第35話 愛しい者の声。
霧山が笑いながらシャムシエルに言う。
「…ただの女ったらしかと思ったら、意外と一途なんだな。」
「ただの女ったらしって何だよ!」
シャムシエルがいらっとしながら霧山に言う。
霧山が肩を揺らしながら笑い始める。
「顔がよくて背が高くて金、持ってて優しい…って女がほっとかないだろ?…昔は遊びたい放題だったんだろ?」
「………まぁ、昔は…な。」
シャムシエルが気まずそうな顔で答える。
「いいねぇ、色男は。」
「…どんなにモテてもどの女も同じ顔に見えてたよ。名前すら覚えてなかった。」
「…なるほど。天界でもぼんやりしてたのか。」
「そうだな。名前も顔もちゃんと分かったのはさつきと凛子だけだよ。」
「…そうか。凛子の事、頼んだぞ。無茶しないようにみててくれ。」
霧山が立ち上がる。
「分かった。」
ー数時間後ー
ベッドで凛子が目を覚ます。
「……?」
寝ぼけながら起き上がる。
……あれ?いつの間に寝たんだろ?
もやしさんと霧山さんと話してたような…
「…目が覚めた?」
シャムシエルが笑顔で自分の額を凛子の額にくっつける。凛子が驚きながら顔を真っ赤にする。
「…!!…もやしさん、近い!!」
「そう?…お腹、減ってない?…何か食べれる?」
「……喉、乾きました。」
「そうか。」
シャムシエルが凛子を抱えてリビングへ向かう。
「歩けますよ…」
「いいから、いいから。……あ、そうだ。頭の中で声が聞こえたらすぐに言ってね。」
シャムシエルが凛子の目を見て言う。凛子がシャムシエルの胸に顔を埋めてうなずく。
「…大丈夫だよ。そばにいるからね。」
シャムシエルが優しく微笑む。
……もやしさんが大丈夫って言ってくれたらすごく安心する。
ー天界、ミカエルの部屋ー
「ウリエル、しばらく人間界におりるのを禁止します。」
ミカエルが笑顔でウリエルに言う。
ウリエルが不思議そうな顔でミカエルを見る。
「…なぜ?」
「私がいいと言うまで、どんな理由があっても認めません。いいですね?」
ミカエルが真顔で冷たく言い放つ。
「……はい、分かりました。」
……何だ?ミカエルがそんな顔するなんてめずらしい。
「…話は以上です。仕事に戻って下さい。」
いつもの笑顔でミカエルがウリエルに言う。
不思議そうな顔をしながらもウリエルが部屋を出る。
「…………。」
……ハスディエルの報告だとそろそろ仕掛けてきそうですね。
思った通り、あいつの仕業…
あの時逃したのが忌々しい。
ミカエルが頭を抱える。
…ウリエルがあいつを見たら私の言うことも聞かずに襲いかかるのは間違いない、ガブリエルとラファエルだけで対処できるか不安ですね。けれど私が動けばもっと大きな話になる。困りましたね…
やはり、シャムシエルに頑張ってもらうしか……
ミカエルがため息をつく。
リビングでソファーに座ったシャムシエルが凛子を膝の上にのせてクッキーを食べさせようとしながら笑顔で言う。
「はい、あーん、して。」
ほほを赤くした凛子がシャムシエルをじっと見る。
「…自分で食べれます。」
「これ、美味しいよ。」
「あと……おりていいですか?」
凛子がほほを赤くしたままシャムシエルに言う。
「だーめ!このままがいいな。」
凛子を膝の上に乗せたままでシャムシエルが微笑む。
…いつもの事なんだけど、恥ずかしい。
もやしさんはどうして平気そうなんだろ?
「…食べないの?」
シャムシエルが凛子の顔を覗きこむ。
「…!!顔が近いです!」
凛子が驚いてのけ反る。
……めでたい奴ダな。
お前たイな、何もナい人間…もてあそばれテるだけなのに。
遊び飽きたらゴミのようニ捨てられルのにな……
凛子の顔から笑顔が消える。
凛子の顔を見てシャムシエルが真剣な顔をする。
「…声が聞こえるのか?」
青い顔をしながら凛子がうなずく。シャムシエルが凛子の手をとって優しく微笑む。
「……凛子、愛してる。」
シャムシエルが凛子の指に口付けながら優しい声で囁く。
「…へ?」
シャムシエルの言葉に凛子が驚く。
「……つまんない奴の声なんて聞かなくていいよ。」
「…い、いきなり、何いって…るんです…か…」
凛子の顔がだんだん赤くなっていく。
「……凛子、愛してる。」
シャムシエルが微笑む。
……そいつは昔かラ女好きだ。
そんな言葉、言い慣れてイる…他の女にも…言ってるさ…
お前ミたいな、何もない人間なンて、興味のかケらもなイ…
「………。」
凛子の顔が曇る。
「…愛してる。俺の声だけ聞いていればいいよ。」
シャムシエルが凛子の耳元で囁く。
…もやしさんの息が耳にかかってる。
また凛子のほほが赤くなっていく。
「凛子、愛してる。」
シャムシエルが凛子の額に口付ける。
…嘘だヨ
お前みたいな、何もナい人間、愛してるワケないだろ?
