第27話 今は亡き愛する者…
たしか、俺が生まれる前に天使と悪魔の大戦があったとか聞いたな。その時に七大天使のうち3人が死んだはず…
「七大天使の1人で俺が知らないって事は…大昔の大戦で…」
「そうだ。お前が生まれる前の大昔の大戦で命を落とした熾天使のひとりだ。名前はハニエル…天界の秩序を守る役を務めていた。」
「……天界の秩序を守っていた?」
…ハニエル…初めて聞く名前だな。
「ハニエルが生きていた頃、私はミカエルの補佐をしていた。…見た目と違って厳しい女だった。」
「……見た目と違って……厳しい女。……しかも、お前より厳しいって…昔の天界はとんでもない事になってたんだな。」
シャムシエルが青ざめながらウリエルに言う。
…ウリエルより厳しいやつがいたのか、しかも女…恐ろしいな…
「何を言っている。……今の天界と変わらないぞ。」
ウリエルが呆れた顔でシャムシエルに言う。
「凛子を見てるとそのハニエルって言う女を思い出す?…凛子と似てるのか?」
「…いや、顔や性格は全く違う。…幼い顔はしていたが…」
「ん?…顔も性格も違うのにどうして凛子を見てると思い出すんだ?」
シャムシエルが不思議そうな顔で悩む。
「厳しい女ではあったが…いつも自分の事より周りの者達の事を気にかけていた。いつも自分の事は後回し…立場の弱い者や困っている者の為に常に動いていた。」
……自分より周りの者の為…か。
たしかに凛子と同じだな。
「…なるほど。凛子も自分の事は後回しだな。大昔の大戦って事は…悪魔に…」
「そうだ。…悪魔に殺された。………私を庇ってな。」
「え?!」
…ウリエルを庇って?
シャムシエルが驚く。
「…私が不甲斐ないばかりに……」
ウリエルがうなだれる。
そばにいたプットがウリエルの肩に乗って心配そうな顔でウリエルを見る。
「………。」
…なるほど、愛していたのか。
ウリエルを庇ったって事はハニエルもウリエルの事を…
「……ハニエルの事は、知らないが大事な者を守る為なら本望だったんじゃないのか?」
「………そうだと…いいが。」
ウリエルがうなだれたまま答える。
ゴンッ!
シャムシエルの膝で眠っている凛子がバランスを崩してカーペットの上に倒れる。シャムシエルとウリエルが驚く。
「…え?!…凛子、大丈夫か?!」
凛子は眠ったまま眉をひそめる。
シャムシエルが座ったまま凛子を抱える。
「……頭ぶつけて、痛そうにしてるけど、まだ寝てる…」
そう言いながらシャムシエルが凛子の頭を撫でる。
「…大丈夫……なのか?…………ハニエルを思い出して…凛子に何か頼まれると、断りづらい…」
ウリエルが困った顔でシャムシエルに言う。
…なるほど、マキディエルが凛子を傷つけた時、ウリエルの判断が鈍ったのはそういう訳か。
「………自分の事を後回しにするって事は本当は優しい女なんだな……愛してたんだろ?」
ウリエルが伏し目がちに答える。
「……………ああ、愛していた。大戦が終わった後に誓の指輪を作ってもらうようにミカエルに頼んでいた。」
「…………。」
ウリエルとこんな話するとは……こいつにもいろいろあるんだな。
シャムシエルがウリエルをじっと見る。
「…?…どうした?」
「お前にも、いろいろあるんだなぁと思ってな。………いつか、愛しいと思える相手に出逢えるといいな。」
「…もう、誰も愛する事はない。天界の秩序を守るのが私の務めだ。」
…ハニエルから引き継いだこの仕事が私の誇りで支え。
「俺もさつきを失った時、そう思ったよ。…でも凛子に出逢った。お前にもきっと、現れるよ…もうそばにいたりしてな。」
シャムシエルが腕の中で眠る凛子の頬に触れる。
「…傍に?…そんな者はいない。…長話になったな。そろそろ戻る。とにかく油断するな。」
「分かってる。」
ーシャムシエルの寝室ー
凛子がシャムシエル腕の中で目を覚ます。
……今、何時かな?
シャムシエルの腕の中から出ようとするが動けない。
もやしさん、寝てるよね?
しっかりと抱きしめられてて出られない…
「…もやしさん、起きてください。…動けないです。」
「………ん?」
シャムシエルが目を覚ます。
「…もう、朝か?」
「はい。…離してくれないと起きれないです。」
「……やだ。」
シャムシエルが子供のように不貞腐れながら言う。
「え?!……そんな、子供みたいに駄々こねないで下さいよ…」
凛子が困り顔で答える。
「……凛子。」
シャムシエルが真剣な顔で凛子を見る。
「…?……どうしたんですか?」
「俺を置いて、1人でどこかに行かないでくれよ…」
「……?」
凛子が不思議そうな顔でシャムシエルを見る。
……どうしたんだろ?
もやしさん、不安そうな顔してる。
やっぱり…わたしのせいで負担かけてるのかな?
