第33話 天使の想い。
さつきは家事がなにひとつできなかったけど底抜けに明るくて…本当に愛していた。
だからさつきの為になることは何でもしたかった。
家事だけじゃなくて身のまわりの事も。
………さつきは嫌がらなかったのに。
凛子はどうして嫌がるんだ?!
シャムシエルが頭を抱えて困惑する。
「…………………。」
そういや、写真…
さつきの事をそんなに気にしてるとは思わなかったな…
同じ人間なのに全く違う……
さつきの一生を側で見て、人間が分かったような気がしてたけど…まだまだ知らない事だらけだな。
それに……
ガシャーン!
凛子がキッチンでコップを落とした。
シャムシエルがキッチンへ向かう。
凛子が割れたコップの破片を集めながらシャムシエルの気配に気づいて振り向く。
「…すいません。手が滑って…」
「……いいよ。俺が片付けるから。手、切ってない?」
「大丈夫です。…すいません。」
凛子が下を向いて言う。シャムシエルが凛子の顔をじっと見る。
…あれから悪魔はなにも仕掛けてこない。
でも凛子の様子がおかしい。昨日からよく食器を落とす…今日だけでも3個めだ…いつもはしっかりしてるのに変だな、顔色も悪いし…。
「…………。」
また、落としちゃった。…しっかりしないと。
凛子が震える手を握りしめる。
…頭の中で嫌なことばかり、言うヒトがいる。
悪魔?…なのかな……
…大丈夫。……こんなの慣れっこだから…
…………大丈夫。
凛子が大きく息をはいて、自分に言い聞かせる。
シャムシエルが割れた破片を集めて片付ける。
「……凛子…大丈夫?」
シャムシエルが凛子の顔を見て聞く。
凛子が少し焦りながら微笑む。
「…大丈夫ですよ。…食器、割って…すいません。」
「………いいよ。凛子が怪我してないんなら。」
……やっぱり、何か隠してるな。
凛子は全部、一人で背負う。俺に心配かけさせたくないから?
……この家で悪魔に襲われた時、あんな顔を見せたからかもしれないな……不甲斐ない。
ーマンションの屋上ー
ハスディエルが横になっていると誰かが声をかけてきた。
「……うかない顔ねぇ~」
ハスディエルが声のする方を見るとラファエルがいた。
「…ラファエルか、どうした?」
ハスディエルが起き上がる。
「様子、見に来たの♪…あんた達だけじゃ荷が重いでしょ?」
「…そうだよ。しかもウリエルに気づかれないようにしないとダメだろ?」
ハスディエルがため息をつく。
「…ウリエルに関しては私とガブリエルが何とかするから凛子とシャムシエルの事だけ考えててちょうだい♪」
「…ああ、頼むよ。」
ハスディエルが下を向いて難しい顔をする。
「…シャムシエルも言ってたけどあいつらの動きがなくなった。それが無気味なんだよ…」
「表だってなりを潜めてるのね。…陰険な事してきそうねぇ~。凛子はどうなの?」
「食欲ないし、顔色が悪い。…元気そうなフリはしてるけど。」
「…………あの子、何でも自分ひとりで抱えるからねぇ。」
ラファエルが難しい顔で考える。
……そういう所はあの子にそっくり。
「………本当に、いいですよ。わたしは気にしてないので…」
凛子が少しほほを赤くして言う。
「…足なら、恥ずかしくないだろ?」
笑顔のシャムシエルがソファーに座る凛子の前にひざまついて聞く。
「そういう問題じゃなくて…」
「じゃあ、体の傷から消そうか?」
「!!……体は…恥ずかしいので…」
凛子が頬を真っ赤にして焦る。
「だから、足なら恥ずかしくないだろ?」
シャムシエルがそういうと凛子の足に手を伸ばしてジーパンの裾をまくって足についている傷に口づける。
「ダメですよ!汚いから…」
凛子が慌てて足を引っ込めようとするがシャムシエルが離さない。
「汚くないよ。じっとしてて…」
……もやしさんの唇
………柔らかい。
凛子の顔が耳まで真っ赤になる。シャムシエルが凛子の顔を見て言う。
「…耳まで真っ赤だよ?…そんなに恥ずかしいの?」
凛子が自分の顔を手で隠しながら話す。
「……だって……もやしさんの…唇が…」
シャムシエルが凛子の手を掴んで凛子の顔を覗きこんで言う。
「……俺の唇が?…なに?」
「………え、えっと……くすぐったい…です……」
凛子が目線をそらせて言う。
「……くすぐったいんだ?」
シャムシエルが微笑む。そして凛子のジーパンのボタンに手を伸ばす。
「…まくっただけじゃ、足の傷を全部、消せないよ。…ズボン、脱がせてもいい?」
「…!!…だめですよ!」
凛子が慌ててシャムシエルの手を止める。
「でも、脱がないと、全部、消せないよ。」
「大丈夫です。そのままでも気にしてないので…」
「綺麗な足なのに、長ズボンばっかじゃもったいないよ。ミニスカートとかも着てほしいし。」
笑顔でそういうとジーパンのファスナーをおろして脱がせようとする。凛子が慌てて止めようとする。
「…え?!…ちょっと、待ってください!」
「凛子、暴れると、下着まで脱がしちゃうかもよ?」
シャムシエルが笑顔で凛子の顔を見ながら言う。
「え?…いや、ちょっ……待って…!!」
焦る凛子の言葉を無視してシャムシエルが慣れた手つきでジーパンを脱がせる。
…どうして、そんなにすんなり、脱がせられるの?!
