第91章:総務部経理課へ異動・・・そして、関谷氏の『自爆』
1994年4月。
茂は、3階の検査部検査課より、2階の総務部経理課に異動となった。
役職名は、「用度係」。
職員が使用する物品や消耗品を、業者に注文したり、在庫数を管理する仕事だった。
同じ室内の西側には、「庶務課」があり、ここの人事係に、例の関谷がいる。
ただし、席がまるっきり大部屋の反対に位置しているので、彼との接触は、ふだんはほとんどない。
茂の新しい上司は、高橋といい、肌がやけに浅黒い、ギョロギョロした目の、眼鏡の40代男だった。
性格は・・・きわめて気難しく、めったに笑うことは無い。
ただし、前の上司の武村のように、人のものに手を出したり、姑息な嫌がらせをするような男ではなかった。
あまり細かい小言を言う人物ではなかったが・・・いつも茂を見るときは、眼鏡の奥から、人を見透かすような鋭い視線を送ってきた。
まぁ・・・役職や係についての細かい人物配置についてのくどい説明は、読者の皆様を混乱させ、話のスジを分かりにくくするだけなので、場面場面で必要な登場人物を、簡単な解説をつけながら、そのつど説明していくこととしたい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
茂が、「用度係」に配属されてしばらくたった頃、こんな出来事があった。
・・・その日の夕方。
いつも関本管理官主催の「和同流空手」の稽古で使用される殺風景な広い部屋にて、例の「青年部」の集まりがあった。
並べられた椅子に、それぞれが自由に座り、雑談をしながら「青年部大会」が始まるまでの時間をつぶしていた。
いつもこの集まりのときは、茂の隣には、霞ヶ関の農水省に栄転していった根岸氏が座っていたのだが・・・今日は、「高山」という、茂より年長で、関谷と同期の男が座っている。
彼は、2階の角の「情報改善室」という狭い部屋で、食糧事務所全般の、コンピューター関連のデータ管理をまかされていた一人であった。
「よおよお、経理課のルーキー。気分は、どうだい?」
突然、茂に関谷が話しかけてきた。
「・・・関谷さん、お疲れ様です。」
茂が座ったまま、頭を下げて挨拶すると、関谷はこんな話題をニコニコしながら振ってきた。
「なぁ、杉山君よ。聞いたぜ。おまえ、風俗通いしてんだってなぁ。それも、あの『パラダイス キャンパス』に通ってんだって・・・?」
「・・・・・。」
「とぼけなくたって、もうみんなに知られてんだからさ。遠慮することはねえって。で・・・どうだったい? 楽しかったんか??」
「・・・いえ。男子店員がしょっちゅう監視してるから、席を覗かれてるようで、あんまり楽しくはなかったです。」
「へえ。『なかったです』ってか。じゃあ、もう店には行ってないんだな?」
「ええ・・・まぁ。」
茂は、もうどうでもよくなっていた。
今さらごまかしたところで、どっちみち連中には、自分が『パラダイス キャンパス』に通っていたという事実は、とうの昔に漏れている。
言ってみれば、そんな情報は、ここではカビの生えた『古代史』なのだ・・・。
おまけに・・・この「青年部」の内の何人かが、先日辞めていった「あや」に陰でコソコソと会い、そのうえ『サービス』まで受けていたということも茂には、よく分かっていた。
すると、関谷が思いがけないことを口にする。
「ほぉ・・・じゃあ、杉山君のときも、男子店員の監視があったのか? あれ、マジでうっとしいよな。いちいちペンライトで上から照らしやがってよぉ。 ・・・気分がぶち壊しだぜ、なぁ。」
するとここで、茂の隣の席に座っていた、高山氏がツッコミを入れた。
「・・・なんだよ。関谷も結局、その店行ってんじゃねえかよぉ。」
(・・・しまった! うっかりしゃべっちまった!!)
そういわんばかりの表情で、関谷は、ハッとなった。
すると、それまでニコニコして茂をからかっていた関谷の表情が一変し・・・ものすごい目つきで高山氏をにらむと、真っ赤な顔をしたまま無言で、高山氏の前の席に座った。
青年部大会が始まり、組合にも所属する関本管理官が挨拶すると、関谷は、落ち着かない様子でそわそわし・・・持っていたシャーペンをカチカチ鳴らし始めた。
イライラした様子の関谷。
ときおり、チラッと振り返り、高山氏をにらんで威嚇する。
(高山・・・てめぇ、俺が『パラダイス キャンパス』に通ってることを、女どもにバラしやがったら、ただじゃおかねえぞ!)
そういわんばかりの、形相である。
『おどし』をかけられ、にらまれた高山氏は、思わずうつむいてしまい・・・その後、なるべく関谷と視線を合わせないようにしていた。
(・・・この関谷も、どうやら、あやちゃんを指名していたようだな。もう、誰と誰が指名していたのかは分からないが・・・俺が思っていたより、この職場の『闇』は深い・・・。)




