、すいません。…あと、、ミカエルさんと…話がしたい…のですが……」
一人のプットが凜子の足元におりてくる。
凛子がプットの方を見て不思議そうな顔をする。
「足元に…何か…います?」
シャムシエルが凜子に聞く。
「プットがおりて来たけど…見えない?」
「はい。見えないです。」
「これなら、見えますか?」
プットがそう言うと凜子に見えるようになる。
「……ミカエルさん?」
凛子がプットに聞く。
「よく、分かりましたね。一時的にプットの体を借りました。」
プットの姿を借りたミカエルが微笑む。そして真剣な顔でウリエルに言う。
「今すぐ、天界に戻りなさい。」
「はい、すいません。」
ウリエルが頭を下げて天界に戻る。
「凛子さん、無茶をしましたね。」
「はい、すいません。…ひとつ、お願いが…あって……」
「何ですか?」
「…指輪、外して……下さい…」
プットの姿を借りたミカエルが黙る。シャムシエルが驚いた顔をする。
「指輪は外せない…と聞いてるはずでは?」
プットの姿をしたミカエルが答える。凛子が微笑む。
「…外せない…のなら…私達に指輪を渡さないですよね?……ひとりの人間の為に……こんなに多くの、天使が……力をかすとは、考えられないな……と思って。もやしさん…を助けたいから……ここまでしたんですよね?」
「………。」
プットの姿を借りたミカエルが黙る。
「わたしが…死んだら……もやしさんも……死んでしまうのは、ミカエルさんには都合が、悪いのかな…と思うんですけど…どうですか?」
プットの姿を借りたミカエルが困った顔で微笑む。
「……バレてましたか。…その通りです。熾天使を失う訳にはいかないので…」
「じゃあ、指輪を外して…くだ……さい…」
凛子がプットの姿を借りたミカエルに言う。
「……もし指輪を外したらすぐに消えるよ。」
シャムシエルが凜子の手を握りしめたまま凜子の目を見て言う。
「……もやしさん…わたしには…羽根は…見えないけど…もやしさんからすごい綺麗で大きな力が出てるのはわかります。…あなたは…ここで、死んでは…いけない…天使。……わたしがいなくても…生きて……人間や…天使の為に…その力を、使って……」
シャムシエルが凛子の話を黙って聞いていたが、一言、言いはなつ。
「………いやだ。」
「……え?」
凛子が驚く。
「いやだ!!凜子と一緒に生きたい!他の奴の事なんてどーでもいい!!」
シャムシエルかダダをこねる子供のような顔で凜子に言う。
「…でも、」
そういう凜子の手を自分の額にひっつけて震えながら話すシャムシエル。
「もう、君なしじゃ生きられない。…言っただろ?一緒に生きて一緒に死にたいって…」
「わたしは…人間で…この体は、もう……」
「分かってて、指輪をつけた。俺の覚悟は変わらない。」
凛子が切ない顔をしてシャムシエルを見る。
「一緒に生きたいと言ってくれる気持ちは嬉しい、です。……でも人間に巻き込みたくないです。」
「…巻き込んで。……置いていかないでくれ…」
シャムシエルが凛子の手を握りしめる。凛子が悲痛な顔をする。
「…諦めなさい、凜子。一度言い出したら、聞かない奴よ。」
ラファエルがあきれ顔で微笑む。
「……ミカエル、何か考えがあるんでしょ?」
ガブリエルがプットの姿を借りたミカエルに聞く。
プットの姿を借りたミカエルが微笑む。
「…シャムシエルの覚悟は変わりません。そして私も、指輪を外すつもりはありません。」
「………でも、」
凛子が言いかけるのを遮るようにプットの姿を借りたミカエルが聞く。
「あなたは、どうしたいのですか?」
「…え?」
「このまま、死んでもいいのですか?…この先、シャムシエルだけが生きて…」
凛子が黙って聞く。
「新しい恋をして…あなた以外の人と夫婦になってもいいと?」
「………。」
凛子が困惑する。
…わたし、以外の誰か。
もやしさんの隣に……
このまま、私だけ死ねば…いつかは…そんな日がくる……
凛子がシャムシエルを見て切ない顔をする。
…それで…いいの?
