第94章:あっけない『崩壊』
・・・茂は、けっして美絵子との「約束」を忘れたわけではなかった。
彼女が、最後まで・・・命尽きる、その最後の魂の炎が燃え尽きる瞬間まで書き綴ってくれた、あのいとしい最後の手紙のことを。
そうしてまた、そっと優しく彼の中に生き続けていた彼女ではあったが、日を追うごとに、年を追うごとに、その感覚が薄れゆくことも、茂自身、自覚してはいた。
(ごめんよ、美絵子ちゃん。・・・けっして、君を忘れたわけじゃないんだ。でも・・・わかってくれるよね。俺ね、やっぱりさびしいんだよ。あやちゃんもいないしさ。めぐみちゃんだって、もう・・・。)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「川原美香」という、新しい友人を得て、また「恋」の文字が茂の中に芽生えはじめたころ・・・。
その「恋」の終わりは、唐突に訪れた。
きっかけは、庶務課にしばらく前から配属されていた、短期契約の臨時職員のおばさんだった。
このおばさん。
年のころは・・・そう、当時50は越えていたであろうか。
茂はもう、名前も覚えていないが・・・とにかく、職員の噂話や陰口が大好きな女だった。
例の川原さんの隣の席だった彼女は、ひまにまかせて、茂に関する「さまざまな噂」まで、あることないこと吹き込むようになった。
茂は、それが川原さんの耳に入る前に、実は「デート」の約束をし・・・彼女も喜んで受け入れてくれていた。
・・・浦安の「東京ディズニーランド」へふたりで行く約束だった。
茂も川原さんも、そろって楽しみにしていたのだが・・・ある日、彼女が、そのデートをキャンセルしてきたのだ。
「・・・ごめんなさい、茂さん。あたし・・・やっぱり行けない。本当に、ごめんなさい。」
そう言って、深々と頭を下げる彼女。
茂は、了承しながらも、心は怒りに震えていた。
・・・くやしかった。
(その原因はわかっている。・・・あの話、『パラダイス キャンパス』の話なんだろ・・・? もうわかってる。どうせ、あのおばさんが・・・桑川が、武村が・・・。)




