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もやしさんの憂鬱  作者: あかなす(前とまとまと)
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第12話 光の世界へ

シャムシエルが電話をかけていた。

相手はオカマバーのママだ。



「……ああ、そうだ。…助けられなかった。」



霧山は黙ったままリビングのソファーに座っていた。



……また、妹を失ったか。



「…え?!…どういう意味だ?……何言って?……」



シャムシエルが電話を切る。



「…どうかしたのか?」



霧山がシャムシエルに聞く。



「……知り合いなんだが。……不思議な事を言っていてな。」



「不思議な事?」



「まだ諦めるのは早い………って。」



「どういう事だ?」


霧山が不思議そうな顔をする。



「…わからん。」



シャムシエルがため息をつく。












凛子が真っ暗な世界の1番下に降り立つ。


…ここが1番下かな?



……イ、チ……バン……シ、タ………


…オ……イ…デ………





正面に黒い人の形をした何かが現れた…

その何かが黒い手を差し伸べる。



…オ…イ………デ…………



凛子がその何かに近づいて行き目の前で立ち止まる。



「…ありがとうございます。話をさせてくれて。……あなたも、闇堕ちした人ですか?」



…オ、ナ……ジ………


…キ………ミ……………ト………



「そうですか。……わたしは……」




自分と向き合う…

今までそんな事も考えて来なかった…




……オ、イ……デ……




「わたしは、自分が嫌いです。…死にたいと言いながら死ぬ勇気もなく…お父さんから逃げようともせず……。何もせずただ時間が過ぎるのを待っていた。」




…………オ、イ………デ…………




「何もせず……死んだように生きてきてしまいました。」




わたしは…

今まで……何してたんだろ?





…ハ……ヤ、ク………




「…あなたは、あなた達は…どうして闇堕ちしたんですか?」




……………………。



無数の黒い目と黒い手が蠢く闇の中で複数の声が聞こえる。




…ウ、………ラ…ギラ……レ…タ………



……キ……ラ…イ…………ジ、ブ………ン………




…………コ、イ………ビ……ト………シ……ン…ダ……





…皆、いろんな理由…いろんな悩みがあるんだ。

わたしだけじゃ…ないんだ…









「…霧山、これからどうするんだ?」


「……いつも通り、だな。会社と家の往復…そのうち見合いでもして結婚するかもな……お前はどうする?」



「………どうする……かな?……何も思いつかない。」



…また、人助け…か?


そんな気にもならんな…














「………。」


凛子が目を閉じる。


「…わたしも、あなたたちと同じ事を考えてました。…生きるのに疲れて……死ぬのか、闇堕ちするのかどちらかになりたかった…」




…初めまして、お嬢さん。



「…でも、彼に出会いました。」



君が闇堕ちしなくまるまで、そばにいるよ…



「…死にたがってるわたしを助けようとしてくれました…」



退屈しのぎの、人助け…



「……でも…とても嬉しかったです。」





自分に誇りを持つんだ…



「わたしに誇りを持つように…言ってくれた人もいました…」



君を妹にする。…もうひとりじゃないだろ?



「血の繋がりもないのに、妹にしてくれました。」





生きることは簡単ではないですよ……



「生きる事が、簡単ではないと教えてくれた人もいました。」




……今まで何も考えてこなかったけど。

でも…今なら分かる…

これからどうしていくべきなのか…



凛子が目を開けて真っ直ぐな目で闇の者達を見る。



「……いろんな人にいろんな言葉をもらって自分と向き合おうと思いました。………まだ前向きに明るく生きよう…とまでは思ってないですけど………」





……………………。




「……わたしに優しくしてくれた人達の為にも…生きたいと………生きてみようと…思います。……だから……」




黒く染まった凛子の体が元に戻る。




「…………闇堕ちしたくないです。」




………ナ……ゼ……………。




「ごめんなさい。あなたたちと一緒に行けないです。」



凛子の周りが白く光る。



「わたしは上の世界で生きていこうと思ってます。…もしよかったら、一緒に行きませんか?」



凛子が手を差し伸べる。



「一緒に、上に…」




………………………。


………。





……イ…ク………



黒い手が凛子の手に触れて白い玉になり上に上がっていく。



……ワ、タ………シ…モ………



…ボ…ク、モ……………


……………イ…キ……タ………イ…………



いくつかの黒い手が凛子の手に触れて白い玉になって上に上がっていく…




……ケガ…レ………ナキ………タ……マ…シ…………イ…………



……コ………ナ……イ…………ノカ………



…けがれなき魂?

