第32話 太陽と月…
つきの日の朝、シャムシエルの寝室。
凛子がシャムシエルの腕の中で目を覚ます。
シャムシエルの寝顔を見ながら凛子が考える。
意味を知らないうちに指輪をつけられてプロポーズされて……本当に私でいいのかな?私なんて…美人でもないし…スタイルだってよくない…
「…………。」
凛子が目を閉じて難しい顔をする。
こんな事、考えてると霧山さんに怒られる…
でもわたしなんて………
凛子がシャムシエルの胸に顔を埋める。
……でも、こうしてると暖かいし、落ち着く。
わたし……もやしさんのそばにいてもいいのかな?
「…凛子、起きてる?」
シャムシエルが凛子の顔を覗きこむ。
「…!!…お、おはよう…ございます。」
凛子がシャムシエルに声をかけられて驚く。
「おはよう。」
シャムシエルが微笑みながら凛子の額にキスをする。
「…!!」
凛子の頬が赤く染まる。
…額にキスしただけなのに真っ赤になった。
「凛子、頬が真っ赤だよ。…本当に、可愛いな。」
シャムシエルが自分の額を凛子の額にひっつけて微笑む。
「!!…か、可愛くないです!」
凛子が起き上がってベッドから出ようとするがシャムシエルが凛子を抱える。
「…?!…じ、自分で歩けます。」
「いいから、いいから。」
凛子を抱えたままリビングへ向かう。リビングのソファーに座っているハスディエルがシャムシエルに言う。
「今日の朝めしは何だ?」
「…本当にお前は、遠慮なしだな。」
シャムシエルがため息をつく。ハスディエルが笑顔で凛子に声をかける。
「凛子ちゃん、おはよう♪今日も可愛いね。」
「…おはよう、ございます。」
…朝から元気な人。
シャムシエルが凛子をソファーに座らせる。
「凛子、何か食べたいものある?」
「…今、お腹すいてないので…後でいい……で……」
シャムシエルが黙って、凛子をじっと見る。
凛子がシャムシエルの視線に気づいて焦る。
「……えっと………あ、朝御飯、作ります…ね。」
凛子が気まずそうな顔でそう言うと立ち上がる。
「…凛子は座ってて。俺が作るよ、少しでも食べないと倒れるよ。」
凛子が気まずそうな顔でソファーに座り直す。
……元々、そんなに食べれないんだけどなぁ。
「…あの、これでも食べてる方なんですよ。昔から少食なんで…」
凛子がシャムシエルにそう言うとシャムシエルが大きなため息をつく。
「……もっと食べないとダメ。」
そう言うとシャムシエルが凛子の服の中に手をいれて肋骨を指でなぞる。
「…!!?!!!」
凛子が真っ赤な顔をして驚く。
「やっぱり、骨が浮き出てる。また痩せたんじゃないの?さっき、抱えた時、軽かった。」
「ど、どこ触ってるんですか!!…放して下さい!!」
凛子がシャムシエルの手を自分から離そうとシャムシエルの腕を掴んで叫ぶ。
「どこって…肋骨が浮いてるところ。…動くと違うところ、触っちゃうかもよ?」
シャムシエルが笑顔で答える。
「!!?!!!!?!!」
凛子が真っ赤な顔で慌てる。
「朝からラブラブだなー♪そういうのは2人の時にしてくれよ~」
ハスディエルが呆れた顔でため息をつく。
「気を使って、姿を消すもんじゃないのか?」
シャムシエルがふて腐れてながら言うとキッチンへ向かう。凜子は耳まで真っ赤にして下を向く。
……耳まで真っ赤になった。可愛いな♪
ハスディエルが凛子を見て微笑む。シャムシエルが出来上がったホットケーキをテーブルに並べる。
「うまそうだな♪…おかわりあるか?」
ハスディエルが食べながらシャムシエルに聞く。
「…あるけど、ちょっとは遠慮しろよ。」
シャムシエルがあきれた顔でハスディエルに言う。
……食べなくてもいいやつが食べて、食べないとだめな凛子が食欲ないって…。少食の上に元々、細いし……こんな体でよく生きてたな。
シャムシエルが凛子をじっと見る。シャムシエルの視線に気づいた凛子が気まずそうな顔をする。
……食べる量が少ないから心配されてる。
分かってるんだけど…食欲ないし…
凛子がホットケーキを少し食べてからシャムシエルの顔をちらっと見る。視線に気づいたシャムシエルが凛子を難しい顔で見る。
「もしかして凛子ちゃん、お腹、いっぱい?…じゃあオレが食べるよ♪」
ハスディエルが凛子のお皿に手を伸ばす。シャムシエルがハスディエルの手を払う。
「いてっ!!何すんだよ、残したらもったいないだろ?」
「本当に遠慮ないな。…お前はこっちを食べろ、まだ手をつけてないから。」
シャムシエルが自分の皿をハスディエルに渡す。そして笑顔で凛子に言う。
「…キスしてくれるんなら、残してもいいよ。」
「…!?!!」
凛子が顔を真っ赤にして慌てる。
「やーらーしーーー。そのいやらしい笑顔で昔も…」
ハスディエルがニヤニヤしながら話し始める。
「お、おい!…何の話、してるんだ?!」
慌てたシャムシエルがハスディエルの声を遮るように叫ぶ。凛子が呆れた顔でシャムシエルを見る。
「…?……凛子、どうしてそんな顔で…見るの?」
「…何もないですよ。」
凛子が冷めた目で視線をそらす。
……もしかして、昔の事、知ってるのか?
