第19話 シャムシエルへの思い…
「……随分、シャムシエルに興味があるのだな。」
ウリエルが女の天使の目をじっと見る。
「え?……そんな、事…ないわよ……」
女の天使が慌てる。
ノックもせずにガブリエルが入ってきた。
「…ねぇ、ウリエル、昨日の話なんだけど……あれ?」
ガブリエルが女の天使を見る。
ウリエルが眉間にしわをよせて言う。
「…だから、ノックをしてから入ってこいと言っているだろう?」
「…そうだっけ~?」
ガブリエルがとぼけながら笑う。
「…私は仕事に戻るわ。」
そう言うと女の天使がウリエルの部屋を出る。
「………あの子、何の話してたの?」
ガブリエルがウリエルに聞く。
「シャムシエルの事を聞いてきたが…どうかしたのか?」
「…ふぅん。…シャムシエルが堕ちる前に一緒にいる所…見たような気がして……」
ガブリエルが思い出しながら話す。
「…そうか。」
…やはり、シャムシエルの昔の女か。
人間の娘の事を話してる時、かなり険しい顔をしていたな。
何か変な事を考えてなければいいが…
「そうでした!……霧山という方をご存知ですか?」
ミカエルが急に思い出して凛子に聞く。
「…………霧山さん?……えっと、よく知ってる人に霧山さんはいますけど?…どうかしましたか?」
凛子が不思議そうな顔でミカエルに聞く。
「…どうしてもこのマンションに住みたいと不動産屋の店員に詰め寄っていたのを見たので…やはりあなた達の知り合いでしたか。」
「…?…どうして、不動産屋に行っていたんだ?」
シャムシエルが不思議そうな顔でミカエルに聞く。
「…もう、人間界にいる理由がなくなったので家を売る為に行っていたんですよ。」
「……………家を…売る?」
シャムシエルが焦りながらミカエルを見る。
「……助かりましたよ。家具や家電の処分も引き受けて下さって。…とてもいい方ですね。代わりにお安くお譲りしました。」
ミカエルがにこにこしながらシャムシエルに言う。
「……お前…まさか、このマンションに…住んでいたのか?」
「あれ?…言ってませんでしたか?上の階にいましたよ。………ちなみに前の家の近くにも住んでいました。……あなたが堕ちてからずっと近所に住んでいましたよ。」
ミカエルが微笑みながらシャムシエルに言う。
「…………。」
シャムシエルが言葉を失う。
……全然、気づかなかった。
こいつ、気配を消すだけじゃなくてそばに住んでいたのか?
「セバスチャンさんは隠れるのが…上手いんですね…」
凛子がミカエルに言う。
「隠れてないと大変な事になるので……」
ミカエルが微笑みながら言う。
……そういや、自然と現れたな。
さつきが亡くなって間もない頃に…
「………今まで、全く気づかなかった。」
シャムシエルが大きなため息をつく。
「…天界のトップが人間界でずっとウロウロしてると厄介な者に狙われそうですからね。……さて、休憩も終わりにして仕事に戻ります。……凛子さん、またお会いしましょう。」
ミカエルが立ち上がると姿を消した。
「……行っちゃった。いつも突然ですね。」
凛子がぽつりと呟く。
「…そうだな。いつも突然だな……人間界に来てから天使で相手してくれたのはラファエルとガブリエルだけかと思ってたよ…。堕ちた天使と関わりたがる奴は少ないからな。」
シャムシエルが遠くを眺めながら話し始める。
……堕ちても、あのふたりは態度を変えなかったな。
少し、面白がってたくらいだな。
知らない間にミカエルもそばにいたし…
俺みたいな好き勝手に生きてるヤツ、ほっとけばいいのに……見守られていたんだ。
「…………たぶん、ウリエルさんも会いに来たかったと思いますよ。」
「………ウリエルが?…まさか…」
シャムシエルが驚く。
「…堕ちた天使に会いに行ったら他の天使達に示しがつかない!……とか考えてそうでしょ?」
凛子が微笑む。
「………たしかに。そう考えててもおかしくはないな。」
「セバスチャンさんを探しに来たって言い訳にして会いに来たのかもしれませんね。」
「……………。」
……ミカエルを探す為なら自分じゃなくてもラファエルに頼む事だって出来たしな。凛子の言う通りかもしれないな。
何かにつけて構ってきてたのもアイツなりの優しさって事か?
………ちょっと不気味だけとな。
「…お茶のおかわり、入れましょうか?」
凛子が立ち上がり、テーブルのコップを片付けようとする。
シャムシエルが凛子の腰に手を回して抱きしめる。
「…ちょっと、もやしさん……」
シャムシエルが凛子の胸に顔を埋めながら呟く。
「………今まで1人で好き勝手してきたのに。こんな自分勝手な俺なのに……見守られてたんだな。」
「……………。」
凛子が黙ってシャムシエルの話を聞く。
……どうしてかな?
