第88章:魔物を交えた、おぞましい会話
「・・・それにしてもよ、仁井田。あの『パラダイス なんとか』って店、最高だな。それもこれも、桑川のおかげだわな。」
「武村さん・・・ホントに行っちゃったんスね。俺、冗談かと思ってたのに。な、佐藤君。」
「ああ。仁井田君も俺も、風俗にはぜんぜん興味ないからなぁ・・・。どっちも、ちゃんと彼女いるから、ソッチの方は間に合ってるし。」
(やっぱり、武村は『パラダイス キャンパス』に・・・。でも、意外だったな。佐藤も仁井田も、武村といっしょに入店しなかったのか・・・。)
茂が息を殺して個室で様子を伺っていると、さらに武村が続ける。
「・・・いやぁ、俺も初めて風俗入ったんだわ。はじめは、おっかなびっくりだったけどよ。でもな、桑川が、杉山の情報を流してくれたんで、俺もいっちょ、入ってみっかと思ってよ。妙な『勇気』が湧いたわけさ。はははは。あの生意気な小僧が、上司の俺をさしおいて、いっぱしに『女遊び』なんて、どう考えたって、しゃらくせえじゃねえか。なぁよ。」
「でも、武村さん。だからといって、なにもわざわざ例の『杉山の彼女』を指名することは・・・。」
「そうですよ。・・・俺、杉山は武村さんと同じで、虫が好かないし、どこかスカしてて生意気で、気に食わないけど・・・あいつが大事にしてる『彼女』に手を出さなくても・・・」
「バカヤロウ! いいか。人間ってのはな、『人の物を欲しがる生き物』なんだよ。ましてやな、あの女は、店の『一番人気嬢』だしよ。まぁ・・・やたら待たされんのが、タマにキズだがな。」
「・・・その、『あや』ってホステス、そんなに美人なんですか?」
「おう。それがよ、聞いてびっくりすんな。あの『あや』はな、なんと、あの歌手の『本口美奈子』にソックリなんだぜ! 指名すっぺ、そりゃあ。人気ナンバーワンなのも、うなずけるって。」
「へええ。じゃあ、武村さんの奥さんも、真っ青ですね! 奥さんだって、かなりの美人なのに。浮気はほどほどにしたほうが・・・。」
「でも、武村さん。そのこと、杉山本人は気づいてるんですかね? 武村さんが、『あや』を指名してるってことを。」
「さあな。どっちにしても、俺は最高の気分だぜ。『あや』はよ、最初会ったときこそ、『あれ、お客様、あたしがテーブルについたことありましたっけ? どうして、あたしを指名できたんですか?』なんて、うたぐってかかってやがったけどよ、今じゃ、俺の『あや』は、サイコーだど。もう、『奴隷』みてぇなモンだわ。アレの『サービス』はよ、ゴム越しだから、刺激はいまひとつって感じだけどな。で、俺が、『袋もナメろよ。』って言ったら、『それはお客様、出来かねます。』だとよ。風俗嬢のくせに、俺の命令が聞けねぇらしい。でもよ、ここでゴネたら、出入り禁止になるって思ってな、そのまんま、おとなしく『しゃぶられてた』って寸法さ。」
「・・・なんか、生々しくて、エゲツない話ですね。俺・・・なんか、『人間不信』になりそうですよ。」
「そうかい。 ・・・でよ、佐藤。根岸にも誘いかけてみたんさ。いっしょに店に行ってみっぺ、ってよ。あの『カタブツ』も、もしかしたら、ああ見えて意外と『ムッツリスケベ』かもしんねぇって思ってな。ところがよ、あの野郎、俺になんて言ったと思う? たったひと言。『おカド違いです。』だってよ。生意気な。国家一種に受かったからって、調子こいてると思わねえか? ある意味、杉山以上にムカツイたぜ。ま・・・アレも、明日が最後の勤務で『ご栄転』されて消えるけどよ。 ・・・まったく、ケッタクソわりぃ!」
茂は、ここまで聞くと・・・そのエゲツない下品で最低の会話内容はもちろんのこと、武村というゲス男の本性を、まざまざと見せつけらたような気がした。
そして、なによりも、かつて自分が命をかけて愛し抜いた『峯岸美絵子』の分身のような、大切な『あや』が、この薄汚い、自分が忌み嫌う「ケダモノ未満」の生き物の、この世で最もけがらわしい「モノ」に、その最も聖なる口で、ゴム越しとはいえ、結合してしまった!
・・・そのことにショックを受け、同時に、あの店内で起きている、おぞましい光景を想像し・・・思わず、身震し、悔し涙が出てきた。
(きっと・・・桑川が流した情報に加え、俺が『磐石荘』で、あの悪夢のような『二次会』で、いまわしい『キス魔』を張り倒したときに、俺が思わず興奮して口走ってしまった、4人の天使の名前・・・あれが原因だったんだな・・・。)
ここにきて茂は、あの『二次会』での乱痴気騒ぎのさなか、自分が、とりかえしのつかない「痛恨のミス」を犯してしまったことに、今さらながら気づいた。
・・・この悪魔に、「あやへの扉」「あやへの門戸」を、うかつにも開いてしまったからだ。
あの魔物のような「関谷一味」は、酒に酔った乱闘騒ぎの中でも、茂からの「貴重な情報」は、ちゃっかりとキャッチし、茂以外の「メンバー内」で共有していたわけである・・・。
(あやちゃん、本当にすまない。明日が君との別れの日だというのに。俺は・・・俺は君に、どんな顔で会えばいいんだ・・・。)




