5話
「なるほどね」
これ以上何を聞いても何も分からないだろうし、むしろ僕のことを怪訝に思うだろう。
ただ、胸のモヤモヤは結局消えなかった。
彼女の方を見る。
口元に手をあて、何かを考えているように見えた。
最近はよく眠れていないのか、茶色く大きな瞳の下には隈が見られる。
「他の被害者のこと…何かわかる?」
彼女は突然口を開く。
先ほどまでの沈黙の間、何を考えていたのかは分からない。
「何を知りたいの?」
「えっとまず…何人行方不明者がいるんだっけ」
「6人だよ。僕が中2の時に2人、中3の時に2人、高1の時に1人、今年の春に1人」
「その人たちの名前は…?」
「安藤春樹、中谷愛、小林春奈、永谷敦哉、夏目美月、田中大和」
彼女はそれを聞いてまた考え込む。
先ほどから彼女の意図がまったくわからない。
「これって…失踪した順かな?」
「うん、その方がわかりやすいかなと思ってね」
「…頭がいいんですね」
この時…何か違和感を覚えた。
「小林春奈さん…私の担任の先生でした」
「…へえ」
「会ったことはありますか?」
「いや、僕の学校にはこなかった」
そうだ…彼女が急に敬語に戻ったんだ。
「先生は…遠くに恋人がいて、親から反対されていました」
彼女の息が荒くなる。
「だから…警察も、みんなも、先生がいなくなった時は…駆け落ちだと判断しました」
彼女の震えた瞳が、再び僕を映す。
「先生のいなくなった年…なんで分かるんですか?なんでその順番だと分かるんですか?」
ああ、なるほど…
「ごめんね…僕の見た記事に、彼女の駆け落ち事件もこの騒動に関わっているんじゃないかと書いてあるものがあったんだ」
「なるほど…」
口ではなるほどというが、彼女の目は晴れない。
そう、彼女は僕を疑っている。
おそらくこれ以外にも…彼女は思う所があるのかもしれない。
「…ごめんなさい、あなたを疑ってしまった」
「他にどこか疑った場所があるんだよね。だから君の目は晴れない。よかったら教えてくれないかな…これを知ることで君もすっきりするかもしれないよ」
自分の口調が早くなっていることに気がついた。
鼓動が強く、速くなり響く。
「ごめんね…これはちょっと気になったことなんだけど」
「うん」
「学生シューズは男女で底の形が違うことは知ってる?」
それは…初耳だ。
僕は首を横に振る。
「薄々感づいていたけど…君は周りにあまり興味がないようだね」
感づかれてしまったか。
しかし、それはどうでもいい。
「つまり…野田歩美の死体近くにあった足跡は、男子用の学生シューズだったというんだね」
彼女はコクっと頷く。
だから…僕の普段行動を共にする男子のことを聞こうとした?
いや、これは考えすぎか?
「ねえ、どうして君の靴はそんなに茶色く汚れているの?」
やめてくれ、そんな目で僕を見ないで。
「私の学校と同じかは分からないけど…ここら辺の学校は、体育用シューズは違うものを使っているよね」
僕が今まで人を殺すたび、ニュースになったり、記事になったりした。
「高1で靴を変えて、アウトドアじゃない君の靴…そんなに汚れてる理由が分かんなくって」
それを見た人は記事を通した僕に、絶対にその目を向けるんだ。
「確かに…これだけで決めつけるのもおかしいよね。だって、雨の日とかで汚れることはあるし…」
お前は悪だ、悪だと罵る目をする。
「だけどね…私、君のことを知れば知るほど分からなくなるんだ」
僕は悪じゃない…どうして君すらもそんな目をする?
僕が傷つかない人間だとでも思っているのか?
どうして僕がこんな気持ちに陥る必要がある?
「どうして…君みたいな人が、私の名前を聞いたの?」
殺したい
殺そう




