第21話 大天使ミカエル
ーミカエルの部屋ー
「ねぇねぇ、ミカエル。…ウリエルから聞いた?」
ガブリエルがミカエルに声をかける。
ミカエルが書類に目を通しながら返事をする。
「…聞きましたよ。」
「そう、ならよかったわ。…ウリエルの顔、面白かった…」
ガブリエルが笑いながら話すが遮るようにミカエルが口を開く。
「ガブリエル。……あなたにも一言、言っておきたいのですが…」
「…え?」
…ミカエル…怒ってる?
ガブリエルが青ざめる。ミカエルが笑顔でガブリエルを見ているが目の奥が冷たく光っていた。
「…おかしいと思った時点でシャムシエルに知らせるべきではありませんか?あなたが忙しいなら他の者に伝言する事も出来たはずです。…今回は大事に至りませんでしたが……もし何かあったらどうするつもりだったのですか?」
……うわ、すごい怒ってる。
笑ってるのが余計に怖いのよね…
この威圧感…息が止まりそう…
「はい。以後、気をつけます……」
ガブリエルがミカエルに謝る。
「……マキディエルとウリエルにも言いましたが…本当に気をつけて下さいね。」
2人も怒られたんだ…
マキディエル、可哀想…
ミカエルが怒ると1番怖いんだよね…
「……それにしても。」
ミカエルの顔がいつもの笑顔に戻る。
「…え?」
「ウリエルが凛子に弱いそうですね。……直接、見たかったですね。」
「…凛子に不安そうな顔で見られたら、ウリエルが困った顔してたわよ。」
「……天界一の厳しい天使がね。……本当に面白い子ですね。彼女は……」
「そうね。面白いし、不思議な子…」
「…ガブリエル、手が空いたらシャムシエルを呼んできて下さい。彼にもしっかりと話をしたいので……」
ミカエルが乾いた笑顔でガブリエルに言う。
……シャムシエルも怒られるんだ。
そりゃそうよね……
「分かったわ。手が空いたら呼びに行くわ。…じゃあ私、仕事に戻るね…」
ガブリエルが部屋から出ていった。少し歩いた所で大きく深呼吸をする。
……怖かった~。
久々に怒られたわ。
「……まったく、全員、意識が低いですね。最近、見つけた穢れなき魂を持つ人間の中でも群を抜いて可能性が高い子なのに…」
………他にも数名、可能性がある人間はいるが彼女は特に強い力を持っている。シャムシエルを救っただけではなくあれだけの力を引き出している。…彼にも頑張ってもらわないと。これからの天界の為にもあの2人の力は必要なのだから…
ミカエルが遠くを眺めながら考える。
それにしても………
「…凛子に弱い……か。……本当に彼は優しい男ですね。」
……今頃、あの子達がウリエルを元気つけてるでしょうね。
ミカエルが微笑む。
ーウリエルの部屋ー
ウリエルが頭を抱えていた。
………まったくもって、不甲斐ない。
何をしているんだ、私は…
先程、ミカエルに言われた事を思い出す。
「……休みなし?……それだけですか?」
「…………その、元々、シャムシエルのせいでもあるし……何より凛子が…大丈夫だからと、マキディエルを庇うのでだな……」
ミカエルがウリエルを冷たい目で見る。
「……しっかりしてください、天界の秩序を守るのがあなたの役目。…人間の言葉で態度を変えては困ります。」
「………すまない。……あの場でそう言うしかないと思ってしまった。……不甲斐ないな。今後このような事はないようにする。」
ウリエルがミカエルに頭を下げる。
「………分かっているなら構いませんが。気をつけて下さいね。」
「マキディエルの事も、意識が甘かった。すまない。」
ミカエルがため息をつきながら言う。
「…そうですよ。今回は大事に至りませんでしたが…」
「……すまない。凛子が無事でよかった。」
「あなたが頑張ってくれているお陰で天界の秩序は守られています。…これからも頼りにしていますよ。」
ミカエルが微笑みながらウリエルに言う。
………もっとしっかりせねば。
「ウリえル、大丈夫?」
1人のプットがウリエルの膝の上に乗って心配そうな顔で見る。
別のプットもやって来てウリエルの肩に乗る。
「元気ナい。…大丈夫?」
「…大丈夫だ。少し疲れただけだ。」
ウリエルがプット達に話す。
「ウリエル、疲れタの?」
「本当二、大丈夫?」
ウリエルがプット達の頭を撫でる。
「…大丈夫だ。」
「…ウリエル、がんバって♪」
プットが微笑む。
マキディエルが天界の木陰で休んでいた。
下を向いて青ざめている。
…………何なの?あのミカエルの威圧感。
いつもにこにこして寛容な人だと思ってたのに…
怒ったらあんなに怖いの?
