↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/246

第95章:桑川の改心

 やがて、川原美香の食糧事務所への「出向(しゅっこう)」が終わりを迎えようとしていた、ある日のこと。


 勤務を終えて、事務所の玄関を出たところで、茂は、待っていた桑川に声をかけられた。


 「・・・杉山、話がある。ちょっと、ツラ貸せ。」


 そう言って彼は、また茂を事務所の裏手(うらて)に連れ出した。


 (なんだよ。またここで俺を殴る気か、こいつ・・・。)


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 裏手に入ると・・・桑川は、いきなり茂の前に土下座をした。


 「・・・杉山ッ! 俺が悪かった。川原さんとお前には、本当にすまんことをした。とりかえしのつかないことを、俺はやっちまったんだ。せっかく、おまえらが仲良くなったのに、俺が流した噂(うわさ)のせいで・・・。」


 茂には、目の前の光景が信じられなかった。


 あれほど自分をねたみ、憎み、悪略(あくりゃく)の限りを尽くしてきたあのワルが、こうして自分の前に手をついて謝っている・・・。


 「杉山・・・俺は・・・」


 「・・・いいんだよ、桑川。こうなったのは、何もお前のせいじゃない。きっと・・・運命だったのさ。俺と川原さんは、最初から縁(えん)がなかったんだよ。気にすんな。」


 「杉山よぉ・・・おめえどこまで・・・」


 「さ、立てよ。おまえらしくねぇぞ。いつもみたいに、『悪態(あくたい)』のひとつもついてみせろよ。」


 「杉山・・・俺は・・・俺はなぁ・・・。おめえの『彼女』には、手を出してねぇからな。・・・店にだって、一度も行ってやしねえんだ。信じてはもらえねえだろうが・・・。」


 「ああ。それもわかってるって。・・・おまえは、嫌なヤツだったけど、そんな卑怯(ひきょう)なことをする男じゃねえ。おまえと武村は違う。だってさ、俺はおまえのこと、農業大学校で4年もそばで見てきたダチじゃないか。いっしょに寮の部屋で寝泊りしたこともあったじゃねえか。同じ釜(かま)のメシ食って・・・」


 「杉山・・・。」


 「桑川・・・まゆちゃんとは仲良くしてんのか・・・?」


 「・・・切れたよ。」


 「なに・・・?」


 「切れた。・・・最後はケンカ別れさ。もう、どこに行ったのかも、わからねえ・・・。」


 「そうか・・・。すまねえことを訊(き)いちまったな。おまえも・・・俺同様、いろいろあったんだな・・・。」


 「・・・・・・。」


 「俺な、桑川。事務所辞めるかもしれねえ。・・・つくづく疲れたぜ、こんなひでえ環境にはさ。」


 「・・・やめんな。」


 「ん・・・?」


 「やめんなよ、杉山。お前がいなくなっちまったら・・・俺、おまえに今度はなんて謝ったらいいんだよ・・・バッカヤロー。絶対にやめんじゃねえぞ、この弱虫ヤローがッ!」

 

「・・・それでいい。わかった。しばらくは、やめねえよ。俺だって、生活があるしな。」


 「杉山・・・。」


 「桑川・・・おまえのこと、本当に俺は嫌いだったけど、こんなに優しくて、いいヤツだったんだな。俺・・・おまえを心底見直したぜ。いいダチだよ、おまえは。」


 そう言って茂は、微笑し、桑川の肩を優しくポンとたたくと、事務所をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。