第36話 メフィストと天使…
闇の中に姿を現した悪魔メフィスト。
黒い髪に銀色の目を光らせていた。
……とうとう出てきたな。
メフィストフェレス…魔王の右腕と言われている上位悪魔。
「…お前ほどの上位悪魔がどうして中級天使なんかにちょっかい出すんだ?」
シャムシエルが警戒しながら凛子を自分の後ろに隠してメフィストに聞く。メフィストがニヤリと笑う。
「…天使なんかに興味はない。」
「俺に興味ないならさっさとどっか行けよ…」
「私が興味あるのは、その娘だ…」
シャムシエルの後ろに隠れている凛子が脅える。
シャムシエルが剣を出して構える。
「彼女を渡すつもりはない!」
「…どけ、半人前に用はない。」
メフィストがシャムシエルを弾き飛ばす。
「…もやしさん!!」
凛子が弾き飛ばされたシャムシエルの方を見て叫ぶ。メフィストが凛子を見下ろす。
「……やはり、お前…あの時の…」
凛子が怯えながらメフィストの方を見る。
……この人の周りの空気が黒くて重い。
それに、初めて会うのに初めて会った気がしない。
声は前に聞かされていたけど…
どうしてかわからないけど…体を貫かれたような感覚が…
「…同じだが、違う体…また会えるとは…」
メフィストがニヤリと笑いながら剣を振り上げる。
「また、殺してやるよ…」
シャムシエルが凛子とメフィストの間に入りメフィストの剣を受け止める。
「だから、渡さないって言ってるだろうが!」
シャムシエルの剣がメフィストの剣を弾く。
さらに踏み込んで切りつけようとするシャムシエルの剣をメフィストが受ける。
「…半人前のくせに、少しはできるみたいだな。」
「どうして、凛子を狙う?…人間なら他にもいくらでもいるだろ?」
「…同じだからだよ!」
メフィストの剣がシャムシエルの剣を弾く。
……やっぱり、力の差がありすぎる。
受けとめるので精一杯だ。
このままだと…
外でガブリエルが結界を壊そうとしてるはずだ。
何とか時間稼ぎを…
「…同じ?…何の話だ?」
シャムシエルがメフィストに聞く。
「同じは同じだ。」
メフィストがシャムシエルに斬りかかるシャムシエルがなんとか受け止めて弾く。
……どうしよう。
怖くて動けない。
真っ暗で出口もなさそう…
どうにかして助けを呼べないかな?
凛子が震えながら辺りをみわたす。
……真っ暗。
…どうしよ…何とかしないともやしさんが…
「…出口なんてないぞ。」
メフィストが凛子の背後に立って呟く。
凛子が恐る恐る振り返るとメフィストの後ろに血を流して倒れているシャムシエルが見えた。青ざめる凛子の首をメフィストが掴んで持ち上げる。
もやしさんが怪我してる!
「…っ!!」
首を捕まれて凛子の顔が歪む。メフィストが手に力を込める。シャムシエルがメフィストに向かって叫ぶ。
「やめろ!!凛子に手を出すな!」
「だったら、止めてみろ。」
メフィストがシャムシエルを見てニヤリと笑う。シャムシエルが苦しそうな顔をしながらメフィストに切られて血が出ている腹部を押さえ立ち上がろうとする。
…動け、体!!…凛子が危ない!
凛子の首にかかっている霧山からもらったペンダントが光る。メフィストの手が緩んで凛子がその場に落ちる。
「…何だ?!…魔除けの石か?」
メフィストが眩しそうに目を閉じて顔を背ける。
凛子がシャムシエルのそばに駆け寄る。
「もやしさん!!」
凛子が泣きながら抱き寄せる。
「…っ!…凛子、大丈夫?」
シャムシエルが苦しそうな顔で凛子に聞く。
「わたしより、もやしさんの方が…」
…血がいっぱい出てる。
凛子の顔が青ざめる。
「これくらい、大丈夫だよ。…すぐに治る」
シャムシエルが苦しそうな顔をしながらも微笑む。
…やっぱり、力の差がありすぎる。
やられ過ぎてしばらく動けないな。
メフィストが2人の前にやって来る。
「さっきから…同じってどういう事だ?」
シャムシエルがメフィストに聞く。
「お前は、大戦の時、いたのか?」
「いや、俺は大戦の後に目覚めた。」
「…なら、知らんか。昔、殺した天使と同じという事だ。」
「……昔、殺した?…凛子は人間だ、天使じゃ…」
「半人前の上に目も悪いみたいだな…」
メフィストが鼻で笑う。
シャムシエルがいらっとする。
…何だよ、こいつ!
さっきから半人前だとか目が悪いとか…
凛子は天使に近いけど人間なのに、それに昔、殺した天使って…
「……なんて、名前だったかな……あの女………ウリエルがずいぶん、怒ってたな…」
メフィストがニヤリと笑いながら言う。
シャムシエルが目を見開く。
…ウリエルが?
まさか……
「……たしか………ハニエル?……といったかな?…あの時は大変だった。ミカエルも出てきて逃げるのに骨をおったな…」
メフィストが冷たい目でシャムシエルを見下ろしながら言う。凛子が青い顔で体を震わせる。
……ハニエルは……ウリエルの。
こいつが殺した…のか?
まずい、この結界が破られたらウリエルにこいつの居場所がばれる。もしそうなったら…ウリエルが何をするか、分からんぞ…
焦るシャムシエルが震える凛子に気づき顔を見て驚く。
「…凛子?」
…震えてる、怖いから…か?