…………わたし、何もできない。
彼の負担になりたくない……
凛子が自分の左手の指輪を見る。
もやしさんの覚悟は分かってるけど…やっぱり、彼を死なせたくない。……この指輪、外せないのかな。
……でも指輪を外したいって言ったらもやしさん、怒るだろうな……
凛子がシャムシエルの胸に顔を埋める。
……どうしても、君が欲しくて指輪で縛りつけた。
俺は凛子を愛してるけど凛子はどう思ってるんだ?
妻になってくれるとは言ってくれたけど……
………凛子は本当に俺のそばにいたいのか?
シャムシエルが凛子を強く抱きしめる。
「……もやしさん、苦し…い」
「!……ごめん。」
シャムシエルが慌てて凛子から手を離す。
そしてインターホンが鳴る。
「…誰か来たな。」
シャムシエルが玄関へ向かう。
凛子が着替えてリビングに入ると見知らぬ男の人がシャムシエルと楽しそうに話していた。
「君が凛子ちゃんか♪よろしく!」
見知らぬ男性が凛子のそばにやって来て強引に握手をする。
「…は、初めまして、立花…凛子です。」
凛子は驚きながらもあいさつする。
…もやしさんの知り合い…かな?
髪の毛、茶色…明るくて元気そうな人…この人も天使?…なのかな。
「可愛いね♪若く見えるけど、いくつ?…手もすべすべだね♪」
見知らぬ男性が凛子の手に頬ずりする。
「………じゅ、じゅう…はち……です。」
グイグイくる人…苦手……
凛子が離れようと後ずさりするがお構い無しに笑顔で凛子の手を離さない。
「いい加減にしろ!」
シャムシエルがムスッとしながら凛子を自分の方へ引き寄せる。
「何だよ!ちょっとくらいいいだろー」
見知らぬ男性がムッとしながらシャムシエルに言う。
「何言ってる!俺の妻だ、気安く触るな。」
訳が分からずシャムシエルの影に隠れる凛子。
「もやしさん……この人は?」
「ああ、こいつはハスディエル、俺の古い友人だよ。」
シャムシエルが笑顔で凛子にハスディエルを紹介する。
「大昔からシャムシエルのお守りをしてた、心の広い男だよ。よろしく、凜子ちゃん♪」
ハスディエルが笑顔で凛子の頭を撫でようと手を伸ばすがシャムシエルがハスディエルの手を遮る。
「だから!気安く、触るな。」
「ケチ!」
「うるせぇ!」
「それより、お守りされた覚えはねぇぞ!?」
「よく言うぜ。いつもお前の尻拭いしてやってただろ?」
「何言ってる!!」
仲良しなお友達なのかな?
……もやしさん、楽しそう。
「…お茶でも入れましょうか?」
凛子が笑顔でハスディエルに言う。
「お茶もいいけど…凛子ちゃんの手料理、食べたいなぁ♪」
ハスディエルが笑顔で凛子に言う。
「分かりました。…何か作りますね。」
「いいよ、俺が……」
「もやしさんはハスディエルさんと話してて下さい。」
そう言うと凛子がキッチンへ向かう。
リビングのソファーに座る2人。
「おい!18って……お前、いつからロリコンになったんだ?」
「だから、ロリコンじゃねぇよ…」
…そういや、マキディエルにも言われたな。
ため息混じりにシャムシエルが言う。
「めちゃくちゃ、可愛いじゃねぇか!…いいなぁ♪オレもあんな可愛い、嫁さん欲しい…」
ハスディエルがキッチンで料理をする凛子の後ろ姿を見ながら話す。
「………。」
シャムシエルがムッとした顔でハスディエルを見る。
「なんて顔してるんだ?…心配しなくてもとらねぇよ。」
ハスディエルが笑いながらシャムシエルに言う。
「…とにかく、気安く触るな。」
「そんな事より…もやしさん?…お前いつから名前、変えたんだ?」
ハスディエルが不思議そうな顔でシャムシエルに聞く。
「………俺の名前は覚えにくいらしい。」
シャムシエルがため息混じりにハスディエルに言う。
……そういや、凛子にちゃんと名前、呼んでもらった事ないな。
「……もやし…?………白くて…長い?………ぶっ!あははははっ!!たしかに!いい名前だな!」
ハスディエルが大笑いする。シャムシエルがため息をつく。
「…笑いすぎだろ?」
出来上がった料理をトレイに乗せて運んできた凛子が焦りながら話に入ってきた。
「……覚えにくいというか……言いにくくて……舌噛みそうじゃないですか?」
凛子がハスディエルの前にサンドイッチとコーヒーを並べる。
「ありがとう、凛子ちゃん。美味そう♪」
シャムシエルの前にもサンドイッチとコーヒーを置く。
「ありがとう。……あれ?…凛子の分は?」
「…食欲なくて。…後でお腹が減ったら食べます。」
凛子が困り顔で答える。シャムシエルがムッとしながら凛子に言う。
「ダメ!…ちゃんと食べないと!」
シャムシエルがサンドイッチを手に取って凛子の口に入れようとするが凛子が自分の手を前に出して拒む。
