第22話 甘えられない子…
……今までずっと、1人で生きてきたような気がする。
親から、見放されて…
自分には何の価値もないんだと思ってた。
だから他の人と関わるのが怖くて、一人でいる事が1番なんだと思ってた…
「初めまして、お嬢さん。」
突然、わたしの目の前に現れたヒトは人間ではなかった。
生きることを諦めた、わたしを必死になって助けてくれた…
…ひとりで平気。
わたしは……ひとりで………大丈夫。
ずっと…そう思ってたのに………
凛子とガブリエルがショッピングモールを歩いていた。
「…そんなに、たくさん洋服いりませんよ。」
「何言ってるの!……同じような服ばっかりじゃない。もっと可愛い服もいるでしょ?」
………可愛い洋服、苦手なんだけどな。
似合わないし…
ガブリエルが若者向きのショップに入る。
凛子が渋々ついて行く。
「…これなんてどう?」
可愛いワンピースを手に取って凛子に手渡す。
「…え!!無理ですよ!…こんな服、似合いませんよ。」
「なーに言ってるの!可愛い顔してるのに、シャツとジーパンばっか着て!」
別の可愛い洋服を見せる。
「…こっちの方がいいかしら?」
「そっちも無理ですよ!」
凛子が焦りながら答える。
「……そういや、あいつからお小遣い、貰ってる?」
「はい。足りなかったらカードも使っていいからって言われてます。」
……あいつ、カードまで預けてるんだ。
私が買ってあげようかと思ったけど…
ガブリエルがニヤリと笑う。
「…そっか♪…じゃあパーっと使っちゃおう♪」
「え?!」
凛子が焦る。
……欲しいものがあったら何でも買っていいって言われたけど…本当にいいのかな?
ガブリエルがあちこちのショップで凛子に服やバッグを選ばせて可愛い洋服に着替えさせた。
全てシャムシエルのカードで支払う。
「…歩き疲れたわね。…休憩しましょ♪」
オシャレなカフェに入る2人。
飲み物を注文して店員が持ってきた。
「……こんなにたくさん買って。いっぱいお金、使っちゃいましたね。」
凛子が買い物袋を眺めながら焦る。
……あとで怒られるかな?
「…いいのよ!あいつ、お金持ちだから♪」
ガブリエルが笑顔で答える。
「…でも、、」
ガブリエルがため息をつきながら微笑む。
「なーに、気を使ってるのよ!夫婦なんでしょ?もっとシャムシエルを困らせるくらいワガママ、言いなさいよ。」
アイスカフェオレをストローで飲みながらガブリエルが言う。
「……わがまま…ですか?」
夫婦……たしかにそうだけど。
…そう言えば、霧山さんにも同じような事、言われた。
でも今のところ欲しい物……ない……。
「………うーん、今のところ……何もいらない………ですね。」
凛子が悩みながら話す。
ガブリエルがため息をつく。
「……欲がないわね、、人間にしては珍しいわよ。」
「……もやしさんがいてくれたら、それだけで充分です。」
凛子が素直な気持ちをそのまま言う。
ガブリエルが呆れながら言う。
「………あいつならほっといても、そばに寄ってくるわよ。」
……本当に欲のない子。
もっとわがまま言えばいいのに。
「……?……どうしたの?」
凛子の顔が急に赤くなる。
「……わたし、何言ってるだろうって思って…」
凛子が自分の両頬に手を当てながら下を向いて恥ずかしがる。
「……素直な気持ちを言っただけでしょ?恥ずかしがる事はないわよ。」
ガブリエルが微笑む。
「…あいつはね、昔からいつもつまらなそうな顔してたの。仕事もやる気がなくてサボってばっかり。……それに態度もでかいのよね。他の天使達は私達、七大天使に対して敬意を表したりするものなのにあいつだけは普通に話しかけてくるのよね!…ほんと図々しいやつ!」
「…………。」
サボりで態度が大きいって……
凛子が焦りながら黙ってガブリエルの話を聞く。
「……それに、皆が怖がるウリエルの事を全く怖がらなかったの。…それでウリエルが気にするようになってね。……元々、力はあるのにサボってばっかりだからなかなか上のランクに上がれなくてずっと中級のままでさ…」
「天使のランク?ってどんな風に決まるんですか?」
