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もやしさんの憂鬱  作者: あかなす(前とまとまと)
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第15話 誓いの指輪

霧山がリビングでテレビを見ながらさきいかをつまみにビールを飲んでいた。



…あいつ、本当に帰ってくるのか?

凛子は風呂に入ったら疲れたって言ってまた寝たけど…





「……霧山?」




名前を呼ばれ振り返るとシャムシエルが不思議そうな顔で立っていた。



「………やっと帰ってきたか…」


霧山がため息まじりに答える。



「…あれ?…凛子は?」


「風呂に入ったら眠くなったみたいで寝た。……今日は疲れたみたいだからな。」



…疲れる?

まぁ、いろいろあったけど…



「…飲むか?」


「いや、凛子の顔を見てくる。」


シャムシエルが凛子の部屋に行こうとする。




「待て。……こっちに座れ。話がある。」


霧山がシャムシエルを止める。



……話?

早く、凛子の顔を見たいんだが…



「…何の話だ?」


霧山の隣のソファーに座る。



「…朝になっても帰ってこなかったら凛子を連れて帰るつもりだった。」



霧山がシャムシエルに言う。



「いやいや、帰ってくるって凛子にも言ったぞ…」


焦りながら霧山に話す。



「…凛子に聞いた。…お前の事だろうから帰ってくるとは思ってがあのまま、凛子を1人にしておけなかったからな…」



…凛子に何かあったのか?


シャムシエルが凛子の部屋の方向を見る。



「心配しなくても生きてるぞ。…疲れてはいるが。」



……そう言われても、顔を見るまで安心できないな。




「…あの子が健気、過ぎてこっちまで泣きそうになるよ。……元の世界に帰るのは構わないが。……できる限り、あの子のそばにいてやってくれ。」



「もちろん、そばにいるつもりだ。………天界(あっち)に戻る気もなかった。さつきに出会って堕ちた時に、もう二度とは戻らないと決めた。…力が戻った今でもな。」



「…………。」


霧山が黙って聞く。



「…今まで結構、自由に生きてきた。天界(あっち)でも自分の事しか考えてなかったし、なんの為に生きてるのかよく分かってなかった。」



「……天使にもやる気がない奴がいるんだな。」


霧山が呆れた顔でシャムシエルに言う。




「…そうだよ、やる気のない天使だったよ。」


シャムシエルが気まずそうな顔で答える。



「でも……さつきに出会って初めて人間を知った。……それまでは人間と関わる事は少なかったし……特に興味もなかった。……天使より寿命も短いし、なんの力も持たない。…なのに天使より必死に生きてる。……不思議な生き物だな。」




「…短いからこそ必死に生きてるのかもなぁ。長く生きるのも考えものだな…」


霧山が真面目な顔で言う。




「……だから天使をやめた。…なんの為に生きてるのか分からない天使より、さつきと生きる道を選んだ。…今も後悔してない。」



「そうか。……堕ちるって羽根でもむしられるのか?」


霧山が少し微笑んだ後で不思議そうな顔で聞く。




「なんでそうなる?…羽根が黒くなるんだよ。」


シャムシエルが困った顔で答える。



「朝は本当に血の気がひいた。…人間嫌いの上位天使に凛子が話しかけたんだ。…あの子はたまにとんでもない事するな。」


シャムシエルが焦りながら話す。



「人間嫌いの天使?」


「……そうだ。天界(あっち)を仕切ってる厳格で人間嫌いの天使だ。」



「そんな天使もいるんだな。…その天使に凛子が話しかけた…か。あの子らしいな…」



……誰かの為なら、驚くような事をする。

初対面の私に、闇堕ちして欲しくないって言ってくれたな。




「…俺の為に、その天使に頭を下げてくれた。睨みつけられて怖ったろうに…。」


シャムシエルが辛そうな顔で言う。


「凛子のおかげで帰れるようになったという訳か…。」



「そうだ。凛子のおかげだ。…ひとりで置いていくのは気が引けたが。…あの子の覚悟を台無しにする訳にもいかなくて。」




「お前の気持ちを聞けてよかったよ。……もしかしたら、凛子を置いて元の世界に戻ってそのままじゃないのかと心配したよ。」



霧山が安心した顔でシャムシエルに言う。



「凛子を置いてそのまま、なんて考えた事もないよ。いろいろあって、少し遅くなったけど。……そういや、明日、大丈夫なのか?…仕事だろ?」



時計の針が夜中の2時を過ぎていた。



「…明日は、休みだ。…でもそろそろ帰るか。」


そう言いながら霧山がテーブルの上を片付けようとする。



「いいよ……俺が片付ける。」


シャムシエルが立ち上がってキッチンにゴミ袋を取りに行く。



「…ん?」


キッチンのテーブルにある朝食の食べかけを見つける。



………あれ?