まだ震えが止まらない。
あの笑顔の奥の冷たい目……思い出しただけで震える。
「……大丈夫?」
マキディエルの友人の女の天使が心配そうに声をかける。
「……ええ、大丈夫………よ。」
「…全然、大丈夫そうに見えないけど?……そういや、シャムシエルに会ったの?」
「…………会ってきたわよ……」
マキディエルの顔が曇る
「そっか、よかったね。……で?…脈ありそう?………って感じではないみたいね。」
「……ただのロリコンになってたわよ。」
マキディエルが呆れた顔で言う。
「…え?……ロリコン?」
「……最初から分かってたけどね。 私のものにはならないって……あいつの心はいつもどこか、別の場所にあって。 ………誰の事も見てないのは、分かってたけど。でもいつか、私だけのものにしたかった………。」
……凛子が彼の心を捕まえた。
誓いの指輪…命をかけてでも愛したいと思わせた。
痩せっぽちの小さな女の子……真っ直ぐな目をしてたわね。
「……全然、かなわないわ。………私の完敗。」
「……そっか。……でも納得いったならいいんじゃない?……シャムシエルよりいい男、探しましょ♪」
「……そうね。」
マキディエルが微笑む。
ーシャムシエルの寝室ー
シャムシエルと凛子が肩を寄せあって眠っていた。
「………ん?」
凛子が目を覚ます。
………目覚ましかけてたっけ?今、何時だろ?
起き上がって時計を確認する。
「…!!……もう、12時?」
慌ててベッドから出ようとするとシャムシエルが凛子の腕を掴む。
「……どこ、行くんだ?」
寝ぼけながら凛子に言う。
「……着替えてきます。」
………こういう時は特に動きが早いよね。
シャムシエルの顔を疑わしい目で見る。
「…今、何時?」
「12時です。…起きてください。」
「……凛子がキスしてくれたら起きるよ。」
「…訳の分からない事を言ってないで、起きて下さい。」
凛子がシャムシエルの腕を振り払おうとするが背中から抱きしめられる。
「…捕まえた。」
「…!……ちょっと、離して下さい……!!」
凛子が慌てる。
「……本当に、ごめんな……昨日。……痛かったし、怖かっただろ?」
シャムシエルが辛そうな顔で凛子に言う。
「………大丈夫ですよ。…少し怖かったですけど、もう痛くないですよ。」
「…俺のせいだ。」
「………でも、助けに来てくれて、安心しました。」
…彼は…譲れない…です。
凛子が言ってくれた言葉を思い出す。
譲れない…か。
凛子の口からそんな事を言ってもらえるとは思わなかったな。
「……ありがとう、凛子。」
シャムシエルが微笑む。
凛子も微笑む。
「…とりあえず…お昼にしましょうか?着替えて来ますね。」
凛子が自分の部屋に向かう。
シャムシエルも着替えてリビングへ向かう。
「……いつまで寝てるのよ。」
リビングのソファーに座ったガブリエルがため息混じりに言う。
「………ほっとけ!……何だ?……仕事か?」
シャムシエルが不貞腐れながらガブリエルに言う。
「…ちがうわよ。……ミカエルからの呼び出し。話があるって…」
「……話?……ミカエルが?」
「昨日の事よ。……覚悟してなさい。すっごい怒ってたわよ。」
ガブリエルが青ざめながら言う。
シャムシエルが焦る。
「……ヤバいな。………ミカエルが怒ってるのか……」
シャムシエルの顔も青くなる。
「…ウリエルとマキディエルも怒られたみたい。私も久々に怒られたわ。」
シャムシエルがため息をつく。
………凛子を守りきれなかったからな。
自業自得か…
「……あ、リリスさん。おはようございます。」
着替えの終わった凛子がリビングにやって来て言う。
「おはよう♪……ごめんね、シャムシエルちょっと用事ができたのよ~」
「…お仕事ですか?」
凛子がシャムシエルに聞く。
「……まぁ、そんなところかな。…ちょっと行ってくる。…カブリエル、頼んだそ。」
シャムシエルが凛子の頭を撫でながらそう言うと姿を消した。
「……?……もやしさん、少し気が重そうでしたね?…何かあったんですか?」
凛子が不思議そうな顔でガブリエルに聞く。
「…いろいろあるのよ♪…凛子は気にしなくていいわよ。」
ガブリエルが微笑む。
ーミカエルの部屋ー
シャムシエルがドアをノックする。
「…どうぞ。」
気まずそうな顔でミカエルの部屋に入る。
「………ミカエル…その…」
「シャムシエル。……待ってましたよ。」
