第34話 天使の憂い
腕を組んでソファーに座った霧山が凛子をじっと睨む。
凛子が下を向いて黙る。
「…………。」
「……………………。」
「……無理強いしても…なぁ。……また日を改めて……」
シャムシエルが焦りながら話し始める。
凛子が下を向いたまま手を握りしめて話し始める。
「……声が……聞こえるんです。」
「……声?」
シャムシエルが目を見開いて凛子に聞く。
「……頭の中で……しらない人の……声が……」
「…何て言ってるんだ?」
霧山が焦りながら凛子に聞く。
「………嫌な事を……わたしみたいな、人間…生きてる価値がないとか……人間と天使……夫婦に……なれる…わけ…ないとか………」
凛子が下を向いたまま、小さな声で話す。
「…いつからだ?」
「……2、3日前くらいから…です。」
霧山が大きなため息をついて頭を抱えて呟く。
「…陰湿だな。頭の中でってことは凛子にだけ言ってるのか…」
「………俺って、そんなに頼りにならない?」
黙って2人の会話を聞いていたシャムシエルが凛子に言う。凛子が慌てて顔をあげてシャムシエルの顔の方を向く。
「そうじゃないんです!…こんなの慣れっこだし、もやしさんにこれ以上…!」
凛子がシャムシエルの顔を見て言葉を詰まらせる。
…もやしさん、苦しそうな顔してる。
わたしが言わなかったから?
そんな顔させるつもりなんてなかったのに……
凛子が震える両手でシャムシエルの頬に触れる。
「……ごめんなさい。…そんなつもりじゃ…もやしさんにこれ以上、負担かけたく…なくて……」
シャムシエルの頬に触れている凛子の手をシャムシエルが握る。
「…俺の事、考えてくれるのは嬉しいけど…凛子が苦しんでいるのに、黙っておかれるのは辛いよ。」
「…ごめんなさい。」
「………凛子、黙っていたら何も伝わらない。」
霧山が凛子に優しく話しかける。
「……そうですね。」
……もやしさんはちゃんと言葉にしてくれるのに、わたしはいつも、言葉にしてしてない。
「夫婦というのはお互い支え合って生きるんだ。負担になるとか、遠慮する相手じゃないんだ。」
……支え合う。
凛子が自分の指輪を見た後でシャムシエルの顔を見る。
シャムシエルが微笑んだ後で自分の額を凛子の額にひっつける。
「霧山の言う通りだよ。夫婦は支え合って生きるものなんだ、……少しずつでいいから言葉にしてほしいな。凛子の事、もっと知りたい。」
「…はい、ごめんなさい。」
凛子が下を向いて落ち込む。
……負担になりたくないと考えてした事が裏目にでちゃった。
やっぱり、ダメだな、わたし……
「……凛子?…分かってくれたんならそれでいいよ。」
シャムシエルが心配そうに凛子の顔を覗きこむ。凛子は下を向いて落ち込んだままだった。見かねた霧山がジャケットの内ポケットの中から小さな瓶を取り出し凛子の前に差し出す。
「……?……何ですか、それ?」
凛子が不思議そうな顔をしながらも小さな瓶を受け取る。
「…開けて匂いを嗅いでみろ。リラックス効果がある。」
「……はい。」
凛子が小さな瓶を開けて匂いを嗅ぐ。
…何だろ?……いい匂い。
……ん?……ふわふわ………す……る………
凛子が目を閉じてシャムシエルに寄りかかる。
「!!……凛子?!」
シャムシエルが焦りながら凛子を受け止める。
「心配するな、寝てるだけだ。」
霧山がシャムシエルに言う。
「…そうか…よかった。……何でそんな物を持ってるんだ?」
シャムシエルが霧山の言葉でほっとした後で疑わしい顔で霧山を見る。
「休憩中、昼寝する時に寝付きをよくするために持ってたんだ。軽く嗅ぐだけなら昼寝にちょうどいいんだよ。………これからの事について、お前と話したかったから、凛子に寝てもらった。……嫌な思いもしたみたいだし、一眠りすれば少しでも落ち着くだろ。」
霧山がシャムシエルの腕の中で眠る凛子の顔をじっと見る。
