第16話 シャムシエルの思い…
ー天界、ミカエルの部屋ー
「……え!?…誓いの指輪?…シャムシエルが?!」
ガブリエルが驚いた顔で聞き直す。
「そうですよ。…私も驚きました。…きっと彼女につけるんでしょうね。」
ミカエルが微笑む。
ガブリエルが黙り込む。
「そう言えば……もう人間の世界には行かないんですか?…リリスさん?」
ミカエルがニヤリと笑いながらガブリエルに言う。
「……もう、リリスはやめにするわ。楽しかったけどもう飽きちゃった。会社は人間に引き継いだから大丈夫よ。そんな事より………あの指輪は…天使同士の婚姻の証。…人間と天使だったら……」
ガブリエルが焦る。
「……彼の覚悟。……という事でしょうね。」
「……あの遊び人が…驚きね。」
天使と人間。
………けれど、彼女は…
「大丈夫ですよ…ガブリエル。きっとすべていい方向に向かうはずです。」
ミカエルがガブリエルに微笑む。
時計の針が昼の12時を過ぎていた。
……もう昼か。
あのまま寝てたな。
シャムシエルは凛子の部屋で一緒に眠っていた。
隣で眠る凛子の顔を見る。
……昔の俺からは考えられないな。
誓いの指輪をつけるなんて。
よく、考えたら人間と夫婦になって天界に戻っていいのか?
………うーん、まぁミカエルがいいって言ったからいいか。
「…あっ……」
服のまま寝ていた事に気づく。
…シャツがしわしわだな。
まぁ、いっか。
隣で眠る凛子を自分の方に引き寄せ、抱きしめる。
………暖かいし、落ち着く。
ずっと、このままで…
インターホンが鳴る。
……誰だよ。
シャムシエルが少しイラッとする。
「……ん……?」
凛子が目を覚ます。
「…おはよう。」
「………おはよう…ございます……」
寝ぼけながら凛子が言うがすぐにシャムシエルの腕の中にいる事に気づく。
「……!!!」
凛子が顔を真っ赤にしてシャムシエルから離れようとする。
「…どうしたの?」
シャムシエルがニヤニヤしながら凛子を離さない。
「……ちょっと、離してください。…あとインターホン、鳴ってませんでした?」
「……いいよ。ほっとけば…」
「…ダメですよ。」
凛子が慌てる。
またインターホンが鳴りドアを叩く音がする。
「開けろ!…いるんだろ?」
ドアの前に立っている霧山が言う。
「………霧山さん、ですね。」
「……………。」
シャムシエルがムスッとする。
…何しに来たんだ?……あいつ。
凛子が急いで玄関を開ける。
「すいません。……寝てました。」
「いつまで寝てるんだ?……凛子、寝ぐせついてるぞ。」
霧山が呆れながら言う。
「…え?…寝ぐせ?」
凛子が慌てる。
「…何しに来たんだよ。」
欠伸をしながらシャムシエルが玄関まで歩いて来た。
「……お前も寝てたのか?……もう昼すぎてるぞ。」
霧山がため息をつく。
「着替えてきます。」
凛子が自分の部屋に向かう。
「…俺も、着替えてくる。…ちょっと待っててくれ。」
霧山がシャムシエルの腕を掴む。
「……おい、まさか………もう手を出したんじゃないだろうな?」
霧山が少し焦りながらシャムシエルに聞く。
「…ん?………まだ何もしてないよ。」
シャムシエルが寝ぼけながら霧山に言う。
「……なら、いいが。」
霧山がほっとする。
俺ってそんなにガツガツしてるように見えるのか?
……あんなに細い体、壊れそうで怖い。
もっと、肉をつけてからだなぁ…
「…お前は、元気だな。……あの時間に帰ったのに。」
「…ちょっと用事があったからな。」
シャムシエルは自分の部屋に霧山はリビングに向かう。
着替えを終わらせた凛子がリビングにやって来て霧山に聞く。
「…コーヒー飲みますか?」
「ああ、頼むよ。」
「…もやしさん、何か飲みますか?」
シャムシエルの部屋の方に向かって凛子が声をかける。
「…俺もコーヒー。」
凛子がキッチンへ向かう。
シャムシエルが着替えを終わらせてリビングにやってきた。
「……昼過ぎか。霧山、昼は食べたのか?」
「いや、まだだ。」
「そうか……一緒に食べるか?」
「そうだな。」
凛子がコーヒーをお盆に乗せて持ってきてテーブルの上に置く。
「ありがとう。」
霧山がコーヒーを1口、飲む。
凛子がソファーに座ろうとするがシャムシエルが凛子を自分の方へ引き寄せ膝の上に座らせる。
霧山がコーヒーを吹き出す。
凛子の顔が真っ赤になる。
「…!!…何するんですか?!」
霧山が慌てる凛子を持ち上げて自分の隣に座らせる。
「お前!…何してるだ!!…私の前でイチャつくな!!」
凛子が霧山の影に隠れながらシャムシエルをじっと見る。
「…?…何、慌てるんだ、2人とも…」
不思議そうな顔でシャムシエルが言う。
「…まったく!……ん?………指輪?」
霧山がシャムシエルの左手の指輪に気づき凛子の左手を見る。
「…………!!!…まさか…」
「…人間で言う…けっこん?……を凛子に申し込んだ。」
シャムシエルが霧山に言う。
「…申し込んだって…もう付けてるじゃないか……」
霧山が焦りながら言う。
「……返事する前に付けられました。」
凛子が少し恥ずかしそうに言う。
「………返事する前に?……どれだけせっかちなんだ。」
霧山が呆れる。
「妻になってくれるまで待つつもりだったからな。」
シャムシエルがにこにこしながら答える。
「…………。」
………待つつもりって。
思いたったら即行動ってやつか?
