第11話 それぞれの思い…
「……………。」
何となく始めた人助け…
……それでも…俺は…
「…しみったれた顔してないで…行きなさい。」
「…そうだな。」
シャムシエルの顔から迷いが消える。
「凛子にちゃんと、話すよ……」
テーブルの上のスマートフォンが鳴る。
「…霧山?…何かあったのか?」
シャムシエルが慌てて電話に出る。
「…凛子が引き込まれた!」
霧山が焦りながら叫ぶ。
「…凛子が!!」
シャムシエルの鼓動が早くなる。
「すまない!…何も出来なかった…」
「すぐ、行く!!」
シャムシエルが慌てて立ち上がる。
ママがシャムシエルの額に手を伸ばす。
「…行きなさい。あの子と話しておいで…」
ママの手が光る。
眩しさに目を閉じるシャムシエル。
光が消えて目を開けると…
「…?!…シャムシエル?…どこから?!」
霧山が驚く。シャムシエルが突然、現れた。
…ママが送ってくれたみたいだな、
「…凛子はどこで引き込まれた?」
足元を見ると黒い影が小さくなりつつあった。
「…ここか、」
シャムシエルが影の中に入ろうとする。
「シャムシエル…すまない。…何も出来なかった。」
「気にするな、必ず連れ戻してくる。…お前はこの影に近づくな。天使にしか出来ない事だからな。」
「頼んだぞ…」
シャムシエルが影の中に入る。
真っ黒な世界…。
バサッ!
羽根を広げ下へ降りていく。
…凛子、どこにいる?
凛子が黒い世界の中に降り立つ。
…ここが一番下?
…マダ、シ、タガ…ア……ルヨ……
……オ…イデ……
ケ、ガ……レナ…キ、タマ、シ……イ……
…モッ…ト…シ…タ………ヘ……
凛子の足が更に下へと引き込まれようとしていた。
「…あなた達は…人間ですか?」
凛子が黒い世界の中で蠢く無数の手に話しかける。
……ニン、ゲ……ン……
…ヤミ…オ…チ……シ………タ……
……キミ…ト……オ、ナ……ジ………
「そうなんですね。…わたしと…同じ…」
…オイ…デ…
………モット…シタ…へ………
「…お願いを聞いて、欲しいんですが…いいですか?」
…………オ、ネガ…イ…?
「はい。…たぶん、わたしを連れ戻す為に天使が来ると思うんです。…話をさせて欲しいんです。あと、話をした後は彼を地上に戻して欲しい…聞いてもらえますか?」
…もやしさん…来てくれるかな?
…テ、ンシ……
……テン…シ…ハ……イ………ラ…ナ……イ……
…ハ、ナシ……ヲ…シ………タ、ラ……シ…………タヘ、ク…ル………
「はい。…話をしたら下へ行きます。」
凛子が答える。
…テン……シ……
…モ…ウキ………テ、ル………
「どこですか?」
黒い手が指さす。
凛子が少し先に光を見つける。
…あれかな?
光の方へ歩いていく…
…こんな下まで来たのは初めてだな。
ここに長くいると俺でもヤバそうだ…
相変わらず、真っ黒だな…
自分の周りだけ白く光っている事に気づく。
…どうして、俺の周りだけ白い?
まるで昔のようだ…
そういえば最近、体が少しづつ軽くなっているような…気がする。
…いつからだ?
…………凛子に出会ってから……か?
「…ん?」
足音が聞こえる…
「…あっ…もやしさん。」
凛子が歩いてやってきた。
「…凛子!!…よかった、早く帰ろう…」
凛子がシャムシエルを見て驚いた顔をする。
「……もやしさん…本当に天使、だったんですね…」
「…え?」
白い光の中でシャムシエルの羽根が見えた。
左翼は白、右翼は黒く染まった羽根……
「…どうして片方だけ黒いんですか?」
「…堕ちた天使の羽根は黒く染まるんだ。それより早く、帰ろう…」
「でも、片方だけ…ですよね?それにもやしさんの周りだけ白いですよ?…この真っ黒な世界の中で。」
「…どうして、片方だけしか染まらなかったのは謎なんだ。あと、俺の周りだけ白いのは…」
堕ちる前の…感覚だな。
両翼、真っ白の時の。…神の加護を受けていた頃の感覚…
堕ちて、なくなった力が少し蘇ったような気がする。
「…黒い羽根が薄くなってますよ?」
「…え?」
自分の羽根を見ると黒い羽根が少し薄くなっているように見える。
黒い羽根が薄くなってる?
「……いや、羽根はいいから。とりあえず帰るぞ…」
シャムシエルが凛子の手をとろうとする。
「………もやしさん。」
「…凛子?」
凛子の足が黒く染っていた…
「…!…足が黒く染まってる…早く!」
「……わたしは…もやしさんと会う前、………ずっと死にたいと思ってました…」
…凛子?