ミカエルが笑顔でシャムシエルを見る。
「…………油断した。……すまん。」
「……油断?………本気で言ってるんですか?」
ミカエルの顔から笑顔が消えて真顔になる。
「………いや、考えが甘かった…。」
シャムシエルが伏し目がちに答える。
「…そうですよね?天使がやって来たと分かっていたとしてもすぐに彼女の元へ行くべきだったのでは?」
「ああ、その通りだ。……俺の考えが甘かった。」
……あの時、天使だから大丈夫だと思ってすぐに動かなかった。
風呂に入っていたから後でもいいかと考えた。
結局、気になって凛子の所へ向かったけど…
「しっかりしてもらわないと困ります。……彼女を失う事はあなた自身も失う事になる。……彼女と命を共にすると決めた覚悟はその程度のものですか?」
「それは、違う。…俺は本気で…」
「なら、もっと危機感を持ってください。…穢れなき魂は奴らにも狙われやすいのですよ。人間はもろい……ちゃんと守らないと。今回は大事に至りませんでしたが………次はありませんよ。」
「……すまない。……マキディエルが凛子にナイフを突きつけているのを見て、血の気がひいたよ。……凛子が無事で本当によかった。」
……いい加減に生きてきた俺のせいで凛子に怖い思いをさせた。
ミカエルがため息をつく。
「……分かったのならいいです。……これからも引き続き、凛子さんの護衛を頼みましたよ。」
「……分かった。……そういや、凛子の護衛の事なんだが…どうして、わざわざ天界からの指示なんだ?…言われなくても凛子の事は俺が守るのに……」
ミカエルが呆れた顔をする。
……やはり、気づいてないのですね。
「……穢れなき魂を持つ人間はすべて、保護対象です。…凛子さんだけではありませんよ。彼女の護衛にあたりあなたが適任だと思って指示を出しただけです。」
「……え?…全員、保護対象なのか?」
シャムシエルが驚く。
ミカエルがため息をつく。
「凛子さん以外にも複数の人間を護衛していますよ。……ほかの人間達は本人に気づかれないように守っていますけどね。……堕ちている間にいろいろ、忘れすぎでは?」
「…そうだったか?」
シャムシエルが首を傾げる。
ミカエルが呆れながら微笑む。
「天使としては問題ですが…あなたらしいですけどね。もう一度、天使としての勉強をやり直しますか?」
「…え!!……それは勘弁してくれよ。」
シャムシエルが慌てる。
ミカエルがいつもの笑顔に戻る。
「…冗談ですよ。…これで話は終わりです。可愛い奥様の元へ帰っていいですよ。」
「…冗談に聞こえないなぁ……。じゃあ、帰るよ。」
シャムシエルがミカエルの部屋を出る。
……さて、帰るか。
そういや、ハスディエルのやつ、元気してるかな?
……探しに行くか?
でも早く、帰りたいしな。今はガブリエルがいるから安心ではあるが……いや、また考えが甘いな。
やっぱり、さっさと帰ろう。
「……なーに、1人でブツブツ言ってんだよ!」
「……!!…お前……」
シャムシエルが目の前に現れたハスディエルを見て驚く。
「……お前がこっちに来てるって聞いたからあちこち探したぞ!」
「久しぶりだな!元気してたか!!」
シャムシエルが笑顔で話しかける。ハスディエルも笑顔で答える。
「元気に決まってるだろ!…お前は人間臭くなってんじゃねぇのか?」
意地悪そうに笑いながらシャムシエルの肩に手をかけるハスディエル。
「……人間臭いか?」
「冗談に決まってるだろ!……まるで別人じゃねーか!目が覚めたって顔しやがって!」
「…目が覚めた顔か。……そうかもなぁ」
…昔はいつもぼんやりとしてたな。
「……あんなに人間に興味なかったのにな。」
ハスディエルがにやにやしながらシャムシエルに言う。
「……しょうがねぇだろ。……惚れちまったんだから。」
シャムシエルが少し照れながら言う。
「…人間、相手に誓いの指輪までつけて、命がけだな。……よかったよ、お前に大事な女が出来て。」
ハスディエルがシャムシエルに嬉しそうな顔で言う。
「……ああ、命かけても惜しくない女だよ。」
シャムシエルが答える。
「…さて、そろそろ仕事に戻るよ。…お前も嫁さんの所に帰れよ。近いうちに行くから……またな。」
「…ああ、待ってる。」
そう言うとシャムシエルが人間界に降りる。
「……まるで別人だな。」
……昔、ぼんやりしてたあいつとは大違いだ。
ハスディエルが微笑む。
つづく