もやしさんが小さい子供に見える。
凛子がシャムシエルの頭を抱えるように抱きしめる。
「……優しい、お兄さんとお姉さん達ですね。……皆、出来の悪い弟が可愛いんでしょうね。」
凛子が微笑みながらシャムシエルに優しく語りかける。
「…………出来が悪い弟か。……間違いないな。」
凛子の腕の中でシャムシエルが目を閉じる。
……不思議だな。
抱きしめられると小柄な凛子が大きく感じる。
…それに、温かいし……安心…する……
「……もやしさん?」
凛子の腕の中でシャムシエルが眠る。
…寝ちゃった。
疲れてたのかな?
……寝顔も子供みたい。
凛子が微笑みながらシャムシエルの頭を撫でる。
ー天界ー
「……ねえ、ねぇ♪」
ガブリエルがさっきウリエルと話していた女の天使に話しかける。
「……何かしら?」
女の天使が不思議そうな顔で聞く。
「…昔、シャムシエルと付き合ってたの?」
「……答えないとダメ?」
女の天使がガブリエルをじっと見る。
「…答えなくてもいいけど~。シャムシエルの事が気になるの?」
「…別に。」
女の天使が目を伏せる。
「…まぁ、どっちでもいいけどね♪…あと、彼の家に遊びに行かない方がいいわよ。彼の仕事の妨げになりそうだから…」
「…………話はそれだけ?」
…彼の家に行くな?
ガブリエルは今の彼の事、知ってるんでしょうね。
忠告?って事かしら?
「うん♪」
ガブリエルが微笑む。
女の天使がその場を去っていく。
………ウリエルの言った通りね。
何だか嫌な予感がする…
シャムシエルに教えておいた方がよさそうね。
………シャムシエルがリビングのソファーで目を覚ます。
「……ん?」
……寝てたのか?
「…やっと、起きましたか?」
凛子がシャムシエルの顔を覗きこむ。
「………そんなに寝てた?」
「はい。今、夕方ですよ。……もう離れていいですか?」
…凛子の顔が近いな。
膝枕……か。
そういや、する事はあってもしてもらったのは初めてだな。
「……いやだ。」
シャムシエルが子供がだだをこねるような顔で言う。
「……子供みたいな事、言わないでくださいよ。」
凛子が呆れた顔で言う。
「…だって、凛子が膝枕してくれたの初めてだもん」
「………………。」
………だって、離してくれなかったから。
ソファーに寝かせて離れようと思ったのに…
凛子が大きなため息をつく。
「…座りっぱなしなので、腰が少し痛いです。離れて下さい。あと夜ご飯も作りたいので…」
「腰痛いの?マッサージしてあげようか?」
シャムシエルがニヤニヤしながら凛子に言う。
「……結構です!……夜ご飯、作らないと…」
「…筋肉が固まったんだよ。マッサージしないと治らないよ…うつ伏せで横になって。」
シャムシエルが起き上がる。
凛子が立ち上がってキッチンへ向かおうとする。
「…大丈夫ですよ。…夜ご飯、作りますね。」
「腰を痛めるとよくないよ。さぁ、うつ伏せで横に…」
シャムシエルがにこにこしながら凛子に話しかける。
「…これくらい、何ともないですよ。」
凛子がそのままキッチンへ向かう。
「俺、マッサージうまいよ………って聞いてないし。」
シャムシエルが不満そうな顔をする。
夕食を食べて風呂から上がり凛子がリビングで本を読んでいた。
「……彼はどこ?」
凛子が振り返ると知らない女が立っていた。
「……?………彼?」
金髪に青い目……スタイルもいいし、何より綺麗な人…
この人も天使……かな?
「……どこにいるの?」
女が険しい顔で凛子に聞く。
もやしさんの事…だよね?
…怒ってるのかな?……少し、こわい。
「…えっと、今、お風呂に入ってます…」
女が凛子の左手の指輪に気がつく。
………!!…誓いの指輪?!
まさか、この女が?
パンッ!!
女が凛子の左頬を引っ叩く。
何が起きたか分からず驚く凛子。
「……………!?………???」
……な、何?!
知らない人にいきなり叩かれた。
………痛い……
凛子が自分の左頬に手をあてて目が点になる。
「幼い顔してどうやって彼を騙したの?!……指輪まで付けさせて!!」
「……騙す?……いえ、わたしは……!」
「彼の優しさにつけ込んだんでしょ?…やっぱり人間はずる賢いわね。」
女が凛子の左手首を掴んでテーブルに押し付ける。
右手にはナイフを持っていた。
……痛っ!
すごい力、動けない。
騙すって…なんの話?