もやしさんが、幸せになるのなら………それで、いいの。
本当に?
だめ、わがまま…言ったら、困らせるだけ…
わがまま?…困らせる?
………違う!…嫌われたくない……
…いい子のふりしてるだけ…本当は……
「………です。………そんなの、、いや…」
凛子がシャムシエルの手を握りしめ涙を流す。
「凜子……」
「やだ………いっしょに……いたい。……あなたの、そばに……」
「…うん。」
シャムシエルが優しく微笑む。
「……いい子のふりして……わがまま…言って、嫌われなく、なくて……でも、、」
「…うん。」
「……わたし、、」
「…うん。」
「わたし、、、」
「うん。…俺の事、どう思ってる?…凛子の言葉で…言って。」
「わたし、、あなたの事が、、好き。……大好き…です。」
シャムシエルが優しく微笑みながら凛子の目を見て言う。
「…俺も凛子が大好き。」
シャムシエルが凜子の頬に口づける。
その様子を見て、ミカエルとラファエルとガブリエルが微笑む。
「……分かりました。それが凛子さんの望みですね。…では、これを。」
プットの姿を借りたミカエルが光る石のついた首飾りを凜子につける。
「…これは?」
「あなたが無理に使った力を吸収する石がついたペンダントです。全ての力を吸収できれば体調が落ち着くはずです。しばらくつけていて下さい。…私が体ごとこちらにくれば、すぐに力を抑える事が出来るのですが…後片付けでしばらく天界から離れられません。」
プットの姿を借りたミカエルが困った顔でため息をつく。
そしてシャムシエルを見る。
「無理をしたせいで、凛子さんの体は弱っています。しばらくは絶対安静にさせてくださいよ。体に負担のかかることはしないように!」
「分かってる。これ以上無理はさせない。」
シャムシエルが真剣な顔で言う。
「あなたに言ってるんですよ、シャムシエル。天界一の色男に…」
プットの姿を借りたミカエルが無邪気に笑う。
シャムシエルの目が点になる。
「…………!!……何、言ってるんだ!…こんな時に、するかよ!まだ、何もしてねぇし!」
凜子の顔が真っ赤になる。
プットの姿を借りたミカエルが肩を震わせて笑う。
「まだ、手を出してないんですね。」
笑いながらプットの姿を借りたミカエルが言う。
シャムシエルが気恥ずかしそうな顔をする。
「…部屋が荒らされましたね。」
そう言うとプットの姿を借りたミカエルが聖なる力を使い部屋を元通りにする。
「まぁ、しばらくは何もしてこないと思いますが、聖域にしておきました。私はこれで失礼します。」
そう言うとプットの姿を借りたミカエルが姿を消す。
「霧山には凛子の無事を知らせておくから、あんた達は休みなさい。」
ラファエルがそう言うと姿を消す。
ガブリエルが凛子の頭を撫でる。
「凜子、よかった。…もう、無理しちゃダメよ!」
凛子が微笑んでガブリエルの首に両手を伸ばす。
「ありがとうございます。またお茶、しましょうね。」
〈ガブリエル、またな…〉
何故か、ハニエルに言われた言葉を思い出すガブリエル。優しく微笑んで凜子に言う。
「…そうね。体調がよくなったら、お茶しようね。」
ガブリエルがシャムシエルを見て言う。
「ちゃんと、凜子の事、守りなさいよ!もう、半人前じゃないんだから!」
「…分かってるよ。」
シャムシエルがそう言うと凜子を抱える。
ガブリエルが満足そうな顔をして姿を消す。
「…さて、着替えないと…服がぼろぼろだね。」
シャムシエルが凜子を見て微笑む。凜子がお互いの服を見て笑う。
「そうですね。」
「着替え、手伝うよ。」
シャムシエルがにこにこしながら凛子に言う。
「自分でできます!」
凛子が頬を赤くしてシャムシエルに言う。
つづく。