………何のことかな?



「はい。行かないです。………ごめんなさい。」



……ソ……ウ…カ………



……イ、…ツデ……モ…マッ…………テ………ル…………



「…ありがとうございます。……さよなら。」



凛子の周りの光が強く光る。








「……そうか、ありがとうって言ってんだな。」


霧山が寂しそうな顔で微笑む。



「……………。」


…あの時、どうして俺の体が浮かび上がったんだ?

あと羽根が白くなって力が元に戻った。

まるで浄化されたような…



「…不思議な子だったな。……あの子のそばにいるだけで心が洗われるようだった…。」



「…心が……洗われる?」


シャムシエルが霧山に聞き返す。



「そうだ。…憑き物がとれたように世界が明るく見えた。」



…たしかに、霧山の顔色も悪かったが凛子がいなくなったあの時に見た時は顔色が戻っていた。

……凛子は人間のはずなのに、なぜ?



「…たしかに、不思議な子だな。出会った頃、いつ堕ちてもおかしくない状態なのに、堕ちてなかった。」



……そういや、特別な魂を持った人間がいるとか聞いた事あったな…なんて言うんだった?

……昔の事すぎて覚えてないな。



シャムシエルが頭を抱えて悩む。



「…どうした?随分、悩んでいるようだが……」



霧山が不思議そうな顔でシャムシエルを見る。



「…昔、聞いた事を思い出そうとしてるだが…思い出せなくて……」



「……歳だな。」


霧山が諦めたような顔で言う。



「俺はお前と違って永く、生きてるんだよ……」



シャムシエルがムッとしながら答える。





ザバーーーンッ!!