ハスディエルが凛子を見て焦る。
朝食を食べ終えてハスディエルが立ち上がる。
「ごちそうさん♪ちょっと見回り行ってくる。」
そう言うと姿を消した。マンションの周辺を飛び回り屋上に降り立つ。
…何も仕掛けてこないな。
この静かさが余計に気味が悪い。しかも、アイツが相手となるとかなり厄介。……ウリエルに気づかれないようにもしないと。
「オレとシャムシエルだけで何とかできる相手じゃねぇよな…。」
ハスディエルが大きなため息をついてうなだれる。
夜、シャムシエルがお風呂に入って、凛子はリビングで本を読んでいた。ふと書斎のドアが少し開いていることに気づく。
……書斎のドアが空いてる。そういえばここに来たばかりの頃、入っちゃだめって言われたけど…何があるんだろ?
書斎のドアの隙間から中を覗く。
デスクの上にノートパソコンが置いてありそのすぐそばに写真たてが置いてあった。
……誰の写真だろ?
見ちゃだめ……だよね………
少しためらいながらも書斎に入って写真たてを手に取る。
笑顔の女性が写っていた。
……笑顔の素敵な人。もしかして、さつきさん?
バスルームから出てきたシャムシエルがリビングに入ってくる。凛子の姿がないので辺りを見渡す。
…あれ?
どこ行ったんだ?
書斎のドアが空いてる事に気づき中にいる凛子に声をかける。
「…凛子、何してるの?」
急に声をかけられた凛子が驚いて写真たてを落とす。
ガシャン!
写真たてのガラスが割れる。
「…!!」
大事な写真が!
慌てた凛子が破片の中から写真を手に取る。
…よかった、写真は傷ついてない。
「……凛子、手を見せて。血が出てる。」
「すいません、大事な写真なのに。傷がつかなくてよかったです。」
ほっとした凛子が写真をシャムシエルの前に出す。
「写真はいいから、手を見せて。」
シャムシエルが凛子の手から写真を取るとデスクの上に置く。
「あっ!…勝手に書斎に入ってすいません。」
凛子が下を向いて謝る。
……?
書斎に入るなとか言ったかな?
それよりも…
「…手を見せて。」
「写真たても壊してしまってすいません。すぐに片付けます。」
凛子がしゃがんでガラスの破片を拾い始める。シャムシエルの眉間にシワがよる。
「写真も、破片も、どうでもいいから、手を見せて!」
シャムシエルが凛子の手首を掴んで傷口を見る。
「大丈夫ですよ。これくらい、何ともないです。」
「何、言ってるの。血が出てる…」
そう言うとシャムシエルが凛子の手の傷口を舐める。
「…!?…本当に大丈夫ですからっ!」
凛子が顔を真っ赤にして手を引っ込めようとするがシャムシエルが手を離さず傷口を舐める。
「……さつきの事…気になる?」
シャムシエルが凛子の目を見て聞く。凛子が気にしていた事を言い当てられて言葉を失う。シャムシエルがデスクに置いていた写真を手にとって眺める。
…そういや、最近はさつきの写真、見てないな。
いつからだろ?
…………ああ、凛子が来てからだな。
「…さつきは太陽みたいな女だったよ。いつも元気で、よく笑うし、よく喋るし、泣いたり、怒ったり…本当に賑やかだったな。」
シャムシエルが写真を眺めながら微笑む。
「…………。」
…今でも、大切な人だよね。明るくて綺麗な人。
凛子が黙ったまま、下を向いて苦しそうな顔をする。
「…すいません…大切な写真なのに…」
「……そんなに気にしなくていいのに。」
シャムシエルが不思議そうな顔で凛子に言う。
「……さつきが太陽なら、凛子は月だね。…夜の闇の中で光ってる。」
……わたしが………月?
凛子が不思議そうな顔でシャムシエルを見る。
「……暗くて、無口って事ですか?」
「……え?!……そうじゃなくて……褒めてるんだけどなぁ~」
シャムシエルが頭を抱えてため息をつく。
「……?」
意味がわからない凛子が首をかしげる。
……やっぱり、今までの手がまったく、通用しない……本当に…この子は……
シャムシエルが微笑む。
……どこまで、俺を…夢中にさせるんだろ?
「……闇の中で静かに光る月は美しいだろ?…凛子も美しいって事だよ。」
「暗いのは認めますけど…美しいとは思えないです…」
凛子が難しい顔で言う。シャムシエルが凛子の鼻をつまむ。
「…!!!」
鼻をつままれて凛子が驚く。その顔を見てシャムシエルが無邪気に笑う。
「可愛すぎるよ、凛子。」
「…可愛くなっ…!?」
凛子がそう言いかけるとシャムシエルが凛子の唇に自分の人差し指を添える。
「可愛いの!…いい加減、認めてほしいなぁ。」
シャムシエルが笑顔で凛子に言う。
つづく。