シャツの裾で下着を隠しながら凛子が顔を真っ赤にして恨めしそうな顔でシャムシエルを見る。
「…どうして、そんな恨めしそうな顔で見るの?」
シャムシエルが焦りながら凛子に言う。
「………脱がせるの……慣れてる…ように…感じた……ので……」
凛子が顔を真っ赤にしたまま、ふて腐れながら言う。
……昔はいろんな人と付き合ってたから慣れてるって事だよね。
わたしが慣れてないだけで……
「…気のせいだよ。」
シャムシエルが焦りながら答えると凛子の膝についた火傷の痕に口づける。
「…!!」
恥ずかしさを隠す為に凛子が自分の顔を手で隠す。
……恥ずかしいし…くすぐったい?
どうしていいかわからない……
シャムシエルが顔を隠す、凛子を見る。
……混乱してるな、大丈夫かな?
傷を消すのはいつでもよかったんだけど、これで凛子の気が少しでも紛れるといいな。
「……終わったよ。大丈夫?」
シャムシエルが凛子の手を掴んで顔を覗きこむ。
耳まで真っ赤になった、凛子がシャムシエルに言う。
「………ありがとう…ございます。」
「ほら、ここに足いれて…」
シャムシエルが脱がせたジーパンを凛子にはかせようとする。
「!!…自分で…」
「いいから、早くここに足いれて。」
凛子がしぶしぶシャムシエルの言う通りにする。ジーパンをはかせ終わるとシャムシエルが凛子を抱きしめ心配そうに顔を覗きこむ。
「……怒ってる?」
「…………怒ってない…です。」
……わたしの為にしてくれてるのは分かるけど、恥ずかしい。
「………本当に怒ってないですよ。………恥ずかしい…だけ……です。」
凛子がシャムシエルの胸に顔を埋めながら言う。シャムシエルが微笑みながら凛子の頭を撫でる。
「…そっか、よかった。……あと、気になる事とか、悩んでる事があったら何でも話してくれると嬉しいんだけどな…」
シャムシエルが凛子の目を見て話す。
……気になる事や悩んでる事。
頭の中で聞こえる声の事…言った方がいいのかな?
でも…もやしさんにこれ以上迷惑かけたくないし…
凛子が下を向いて黙る。
「…凛子、」
インターホンが鳴る。
「……誰だろ?」
シャムシエルが液晶画面を確認すると玄関に霧山が立っていた。シャムシエルが玄関を開ける。
「うまい菓子を買ってきたぞ。」
ケーキの箱をシャムシエルに渡す。凛子が霧山に声をかける。
「今日はお仕事、早く終わったんですね。」
凛子の顔を見るなり霧山が凛子のおでこを人差し指で弾く。
「…!!痛いっっ!!」
突然の痛みに凛子が驚いて目を閉じる。
シャムシエルも驚く。
「…!!…凛子、大丈夫?」
「……シャムシエル、いいんだよ。…奥歯に物がはさまったような顔して。それにちゃんと食べてるか?」
霧山が凛子の顔をにらむ。
凛子が焦って霧山から目をそらす。
「……食欲ないとか言ってあんまり食べてないんじゃないのか?…あと、何を隠してる?」
……するどい。
顔見てすぐにばれた…もしかして、もやしさんにも…ばれてる?