「……元々、持ってる力と真面目に仕事をこなす事でランクが上がっていくの。トップはミカエルでその下に私とウリエルとラファエルがいてそれぞれに直属部隊がいるんだけどその子達は全員、上級天使よ。…その下に中級、下級の部隊がいくつもあるの。」
「……もやしさんは中級天使?でしたよね?」
「それは昔の話。……今は1番下のランクよ。」
ガブリエルが笑顔で答える。
「…え?!」
凛子が驚く。
「だって一度、堕ちてるんだもの。前のランクのままじゃ誰も納得しないわよ♪……大丈夫よ、あいつならすぐに上に上がれるわよ。…もう、サボらないだろうし。……ちなみにマキディエルはウリエルの直属部隊の下の部隊にいるの。だからあの時、自分の部下が…って言ったのよ♪」
「…天使って何だか会社みたいですね。」
「そうね♪…社長がいて、幹部がいて…みたいな感じね。」
ガブリエルがニヤリと笑う。
「……いつもサボってばかりだったけど、まさか堕ちるとは想像してなかったわ。ウリエルは何も言わなかったけど…寂しそうにしてたわよ。」
「…やっぱり、そうでしたか。」
凛子がカブリエルに言う。
「…でも全てを捨ててもいいと思うくらい大切な人を見つけたからね。大人になって巣立って行ったみたいな感じがして少し嬉しかったかもね♪」
ガブリエルが微笑みながら言う。
「さつきさん…の事ですよね?」
……もやしさんが全てを捨てて愛した人。
どんな人だったんだろ?
「気になる?…さつきの事?」
ガブリエルが凛子の目を見て聞く。
「え?……えっと、少し。」
凛子が慌てながら答える。
「…シャムシエルに聞いたほうがいいかもね。……私が何か言ったら勝手に話すな!とか言って怒りそうだし。……さて、そろそろ帰ろっか。そろそろあいつ、帰ってきてそうだし。」
ガブリエルが微笑む。
「そうですね。」
家に帰るとシャムシエルが不機嫌な顔で待っていた。
「…どこに行ってたんだ?!」
「どこって買い物よ♪…たまにはいいでしょ?」
ガブリエルが笑顔で答える。
「…ガブリエルさんが出かけようって言ってくれたので……」
凛子が慌てながら答える。
「昨日、あんな事があったのに出かけるなんて、危機感なさすぎだろ!!」
シャムシエルがガブリエルに詰寄る。
「ちゃんと安全面は考えてたわよ!そもそも、私の方があんたより力があるんだけど?…他にも上位天使達もそばに付けてたわ。」
「でもな…」
「…たまには外に連れて行ってあげなさいよ。ずっと家の中だと気が滅入るでしょ?」
ガブリエルがため息をつきながら言う。
「…………。」
………そういや、ほとんど出かけてないな。
「…いろいろ、あってそんな余裕もなかったのも分かるけど…少しは考えてあげなさいよ。……またね♪」
ガブリエルがそう言うと姿を消した。
「…もやしさん。」
「……………あれ?……その服…」
シャムシエルが凛子が可愛い洋服を着てることに気がつく。
「……リリスさんがこれがいいって……言うので…」
凛子が下を向いて恥ずかしそうに言う。
「…よく似合ってるよ。」
シャムシエルが微笑みながら言う。
凛子の顔が真っ赤に染まる。
「……に、似合ってないですよ。……それよりもお金、いっぱい使ってしまって………ごめんなさい。」
凛子が小さな声で申し訳なさそうに言う。
「……?……謝らなくてもいいのに。……いっぱいって言っても、洋服を買ったんだろ?何百万も使ったのか?」
シャムシエルが不思議そうな顔で言う。
「!!……そんなに使ってないですよ!」
慌てる凛子の頬にシャムシエルがキスをする。
「……な、何するんですか!」
凛子が顔を真っ赤にして慌てる。
「…洋服、買ったくらいで気にし過ぎだよ。…欲しいものがあったらいくらでも買ってあげるから。」
シャムシエルが微笑む。
「…………でも、わたし……何もしてないのに…」
凛子が下を向いたままで言う。
「………?」
シャムシエルが不思議そうな顔をする。
「……家事も全部してる訳じゃないし…働いてもないし……もやしさんに頼ってばかりで……」
「…俺に頼っていいんだよ。出来れば甘えて欲しいんだけどね。」