全然、食べてない。

まさか……



「…俺が9時頃に来たんだか。…それまでずっと寝てたらしい。」



霧山が空のビールの缶を持ってキッチンまでやって来てシャムシエルに言う。



「……まさか、それまで何も食べてない…とか?」


シャムシエルが焦りながら霧山に聞く。



「…そうだ。……だから怒った。」


霧山がため息をつきながら言う。



……何してんだよ。

どこに何があるか知ってるはずなのに。

何が…1人で大丈夫…だよ。


シャムシエルが頭を抱える。




「…まぁ、凛子の顔を見れば理由は分かる。…そういや、お前、左の頬が赤いぞ。…どうしたんだ?」


霧山がシャムシエルの左頬が赤くなっている事に気づく。



「……まぁ、……いろいろあるんだよ。」


シャムシエルが気まずそうな顔をする。



「…………………女か?」


霧山が冷たい目でシャムシエルを見る。




「………………。」


シャムシエルが黙る。




「……図星か?…赤くなるまで殴られるとは、よっぽどの恨みがあるんだな?」


霧山が呆れた顔で言う。




「…まぁ、…自業自得ってやつだ。……何人かに殴られたしな。」


シャムシエルが焦りながら答える。



…たしかに急に姿を消したけど、あんな力いっぱい殴らなくてもなぁ。…というか、あんなに手を出してたか?

関係ない女にも殴られたかもなぁ…




「…………何人かに?……なるほど、遊び人か。」


霧山がシャムシエルを冷たい目で見る。



「…………。」


…あ、余計な事、言ったな。


シャムシエルが焦りながら黙る。



「…やっぱり、凛子を連れて帰る!…遊び人にあの子を任せられないな。」


霧山が凛子の部屋の方へ歩きだそうとする。



「…昔の話だよ!今は凛子、一筋だから!」


シャムシエルが焦りながら霧山に訴える。

霧山がシャムシエルの顔を疑わしい目で見る。


「……本当か?」


「本当だ。…今は遊び人じゃない。」



まぁ、モテそうではあるが…

そんなに手当たり次第に女に手を出してたのか?

凛子の面倒を必死に見ていたこいつからは想像出来んな。



「……まぁ、今のところは信用しといてやるよ。…じゃあまた来る。」



呆れた顔で霧山が言うと帰っていった。

霧山を見送るとシャムシエルが凛子の部屋に入る。




…よく眠っているな。

……ん?

目の周りが荒れて……

瞼…腫れてる?



凛子の目元にそっと触れる。



…理由は顔を見れば分かる。って霧山が言ってたのはそう言う事か。


シャムシエルが寂しげな顔をする。



……1人で大丈夫。…じゃないだろう。

…ほっておけない子だな。


眠る凛子の額にキスをする。




………なに?

誰かが顔を触ってる?


凛子が目を覚ます。



「…ごめん、起こした?」


シャムシエルが凛子に声をかける。



………もやしさん?


凛子が驚く。



…やっぱり瞼、腫れてる。

可愛い顔が台無しだな…


シャムシエルが凛子の目元をじっと見る。



「…凛子、遅くなって、ごめん………!」



凛子がシャムシエルにしがみつく。

シャムシエルが驚く。



「………凛子?」



凛子が黙ったままシャムシエルにしがみつく。



「……帰るって言ったろ?」



……不安になって1人で泣いてたのか。



シャムシエルが凛子を抱きしめる。




「……俺がいない間、何してた?」


「…………寝てました。」


凛子がシャムシエルの胸に顔をうずめたまま答える。



「……瞼を腫らして?……可愛い顔が台無しだよ。」



「………か…可愛く…ないです。」



シャムシエルが自分の額を凛子の額にひっつけて言う。



「……可愛いよ。…俺の大事な凛子の瞼が腫れて、悲しいんだけど………どうして瞼が腫れたのかな?」



「………たぶん、寝すぎだと…」


凛子が下を向いて目をそらしながら小さな声で言う。



「……寝すぎで瞼が腫れて目元が荒れたりしないよ?」


凛子の顎に手を添えて自分の方に向かせる。



「……うっ……えっと、元々……こういう…顔、です。」



焦った凛子が目をそらしながら言う。

シャムシエルが凛子の顔をじっと見る。



「……本当の事、言わないならキスするよ?」



シャムシエルが凛子の顔に自分の顔を近づける。

凛子が顔を真っ赤にしたまま焦る。



「………な、……泣いて…ま…した……。どうしていいか、分からなく…なって。………あなたの事を考えたら…元の世界に…戻るのがいいと分かって…るんですが…そう思うのと同じ…くらいに…寂しく……て………」