「…本当に、健気な子だ。」
「…そうだな。………ハスディエル、出てこいよ。」
霧山の隣のソファーに座ったままのハスディエルが現れる。
「…!!」
霧山が驚く。
「……こいつは、ハスディエル。俺の友人だ。俺達を守るために来てくれた。」
「…そうか、凛子が世話になっている、霧山だ。血はつながってはいないが凛子を妹のように思っている。」
霧山がハスディエルに挨拶する。
「オレの名前はハスディエル。昔からシャムシエルのお守り役をやってる。」
ハスディエルが笑顔で挨拶する。
「なるほど、お守り役か…」
霧山がニヤリと笑う。
「…だから!お守りされてねーし!」
シャムシエルがハスディエルにふてくされながら言う。
「よく言うぜ~♪」
ハスディエルがそう言いながら凛子の額に手を伸ばす。
「…眠りが浅いな。もうちょっと深く眠ってて。」
「だから、気安く触るな。」
シャムシエルがむすっとした顔でそう言うと凛子を抱えて立ち上がる。
「…ベッドに連れていくよ。」
シャムシエルが凛子を寝室に運びベッドに寝かせる。眠る凛子の頭を撫でる。そしてリビングに戻ると霧山が話し始める。
「これからの事なんだが…他に友人達はどのくらいいるんだ?」
霧山がハスディエルに聞く。
「常にいるのは俺だけで、後は交代で3人以上は巡回してる。」
ハスディエルが霧山に答える。
「友人達は普段、姿を消している。たまにハスディエルが出てくるくらいだ。」
シャムシエルが霧山に言う。
「さっきの話だけど…陰険な事するな。凛子ちゃんの心を壊そうとしてるんだなぁ…」
ハスディエルがため息をつく。
「…それに関しては俺がいるから大丈夫だ。」
シャムシエルがハスディエルの目を見て言う。
「……そうか、じゃあ、任せた。」
ハスディエルが微笑む。
「ハスディエル、お前は悪魔より強いのか?」
霧山がハスディエルに聞く。
「いや、オレより悪魔の方が強い。…オレとシャムシエルで相手しても勝てるかどうか…ヤバイ相手だ。」
ハスディエルが焦りながら話す。
「…相手の目星はついてるのか?」
霧山がハスディエルに聞く。
「…こっちの世界ではかなり上位クラス悪魔…名前はメフィスト。……シャムシエル、お前も名前くらいは聞いたことあるたろ?」
ハスディエルの話を聞いてシャムシエルが驚く。
「!!……おいおい、上位悪魔の中でも一二を争うやつじゃないのか?!」
「…そうだよ。かなりヤバイのに目をつけられた。」
ハスディエルがため息をつく。
「……なるほど。相当、上位の悪魔のようだな。」
古い本のページをめくりながら霧山が言う。
「…なんだ、その本。」
ハスディエルが霧山に聞く。
「悪魔退治の事について書いてある本だ。…上位悪魔を倒す事は難しいが時間稼ぎや突破口になる事はできるはずだ。」
「…悪魔退治の本か、そりゃ役にたちそうだな。人間も黙って悪魔に喰われるだけじゃないもんな。」
ハスディエルが霧山の目を見て話す。
「シャムシエルと違って話の分かる、友人のようだな。」
「人間にとっても興味があるからね♪」
ハスディエルが笑顔で話す。
「…こいつは、変り者なんだよ。暇さえあれば人間界に来てたからな。」
シャムシエルが霧山に言う。
「変り者に変り者扱いされたくねーよ!」
ハスディエルがふてくされながらシャムシエルに言う。
「……話を戻していいか?」
霧山が少し焦りながら2人に言う。
「ごめん、ごめん。凛子ちゃんが起きる前に話し終わらないとな!」
ハスディエルが焦りながら言う。霧山がメモをハスディエルに渡す。
「……ここに書いてあるものが欲しいんだ。仕事をしながらでは揃えられない。」
「……こんなにいるのか?…たしかに、仕事をしながら、揃えるのは大変そうだな。」
ハスディエルがメモを見て納得する。シャムシエルもメモを見る。