バスルームで大きな水しぶきの音が聞こえる。




2人が目を見開いて驚く。



「…おい、シャムシエル。お前………風呂場で何か、ヤバいの飼ってるのか?」



「んな訳あるか!…何の音だ?」



2人が恐る恐るバスルームに向かう。

バスルームの扉を開けて言葉を失う2人。



「…ゴホッ……ゴホッ……」


湯船で服を着たまま咳き込む凛子がいた。




「……!」


シャムシエルが凛子に駆け寄る。



「あ、もやしさんと霧山…さん…!!」



シャムシエルがずぶ濡れの凛子を抱きしめる。


「凛子……」


「…もやしさん、服、濡れちゃいますよ……」


凛子が少し照れながら言う。


「……濡れてもいいよ。」


シャムシエルは凛子を強く抱きしめる。

霧山が凛子の頭を撫でながら言う。



「…おかえり。」



「……霧山さん、……だだいま。」



「私も君に抱きつきたいくらい嬉しいが…びしょ濡れになりそうだから遠慮しておくよ…」


微笑みながら霧山が言う。

凛子が自分とシャムシエルを見る。



……わたしも、もやしさんもびしょ濡れ。



「…そうですね。霧山さんまで濡れちゃいますね…」


凛子が微笑みながら言う。




シャムシエルと霧山が凛子の笑顔を見て驚く。



「……え?…どうしたんですか?ふたりとも驚いた顔して…」


2人の顔を見て驚きながら凛子が言う。



「…凛子が笑ったからだよ。」


シャムシエルが自分の額を凛子の額にひっつけながら言う。


「笑った?」


凛子が不思議そうな顔で聞く。



「うん。初めて見た、凛子の笑った顔。」


シャムシエルが笑顔で答える。



…わたし、笑ってなかったんだ。

自覚なかった…




「……もやしさん、…………近いです。」


「…ん?…そうか?」



霧山が少し、イライラしながら言う。


「…そうだ!…近いぞ。そろそろ離れろ……」


シャムシエルが霧山を見て言う。


「何だ?…ヤキモチか?」



「お前と一緒にするな!……兄というものはな、妹が男とイチャついてる姿なんてあまり見たくないものだ。」



霧山がため息をつきながら言う。



「本当に離して下さい。…このままだと風邪ひきます。」


凛子がシャムシエルから離れようともがく。

シャムシエルが凛子を湯船から引き上げる。


「…たしかに、着替えないと風邪ひくな。…手伝おうか?」


シャムシエルがニヤニヤしながら凛子に言う。

凛子がむすっとしながら答える。


「着替えくらい1人で、できます!」



「……そろそろ、殴るぞ。シャムシエル…」


霧山が拳を握りしめながらシャムシエルに言う。



着替えた凛子と霧山がリビングのソファーに座っている。

シャムシエルはキッチンでホットミルクとコーヒーを用意していた。


「…闇の者達と話?…をした?」


霧山が驚ろきながら聞く。


「はい。ちゃんと会話、出来ましたよ。」


凛子が霧山に言う。



……闇の中で自由に歩いたり闇の者と会話。

やっぱり特別な魂の…ってやつだな。

なんて言うんだっけ?


シャムシエルが悩みながら凛子にホットミルクを渡す。


「…ありがとうございます。……?、どうしたんですか?難しい顔して…」


凛子が不思議そうな顔でシャムシエルに聞く。



「…思い出しそうで、思い出せない。」



シャムシエルが難しい顔をする



「…歳だな。」


霧山がまた言う。



「…そういえば、霧山さんって何歳なんですか?あともやしさんも…」



「32歳だ。…凛子は?」


霧山が言う。



「……分からない。人間の年齢っていう概念はないよ。」


シャムシエルが答える。



「…霧山さん、もっと若いのかと思ってました。…わたしは18歳です。」


凛子が答える。



「…!!……18?!………15くらいかと思ってた。」


霧山が驚く。



………15歳って。

わたしってそんなに子供に見えるのかな?



「…見えないだろ?……俺ももっと若いのかと思ってた。」


「驚いたな…」



…18歳か。

みずきが亡くなった時と同じ歳…





「…もやしさんは、分からないって…。どれくらい生きてるんですか?」



「うーん、…どれくらい…か。人間で言う何百年…かな?」


シャムシエルが悩みながら答える。



…何百年?!


「……天使って長生きなんですね。」


凛子が焦りながら言う。



「…む、…こんな時間か…」


霧山が時計を見て言う。



「……仕事、休まないで下さいね。」


凛子が霧山の目を見て言う。


「…バレたか。」


霧山がため息をつく。



「仕事を休もうと考えている顔してましたよ。」


凛子が霧山をじーっと見る。



「…じゃあ、次の休みは私に付き合ってくれるか?」


「はい。…行きたい場所、考えておきます。」


凛子が微笑みながら言う。

その顔をみて霧山が微笑む。



「…分かったよ。…明日はちゃんと仕事に行くよ。」



「意外と真面目なんだな、霧山。」


シャムシエルがニヤニヤしながら霧山に言う。



「意外…は余計だ。私はお前と違ってちゃんと働いているからな。」


霧山がムッとしながら答える。



「俺もちゃんと稼いでるぞ。……ん?」


凛子がシャムシエルの肩に寄りかかる。



「……疲れたんだな。」



凛子が眠っていた。



「…さて、そろそろ帰るか…また来るよ。」


霧山が立ち上がる。



「………凛子の事……頼んだぞ。」


霧山が背中を向けたままシャムシエルに言う。


「ああ、分かった。」



霧山が帰り、凛子を抱えて寝室へ行く。

ベッドに寝かせて眠る凛子の髪を撫でる。



…痩せっぽちの小さな女の子。

暇つぶしの人助けだったのに…

まさかこの子にこんなに夢中になるなんてな。

……君は人間だから、俺より先に逝ってしまう。

分かっているけど……それでも君を離したくない。


眠る凛子の額にキスをするシャムシエル。


「…おやすみ、凛子。いい夢を…」



続く。


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