「昔、お父さんは優しかった。…お母さんがいきなり出ていって、新しいお母さんが来て…お父さんは変わってしまった。…いつも怒鳴られて…冷たくされました。」
「………。」
シャムシエルが黙って聞く。
「…中学を卒業してからさらに酷くなりました。言葉だけではなく暴力が始まった…」
「……凛子。」
父親から受けた心と体の傷…
酔った時に言ってたな……死にたいと。
だから闇に引き込まれても怖がらなかったのかもしれない。
「…早く、死にたかった。……オークションに出されて。…やっと死ねると思いました。…買ってくれた人に酷いことをされて殺されるんだと……そう、思ってました。……なのに…」
凛子が苦しそうな顔をする。
「…あなたは…優しかった…」
「凛子…俺は…」
「わざと、失礼な事を言ったのに全然、怒らないし…」
……わざと言ってたのか?
「……本当に変な人……」
凛子が下を向く。
「凛子…俺は…人助けなんて言ってたけど…違うんだ。彼女を…さつきを失ってから何をする気にもなれなくて。……彼女が残した言葉にすがってただの暇つぶしで君を買って、そばに置いた…」
「……それでも。わたしは、嬉しかったです。」
「俺は…優しくなんかない。…君を恐がらせた。」
「……いいえ。…優しいですよ。…死にたがってるわたしを寝不足になりながらも助けようとしてくれました。」
凛子がシャムシエルの手に触れる。
「……もやしさん。…………消えないでくださいね。」
「…え?」
シャムシエルが驚く。
「…わたしがいなくなったら消えてしまいそうな気がして…」
凛子が心配そうな顔でシャムシエルを見る。
「あなたが消えると、さつきさんも…わたしも悲しいです。」
「…どうして、さつきも君も…消えないでって言うんだ…。」
シャムシエルが苦しそうな顔をしながら凛子の手を握り自分の額に寄せる。
「……だったら…そばにいてくれ!……俺が消えないように、そばに………」
「…………。」
凛子が黙る。
「さぁ、帰ろう…」
シャムシエルが凛子に言う。
「…もやしさん、どうして仮面つけてるのかまだ聞いてませんでしたね?」
凛子の腰の辺りまで黒く染まっていた。
「凛子、そんな事より…」
「教えてください。」
焦りながらもシャムシエルが話し始める。
「さつきを亡くしてから…何にも興味が持てなくて。その…うまく笑えなくなった気がして。…その顔を隠すために仮面を付け始めた。……自分の表情に、自信が持てなくて。」
凛子がシャムシエルの仮面をじっと見る。
「…仮面、外していいですか?」
「…それは…ちょっと…」
凛子が手を伸ばす。
「屈んでください。…手が届かないので。」
シャムシエルが少し考えるが凛子の顔を見て諦めたように屈む。凛子がシャムシエルの仮面を外して顔を見る。
「………ブサイクだったら、けなそうと思ったのに。これじゃけなせないですよ。」
凛子がムッとした顔でシャムシエルに言う。
「………へ?……まったく、本当に君は…」
シャムシエルが思わず笑い出す。
笑うシャムシエルを顔を見て凛子が言う。
「もやしさん…大丈夫ですよ。」
凛子の体の胸の辺りまで黒く染まっていく…
「…何を言って…?」
シャムシエルが不思議そうな顔をして聞く。
「…うまく、笑えてますよ。」
「…え?」
…うまく笑えてる?
「はい。笑えてます。…もう仮面はいらないと思いますよ。」
……どうして片方だけ黒くなったんだろ?
堕ちた天使は黒く染まるって言ってたけど…
凛子が手を伸ばしてシャムシエルの黒い羽根に触れる。
触れた場所から羽根が白く光り始めた…
「……何だ!…羽根が…」
「…真っ白になりましたね。…どうしてでしょう?」
凛子が不思議そうな顔をする。
「…凛子が触れたから?」
「…?…わたしが?…どうして?」
……堕ちる前と同じ力が戻った?!
シャムシエルが凛子の体が黒く染まっている事に気づく。
「…凛子!早く、帰ろう!……体が黒くなってる。」
シャムシエルが手を伸ばす。
凛子が自分の体を見る。
「…たぶん、闇の人達が引き込もうとしてるんだと思いますよ。」
凛子が答える。
「もやしさん…今までありがとうございました。…あなたに会えてよかったです。霧山さんにもありがとうございましたって伝えておいて下さいね。」
凛子がシャムシエルの顔を見て言う。
シャムシエルの体が浮かび上がる。凛子の体は下に引き込まれ始める。
…何だ?
体が勝手に浮き上がる。
「…凛子!」
「約束ですよ…消えないって。」
「…凛子!!!」
気がつくと自分の部屋にいた。
「シャムシエル!…凛子は?!」
「……目の前まで行けたのに。」
シャムシエルが頭を抱える。
「……そう、か…。」
霧山が肩を落とす。
「…助けられなかった。…すまない…」
シャムシエルが目を閉じてうなだれる。
つづく