「俺の声だけ聞いて。…凛子、愛してる。」
シャムシエルが凛子の手をとって自分の頬に触れさせる。
…お前、みタいな、何モ、ない人間…
「凛子、愛してる。」
凛子の目から涙がこぼれる。
「………そんなに、いっぱい…言われたら…恥ずかしい…ですよ…」
そう言いながらシャムシエルに抱きつく。
シャムシエルが凛子を抱きしめながら微笑む。
「思ってる事、言葉にしただけだよ。」
「…さらっと言わないでくださいよ…すっごい、恥ずかしい。」
凛子がシャムシエルの胸に顔を埋めて言う。
「…そう?何回でも言えるよ。愛してる。」
凛子が耳まで真っ赤になる。
…ツマラン!!
もウ少しデ壊せるカト、思ッタノ二!
壊レた、人間を見テ絶望する天使を見たかったのに…
「…そろそろ、遊び飽きたな。」
暗闇で悪魔がニヤリと笑う。
凛子とシャムシエルの周りの空気が黒く淀む。
「!!」
シャムシエルがただならぬ空気に凛子をしっかりと抱きしめて身構える。ハスディエルとマキディエルが姿を現し、剣を持ってシャムシエルと凛子を庇うように構える。
「…邪魔だ。用があるのはその2人だけだ…」
悪魔がそう言うとハスディエルとマキディエルを弾き飛ばす。
「…大丈夫か?!」
シャムシエルが2人に声をかける。凛子とシャムシエルの周りにある黒い渦ができて辺りが真っ暗になる。
「…闇の結界か?!…まずいな。」
ハスディエルが頭を抱えながら言う。
「…カブリエル、呼んでくるわ。あんたはラファエルを…」
「…間に合わなかったわ、ごめん。」
姿を現したラファエルがマキディエルの言葉を遮るように言う。
「ガブリエルもすぐ来るはずよ。闇の結界を何とかしないとね…」
ラファエルが焦りながら言う。
…メフィストの闇の結界か、厄介ね。
叩き割るより穴、開けて入りたいとこだけど…
「ここは任せた。霧山を連れてくる。あいつなら何とかできるかもしれない。」
ハスディエルがラファエルに言うと姿を消す。
「霧山?シャムが言ってたわね。たしか、凛子の…」
ハスディエルに何か考えがあるのね。
まぁ…いいわ。
マキディエルが剣で闇の結界を切りつけるが弾かれる。
「…!!…やっぱり、びくともしない。…どうする、ラファエル?」
「こういうのはウリエルの得意分野なのよね…。力任せに叩き潰すのよね~脳筋バカ。」
頭を抱えてため息をつくラファエル。
……でもウリエルには出てきてもらっちゃ困る。
力任せなのは苦手なのよね…
「…しかたない!数打ちゃ当たる!同じところに当てまくればそのうち穴があくはず!打ちまくるわよ!」
ラファエルが光の矢を無数に放つ。
「あんたも、脳筋じゃない!!」
マキディエルが焦りながら叫ぶ。
ー霧山の家ー
リビングでコーヒーを飲みながら古い本を読む霧山。
その目の前に突然、ハスディエルが現れる。
驚いた霧山がコーヒーを吹き出す。
「っ!!……いきなり何だ!!玄関から入ってこい!!」
「そんな、悠長な事は言ってられん!…これ、用意できたから何とか出来ないか?!…シャムシエルと凛子ちゃんが!」
霧山がメモに書いた物が入った袋を手渡しながらハスディエルが叫ぶ。
「何があった?!」
「2人が闇の結界に閉じ込められた。結界に穴を開けたいんだ。何とか出来るか?」
「…闇の結界?…すぐに用意する!」
霧山が立ち上がる。
ーシャムシエルの家ー
天界からおりてきたガブリエルが闇の結界に手をかざして集中していた。
「シャムとあいつじゃシャムに分が悪いわ、いそがないと…」
ラファエルがガブリエルに言う。
「分かってる!でもこんな強力な結界、簡単には穴なんてあけられない…」
ガブリエルが焦りながら言う。
「やり方が陰険なのよね。間に合うといいんだけど……」
ラファエルがため息をつきながら呟く。
闇の結界の中の2人。
……急に暗くなったと思ったら…ここはどこ?
真っ暗…まるで、闇落ちした時みたい。
でもあの時と空気が違う…
凛子がシャムシエルの腕の中で青ざめて震える。
「…凛子、落ち着いて。大丈夫だからね。」
「…大丈夫?…本気で言ってるのか?半人前が…」
2人の前に悪魔が姿を現す。
つづく。