「……指輪は1度つけたら外せない。……でも指ごと切り離せば、外せるわよね?」
女の目が冷たく光る。
………指を切り離す?
たしかにそれなら外すことができるかも。
でもそんな事したら…
「…指を切り落としたら…指輪の効果、消せますか?」
凛子が必死な顔で女に聞く。
「………え?」
女が驚く。
…怖がらせる為に言ってるのに、何なのこの女。
しかも指輪の効果を消したいの?
「……おい!……どういうつもりだ?!」
シャムシエルが殺気立った顔でナイフを持つ女の右手を強く掴む。バスルームから急いで出てきたので上半身は裸で髪の毛も濡れていた。
「……痛っ!!」
女がナイフを落とす。
シャムシエルが女を睨みつける。
「……俺の女に、手を出して…ただで済むと思うなよ!!」
シャムシエルが女の右手を掴む手に力を込める。
「……っ!……痛いわ!離して!」
「離してほしいなら、凛子の手を離せ!!」
女が凛子の手を離すとシャムシエルが凛子のそばに行く。
「…凛子、怪我は?!」
「…大丈夫です。」
凛子がほっとした顔をする。
「…大丈夫じゃないだろ?……左手首にアザがついてるし…左頬?……殴られたのか?!」
シャムシエルが凛子の左頬にそっと触れる。
「……ごめん、間に合わなかったな…」
シャムシエルが凛子を抱きしめる。
「……大丈夫ですよ。たいした事ないので……それより服、着て下さい。あと髪の毛も乾かさないと風邪ひきますよ。」
「…風邪なんてひかないよ。…裸で出てきたら凛子が怒りそうだからズボンだけ履いてきた。……そのせいで間に合わなかったな。」
シャムシエルが落ち込む。
……たしかに裸で出てくるのはちょっと。
でも上半身は裸…
シャムシエルの腕の中で凛子が慌てながら頬を赤くする。
「…本当に大丈夫ですから……とりあえず、服を着て下さい。」
凛子が頬を赤くしたままシャムシエルから離れようとする。
………?
いつもと反応が違うな。
抱きしめたくらいでこんなに慌てるなんて…
服を着てないから…か?
「……ちょっと!いつまで無視する気?」
女が少し焦りながらシャムシエルに声をかける。
「………ん?」
シャムシエルがイラっとしながら女の顔を見る
……何だ、この女。
「お前、天使のくせにどうして、人間に危害を加える?」
「あなたの為でしょ!…その人間の娘に騙されてるの!」
……騙す?
なんの話してるんだ?
「…俺は騙されてないぞ。…何言ってるんだ?」
「あなたが優しいから、つけ込まれたんでしょ?…誓いの指輪までつけさせられて…」
「…つけ込まれてないぞ。……なんの話してるんだ?………そういや、さっき指がどうとか言ってたな?」
凛子がシャムシエルの後ろから顔を出して女の天使にに話しかける。
「…あの、さっき…言ってた事で指輪の効果、消せるんですか?」
「…え?……あんた、何言ってるの?指輪の効果を消したい…の?」
女の天使が驚きながら答える。
シャムシエルの顔が曇る。
「……ちょっと、待て。……何言ってるんだ、凛子?…指輪の効果を消す?」
「………えっと、…指輪は外せないから………その、……指を切り離せば……………」
小さな声で言いにくそうに凛子が話し始める。
「……………。」
シャムシエルが眉間にしわを寄せて黙ったまま凛子をじっと見る。
「……………もやしさん、怒って………ますよね?」
凛子がばつの悪そうな顔をしてシャムシエルを見る。
「うん!………めちゃくちゃ、怒ってる。表情に出すと凛子が恐がるから出さないようにしてるけどね…」
………表情に出てなくても怒ってるのが分かる。
きっと、そんな事したら怒るよね…
「………凛子は俺の覚悟を何だと思ってるの?……一緒に生きて、死にたいって言っただろ?」
シャムシエルが凛子の目をまっすぐ見て言う。
「………………もやしさんの覚悟は分かってるんですけど……それでも……もやしさんに生きて欲しくて…………ごめんなさい。」
凛子が苦しそうな顔で下を向きながら話す。
シャムシエルが凛子の顎に手をそえて自分の方に向かせてから目を見て言う。
「もう、自分を傷つけるなんて考えない事!……分かった?!」
「……はい、ごめんなさい。」
…………指輪は自分の意思でつけた…の?
こんな、シャムシエル…見たことない…
いつも余裕の顔でにこにこしてて…優しくて…
……怒ったり…心配したり…焦ったり…
この女が…あなたを変えたの?
……私が…そうさせたかったのに…
私だけを…愛して欲しかったのに……
女の天使が2人を見て呆然とする。
つづく