凛子が気まずそうな顔でシャムシエルの顔を見る。
シャムシエルが何か言いたそうな顔で凛子の顔をじっと見る。
………ばれてる…ね。
うまく隠せてると思い込んでただけ…か。
凛子が下を向いて黙る。
「とにかく、玄関先だし…」
シャムシエルが霧山に話しかける。
「…そうだな。」
凛子の顔をじっと見ながら霧山が言う。
「…わたし、コーヒー入れてきま…」
「いいよ、俺が入れてくる。」
シャムシエルが笑顔で凛子に言う。
「…凛子、座れ!」
腕を組んだ霧山がソファーに座って凛子に言う。凛子が気まずそうな顔でしぶしぶソファーに座る。シャムシエルはキッチンへ向かう。
……凛子の顔、見てすぐに気づいたな。聞いても話さないと思ってそっとしてたのに、霧山は何のためらいもなく凛子に聞くし……
俺が慎重になりすぎなのか?
コーヒーを入れながらシャムシエルが悩む。リビングでソファーに座ってる霧山が凛子をじっと見る。凛子は下を向いていた。
「……で?…何を隠してる?」
「…何も…隠してないです……」
凛子が下を向いたまま答える。
「…何を隠してる?」
「……何も……」
霧山がため息をつく。
「…手を出せ。」
凛子が顔をあげて不思議そうな顔で霧山を見る。
「ほら、手を出せ。」
凛子が手を出すと霧山が綺麗な石のネックレスを凛子の手のひらに置く。
「……?……ネックレス…どうして?」
「魔除けだ。気休めにしかならないだろうけどな。」
「ありがとう…ございます。」
凛子が微笑みながら霧山の顔を見て言う。
…あれ?霧山さん、顔色が悪い。
目の下にくまがある。
「……お仕事、忙がしいんですか?」
凛子が心配そうな顔で霧山に聞く。
「…少しな。仕事よりもその魔除けを作ったり、魔術書を調べたりで忙しかった。」
霧山が少し疲れた顔でネクタイを緩めながら言う。
「すいません、わたしのせいで…」
「謝る事はない。凛子の命がかかってるんだ。多少の無理はさせてくれ…」
霧山が微笑みながら凛子の頭を撫でる。
「…私だけじゃない。シャムシエルだって凛子の為に頑張ってるんだ。…周りの者に気をかけるのもいいが、もっと自分を大事にしてくれ。」
「………。」
凛子が下を向いて黙る。シャムシエルがコーヒーをテーブルの上に並べる。
「…凛子、ネックレス貸して。」
シャムシエルが凛子にネックレスをつける。
……忙がしいのに、わたしの為に。
凛子がネックレスをじっと見る。
「…上位悪魔にどれだけの効果があるか分からん。他にもいろいろと調べてみたが…」
霧山が古い本を鞄から出して話し始める。
「…古い本だな。」
シャムシエルが本を覗く。
「昔から化け物退治は人間の役目なんだよ。だからこういう本が残ってる。」
「…そういうものなのか?」
シャムシエルが不思議そうな顔で霧山に聞く。
「そういうものだ。」
霧山が答える。
「人間に出来ることは限られているだろうが……魔の結界を破る魔術に魔除けの魔方陣…出来だけの準備はするつもりだ。」
「……霧山さん、、」
凛子が心配そうな顔で霧山を見る。
「多少の無理はするが、体調管理はきちんとする。…だから心配するな。」
霧山が凛子の目を見て話す。シャムシエルが霧山の額に手を伸ばす。
「……俺の治癒能力、あんまりないからたいして回復しないかもしれないけど。」
シャムシエルの手の平が光る。霧山が不思議そうな顔をする。
「……何だ?……疲れが…消えた?」
「あんまり、無理するなよ。人間の体は弱いから。」
シャムシエルがため息混じりに言う。
…本当に人間って生き物は不思議だな。
天使達と違って力も丈夫な体もないのに人を超える者と戦う方法を考える。次の世代の為に書物を残し誰かを救おうとする。
…弱い存在のはずなのに力強さを感じる。
シャムシエルが遠くを眺めながら考える。
霧山が凛子を鋭い眼差しで見て言う。
「……で?……何を隠してる?」
「………。」
凛子が気まずそうに下を向く。
……遠慮なしだな。
シャムシエルが焦る。
つづく。