「…ハスディエル、用意できるか?」
「大丈夫だ。マキディエルをこき使っていいって言われてるしな♪」
ハスディエルが笑顔で話す。
「…助かる。協力な魔術には特殊な材料が必要なんでね。」
「できるだけ早く用意するよ。……それにしても、血が繋がってないのに兄弟?人間ってのは複雑なんだな…」
ハスディエルが不思議そうな顔をして霧山に聞く。
「…血の繋がった妹は先に逝ってしまったよ。…凛子に生きる希望をもらった。」
霧山が穏やかな顔でハスディエルに話す。
「……そうか、霧山も凛子ちゃんに救われたって事だな。」
ハスディエルが微笑みながら霧山に言う。
「ああ。…?……私、以外にも救われた奴がいるのか?」
霧山が不思議そうな顔でハスディエルに聞く。
「ここにもいるだろ?…凛子ちゃんに救われて骨抜きされてる男が♪」
笑顔のハスディエルがシャムシエルを指差す。
「……たしかに。言われてみれば昔のシャムシエルはぼんやりしてたな。」
霧山が思い出しながら話す。
「…うるせぇよ。…いわれのない事で命、狙ってたくせに。」
シャムシエルが気恥ずかしそうに霧山に言う。
「…そうだな。本当に悪かった。」
霧山が申し訳なさそうに言う。
「詳しい話、聞きたいところだけど…このメモの材料集めしてくるわ♪」
そう言うとハスディエルが姿を消す。ハスディエルが消えて少し驚いた後で霧山がシャムシエルの目を見て話す。
「…大丈夫か?」
「何が?」
シャムシエルが不思議そうな顔をして霧山に聞く。
「…私が引っ越した日の夜、不安そうな顔をしていた。」
「………いや、別に……」
……何だよ、見てないようでしっかりと見られてるな。
「言いたくないなら構わんが、一人で考えててもろくなことはないぞ。」
「………なんだよ、おまえ、本当に……」
シャムシエルが頭を抱えてため息をつく。
「……昔から人の顔色を伺うのが好きなんでな。」
霧山が意地悪そうに笑う。
「……どうしてか、分からんが。……凛子が俺をおいてひとりでどこかに行きそうな気がするんだよ…」
頭を抱えたままのシャムシエルが話す。
「……ひとりでどこかに?……あるかもしれんな。凛子は無理をするから。」
シャムシエルが顔をあげて霧山を見る。
「…お前の身が危なくなれば迷わず、自分の命を差し出すだろうな。凛子はお前の為なら何でもするぞ。」
「…そんなことしたら俺も死ぬよ。」
「?…どうしてだ?」
「……この指輪は1つの鉱石から2つ作られているんだ。その特性から指輪を付けた者同士の命が繋がる。凛子が死ねば俺も死ぬ。」
「……なるほど、それで返事を待たずに指輪をつけたのか?…命懸けの結婚か、たいした覚悟だ。…凛子は指輪の事、知ってるのか?」
「別の友人にばらされた…」
「凛子、怒ってたんじゃないのか?」
「ああ、怒られた。」
「そうか。」
霧山が笑う。シャムシエルがため息をつく。
「…どうしても、凛子が欲しかったんだよ。…だから、指輪で縛りつけて逃げられないようにした。」
「そんな事しなくても凛子の心は決まってたのに…」
「………人間の心は変わるから……な。」
シャムシエルが寂しそうな顔で言う。
「…まぁな。たしかに心変わりするやつもいるな。…けどお前も見たことあるんじゃないか?…お互いしわしわのじいさん、ばぁさんになっても死ぬまで添い遂げる夫婦を。…人は心変わりするけど変わらない心もある。」
霧山がシャムシエルの目を見て諭すように話す。
「…分かってる。…さつきも変わらなかった。彼女は出会った時、大人だったから不安もなかった。……でも凛子はまだ幼い、これから変わる可能性もあるだろ?」
「…お前が、そんなに余裕のない顔するのは珍しいな。」
霧山が笑う。
「………余裕ないとか…ほんと、カッコ悪いな、俺。」
シャムシエルがため息をつきながら下を向いて頭を抱える。
つづく。