霧山が呆然とする。
「……不思議な色の指輪ですよね?……金色でも銀色でもない…綺麗な色。」
凛子が指輪をじっと眺める。
霧山も指輪を見る。
「…たしかに、プラチナでも18金でもないな…」
「天界の鉱石だよ。……ひとつの石から2つの指輪を作るんだ。…さて昼飯でも作るか。」
コーヒーを飲み終えるとシャムシエルが立ち上がる。
「…わたしが作りますよ…」
凛子が立ち上がろうとすると霧山が止める。
「昨日、まともに食べてないんだからじっとしてろ。また立ちくらみするぞ。」
「そうそう、霧山の言う通り、大人しく座ってなさい。」
シャムシエルが笑顔で言ってからキッチンへ向かう。
「……凛子、……返事はどうするんだ?」
霧山が凛子の顔を見ながら聞く。
「……やっと、生きてみようと決めたところに……プロポーズ…なので…ちょっと……というか、かなり…混乱してます……」
凛子が難しい顔で話す。
「…そうだろうな。」
霧山が笑いながら言う。
…まだ18で結婚なんて言われてもピンとこないだろうな。
でも返事する前に指輪をつけたのは何故だ?
返事をしてからつけてもよさそうなものなのに…
霧山がキッチンで昼食を作るシャムシエルの背中をじっと見る。
……何か理由がありそうだな。
「…そうだ。来週、引っ越す事になった。」
霧山が思い出したように話す。
「…引越しですか?」
「ああ、これからご近所さんになるよ。」
霧山が凛子の頭を撫でる。
「ご近所さん?……この近くに引越しですか?」
「このマンションに引っ越す。下の階の部屋だよ。」
「…!そうなんですか?」
凛子が驚く。
「昼ご飯、できたぞー。」
シャムシエルがキッチンから声をかける。
「もやしさん、霧山さんが下の階に引っ越してくるらしいです。」
凛子が笑顔でシャムシエルに言いに行く。
「え?……空きがあったのか?」
シャムシエルが驚く。
「ああ、さっき契約してきた。偶然、空きが出てな。」
霧山がキッチンの椅子に座る。
「これで、いつでも、凛子の顔を見に来れる。」
「そうですね。一緒にご飯も食べれますね。」
凛子が笑顔で答える。
…………毎日、来そうだな。
シャムシエルが少し困った顔をする。
お昼を食べ終わると霧山が帰って行った。
リビングでくつろぐ2人。
「…………。」
凛子がシャムシエルの顔を黙ってじっと見る。
「…?……どうした?」
「…ほっぺた、少し赤いですよ?…大丈夫ですか?」
凛子が心配そうにシャムシエルの頬に触れる。
「…冷たいタオル、持ってきましょうか?」
「………いや、大丈夫だよ。…ありがとう。」
シャムシエルが少し焦りながら笑う。
……女に殴られたって言えないな。
「……でも、どうして、ほっぺたが赤くなったんですか?」
「…えっと、……コケそうになって……壁にぶつかったんだ…」
シャムシエルが焦りながらごまかす。
「壁に?!…やっぱり冷やしたほうが…」
冷たいタオルを用意しようとシャムシエルから離れる凛子の腰に手をまわす。
「…大丈夫だよ。………キスしてもいい?」
シャムシエルが笑顔で凛子に聞く。
「……うっ………だめ………です……」
顔を赤くしながら凛子が言う。
…あれ?
昨日、聞いた時よりも声が小さくなった…
「……だめ?」
シャムシエルが微笑みながら凛子に顔を近づける。
「…………だめ……というか……怖い……んです。………その……キス……した事…なくて……」
凛子が顔を赤くしながら小さな声で言う。
…………キス、したことが………ない?