「本当に、食欲なくて…」
「昨日、怖い思いしたんだから、仕方ないだろ?…無理強いするな。朝めしくらい食べなくても大丈夫だよ。」
ハスディエルがサンドイッチを手に取ってシャムシエルに言う。ハスディエルに言われて気がついたシャムシエルが心配そうに凛子に聞く。
「…スープでも作ろうか?」
「…ありがとうございます。…大丈夫ですよ。」
「うまい!凛子ちゃん、料理、上手だね♪昼はハンバーグが食べたいなぁ~」
サンドイッチを食べたハスディエルが笑顔で凛子に言う。
……明るい人。笑顔が子供みたい。
「分かりました。お昼はハンバーグですね。」
凛子が微笑みながら答える。
「昼飯も食べる気か?」
シャムシエルが焦りながらハスディエルに聞く。
「もちろん♪これから、しばらくここにいるからなぁ。人間の世界を満喫しないと♪」
シャムシエルが驚く。
「…しばらく?……まさか、専属の上位天使って……」
「オレだよ。つい先日、上位天使に昇格したんだよなぁ~♪」
ハスディエルが得意気に笑いながらシャムシエルに言う。
「…お前が…上位天使?」
「ああ。…どこかの遊び人が堕ちてから、必死に働いたんだよ。お前に追いつく為に。」
ハスディエルが真剣な顔でシャムシエルに言う。
「…何言ってんだよ。昔からお前の方が上だろ?」
シャムシエルが不思議そうな顔でハスディエルに言う。
……追いつく為?
昔のもやしさんは中級の天使…だったよね?
ハスディエルさんは上位天使になったのに…どうしてそんな事、言うんだろ?
凛子が不思議そうな顔で考える。
……また、何か考えてる。
シャムシエルが凛子をじっと見る。シャムシエルの視線に気づいた凛子がシャムシエルを見る。
「…?…わたしの顔に何か、ついてますか?」
「いや、可愛いなぁと思って見てただけ…」
シャムシエルが笑顔で凛子に言う。
凛子が下を向いて照れながら頬を膨らませる。
「可愛くないです!」
…また、ほっぺた膨らんでるな…可愛いすぎる。
シャムシエルが凛子の頬を甘噛みする。
凛子の顔が耳まで真っ赤になる。
「!?!?!!……何するんですか!!」
凛子が慌ててシャムシエルから離れようとするがシャムシエルに抱きしめられる。
「可愛すぎて、食べたくなるな。」
シャムシエルが笑顔で自分の頬を凛子の頬にくっつける。
…食べたくなる?
凛子が不思議そうな顔をした後で青ざめる。
「…?…凛子、顔が青いよ?…体調…悪い?」
シャムシエルが心配そうな顔で凛子の顔をのぞき込む。
「………天使って………人間を…たべるんですか?」
凛子が青い顔をしたままシャムシエルに聞く。
「……へ?」
シャムシエルが目を丸くして驚く。
ハスディエルが下を向いて肩を揺らす。
「ぷっ!…あははは!!面白いな、凜子ちゃん!」
ハスディエルが大笑いしながら凛子に言う。
「…食べるわけないだろ?」
シャムシエルが少し困った顔で凛子に言う。
「…食べないんですか……よかった。」
凛子がほっとした顔で言う。
「……でも、いつかは…ある意味、食べるって事になるけどね。」
シャムシエルがにこにこしながら凛子に言う。
凛子がきょとんとしてシャムシエルに聞く。
「…?………ある意味、食べる?……ってどういう事ですか?」
「今すぐじゃないけど…凛子ともっと仲良くなりたいからね。」
シャムシエルが微笑みながら凛子の下唇を右手の親指で撫でる。
何の話をしているのか分かった凛子が顔を真っ赤にして下を向く。2人の会話を聞いていたハスディエルが目を見開いて固まる。
「おい、…まさか………まだ、してないのか?」
「ん?…ああ。」
凛子が下を向いたままシャムシエルの影に隠れる。
…恥ずかしい。
そんなハッキリと聞かなくても…
「どうした?…あのシャムシエルが?」
「………昔の俺とは違う。…というか、凛子の前でこういう話は禁止。」
……これ以上、こんな話してたら凛子が恥ずかし過ぎて倒れそうだな。
シャムシエルが焦りながらハスディエルに言う。
「なんで?」
「何でも!!」
ハスディエルが顔を真っ赤にしたままシャムシエルの影に隠れている凜子を見て考える。
……湯気が出そうなくらい真っ赤になってるな。
そこまで恥ずかしがらなくても…
まるで処女みたいだな………って、まさか……
「もしかして…」
ハスディエルの言葉を遮るようにシャムシエルが言う。
「この話は終わりだ。…さっさと朝めし、食べろ。」
…………マジか。
初めての男がシャムシエルか…大変だなこりゃ。
ハスディエルが焦りながら凛子をじっと見る。
「…と、とりあえず、しばらくの間この辺りをウロウロしてるから安心しろ。オレ以外にも常に何人か待機してるからな。」
つづく