シャムシエルが凛子の頭を撫でながら言う。
頼っていいって言われても…
それに甘える?ってどうしていいのか、分からない。
凛子が下を向いたまま黙る。
「……?………凛子…大丈夫?」
シャムシエルが心配そうに凛子の顔をのぞき込む。
「……やっぱり、あなたは変な人ですね。……マキディエルさんの方が美人でスタイルもいいのに……わたしみたいな何も無い……普通の人間を選ぶなんて…」
寂しそうな顔で凛子が言う。
……そのせいで自分の命も削って。
本当に変な人…
わたしなんかの為に……
「………俺の妻の事、悪く言わないで欲しいんだけど?」
シャムシエルがむすっとしながら凛子の鼻をつまむ。
「…!!」
凛子が鼻をつままれて驚く。
「……本当に、色んな事を気にし過ぎなんだよ…」
シャムシエルがため息をつく。
「でも……」
「それ以上、つまんない事を言うと無理やりキスするぞ!」
凛子が顔を真っ赤にしてシャムシエルから離れようとするがシャムシエルが凛子を抱きしめる。
「たしかに、凛子は美人ってタイプじゃないな。」
「……だから、マキディエルさんの方が……」
凛子の言葉を遮るようにシャムシエルが言う。
「凛子は可愛いな。…それに優しい。凛子といると落ち着くし…何より生きるって事がどういう事か分からせてくれた。」
シャムシエルが凛子の目を見て微笑む。
「…凛子に出逢わなければ、消えていたよ。…生きる意味を見つけられなくて。」
「…生きる…意味?」
「ああ。……君に出会うまで惰性で生きていた。」
シャムシエルが凛子の頬に手を添える。
「…俺が言うのも変だけど…見た目ってそんなに大事なのか?…凛子が太っても年老いても、今と変わらず愛せるよ。」
シャムシエルが不思議そうな顔で凛子に言う。
凛子の顔が赤くなる。
……何でもハッキリと言葉にするから恥ずかしいんだよね。
でも……嬉しい?……かな。
かっこいい人が見た目を気にしないって言うと普通は嫌味に聞こえそうなのに、もやしさんが言うとそう聞こえないんだよね。
……どうしてだろ?
「……そう思っていてくれても…やっぱり気にします。……わたしなんか……」
「…さっき、これ以上つまんない事、言ったら無理やりキスするって言ったよな?」
シャムシエルが凛子の顎に手を添えて自分の方に向かせる。
凛子が真っ赤な顔をして慌てる。
「…え?!…ちょ…ちょっと、待ってください!」
顔を真っ赤にして目と口をぎゅっと閉じる。
シャムシエルが凛子の額にキスをする。
驚いた凛子が目を開けてシャムシエルを見る。
「……へ?」
「……唇にキスするかと思った?」
シャムシエルが意地悪そうに笑う。
凛子の顔がさらに赤くなる。
「今のわざとですよね…」
ふくれながら凛子が言う。
笑った後で真面目な顔をしてシャムシエルが言う。
「……気がつかなくて、ごめんな。」
「…?……何の話ですか?」
凛子が不思議そうな顔で聞く。
「…ガブリエルに言われて気づいたよ。……ずっと、家の中にいてほとんど出かけてなかったなぁと思って。」
シャムシエルが申し訳なさそうな顔で凛子に言う。
凛子がきょとんとした顔で答える。
「…大丈夫ですよ。ここ何年もほとんど外に出てなかったので家にいるのは慣れてます。それに人混みが苦手なんですよね……」
……何年も外に出てない?
そういや、床に寝るのは慣れてるとか言ってたな…
……とんでもない環境におかれてたんだな。
でも、凛子はそれが普通だと思ってるのか?
シャムシエルが凛子を抱きしめる。
「……これからはいろんなところに出かけよう。…2人でね。」
……2人で。
………ひとりで平気…だったのに。
凛子がシャムシエルにしがみつく。
「……もやしさんのせいです。」
「……へ?……何が?」
シャムシエルが驚きながら凛子に聞く。
「………もう、ひとりになりたくないです。」
……ひとりで平気だったのに。
ひとりになるのが怖い。
シャムシエルの胸に顔を埋めたまま凛子が言う。
「……俺も。……もうひとりは嫌だな。…凛子と一緒にいたい。」
シャムシエルが少し驚いた後で微笑みながら凛子に言う。
つづく