シャムシエルが呆然とする。
…………人も好きになった事ないって言ってたな。
もしかして…
「……今まで…人を好きになった事がなくて…キスもした事ない………って、もしかして…処……!」
凛子が耳まで真っ赤にしてシャムシエルの口を自分の手でふさぐ。
「……今、何を言おうとしたんですか?!」
「………何って…処……」
「何でも、ハッキリと言葉にしなくていいです!」
凛子が顔を真っ赤にしたまま、大慌てで言う。
……………やっぱり、処女か。
18まで男と接する事がなかったのか。
凛子の手を掴んで自分の口から離す。
「…分かった。…もう、言わないから。………怖がらくていいよ……目を閉じて…」
「………。」
凛子が顔を赤くしたまま戸惑う。
シャムシエルが凛子の頬に手を伸ばす。
凛子が目と口をギュッと閉じる。
「そんなに、口を閉じたらキスできないよ。力を抜いて……怖くないから。」
………口を閉じたら?
凛子が目を開けて不思議そうな顔でシャムシエルに聞く。
「……口を閉じたら……出来ないんですか?」
目を丸くする凛子に顔を近づける。
「そう……目を閉じて…口を少し開けて……」
「…………ゴホンッ!」
ウリエルがわざとらしく咳払いをする。
「………!!!」
凛子が驚く。
シャムシエルがイラッとする。
「………なんだよ。…邪魔すんなよ。」
「……ミカエルが呼んでる。今すぐ、天界に戻れ。……凛子は私がみているから安心しろ。」
ウリエルがシャムシエルに言う。
「…ミカエルが?……わざわざ、お前が来るなんて…どういう事だ?」
凛子が顔を真っ赤にしてシャムシエルの後ろに隠れる。
………恥ずかしい。
見られてた……
「これからのお前の仕事についての話らしい。…早く行け。」
凛子が少し焦りながらシャムシエルの服をぎゅと掴む。
シャムシエルが凛子の手をとって自分の唇をあてる。
「……心配しなくて、大丈夫だよ。……そばにいるって言ったろ?」
……でもウリエルと凛子を残して行くのはなぁ。
ウリエルを見ながら難しい顔をする。
シャムシエルの顔を見て気づいたのかウリエルがため息をつく。
「………手荒な真似はせん。…お前の妻なのだろう?」
ウリエルがシャムシエルに言う。
「……凛子。…大丈夫か?」
心配そうな顔で凛子に聞く。
「……セバスチャンさんが呼んでるなら早く行ってください。…私は大丈夫ですよ。」
…少し、怖そうな人だけど。
多分……悪い人ではないと思うし…
「…………ごめん。すぐ戻るからな。」
シャムシエルがそう言うと凛子の額にキスをして姿を消した。
「………………。」
凛子が黙ったままウリエルをチラッと見る。
……どうして、この人が来たんだろ?
人間?…に関わりたくなさそうだけど……
「……………先日は………その…………すまなかった。……少し言いすぎた。」
ウリエルがバツの悪そうな顔で凛子に言う。
「……?……何の話…ですか?」
凛子がなんの事か分からず不思議そうな顔で聞く。
「……すぐに戻れと言った事だ。」
………本当に意地悪?…だったのかな?
わざわざ、謝りに来たんだ。
やっぱり悪い人じゃないみたい。
怖そうだけど……
「…気にしてませんよ。………えっと、紅茶でも……飲みますか?」
凛子が笑顔で話す。
「…こうちゃ?…何だそれは?」
……天使だから人間の世界の物は分からないのかな?
「温かい、飲み物です。…すぐに入れるので、座って待ってて下さい。」
凛子がキッチンへ向かう。
ウリエルがソファーに座りリビングを眺める。
……居心地のいい場所だな。
整理整頓されているし、何より聖なる力に満たされている。
………穢れなき魂の影響もあるな。
凛子がウリエルの前に紅茶を置く。
「どうぞ。……そのままでもいいんですけど、お砂糖やミルクを入れても美味しいですよ。」
ウリエルが目の前の紅茶をじっと見る。
「……いい香りだな。」
これが人間の飲み物…か。
紅茶を一口飲む。
「…どうですか?…甘いのがいいのならお砂糖を…」
「…いや、このままでいい。…悪くないな。」
「そうですか。…良かったです。」
凛子が微笑む。
ウリエルが凛子の左手を見る。
…誓いの指輪か。
あのシャムシエルがな…
何が起こるか分からないものだな。
「シャムシエルは君にその指輪の意味を説明したのか?」
「………指輪の意味?……結婚するって……ことですよね?」
凛子が不思議そうな顔で答える。
…やはり、話していないのか。
あいつらしいな。
「……その指輪は誓いの指輪と言ってな。天使同士が夫婦になる時につけるものだ。…滅多につける者はいないがな。」
「天使は…結婚しないんですか?」
凛子が不思議そうな顔で聞く。
「する必要がない。……誰か1人と決めてしまうと後が永すぎて大変だからな。」
…なるほど。
長く一緒にいるのは大変だもんね…
凛子が難しい顔をする。
「それに誓いの指輪はミカエルしか作れない。…ミカエルが認めないと作ってもらえない。」
「……そうなんですか。」
…セバスチャンさんが作ってくれたんだ。
自分の左手の指輪をじっと見る。
つづく。