様子が変だな。
凛子がシャムシエルに声をかけられて我にかえる。
「…………。」
さっきからこの悪魔を見ると体が震える。
怖いだけ…じゃない。
何だろう?この悪魔の近くにいたくない。
シャムシエルを抱き寄せる手に力がはいる。
ー天界、ミカエルの部屋ー
「………。」
とうとう、仕掛けてきましたね。
闇の結界で、あいつの気配は感じませんが…凛子さんが無茶な事をしないか心配ですね。
シャムシエル…あなたにかかってますよ…
ー霧山の部屋ー
「まだか?!」
ハスディエルが霧山に言う。
「そんなに急かすな!これでも急いでるんだ!」
霧山が焦りながら魔術の調合をしている。
「それで、闇の結界を破れるのか?」
…上位悪魔を倒すことは無理だろうから魔を退ける強力な魔術をと思って材料を集めてもらったが、闇の結界を破れるかどうかは…
「分からん。上位悪魔の結界なら相当、強力だろうからな。うまくいったとして穴を開けれるくらいかもしれん…」
「それで、充分だ。完全に壊すより穴を開けて仲間が入れた方がいいんだ…」
「そうなのか?」
霧山が不思議そうな顔でハスディエルを見る。
「いろいろ、こっちの事情があるんだよ。」
ハスディエルが気まずそうな顔で言う。
…穴を開けてラファエルが入れたらメフィストも無傷ではすまない。きっと、諦めるはず…
ー闇の結界の外側ー
「まだ?!」
ラファエルがガブリエルに聞く。
「分かってるって!これでも必死なの!」
ガブリエルか焦りながらかざした手に力を込める。
…闇の結界が強すぎる。
中はどうなってる?
何とか無事でいてよ…
ハスディエルと霧山がラファエル達の所にやって来た。
「ガブリエル、どうだ?」
焦った顔でハスディエルがガブリエルに聞く。
困り顔でガブリエルが答える。
「結界が強すぎて…」
霧山を見てガブリエルが警戒しながら聞く。
「…誰?」
「凛子の義理の兄貴だ。心配ない。」
ハスディエルがガブリエルに言う。
「あら、いい男♪」
ラファエルが霧山の顔を見て言う。
霧山が焦りながら周りを見渡す。
……全員、天使か?
いろいろ、聞きたいこともあるが…
「お互い、いろいろ聞きたい事があるだろうが今はこの結界を破るのが先だ。私は凛子とあいつを救いたい!」
霧山が天使達に言うと先ほど用意した魔術道具を出して準備する。
「…そうね。手伝ってくれると助かるわ。」
ラファエルが微笑む。
準備する霧山のネクタイピンから黒い煙のようなものが出てきた。天使達が警戒する。
「なにこの気配!…悪魔?!」
ガブリエルが霧山の方を見て言う。
「なんだ?」
霧山も驚く。黒い煙のようなものが人の形になっていく。
「……なぜ?…お前は、消えたんじゃないのか?」
霧山が昔、みずきの病室に見舞いに来ていた男を思い出す。
人の形をした黒い塊が話す。
「…ああ、オレの体は消えてなくなった。…ここにいるのは残りかすみたいなものだ。」
ハスディエルとマキディエルが身構える。
「心配するな。天使達とやり合う気はない。オレは惚れた女の兄貴の為に動いてるだけだ。」
「…みずきのため?」
「ああ。みずきに頼まれた。あんたが困った時に助けてほしいと。だから消えた後もずっとあんたのそばで潜んでいた。……中にいる娘を助けたいのだろう?」
「………みずきが…そんな事を言ってたのか?」
「体はないから、たいした事は出来ないが…メフィストの気をそらすくらいは出来る。チャンスは一瞬だぞ、準備しておけ…」
黒い塊が闇の結界の中に入っていこうとする。
「まて!」
霧山が呼び止める。黒い塊が振り向く。
「…すまなかった、とか言うなよ。オレはみずきの為にやってるんだからな。」
黒い塊がニヤリと笑ってから結界の中に入っていく。霧山が黙る。
「………。」
…あいつ、私はいつも毛嫌いしてたのに。
みずきのため…か。
妹に心配されるとは…情けない兄だな…
霧山がため息をつきながらうなだれる。
…しっかりしないとな。
凛子、必ず助ける!
「さっきの話、聞いただろ?!チャンスは一瞬だ!」
霧山が天使達に言う。
ー闇の結界の中ー
…凛子の様子がおかしい。
怖がってるだけじゃないな…
シャムシエルが凛子の手を握る。
「…さて、おしゃべりはここのくらいにするか。外で天使達が何か企んでるんだろ?」
「…何、言ってる。1度堕ちた、中級天使の為にそこまでやると思うか?」
シャムシエルが焦りながら答える。
メフィストが冷たい目でシャムシエルを見下ろす。
「時間稼ぎでどうにかなる…とでも思ったか?魔王の右腕と言われている、このメフィストフェレスを相手に?…愚かだな。」
メフィストが剣を振り上げるが何かの気配に気づいて辺りを見渡す。メフィストとシャムシエル達の間に黒い塊が割って入り人の形になる。
「………おまえ、、アザゼルか?しばらく見ないと思ったら…体はどうした?」
メフィストが黒い塊に話しかける。
黒い塊が徐々に変化して、頭に2本の角、背中には黒い翼を生やした悪魔の姿になる。
「……さすが、メフィストの結界の中…残りかすが完全に姿を取り戻せたな。」
アザゼルが自分の翼を確認して角に触れる。
「…手助けにきたのか?」
メフィストがアザゼルに聞く。
「……そうだ。………と言いたい所だが、その逆だな。」
そう言うアザゼルをメフィストが睨み付ける。
アザゼルがニヤリと笑う。
つづく。