途切れそうなくらいの小さな声で話す凛子の目から涙がこぼれる。凛子の涙をシャムシエルが舐める。



「…ありがとう。凛子がウリエルに頼んでくれなかったらずっと天界(あっち)には戻れなかった…」



シャムシエルが凛子を抱きしめる。



「……1人で…大丈夫………じゃなかった…です。」


凛子がシャムシエルにしがみつきながら言う。



「……もう、1人にしないよ。…ずっと、そばにいる。……凛子、左手を出して。」



「………?…左手?」



シャムシエルが凛子の左手をとると薬指に不思議な色の指輪をつけた。シャムシエルも同じ指輪を左手の薬指につけていた。



……指輪?

…しかも、左手の薬指に………

これってもしかして……



「………凛子、愛してる。俺の妻になってくれ。」


シャムシエルがまっすぐな目で凛子を見て言う。



「……………………。」



凛子が唖然とする。



…妻?!

え?……えー!?

…………急に何を言い始めるの!!



「……凛子、返事は?」


シャムシエルがにこにこしながら凛子に聞く



…………返事は?ってこっちが答える前に指輪、つけられてるし!

……妻?……結婚?…天使と?

わたし、まだ18……



凛子の頭の中がパニックになる。



「……いや、急すぎるし…何より返事…する前に指輪、つけられて…ます…よね?」



凛子が混乱しながら何とか声を出す。



「……はい。って言うまで待つからゆっくり考えていいよ。」


シャムシエルがにこにこしながら答える。



…はい。って言うまで?


「それって…わたしにいいえっていう選択肢はない……ですよね?」



「そうだな。……いいえって返事は受け付けないよ。」


そう言いながらシャムシエルが凛子の頬にキスをする。



「……!!…な、何するんですか?!」


凛子の顔がまた真っ赤になる。


「…返事はゆっくり考えていいけど、俺の事はどう思ってるかは知りたいな。」


シャムシエルが凛子の顔をじっと見る。



………うーん。

また、その質問……

えーと………



「………今まで…その、人を……好きになった事がなくて…もやしさんの事を…どう…思ってるのか、よく分からなくて。」



……今まで、誰も好きになったことが………ない?


シャムシエルの目が点になる。




「でも………もやしさんと一緒に……いると…安心するし。…触られると…ドキドキするし。………今日、もう…会えないのかと…思ったら…寂しく…て……えっと………何、言ってんだろ?…わたし………」



凛子が顔を真っ赤にしながら思っている事を話す。


………なんの話してるのか、

分からなくてなってきた…



凛子の頭の中が混乱する。

シャムシエルが凛子の顔をじっと見る。



……随分、混乱してるな。

顔が真っ赤で倒れそうだ。

本人は気づいてないようだけど、そう思ってるって事は…



「……ありがとう。…俺の事、愛してくれてるって事だよね?」


シャムシエルが微笑みながら凛子の額に自分の額をひっつける。



「……え?!」


凛子の顔がさらに真っ赤になる。



……そういう事に……なるの?………



「………キスしてもいい?」


シャムシエルが笑顔で凛子に聞く。



「……!………だ、ダメ…です。」


顔を真っ赤にしたまま、凛子が答える。



「返事と一緒に待ってるよ。……キスしてもいいって言ってくれるまで。」


シャムシエルが凛子に微笑みかけながら言う。



「………………。」


凛子がシャムシエルにしがみついて顔を埋める。



……何でもハッキリと言うから余計に恥ずかしい。



シャムシエルが凛子を抱きしめる。




…誓いの指輪。

本来、天使同士が夫婦になる為につける物。

返事をする前に付けたのはこの指輪の意味を話せばきっと君は付けてくれないだろうから……



「…凛子、愛してるよ。」



「……!!」


シャムシエルの胸に顔を埋めたまま、凛子の顔が赤くなる。



つづく。






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